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運命変転 悲しみの鎖に囚われし世界  作者: 蛸の八っちゃん
第一章 少年の中で廻り出す運命の歯車
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運命変転者 デスティニーブレーカー

岳斗は最後の一撃に全てを賭けていた。 しかし、誰も知らない時の中で、岳斗の全身を赤い蔓つるが貫いていた。 彼は不辛なことに何も気づかない。唯一の魂をつなぐ鎖が切れてしまっていたことを……。


 消された時と共に魂を失った哀れな骸は真っ赤な血を吐き、もはや世界を通ずる門を二度と開くことなきまま地面に堕ちた。


「そして時はすべての理に還る……」


「岳斗……? そんな……」


「なんてことだ。まさかあっちが時の魔法を持っていたなんて。俺としたことが……!」


 信じられないような表情を浮かべ、立ちすくむ加那江、絶望するシャルル、胸を貫かれて動かない岳斗。 岳斗はこの瞬間16歳の人生に幕を下ろした……のを見てたのは奇妙なことに、これまた岳斗だったのだ。


「なんだよ……この風景、俺は死んだのか? しかし、それにしちゃ最初から3人称というのが気になるな。 まるで未来を見てるかのような?」


「これは貴方の運命の1つなのです」


 岳斗が突然の声に驚いて振り向くと、そこには膝まで届くほどの長さである白い髪の女性が立っていた。 服装はいかにも自由の女神のようである。


「な……? あんたは誰なんだ?」


「申し遅れました。私はエリス・フィッシャーです。 この世界の平和を取り戻そうとしている者です。 ところで、岳斗。 貴方はある力を持っています。 なんだと思いますか?」


「んなこと聞かれても、超能力者じゃねーからな。 わかんねーよ」


「岳斗 9歳のとある悲劇を思い出してください」


「……それって、俺と親父が熊の大群に襲われて、死にかけたことか?」


「はい そうです。 あの時、貴方とお父様はどんな傷を負っていたか思い出せますか?」


 岳斗は目をゆっくり閉じて、一つ深呼吸してから語った。


「……医者から聞いたことだが、俺は3本の大きな傷を負っていた。 今も背中にはっきり残ってる。




そして、親父はな、左目、左耳をばっくりと裂かれていて、身体中のあちこちに爪が内臓に突き刺さってできた傷がある。


肝臓、心臓、両方の肺など、あらゆる内臓や筋肉が切り裂かれていた。


医者が言うには、『あの状態で、生き延びたのはとんでもなく奇跡だ。 まるで、神に祝福されたかのよう……いや、本当に祝福されたのだ』




エリス、それが俺の力とどう関係するんだ?」


「あなたのお父様は本来、あの大ケガが元で完全に死ぬことになっていました。 しかし、貴方の力がその運命を変えた。 そう、つまり貴方は運命を変える力『運命変転』を持っているのです」


「そう言われてみれば……あのあと、すぐトラックが通りかかって、病院まで運んでくれた……。 わかった、信じてみる。 でも、運命変えちゃったら、別の悪いことが起こるんじゃないのか? 『バタフライエフェクト』みたいにさ」


「『バタフライエフェクト』……。 一匹の蝶の羽ばたきが遥か彼方の地でのハリケーンを巻き起こす理論でしたね。 心配ありません。 あなたの運命変転は基本的にはハリケーンを心配する必要なく使えます」


「そうか……でもよ、どうして俺はそんな力を得たんだ?」


「今は神のお導きとだけ答えておきましょう。 貴方は近く、この世界の滅亡をかけて、結社と戦う運命の中にあります」


「あの魔導士で終わりじゃないのか?」


「ええ、違います。 あの魔導士は結社の中でも下っ端もいいとこです。 結社はこの宇宙全体で運営している組織で、彼らの目的は世界にいる人々を滅ぼして、生まれた負の感情を呪いに飲み込まれた獣たちの世界破壊のためのエネルギー源にすることです。 それで全てではないのですが、私が聞いたりしたはここまでです。 なぜなら、私は記憶の大部分を失っているのです。 そして、断片的なので正確ではありません」


「そうすると、俺たちが倒すべきなのは、結社と獣たちか。 ところで、結社の中には誰がいるんだ?」


「親玉は魔王ゼロ・ラグナイドです。 彼は普段、気まぐれなのですが、一旦スイッチが入ると全てが消滅するまで、とにかく何もかも滅ぼしてしまうそうです。 また、彼が率いる仲間たちは7つの大罪と呼ばれています。 今のところはっきりわかるのは以上です」


