寄り道
ハバラーノ星を出た一行は最後の四獣、青龍探しの旅を始めた。 ……しかし、都会星や船内イッターノットで手かがりを探しても全くと言っていいほど見つからない。
数日後、リビングに全員集合した所で、テーブルの上で毛繕いしているシャルルが声高に言った。
シャルル「さて、全員揃ったな。 これから第二回青龍探索会議を始めようと思うが、何か意見のある奴はいないか?」
シャルルの呼びかけに岳斗が静かに手を上げた。
シャルル「岳斗、何か見つかったか」
全員の注目が岳斗に集まる。 数回尻尾を地面で叩いてから言った。
岳斗「青龍さ…… 俺と外見似てそうだよな」
重要な告白をするトーンで普通のことを言われたシャルルが脱力して、ずっこけた。
シャルル「お前さ…… せめて声のトーンと内容は合わせろよ」
岳斗「しょうがねえだろ。 重要な手かがりが全くねえんじゃ、話しようがねえよ」
加那江「そうね このままじゃ、またグルメ巡礼観光会議になってしまうわ」
開始早々行き詰まった会議…… ここで、ジェシカがいいアイデアを出した。
ジェシカ「ついさっき、地図を見たんですが、近くに私の故郷、ジュネス星があります」
スメグル「おっ、ジェシカちゃんが統治している王国がある星だったっけ。 アタシ、一度行ってみたかったのよ!」
まだ見ぬ王国を妄想して、目を輝かせる乙女スメグル。
レオナルド「なるほど、ジェシカの先代からの人脈を使って、情報集めか」
ジェシカ「ええ、そうです。 他にできることもありませんし……」
レオナルド「なら、そうしようか。 久しぶりにクリスの顔も見たい」
岳斗「俺は武器を改造してもらうか。 大剣と二刀流を切り替えられるような武器が欲しいんだ」
ダニエル「よし、現地の道具・材料も借りて、わしが改造するぞ」
岳斗「サンキュー」
アレキサンダー「王国か…… あたい、ワクワクしてきたよ!」
ジェシカ「楽しみにしてくださいね、ふふふ」
ジュネス星 初めて来た時と同じところに着陸して、徒歩で城まで来た。 城門に着いた時、ジェシカを視界に入れた門番二人が驚愕して飛び上がった。
門番1「ああっ……!! 女王様っ!? それに王様とお仲間たちも!」
門番2「おーい、開門! 女王様と王様たちがお帰りになられたぞ」
瞬間、門の向こうから慌てて走り寄ってくる複数人の足音が響かせていた。 しばらくして、門が開いて、王国の皆が待っていた。
使用人「本当だ! 女王様……!」
警備兵「王様、お帰りなさい! お身体は大丈夫でしたか?」
ジェシカ「ありがとう、大丈夫です。 あなたたちも元気でしたか?」
全員「ハイっ!」
ジェシカの優しい気遣いに心の底から嬉しそうに返事した。
一行は城内の煌びやかさに目を奪われながら、玄関廊下を通過した。 5階まで一気に行けるほど、開放感がある吹き抜けに来た所で、クリスやアビリアなど、岳斗たちも見知った皆が出迎えてきた。 クリスティーヌがサラサラ尻尾を勢いよく振って、はち切れそうな笑顔をしながら、ジェシカとレオナルドの元に駆けて行った。 わんぱく娘を二人かがりで抱きしめた。
クリスティーヌ「ママ〜!! パパァ〜!! お帰りなさいっ!」
ジェシカ「ただいま、クリス。 ちゃんとお利口にしてた?」
クリスティーヌ「ハイっ! わたし、利口にしてたよっ!」
レオナルド「おお、それは偉いな」
レオナルドがクリスの頭を柔らかく撫でた。 あまりの嬉しさで、馬耳を大きく振っている。
アビリア「うふふ…… ところで、四獣の旅は終わりましたか?」
加那江「まだなの。 後、青龍だけよ」
ジェシカ「探してるうちにたまたま故郷が近くにあったので、情報集めも兼ねて、一旦寄りました」
アビリア「なるほど、そうでしたか。 手伝えることがあったら、なんでも言ってください」
ジェシカ「ありがとう。 頼りにしていますよ」
こうして、一行はゲストハウスで別れて、昼飯時間まで自由行動を始めた。 玄関の吹き抜けを真っ直ぐ進むと、様々な種類の花が咲き誇る中庭に出る。 その一画である野原にスメグル、シャルル、アレキサンダー、クリスティーヌが紅茶を飲みながら、乙女同士で戯れていた。
スメグル「ん〜! 美味しいわ、午前の紅茶も中々オシャレよね」
クリスティーヌ「本当はケーキも欲しいんですけどね。 マムルさんに叱られてしまうわ」
小さい不満を漏らして、軽口を飛ばすクリスティーヌ。 ふと、スメグルに質問した。
クリスティーヌ「ねえ、スメグルさん。 体は筋肉ムキムキで勇ましいのに、どうして中身は乙女なの?」
スメグルが顔を赤くして、照れ出した。
スメグル「あら〜! 乙女なんて……恥ずかしいわあ♡」
アレキサンダー「そういや、ロントが宇宙の七不思議とか言ってたね。 あたいも気になってたんだよ」
スメグル「まあ! ロンちゃんがそんなことを……! え〜、ちょっとォ、そんなことよりも……」
シャルル「スメにゃあん〜」(いつもより高音の甘え声)
話をはぐらかそうとしたが、シャルルとアレキサンダー、クリス3人の期待の眼差しを存分に浴びて、話すしかなくなった。
スメグル「ふふふ…… 本当に可愛いわね、あなたたち。 わかったわ、その可愛さに免じて話してあげる!」
クリスティーヌ「やったァ!!」
