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病院での取材や転落事故の様子を収めた映像について、明神はかいつまんで説明した。ポーカーフェイスの石田だが、転落事故の様子を収めた映像があると聞いた時には、おやっという表情をしてみせた。
「死んだのが2hillだっていうなら、今2hillだと言っている奴は偽物だな」
「なら、声紋も指紋も転落事故前の2hillのものと一致するはずはない。でも、あの番組の鑑定結果では一致した」
うーんと唸り、石田は腕を組んで考えこんだ。石田が考え込んでいる間、明神はしゃべり過ぎて乾いた喉をビールで潤した。
「だからさ、エンターテインメントなんだよ。何か仕掛けを施したんだろうて」
「どういう仕掛けですか? ものによっては警察の行う指紋鑑定の信頼性が揺るぎかねない」
「大げさだな。指紋鑑定その物は正確に行われるし、信頼できる方法だ。俺が思うに、転落死する前の2hillの指紋がそもそも2hillのものではなかった可能性があるね」
「どういうことですか?」
「偽物の指紋を転落死する前の2hillの指紋ということにしておけばいい。これなら、どうやったって指紋は一致する」
「指紋は限定イベントで配られたサンプルCDについていたもの、転落死する前の2hillの指紋ですが」
「それが本当に転落死する前の2hillの指紋かどうかは今となっては証明できないだろ? 何しろ本人は死んでしまってるんだから」
「僕も同じことを考えました」
「何だ、それなら、突っかかるなよ」
表情には出さないが、軟骨を砕く音が石田の不機嫌さを物語った。
もういい頃合いだろう。明神は2hillは顔役と声役の二人一役ではないかという推論を語った。死んだのは顔役だった、2hillとして復活したのは声役、声を担当していた当人だから、復活後の声紋鑑定で本人の声と証明される。問題は指紋だが、自分自身ですら自分の指紋がどんな紋様なのかは把握していまい。まして周囲の人間が顔役の指紋を知っていたわけはない。それならば、2hillの指紋だというものを用意できたはずもない。声役の指紋を顔役の指紋と偽っておけば本人を目の前にしても指紋鑑定で指紋は一致する。サンプルCDについていた指紋は声役の指紋だった、それが指紋一致のトリックだ。
「まあ、そんなところだろう」
石田も同じ意見だ。
「ところで、石田さん。僕、面白い物を持っているんですよ」
明神は鞄を探った。中から取り出して見せたものはチャックのついたプラスチックの袋だ。透明なので中身が透けて見える。正方形の形をしたプラスチックのケースで中央にはCDが収まっている。
「これ、何だと思います?」
「CDだろ?」
「ただのCDではないですよ。例の2hillの限定イベントで配られたCDです」
袋に伸ばしかけた手を石田が慌ててひっこめた。
「大丈夫です。袋に入ってますから」
「ああ、そうか、そうだったな」
明神は袋を皿の間に置いた。
「僕も触っていません。触らないように気をつけて探しましたから」
「どこで見つけたんだ」
「妹の遺品です……」
明神の妹、舞の死を知っている石田は明神の思いを察してか何も言わなかった。自分の感情を表には出さないが、石田は他人の感情には寄り添える人間だ。
「石田さん、折り入ってお願いがあります」
「ほら来たよ」
石田が身構えた。
「このCDについた指紋と、このテープとについた指紋とを調べてもらえませんか」
明神は鞄の中から今度は花柄の紙袋を取り出した。折り曲げた手提げ部分を押し広げ、中身を石田に見せる。
「何だ?」
「カセットテープです」
「カセットテープか。懐かしいね」
懐かしいという感想がふと口をついて出てしまうあたり、石田の年齢を感じる。石田の半分の年齢の真壁美咲は決して言わない台詞だ。
「このテープには声役と考えられる人物が2hillになる前の歌声が録音されています。CDには2hillのデビュー曲が収録されています。おそらく声紋は一致するでしょう」
二野宮達也の歌声を知る上野里加は2hillその人だと断定した。何も知らない真壁美咲に二野宮達也のデモテープを試しに聞かせたところ、彼女も2hillの声だと言った。明神自身も二野宮達也が2hillの声だと今では確信している。
問題は指紋だ。
「このテープには声役の人物の指紋がついているはずです。それと、このテープを保管していた人物の指紋。僕は触っていません。僕が触ってしまったテープはよけてあります。それからこのCDですが、これには妹と2hillの指紋がついているはずです。テープとCDの指紋を調べてもらえませんか?」
「テープの指紋とCDの指紋とが一致するかどうかってことか?」
「いいえ、逆です」
明神は首を横に振った。