「なんかまったく倒せる気がしないな……しかし、そんなの聞いちゃったらほっとけねーよなぁ。 いっちょやったるか」


「ありがとうございます。 ところで、今貴方に残された時間は0.6秒。 0.6秒後に奴は赤い鎖を出して、貴方の体を貫くのです。 しかし、まだ間に合います。 剣を振り上げた勢いを利用して、高くジャンプして、あそこに静止している岩を蹴り、奴を斬ってください」


 エリスはそう言い、空中で静止している岩を指差した。 岳斗は不敵な笑いを浮かべ、エリスに言った。


「おうよ。 ぜってー全部ぶっ飛ばしてやらあ!」


 エリスもにこやかな微笑みを返した。


「運命は貴方の手にかかっています。 ご健闘を」


 突然、岳斗は現実に戻ったのを感覚で知った。 剣を振り上げた勢いを利用して、高くジャンプして、静止している岩を蹴って、奴を斬った。


そして、今に至る。


「そうか。 そんなことがあったのか」


「貴方、運命変転を使ったことってあるの?」


「いや、こんなことは初めてだ。いってえどういうことこった?」


「まあ、わからんことを考えても仕方ない。 今日はもう帰って、休もうぜ」


「そんじゃあ、シャルル 頼むわ」


「任せなさいよ。こんなの夕飯後の別腹だぜー。 風旅の神よ、我らを命生まれし星に導きたまえ」


 三人の周りを風が囲むように吹き始めたかと思うと、風が大きくなり、彼らを包み込んだ。




 次の瞬間、三人は見慣れた田んぼの前にいた。 夕日がカカシを赤く照らしていた。


「そんじゃあ、カナちゃん またな」


「ええ、2人ともまたね」


 2人は家に帰って、焼肉を食って、その日はすぐに深い眠りについた。




 打って変わって、蝋燭だけで照らし出された暗い洋風な部屋。 テーブルを中心に向き合っている2つの緑のソファーがあり、そして、月にいる岳斗たちを写した鏡の前に座っている1人のレディーがいた。 レディーの格好は中世の魔女の帽子をかぶっていて、肩が出てる紫色のドレスを着ていた。


 そのレディーは岳斗たちを見つめながら、独り言を静かに呟いた。


「どうせやられるだろうと思ったけど、まさか勝てちゃうとはね」


「ふっ。 あんな下っぱになんて期待もするような君じゃあないだろう? 愛しいマドレーヌよ」


 そう言ったのはドアに近い方のソファーに座って、紅茶を優雅にのんでいるジェントルマンだった。 奴はハットに至るまで、白い紳士服を着ていた。 しかも驚くことに、ファッション全体にキラピカな宝石が貼られていた。


「そうね、ジョー。 でも、面白い結果が得られたわ」


「岳斗君のことかね? なるほど、確かに本当のようだ。 彼が運命変転の力を受け継ぎし者という情報がね。 怖くなったかい?」


 ジョーの質問にマドレーヌは目を見開いて、おかしそうに笑った。


「オーッホッホッホッ! まさか! このわたしがあーっ!? つまらない冗談を言うもんじゃあないわよ」


「だよね、それでこそバラを送りたくなる君だねぇ。 私が育てたバラの毒に悶えて、死にゆく君をますます見たくなったなぁ」


 薔薇を嗅ぎ始めたジョーの一言にマドレーヌは軽蔑に近い眼を向けて、顔を背けた。


「ふん。 おあいにくさま、そんな貴方のような変態趣味はもってないわ!」


「おおっ これはとんだ失礼だ、すまない。 ふふっ。 ところで、賭けようじゃないか。 彼が運命の波を乗り越えて、栄冠なる未来を手に取れるかどうか」


 彼女の唇の口角が吊り上げられ、高音の笑い声を発した。


「おほほほっ!! そんな馬鹿馬鹿しい賭け、火を見るよりも明らかよ」


 ジョーはそんな自信満点のマドレーヌをにっこり見つめてから、薔薇をテーブルの前に指で弾いた。


「そうだねぇ。 じゃあ私はここで失礼するとしよう」


 紳士が立ち上がって退出した後、マドレーヌは鏡を見ながら言った。


「鏡よ鏡よ この中で、イチバァーーーン美しいレディーはどなたぁぁぁーっ??」


 鏡が中から響く声で淡々と言った。


「魔法使い様、もちろん貴方様でございまする。 そして、貴方には誰も勝てないのでしょう」


「うふふふふッ! そのとおりよねえええええっーーーー。 おーっほっほほほほほほほほほォォォォーーーー!」


 岳斗はまだ、この戦いがどんなに絶望にまみれて、希望の光が塗り潰されそうになるだろうかを知らなかった……。




第二章に続く

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