海豚BBQ
スメグルの過去話が終わって、ファッションやスイーツの話題を話すこと、一時間……
ダニエルの鍛治の準備を手伝い終わり、完成するまで城内を歩き回っている岳斗が内庭に来た。 中央には、すっかりメンヘルチックな雰囲気が出来上がっていた。 野原の中央で横になっているスメグル、彼の太い尻尾に巻きついておねんねしているクリスティーヌ、彼の右腕を布団にして大の字で寝てるアレキサンダー、そして、彼の左腕を枕にして、抱かれるように眠っているシャルル。 さらにスメグルがシャルルの右耳を甘噛みしたままになっているのもポイントだ。
岳斗(…………!!! なぁにぃーーーーッ!!!)
もふもふ天使4人の降臨に頬を赤くして、激しく心臓を躍らせずにはいられなかった。
岳斗(俺はっ! 今ッ! 隅々まで、モフりたいッ!!! おお、神よ!!)
膝から崩れ落ち、天を仰ぎ見ながら、欲望に苦しむ岳斗。
岳斗(しかし、普通に歩いて行ったら、確実に起きてしまう。 獣人って耳がとてもいいからな。 おおおおおおお…………!! どうするッ!?)
その時、妙案が舞い降りた。 神に思いが通じたようだ。
岳斗(そうだ、マドレーヌと共闘した時に使ったあれだ。 あれなら足音を出さないで近づける。 しかも空中を浮かぶから、上から近づけば、簡単にモフれるな)
岳斗「よし、パリモアナ!」
呪文を唱えて、浮遊を始めた。 すぐさま4人に静かに近づく。 気づく様子は全くないようだ。
岳斗(ぬっふふふ…… さて、どいつからモフろうか? アレキサンダーからにしよう)
アレキサンダーの頭を注意深く繊細に撫で始めた。 さながら外科手術のような緊張感がつきまとう。
岳斗(腹も行ってみるか)
腹はプリンのように、弾力が感じられるさわり心地だった。 数分撫でで満足した岳斗はクリスティーヌのところに行った。
岳斗(……ううむ、しかし、流石に幼い少女になんかこそこそやるのは、罪悪感を感じるな)
流石に良心の一線を越えることに躊躇を感じ、クリスティーヌは頬を一回ぷにぷにするだけに留めた。 次はスメグルだ。
岳斗(おお…… よく見ると首とか頬の毛量がとんでもねえな。 さすがニャンコの仲間だけあって素晴らしい)
早速、首に指を入れてみると、たちまち毛の樹林が岳斗の指を容易く包み込んでしまった。
岳斗(YEAHHHHHーーーーーー!!!! ニャンコ万歳ッ!!!!!!)
あまりにも素晴らしい毛皮に、天使のように可愛らしい寝顔も相まって、底なし沼にどっぷりハマった岳斗。 よだれが落ちかけているのを必死に吸い上げている。
岳斗(AHHHHーーーー!! 姉御ぉぉぉぉ!! 男澤宮岳斗、一生ついていきやすッ!!!!)
スメグルの顔と首を満悦した岳斗は、いよいよシャルルに立ち向かう。
岳斗(ヒヒヒヒヒ…… シャルル、てめえは隅々までしっかり撫でてやるぜぇ〜!!!)
あまりのコーフンに、長い舌を出して捕食するような顔になっているが、岳斗は気づかない。
岳斗(では、行くぜ。 ヒャッハァァァァーーーーーーーッ!!!!!!!!)
