第80話 再挑戦
《登場人物》
アヤカ 隊員、女
ミミ 隊員、アヤカの付き人、女
フィガロ隊長 既婚者、男
ベル 人型ロボット、妊娠中、コールガール、女
ライド先生 産婦人科医、フィガロ隊長の旧友、男
(第80話 再挑戦)
岩石地帯
アヤカ 「今度こそ異世界へ行くわよ。」
ねずみうさぎ 「ほんまに行けるん?」
アヤカ 「行けるわ。ちゃんと対策は考えてあるから」
ミミ 「あれから武具屋に行って武器を新調したんですよ。」
ねずみうさぎ 「武器ってアヤカの持ってる剣やろ? まさかそれだけちゃうやろな。そんなもんであのぶ厚い岩石の壁をぶっ壊すとか絶対に無理やぞ。」
アヤカ 「今回は助っ人を連れてきたの。ダリアよ。」
ダリア 「お役に立てるように頑張ります。」
ミミ 「ダリアさんは武道大会で優勝したことがあるんですよ。大食い大会でも大活躍でした。」
ねずみうさぎ 「強いんや。ほんじゃ今回はアヤカがやるわけやないんやな。」
アヤカ 「そうよ。この剣はあとの戦いのために取っておくわ」
ねずみうさぎ 「それ一本なん?」
アヤカ 「悪い?」
ねずみうさぎ 「前回みたいに折れたらどうすんねん。お前、剣士やろ? 戦えなくなるやろ? 二本用意しておくのが普通だと思うぞ。」
アヤカ 「二本目ならあるわ。カバンの中に入ってる。シャイニングダガーよ。」
ねずみうさぎ 「それ普通のサバイバルナイフやろ? めっちゃ嫌な予感するわ。」
アヤカ 「今度は大丈夫よ。」
ねずみうさぎ 「それに今さらやけど、本当にこれ以上メンバー増やして大丈夫なん?」
アヤカ 「なんとかするしかないわ」
ベル 「うちは役に立てへんよ。ついていくだけや。」
ミミ 「ベルさん、わたしもついていくだけです。大丈夫ですよ。みんなが守ってくれますから」
ねずみうさぎ 「おい、ミミ。何言うてんねん。守ってやれるわけないやろ? わいは異世界の入口までって言うてるやん。つまり一緒に旅できひん言うてるんや。わいがおらんくなったら、そっから先は誰がお前らのこと守るんや。」
くじゃくま 「わたしがみなさんのことを守ってみせますよ。だから安心してください。」
ねずみうさぎ 「口だけやん。自分の身すら守れるかどうかあやしい奴が何できんねん。くじゃくま、お前まさか前回来たとき自分が岩壁壊せへんかったこと忘れたわけじゃないよな? 今回はできるんか? あれを突破できんってことは異世界で通用せんっちゅうことなんやぞ。」
くじゃくま 「任せてください。今回はやってやりますよ。」
ミミ 「頼りにしてます!くじゃくまさん!」
ねずみうさぎ 「ベル、何をどう聞かされてここまで来たか知らんけど、わいは正直者やからから教えといたる。こんなメンツで異世界に行ったって死ぬだけやぞ。」
ベル 「うち死ぬのは嫌や。それなら異世界には行かへん。強い人が守ってくれるっていうからついてきたんや。」
アヤカ 「わたしは決してあなたを見捨てたりしないわ。」
くじゃくま 「わたしがベルさんを守ってみせますよ!」
ダリア 「まぁまぁとにかく試練に挑戦してみませんか? 異世界に行ったあとのことは試練を突破したあとでもう一度話し合いましょうよ。」
アヤカ 「そうしましょう。みんな、準備はいいかしら。」
ねずみうさぎ 「できてるで。」
くじゃくま 「いつでも戦えますよ。」
アヤカ、深呼吸する。
アヤカ 「異世界の番人よ。出てきてちょうだい。」
番人 「またお前たちか。また試練を受けに来たのか?」
アヤカ 「そうよ。今度こそ異世界へ行くわ。」
