覚醒
ラッキーが目をつむると、僕も静かに雨に打たれ冷たい地面に横になり。
息をするのをやめた。
それは春になるちょっと前の冷たく濡れた夜だった、山の中には2人の人間の死体と1匹の犬の死体があった。
一週間たっても少年の死体はは見つからなかった。行方不明だとして少年の母親が捜索願を出したのにもかかわらず、3日の捜索ですぐにあきらめられた。
愛犬の隣で死ねた少年の体は少しずつ腐敗していくだけの運命を残された。
少なくとも、そう思われた。
「ここはどこ?」
青いシャツに赤い柄、黒いバギージーンズに羊の毛を使ったジーンズのジャケットをした少年は白い空間の真ん中に立っていた。
少年がいた場所は、地獄でも、天国でもない。 普通には、人間が立ち入れない場所。
その時、少年の右肩をトントンとたたく者がいた。
「さすがは俺の選んだ子供だ。」
そういわれると、少年は振り返った。
そこには黒いマジシャンの服にシルクハットを着た、ひげを生やした男がいた。
少年は、そこがどこなのか、ラッキーもいるのか、男に聞く気にはなれなかった。
彼に残ったのは壮大な無力感だけだった、少年は自分が死んだことを自覚していた。
「黒魔術師って呼んでくれよ」
「名前はないのか?」
「とっくに忘れた。」
黒魔術師は微笑んでいた。
「勇気君、俺はね、君みたいな子供が大好きなんだ。復讐で我を忘れて人の頭蓋骨をいとも簡単につぶす子供がね! 俺は長年自分を手伝ってくれる人を探してたんだ。」
彼が言うと、勇気は聞いた。
「それが僕?」
「ピンポン!」
彼が指を鳴らすと、目の前の景色が変わった。 そこには勇気のこれまで見たこともないような美しい光景が広がった。
空は青く、地面は灰色のきれいなセメントにそれに続く長い街灯、子供はおもちゃの飛行機を持って道路で遊び、歩道の先には様々なお店があった。
道路の先には巨大なマジシャンのスタチューがあり、様々な人に信仰されていた。
「勇気、君の右側を見てみて」
黒魔術師が言うと勇気は右を向いた、そこに建物はなく雲が浮いている、歩道まで歩いていき、人が落ちないように設置された鉄とセメントで作られたものに手を置いた。
下を見ると、そこにはさらに雲が広がっているだけというのが、少年はすぐに分かった、そう、その町は雲の上の町だった。
「自殺しろって意味?」
「いいや、ちがうよ! ちょっと見てほしかっただけさ、それにここじゃ誰も自殺できない。
俺はこの世界を隅々まで見える」
彼はまだ微笑んでいる。
「僕を選んだってどういうこと?」
少年が聞くと、男はきちんと説明することにした。
「昔、俺は君と同じく、自分の家族に復讐を誓ったんだ。 それで、自分の兄を殺すためにとんでもない力を手に入れた、でもね、俺には未来が見えるんだ、アレースっていうくそったれに敗れる未来がね。」
少年はあレースがだれなのか、本当に未来が見えるのかを聞こうとするが、男は先に声を上げた。
「アレースはゼウスの息子で戦争の神だ。とんだ糞野郎で俺の親父のダチなのに裏切ってあいつのところに行きやがったんだ、未来はみえる、実際今君がしようとした質問を先に答えてるんだから。
それに、一つの行動を変えれば未来も変わる、俺の頭の中には常に未来の数百個の可能性があって、常に頭が痛い、だが、自分でどれだけ行動しても変わらない未来があるんだ、それは、この俺がアレースに力で負けて独房送りにされる未来だ。」
一人で黒魔術師が語っていると少年は空の雲をみて暖かい風を身に感じていた
「新潟とは、全然違う。」
「なんだって?」
「何でもない」
少年が答えると男は続ける。
「じゃあ、僕ちゃんは何をすればいいんだぁぁ! って思うかもしれないが、簡単だ。 前から箱が見えていただろう?あの箱は俺からの贈り物だ、まずあれに触れていなければここに訪れることはできなかった、いわゆるトリガーのようなものだ。
トリガーを作動させて、俺に直接会い、あんたに力を授ける、これが計画だ。
ちなみにきみをこれから生き返らせる。」
男は勇気のジャケットをいじりながら言うと
「え?」
「あんたの目的は、アレースを倒すことじゃない、それは俺に任せておけ。
あんたは力を使いながら、楽に生きていればいいんだ、じゃあな」
「いや、それは…」
倒れていると、突然肺に空気が入り爆発すると思った。
喉は乾いていて、手は黒かった。目の前には腐ったラッキーの死体が転がっていた。
臭い、とにかくここは臭い。僕は立ち上がろうとしたが足が動かなかった。
「腐敗した死体をよみがえらせるには一日かかる」
突然声が聞こえた。そうか。腐敗、か。
僕は手を頭に当てると非常に柔らかく、冷たいことに気が付いた、お父さんが僕の頭をハンマーでたたきつけた時、僕はもうとっくに限界だったんだな…
太陽は少しずつ移動している。
沈んでいき、上がってくるのは月だった。
待っている間は眠くなどなかった、こんなにも静かなひと時は初めてだった。
空の星々は僕を通り過ぎていき、太陽がまた上がると僕は立ってみることにした。
自分の頭に触れると、それは暖かく、骨は堅かった。
何もなかったかのように、僕は歩いて山道を下りた。
勇気は戻ってきた。でも、彼はもう戻れない。