と、その時ッ! 玄関と反対側の扉が勢いよく開かれた。
ロント「おーいっ!! 昼飯もうすぐできるってよ!!! ……あ」
岳斗「……あ」
岳斗とロントが見合ったその時…… 目を覚ましたシャルルの瞳孔は紙のように細かったそうな。
その頃、レオナルドとジェシカ、アビリアは、ジェシカの執務室であらゆる銀河の王国に電話をしていた。 青龍の目撃確認を取ろうとしているが、どの王国も『見た事はない』の返事ばかりだった。 レオナルドがため息をついて、ソファに深く座った。
レオナルド「はぁ……」
アビリア「目撃情報、一つもありませんね…… 予想以上に手強い相手のようです」
レオナルド「一体何者なんだろうな…… 青龍」
と、同じく電話を終えたジェシカが懐中時計を取り出して、見た。
ジェシカ「そろそろ昼ごはんの時間ですね。 私は後2、3の王国と電話しますので、レオさんは先に行ってきて、皆さんを食堂に呼んでください」
レオナルド「悪いな…… 二人とも」
アビリア「心配は無用です。 それに今、一緒にこうして何かをできることが私にはとても嬉しいのです。 さっ、この嬉しさをもっと味わせてください」
レオナルド「ふふ…… その気持ち、俺も嬉しいぜ。 じゃあ、行ってくる」
執務室を出て、1階の食堂に入るとちょうどシェフたちが皿やナイフ、フォークを並べている所だった。 料理長が出てきて、レオナルドに挨拶した。
料理長「王様、後少しで料理が出来上がります。 もうしばらくお待ちください。 今、ロント様も皆様を呼びに行きました」
レオナルド「うん。 俺もちょうどみんなを呼ぼうと思っていた所なんだ」
料理長「左様でございますか。 では、私もお供しましょう」
レオナルド「わかった」
レオナルドと料理長が全員を集めようと食堂を出たところ、中庭から叫び声が聞こえてきた。
レオナルド「どうしたんだ?」
料理長「行ってみましょう」
中庭の扉を開けると、シャルルが魔王のような邪悪な笑顔を浮かべて、鉄の棒に手足と尻尾を縛られて、吊るされている岳斗を見ていた。 下には積み重ねられた薪が置かれている。 岳斗が涙目で何かを言おうとしているが、口にタオルを噛まされて、何も言えない。
レオナルド「って、どういう状況!?」
シャルル「ちょうどよかった。 レオナルド、口から火を吹いて、この海豚を丸焼きにしてくれ」
レオナルド「えええええーーーッ!?!?」
驚き、慌てふためいたレオナルド。 横にいるクリスティーヌ、アレキサンダー、ロント、スメグルのところに走って、状況を聞いた。
レオナルド「一体何があったんだ?」
アレキサンダー「岳斗がシャルルの寝込みを襲おうとしたみたい。 呆れた、ここまで変態野郎とは思わなかったね! はぁーあ」
スメグル「襲うならアタシにしてほしかったわぁ。 ほんと、ざんねぇ〜ん」
スメグルが口惜しそうに言い放った。 少し顔が赤いのは気のせいじゃない。 クリスティーヌがシャルルに走り寄って、嘆願した。
クリスティーヌ「シャルル、いくらなんでもここまでしなくてもいいと思うわ。 もふもふに埋め尽くされたい気持ちは私もわかるよ」
シャルル「クリスはいいけど、岳斗はダメだッ! 16歳の大男に襲われて、嬉しい野郎がどこにいるんだよ!?」
スメグル「ここにいるじゃな〜い! アタシよ、ア・タ・シ」
大きく手を挙げながら、ウインクで色気を出して言ったスメグルだったが、シャルルには届かなかった。
シャルル「それにあいつを野放しにしたら、もふもふ市民たちの立場はどうなるんだ!? 夜も安心して過ごせねえ。 火炙りの刑じゃあーーーッ!! レオナルド、口から火を出してくれ」
レオナルド「そんなこと言われたって、口から出したことなんて……」
そう言いながらも、試し半分で息を勢いよく吐いたら、本当に火が勢いよく出た。
レオナルド「ぼオオオーーッ!! うおっ!?」
クリスティーヌ「おーっ! すごいよ、パパ!」
シャルル「まさか本当に出るとはな。 これは都合がいい、ふふふ……」
岳斗「んー! ンンー、んガーーッ!(みんな、突っ立ってないで解けーーっ!!)」
涙目で体を激しく揺らしながら、訴えかけるが、全員レオナルドの火吹き芸に夢中でどうしようもない。
クリスティーヌ「ねえ、パパ! もっと大きい炎吹いてー!」
レオナルド「わかったわかった。 城に引火しないように気をつけよう」
城を全焼させないように少しずつ吹く火を大きくしながら、クリスティーヌを楽しませる。
ロント「あっ、文字は書けないのか?」
レオナルド「えーと、やってみる」
もう一発吹くと、クリスティーヌの絵と『I LOVE CHRISTINA』の文字が出てきた。
レオナルド「おっ! イメージした通りに出たぞ」
クリスティーヌ「きゃあー! 嬉しいっ、パパ大好きっ!」
クリスティーヌが嬉しそうに飛び跳ねて、レオナルドに飛びかかったので、力強く抱き止めた。 その時ッ! 扉が勢いよく開かれて、マムルの怒鳴り声が響き渡った。
マムル「こらああああーーーッ! 何してるんですか!! とっくに昼飯できてますよッ!!」
全員「す、すみませんでした…… 今すぐ行きます」
あまりにも、ものすごい勢いの怒りに一行はただ謝るしか無かった。
ニャーハオ星の伝統料理 担々麺――米とゴマをこねて、餅にしたのを0.7セノヴァの太さに切った麺と茶色の餡汁――、冷めても美味しい小籠包――唐辛子26種類プレンドで、発汗促進効果を持つ夏料理――、七色豆腐――7種類の甘みを一振りの塩で目立たせた定番デザートが全員の舌鼓を満足そうに打った。 そのあとは、本来の仕事である王国統治仕事や親密にしている王国への電話を続けるジェシカとレオナルドに勧められて、後で合流するダニエル以外のメンバーは城下町の観光を楽しむのだった……




