表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/55

決裂の結果。

 この糞みたいな懐中時計。

 一切黙らない。

「それでねぇ――」


 ボリスが船に迷い込む前。凪が家族と決裂しジュリアンを倒した直後。


「もう黙れよ、まじで」

 時計は俺の心の声を聴けるというのはわかっているがそれでも口に出してしゃべった。

「もぉ、ツンデレだなぁ凪は。それに俺のことは"時計”じゃなくてジュリアンって呼べよ。お前は俺のマスターだぜ」

 糞みたいな糞時計が糞みたいにくそったれな声で糞しゃべってやがる。

「口悪いなぁ」

 糞時計は言った。

 懐中時計――いや、ちがう呼び方にしよう。

 ジュリアンでいいや。

「お、やっとわかったかマスター」

 黙れ。

「…」

 ジュリアンは黙りこくってくれた。

 俺はジュリアンの竜頭部分の上に糸をさしてベルトに着ける。

「糸しかないのか?チェーンは?」

 今チェーンがないことを知っている癖にジュリアンはそれでも文句をたたきつけてくる。

「チェーンは後で買えばいい。それとルールを設けよう。俺の思考を読むな、会話するんだったら口で会話しろ、お前は口はないけどな、それでも俺の思考を読むな」

 そういうとジュリアンは一言。

「いいぜいいぜ、お前の思考には一切突っ込みませんッ!」

 そういわれると俺は一安心してとにかく歩き続けた。

 町は汚い排水溝のにおいでいっぱいになり、それと一緒に人のにおいが合わさっていた。

 それが本来の東京なのかもしれないな。

 密度の高い街の中で細い道路を通ってジュリアンと長い間会話をした。

 周りの人間からは統合失調症だと思われ変な目で見られる。

「凪…」

 知ってる声が後ろから話しかけられた。

「ごめん、凪。あんなこと言って」

 振り返ればそこにいたのはエイチだった。

「もどってきてくれよ、な?」

 一日もたっていないというのに、ったく。

 ドラマチックな野郎だ、俺は自分の家族を探すんだ、こいつらに付き合っている暇はないって今日の朝気づいたばかりだ。

「本当に戻らないのか? エイチとやらは相当後悔しているみたいだが」

 ジュリアンは俺の思考を読んだ。

「やめろって言っただろ」

 ジュリアンに一言言ってからエイチとの話をつづけた。

 エイチは不思議な顔をする。

 結局こいつも俺がイカれたと思っているのか…

「ユアも、お父さんも待ってるから」

 エイチは俺の独り言を無視して続ける。

 少しずつ近づいてくるエイチのすぐ後ろにあった曲がり角ではユアが少しだけ顔を出した。

 見てないふりをしてエイチの話をきく。

「お父さんと一緒にいれば凪の家族だって見つかる、人脈は広いんだ。生きた年数が違う」

 そういって俺の肩に手を置く。

「な?」

 エイチは、俺に全く悪いことをしていない。

 俺は自分の意地でここまで来てしまった、本当に言えば悪いとは思っている。

 しかし…

「こいつがお前の家族だって思ってるんだろ」

 ジュリアンは言った。

「ならそいつらの元に戻れよ、俺だって応援してやる。本物の家族は少しずつ後を追っていけばいい」

 またしても心を読まれてしまう。

「硬いやつだな。」

 迷う俺に、ジュリアンはまたしても突っ込んだ。

「…俺は――」

 しゃべり始めると、エイチの顔が希望であふれたのがよく分かった、戻ってくると確信している。

「俺は、悪いことをした。戻るよ、今日は今日で強くなれた気がするから」

 エイチにそういった。

 彼にとっては俺の”強くなる”という言葉は感情的な面があるだろう。

 しかし、ジュリアンからすればそれは肉体的なことも意味する。

「帰ったら勝負しよう。力をお前の顔で図ってやる」

 そういうとエイチが腕を俺の両肩に回し隣を歩く。

 そのまま家に帰っていった。

 とても短かい家出だった。


 その夜の食卓では、ユアが変だった。

 俺が何かを口に運ぶ度ににやにやしている。

 メガネのほうを見た、なんとも集中して食べているみたいだ。

 今日のご飯はファストフードのハンバーガーだ、聞いてみると忙しい日だったようでスーパーに行けなかったらしい。

「お前を探してたんだよ」

 ジュリアンはそういう。

 そうだったら確かにいいかもしれないな。

 一口ハンバーガーを食べると後ろからレタスの一部が落ちた。

「下手だね」

 ユアはそう言ってポテトをつまむ。

 メガネは少しだけ笑ってからしゃべり始めた。

「今日は、子供たちに教えたことがあるんだ。お前はいなかったから言えなかったよな」

 そういって隣にあるビールを一口すすった。

「俺の名前を教えてなかった。ずっとメガネって呼んでたよな。」

 そういって俺のほうを向く。

「フェリックスだ。よろしく」

 名乗ると急に彼の電話が鳴った。

「すまん」

 そういってポケットから電話を取り出し、食卓から離れる。

「戻ってきてよかったよ、一時期どうなるかと思って心配した。」

 エイチがしゃべり始めた。

「心配するほどの時間でもなかっただろ、朝にでて昼に戻ってきただけだほぼ外出と変わらない」

 俺はそう言ってテーブルに落ちたレタスを紙袋に入れた。

「食べないのか」

 エイチは聞く。

「一度落ちたのは食べれないんだ」

 そういって俺は手にあったハンバーガーを一口食べた。

 すると家の廊下からフェリックスの声が聞こえた。

