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風呂にはちゃんと入ろう。

「お父さん」

 エイチはメガネの部屋の引き戸の前に立って一言発した。

 メガネはすでに布団で目を閉じていたが、引き戸を開けられ、差し込んだ光のせいで目を覚ました。

「なんだ」

 めんどくさそうにメガネは答える。

「勇気とエリナって誰?」

 突っ立ったままエイチは聞いた。

 メガネは黙った。

「お父さん?」

「お前はいずれわかる、凪についていけばいい。」

 そうとだけ言ってまた布団にくるまった。

「どういうこと?」

「知らないことはいずれわかる」

 布団の中からこもった声が聞こえた。

 エイチは、父の言葉を信じて寝ることにした。


 凪は夢を見た。

 それは濃い緑の森の中でさまよう夢、ずっと歩き続け、くたくたになっていた。

 草の葉で手を切り、湿った森を一歩ずつ、なぜか慎重に歩いていた。

 道中、人に出会うことがあった。だが人は一言もしゃべらず、自分もしゃべりかけなかった。

 森の中にはどこか既視感があった、歩き続けていると少しずつ森の色が色あせていく。

 濃い緑が、まるで絵の具を水で割ったような色になっていく。

 色は薄くなり、薄くなり、薄くなった後に、すべてが白くなった。

 突然右の壁が開いた、いや、扉だったのか、白すぎて気づかなかった。

 その後人が入ってきた、肩まで届く長い髪をした青年、どこか凪に似ている気がした。

 でも、なぜ?

「僕は、犯罪を犯してしまった。」

 青年は口を開けた、凪は何か言い返そうとしたが口を開けられない。

 青年は少し下を見てから続けた。

「手に、血が付いてしまった。」

 凪は青年を不思議に見つめるしかなかった。

 青年に近づき、かれの顔に触った。

「昔の家族は殺された。でも、今の凪には新しい家族がいる。」

 そういうと凪の手を握った。

「彼らの元に戻りな。」

 

 凪は目を覚ました。時間は深夜、隣にはすーすーと寝ているユアの姿があった。

 布団は、変えられていない、エイチが交換を忘れてしまったのだろう。

 寝ている間に少しだけ回復したボロボロの体で立ち上がりシャワーに向かった。

 シャワーに入ろうと服を脱ぐと、腹にまだ穴が開いていることに気が付いた。

 なぜ、まだ生きているのだろうか。

 曖昧な視界の中で冷たい水に当たりたいと思い、シャワーの温度を下げ、中に入った。

 一つ、シャワーの中に入ると気が付いた。

 水が傷口に入り、それらをすべて治していた。

 冷たい水の中で凪の体はみるみる治り、いつの間にか完全に動けるようになっていた。

 シャワーから上がり、きれいな鏡を見ると凪の腕や足に青く輝くうろこが生えていることに気が付いた。

「へっ、魚は魚でも変な魚だな。」

 体を乾かすと、うろこはすっと消えた。

 まるで最初から何もなかったかのように。

 それでも、確かにそこにあった“青い輝き”の手触りだけが、皮膚の奥に残っていた。

 着替えを終え、凪は静かにベッドに戻った。

 けれどまぶたを閉じても、さっきの夢の青年の声が耳に残って離れなかった。

 

「まるで水を吸収するスポンジだな」

メガネは鼻で笑いながら、ビールの缶を開けた。

「そんなにうまくいくわけないだろ。お前、いつから魚になったんだ?てか、魚でもそんなことにならねぇよ」

エイチもにやりと笑った。

「まあ、変な怪我してるけど、普通の人間だよな?なあ?」

 俺はそれでも負けじと肩をすくめた。

「いや、だってさ、昨日の夜、冷たい水に当たったら…まるで魔法みたいに傷が塞がったんだぜ?」

 エイチは目を細めて言った。

「俺らは見てないからな。証拠がなきゃ信じられないって話だ。」

 メガネはビールを一口飲んでからそういった。

 凪は一瞬黙ったあと、にやっと笑った。

「今度見せてやるよ。どれだけ水が効くかな、てめぇらのきたねぇケツによく効くぜありゃ」

 メガネはビールを吹き出すとカーペットにかかった。

「おい!それ俺が掃除することになるんだからやめろっ!」

 エイチは指摘した。

「すまんすまん、ただ、確かにお前が風呂でそのきたねぇケツを洗ってるところを見たことがねぇなって。」

 エイチは明らかに怒っていた。

「二日前に入ったばっかだよ」

「昨日は?」

 俺は聞いた。

 エイチは黙った。

 俺は周りを嗅ぐしぐさをしてからこういった。

「この部屋なんか臭くね?」

「あー確かに臭いな。」

 メガネはノってくれた。

「何がそんなに臭うんだろうなぁ」

「さぁなぁ。」

 エイチは静かに目をつむり、聞こえないふりをした。

「誰かさんが風呂に入っていないからかもなぁぁ??」

 メガネは必殺の一撃を食らわせた。

「確かに、腐ったトマトみてぇなにおいするぜぇ」

 俺も追撃。

 そうして強烈なにおいを放つと思われるエイチは部屋から出て行った。

「くせ!あ!くせ!」

 メガネは鼻に指を入れて閉じながら言った。

 俺はとりあいずはツッコまなかった

「床の板にあいつの足のにおいが残っちまうぜ…」


 

別に、毎日風呂に入らなくても清潔な人はいるだろ?

お姉ちゃんだって毎日風呂に入るわけじゃないし。

いっつも風呂さぼってるのはお父さんのほうだ。

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