王国の中での最強の戦士、○○○○
三歳になった。
ただの日だった。
最近、家族は近くにいるけれど、まだ本を読み続けている。
「本が好きなんだね、グレイ。もう文字が読めるなんてすごいね。どうやって覚えたのかはわからないけど、やるじゃん。」
「すごいね、うちの子は天才かもしれない。」
食べながら、親が言い出した。グレイというのは略した名前らしい。最近そのあだ名で呼んでいる。
親と一緒にいるときは、お伽噺だけを読むようにしている。親の前でその魔法の教本を読むのは、恐らく良いアイデアではないから…。
食べ終わった俺は椅子から立ち上がり、練習室に向かう前に挨拶した。
「おいしかった。読みに行くよ!」
「うちの子は有望だね。」
「そうね、六歳になったら家庭教師を雇うつもりだから、絶対強くなると思うよ!」
食堂を出たとき、そう言っているのを聞いた。
―うわああ、六歳って結構先だなー。そこまで頑張らないといけない…。
練習室に入ると、いつも通り、樽に入っていた剣を取り出して練習を始めた。剣に中くらいの炎を纏わせ、振り始める。
明確な動きでビュンと空気を切りながら、まるで踊っているかのように腕をあっちこっちへ動かしていた。
今の持続時間は十分。
以前読んだ本によると、
初心者の持続時間は通常一分、
中級は十分、
上級は一時間、
最上級は三時間、
伝説級は七時間、
神級や無敵級は無限
ただ、これらは具体的な数字ではなく、サイズや強度も関係するため、あくまで一般的な目安のようだ。
最近、中級レベルに達したのが嬉しくて、俺は練習を続けていた。だが、練習を始めて五分ほど経ったところで、練習室のドアがギィーと音を立てて開いた。
「誰がいるのか?」
聞き覚えのある声だった。俺はポツンと佇んだまま、ゆっくりと外を振り返る。案の定、そこに立っていたのは父だった。
「…。っ」
「グレイ? なんでその剣を持っているんだ? しかも炎を纏わせているみたいだな。まさか剣術の練習をしているのか?」
まごつく俺に、父の視線が鋭く向けられる。
「いや、そのー…」
「はははは! 流石だぜ! やっぱりお前は天才だったか!」
嬉々として微笑む父の顔を見て、俺は思わず笑い始めた。
「怒っていないの? 幼児が炎魔法を使うなんて危ないと思わないの?」
秘密がばれて、俺はガタガタと震えていた。しかし、父はクスクスと笑いながら手を振った。
「怒っている? 冗談だろう! 俺の子が三歳で中級の付与魔法を使っているなんて、すごいじゃないか! 六歳になったら普通の家庭教師を雇おうと思っていたけど、もうこんなレベルまでやっているなら話が違うな…。ただの提案だけど、俺みたいに強くなりたいなら、すぐに家庭教師を雇ってもいいかもしれないな。」
少し得意げな父の様子を見て、俺は驚きつつも飲み込めていない言葉にあっけにとられていた。だが、考える間もなく、自然と答えが口をついて出た。
「うん、お願いします!」
やっと飲み込んだ俺はガッツポーズを決めて拳を上げた。
―よっしゃ! 本当に嬉しい。これで強くなれるだろう。へへ。
リントンはクスクスと笑いながら言った。
「そんなに欲しかったなら、先に言ってくれよ。よし、それなら早速アルラに伝えてくるぜ。」
そう言うと、リントンはパッと練習室から出て二階へ向かった。
―嬉しいけど、一体どうなってるんだ…。まさか、家庭教師ってあれか? 家庭教師から剣術と魔法を教わって、上級になるのか? いや、それどころか最上級かも。…その家庭教師ってどんな人だろう。美人? 若者? それともおっさん?
頭の中でいろんな考えが浮かんでいた。興奮が抑えきれない俺は、持っている剣を高く掲げ、全魔力を込めて振り続けた。剣に熾烈な炎を纏わせたまま、俺はニヤニヤと笑ながら、まるで、舞うように振り続けた。
結果、力を使い果たしてその場で気絶してしまった。
その日は、生まれてから一番幸せを感じた日だった。
***
翌日
また練習室で剣の練習をしていると、突如誰かが中に入ってきた。
「おはよう、父さん。何か用?」
そう言いながら振り向くと、そこにはリントンだけでなく、見知らぬ人物が彼の後ろに立っていた。
―まさか、この人が…。もしかして、俺の家庭教師?
「グレイ、またここにいるんだな! 流石だぜ。さて、最高の教師を探してきたぞ。そして、ついに見つけた!」
そう言って、リントンは俺に視線を向けながら、後ろにいる人物を紹介した。
「俺の幼馴染で、王国最強の戦士として名高いケンドラ・キナストンだ。もちろん、息子には最強の家庭教師しかいないだろう!」
後ろに立つのは、スラリと体躯とクールな眼差しを持つ女性だった。その堂々とした立ち姿は、一目でただ者ではないことを物語っていた。
「え、まさかこんなすごい人が俺の家庭教師に…。」と驚きを隠せない俺に、ケンドラはじっと目を向けた。そして、静かに口を開いた。
「よろしく頼むよ、天才少年」
と落ち着いた声で言った。その言葉は何か不思議な威圧感があり、胸の奥に響いた。