「ボリスはいつ船に入る。ああ。おお、それで? わかった、お前に託してるからなポボス。」

 まだ声が続いた。

「ポボス? 聞いたことあるぞ。」

 ジュリアンは急に声を出した。

「黒魔術師を止めようとしてる野郎だ、覚えてる。まさかここにいる全員が黒魔術使えるのか?」

 俺に聞いてきた。

 ああ、使えるよ、大体はね。

「なんとも怖い家族だ、本当にな」

 ジュリアンはそう言ってからしばらく黙りこくった。

 少しすればフェリックスが戻ってきた。

「すまん、友達からの電話だった」

 そういって椅子に座る。

 ユアは頭をゆっくり上下に振って理解したというしぐさを取る。

 エイチは食べ続けていた。

「誰かナゲットはいるか?」

 フェリックスは突然話しかけた。

 エイチは彼を見て腕を伸ばした。

 しかしユアはエイチの腕にビンタし、エイチは伸ばした腕をテーブルの下に隠す。

「私のナゲット」

 そういって箱を受け取った。

 箱を受け取ると中身を確認して静かに食べ始めた。

「女っていうのは凶暴なもんだよな」

 エイチは俺に話しかけてきた。

「わからないね、ユアいがいの女と話したことはないんだ。すくなくとも覚えてはいない」

 俺はそう言って最後の一口を食べてから姿勢を緩くした。

「学校に行ったらいい女の子を紹介してやるよ、凶暴な奴しかいないと思うけどな、うちの学校は普通の人が行くようなところではない」

 そういって彼も一口たべる。

 フェリックスはそれを聞いて幼少期について話始めた。

「お前らはいちいち文句を言いすぎだ。女と話したことがないのも、女が凶暴なのもお前らがジェントルマンじゃないからだ。若いころの俺はな――」

 めんどくさい話なんて聞く気にはなれなかった。

 フェリックスのながったるい話を遮ってエイチが俺に話しかけた。

「お父さんの武勇伝なんてどうでもいいよな? 明日から学校だ、唐突かもしれないけどいう気だったんだ、逃げ出す前にな。 今日はいろいろありすぎて俺も疲れたよ」

 そういって立ち上がりソファーに座り込む。

「お休み」

 そういって目を閉じた

「エイチ用の部屋はないのか」

 俺はフェリックスに聞いた

「空いた部屋は一つあるがあれはあいつのお母さんの部屋だ、だれも入っちゃならん」

 そういって彼も立ち上がる。

「俺も歯磨きしてさっさと寝るよ、どっかのガキみたいに虫歯にはなりたくないからな」

 フェリックスはエイチに注意するとトイレまで歩いていった。

「私も寝よっかな」

 ユアでさえも寝る気になっている

「…俺も寝るか。」


 やけにうるさいと思って朝目を覚ました。

 気が付けば隣に置いていたジュリアンがいなくなっている。

「おいックソガキ離せッ!」

 部屋の外からジュリアンの声が聞こえた。

 まさかエイチがジュリアンを盗ったとか…

「くそったれがッ! 開けて時間確認してんじゃねぇよッ!」

 まだ叫んでいるのが聞こえてくる、しかし―――

 エイチにはジュリアンの声は聞こえないのか。

 だから彼にとっては普通の懐中時計…

 布団から出て立ち上がり、扉を開けて廊下にいるエイチを見る。

「あ、すまん。お前の隣にあって目が行ったんだ、ちょっと見てみたくて。いい懐中時計だな」

 エイチは俺に気づいて懐中時計を返した。

 彼の言葉には裏はなく、本当に興味がわいていただけだとわかる。

「あのガキに俺の中身を確認された、時間を見られた。裸をみられるのと同じなんだぞ」

 ジュリアンは言った。

 まぁ。落ち着けよ、悪意があったわけじゃない。

 女子トイレでのぞき見する幼稚園生と同じさ。

「悪意しかないだろそれ」

 笑ってジュリアンの言葉を無視してリビングに向かう。

 リビングではすでに制服に着替えたユアと、タバコを吸いながらビールを飲む

「おはよう凪、お前のリュックならここにある。今日は初めての学校だから俺が中身を用意しておいたぞ、だた甘えんなよ」

 そういって彼の隣にあるリュックを指さす。

「ありがとう」

 俺はソファーに近づいてリュックの中身を確かめるとそこには教科書が何個かとカラの弁当箱が入っていた。

 おれの顔を見てエイチが何かに気づく。

「ああ、弁当箱ね。それはお父さんがいつも入れるお守りみたいなもんだよ、実際はうちの学校は食堂があってそこでいつも何か買えるから、そこ行けばいいよ」

 そういって俺のリュックに手を突っ込んで弁当箱を取り、テーブルの上に置く。

 突然ピンポンが鳴り、玄関が叩かれる。

 ユアが出ることにした。

 玄関を開けるとそこにはやせ細った男がいた。

 髪は薄く、それでもオールバックにしていた。

 服装はマジシャンのような服を着ていて、彼の後ろに何か道具があることに気が付いた。

 片手には棒を持ち、もう一つの手には帽子を持つ。

「やあ、おっはよう。今日はおっれのトリックを見せに来たんっだ」

 そういってお辞儀をする。

「本当にトリックができるの? とっでも言いたげな顔をしているね、おっ嬢ちゃん」

 そういってかすかに微笑む。

「あ、いや、別に」

 ユアは引き気味だ、突然こんな怪しい男が出てきたら俺だってそうなる

「おい、ありゃ黒魔術師の刺客だ。攻撃が来るぞ、備えろ」

 ジュリアンは突然注意をしてきた。

「でっは、おっれのトリックを見せてあげよう!」

 棒を振ると――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