番人、ダリアの存在に気付く。
番人 「なるほど、助っ人を連れてきたのか。いいだろう。」
轟音とともに巨大な岩石の壁がアヤカたちの目の前に現れる。
アヤカ 「ダリア、あの岩壁を壊してちょうだい。」
ダリア 「無茶言わないでくださいよ。できるわけないじゃありませんか。」
ねずみうさぎ 「おい、アヤカ。もうええ。わいもう帰りたくなってきたわ。お前のこと心からバカや思うてしもた。」
アヤカ 「やってみないうちから何を言ってるの。できるかもしれないじゃない。ダリアならできるわ。」
ダリア 「あんな硬そうな岩を攻撃したら、こっちが怪我しちゃいますよ。わたしだってアヤカさんと同じ人間なんです。岩壁を壊すなら重機を持ってきたほうがよかったんじゃありませんか?」
アヤカ 「この試練に重機を使うわけにはいかないわ。異世界まで持っていけないし、あちらで同じような試練があったときに対応できないもの。人間が身につけていられる装備のみで臨むべきだわ。」
ダリア 「そう言われても、困るんですけどね。」
ダリア、文句を言いながらもゆっくりと流れるように岩壁の方へ歩いていく。手で触れ、軽く叩き、硬さを確かめる。本気で拳を打ち込んだフリをする。
ダリア 「ダメです。少しも壊れませんでしたし、下手をすると拳の骨が砕けますよ。」
ねずみうさぎ 「そらそうや。無理はせんほうがええ。」
アヤカ 「そう。それならあたしがやるわ。見ててちょうだい」
アヤカ、剣を構える。
ねずみうさぎ、呪文を唱える。
アヤカ、赤色のオーラに包まれる。
アヤカ、壁に向かって突進する。
ダリア、無詠唱でアヤカに補助魔法をかける。
アヤカの体が聖なる力によって神々しく金色に輝く。
アヤカ 「ディバイン…ブレイク!!」
振り抜く剣が岩石の壁を打ち砕く。
轟音とともに爆風が生じ、千々に砕かれた岩石の隙間から異世界へ通じる次元の歪みがあやしくも不気味に揺らめく。
剣戟の反動でアヤカの体は小石のごとく宙に舞い、地面に叩きつけられる。受け身も取れず、上半身から落下した若い女の体は魂を抜かれたかのように気を失ったままなまこのように岩盤の上に張り付く。
ミミ 「アヤカさん!!」
ねずみうさぎ 「アヤカ!!」
くじゃくま 「アヤカさん!!」
一同、アヤカのそばに駆けつけ、声をかける。
ミミ 「アヤカさん、しっかりしてください!!」
ねずみうさぎ 「おい、アヤカ!生きてるか? 返事せえ!!」
ミミ 「息はしているみたいです!!」
ベル 「生きてはるんや!」
ミミ 「っていうか、よく見たらかすり傷一つついていません!砂埃で汚れているだけです!」
ねずみうさぎ 「あんな吹き飛ばされたんに無事なんか。奇跡やぞ。壁にぶち当たる瞬間に光ってたのと関係あるんか」
ミミ 「え? さっきのってねずみうさぎさんの魔法じゃないんですか?」
ねずみうさぎ 「ちゃうで。わいの強化魔法にはあんな大層な効果あらへん。うまくいって筋力20%アップがせいぜいや。」
ミミ 「ルビーリングの効果が現れたのかも」
ねずみうさぎ 「だとしたらえらいこっちゃ。えげつないパワーやで。」
ミミ 「使うたびにアヤカさんが気絶することになるんですか…。寿命を縮めそうな魔法です。」
ねずみうさぎ 「それじぁ次はくじゃくまにかければええんや。」
くじゃくま 「望むところですよ。これで異世界に行けますね。目が覚めたら、アヤカさんきっと喜びますよ。」
ミミ 「変なところ打っていなきゃいいんですけれど。」
(第80話 再挑戦 完)