クリスが万歳で大喜びした。 スメグルが一つ咳払いして、話し始めた。
スメグル「オホン ええと、アタシは元々シャイボーイで、自分から中々話しかけて友達になるのが苦手だったの。 それに加えて、パパが転勤が多い役人だったから、アタシには友達はいなかったの」
シャルル「そうなのか、意外だな。 ロントとはいつ知り合ったんだ?」
スメグル「8歳の時よ。 アタシが砂浜で一人ぼんやりしていたところに、ロンちゃんが海から飛びかかってきて、海に引き摺り込もうとしたの」
クリスティーヌ「ええっ!? どうしてなの?」
スメグル「まあ、これは話すと長くなるわね。 そこら辺はロンちゃんに詳しく聞いた方がいいわ」
アレキサンダー「やれやれ、野蛮なロンちゃんだね! で、そこからどう友達になっていったんだい?」
スメグル「孤独なシャイボーイのアタシと冒険が大好きなロンちゃん…… アタシがロンちゃんと他の星を話したり、ハバラーノ星の冒険して、よく盛り上がっていたわ」
シャルル「うまく噛み合わさったわけか。 そいつあ、ラッキーだったな」
クリスティーヌ「それで大人になっても一緒にいたのね。 素敵な友情だね!」
スメグル「あっ、正確に言うと出会ってから1年後に、パパの転勤でロントと別れることになったの。 その後、冒険者になった時に再会したのよ」
クリスティーヌ「へえ〜! 友達と再会するって中々ロマンね。 それに今も一緒に行動してるし」
アレキサンダー「でさ、いつからオネエになったのさ?」
スメグル「……うふっ、ストレートな質問ね! そういうの嫌いじゃないわ〜」
ウインクして、照れ隠ししたスメグル。 一瞬空を眺めてから話し始めた。
スメグル「……そうね、ロンちゃんと別れてから再会するまでの間よ。 ええと、13歳の頃だったかしら。 ロンちゃんと別れてから、学校で友達をたくさん作ろうと決意してたんだけど…… ほら、昔のアタシって恥ずかしがり屋でしょ。 だから、中々自分から話せなくて、いつの間にか、これはっ!と思った人みんなが仲良いグループに入っちゃって、結局一人だったわ……」
そこまで言って、少し寂しそうに目を閉じたスメグル。 クリスティーヌが優しく手を重ねる。
クリスティーヌ「……今はあたしも友達よ」
スメグル「ありがとうね、あなたは優しいわ」
左手でクリスの頭を撫でるスメグル。 柔らかい肉球の心地よさを感じて、笑顔をこぼすクリスティーヌ。
クリスティーヌ「ふふ、肉球が柔らかくて気持ちいいわ。 わあ、ぷにぷに〜♡」
両手でスメグルの左手を頬に移動させて、そこに肉球を擦り付けている。
スメグル「やぁん……! くすぐったい〜 それっ、お返しよ!」
クリスティーヌ「ひゃあ……! くすぐったぁ〜い」
顔を近づけて、クリスティーヌの鼻をひと舐めした。 左手をクリスに任せたまま、思い出したように会話を再開した。
スメグル「……あっ、それでね、パパも仕事が忙しくてかまってくれなかったからあたし、とてもとても寂しかったわ。 それで13歳の頃、いつものように一人で帰り道の街でぶらぶらしていたの。 その時、ふと、新しく開いていた豪華な店が気になって、気づいたら中に入ってしまったの」
シャルル「へえ…… そこで運命を変えたのか」
スメグル「アッタリ〜!! そこでは男たちがお化粧や女装をして、オシャレしたり踊ったりしていたの。 最初は奇妙なところに入ったんじゃないかと不安だったのよね。 でも店員さんが色々案内してくれて、テンションに乗せられているうちに、いつの間にか女装しているアタシを全身鏡の前で見ちゃってたの。 うふふ、その時の本当のアタシを見つけたようなドキドキを今でも忘れられないわ。 で、その時の店員の中で一番気に入っている服装を今着ているわ」
そう言って、椅子から立ち上がりながら星座が書いてある上着を脱いで、チャイナドレスを披露した。 体を捻って、セクシーなボースで立っている。
クリスティーヌ「わあっ! 華やかな赤だわ!」
アレキサンダー「レオナルドにも負けてないね」
スメグル「うふっ、ありがとう〜 本当はズボンを脱いで、もっとセクシーにしたいんだけど、ほら、冒険者でしょ。 泥まみれになることも珍しくないのよね…… 毛皮が汚れたら洗うの大変だし、だから同じ組み合わせの服を10着持っているの」
シャルル「10着!?」
スメグル「オシャレは大事でしょ、テンションが上がるからね。 まあ、ロンちゃんに教えてもらったけど、2年前に『白虎』に飲み込まれた時、残ったアタシのリュックを行きつけの店に預けてもらってるみたい」
シャルル「そうか…… じゃあ、後で取りに行くか?」
スメグル「そうしたいのはやまやまなんだけど…… 青龍がいつ見つかるかわからないから、今は無闇に動けないんじゃない? ここからもそれなりに遠いし」
シャルル「いいのか?」
スメグル「まあ、いいわよ。 ジェシカちゃんから貸してもらうか、この街で買おうかな〜って思ってるの。 ちょうど新しい服も試してみたいし」
アレキサンダー「ジェシカが180セノヴァ、スメグルが190セノヴァ…… まあ、大丈夫かな?」
シャルル「って、すっかり慣れてたが、よく考えるとジェシカもそれなりにでけえな」




