宇宙を操りし神
白虎の中 激しい水流に流されて、息ができない二人
「うわああああーーーッ!」
「溺れるぅぅーーッ!!」
どのくらい時間が経ったか……二人とも意識を失っていたようだ。同時に水を吹き出して、目をゆっくり開けた。
「目が覚めたようね、運命に導かれし者たちよ」
「ぁ……貴方が助けてくれたの?」
「そうよ」
二人が起き上がると、大理石が敷かれた華麗な床が周りに広がっているのを見ることができた。 しかも、驚くことに床の周りは宇宙で、床は宇宙の空間中に浮かんでいた!
「!? ここって宇宙なの?」
「周りに星がいっぱい光っているぜ」
「安心して、本物の宇宙じゃないわよん。 息ができるでしょ」
「確かに……」
二人が立ち上がったところで、190セノヴァ(センチ)のスメグルが加那江たちの前に仁王立ちした。 首にかけた――どこかの惑星をイメージした玉をつけた数珠のような――大きなネックレス、様々な銀河で登録されている星座を描いた紫色の袖なしコート、首にピンク薔薇が一輪飾ってある赤いチャイナドレス、肘までつけた黒い指出し手袋、両足にそれぞれ太陽と三日月が描かれている幅広ズボンを黒ブーツでまとめている――という服装だ。
「おい ちょっと待て、声と体が合ってないんだが」
「あら♡みんな言うのよ。 でも、これがあ・た・し」
そう言って、両手でハートを作った。 加那江とシャルルはただ見つめているしかなかった。
「さて、アタシは四神の一人、白虎よ。 像を得るためには、一騎打ちに勝ってもらうわよ」
「あ……あたしとシャルル二人でもいいの?」
「もちろんいいわよ。 レッツ⭐︎バトル!」
ウインクしながら言い終わって、構えの体勢に入った。
加那江、シャルルはスメグルと向き合って、呼吸を整えている。 と、シャルルが息を付かず、一気に言った。
「災いの渦をもたらす天竜よ、逆風を呪い返せ! そして、燃えたぎる豪炎よ、万物を無に返せ!!」
炎が疾る竜巻を発生させて、スメグルを巻き込んだ。
「魔法を連続で使うなんて珍しいわ」
「四獣一人一人ずつが岳斗と渡り合うんだ。 俺も全力を出すぜ!」
突然、炎竜巻が光ったかと思うと、光の波動が竜巻を飛ばし消した。 そこにはスメグルが無傷で立っていた。
「あなたたちの実力はこんなものじゃないでしょ。 もっと全力で来てちょうだい!」
「言われずとも! ねえ、シャルル テレパシー使って」
「なるほど、わかった。 念界を司し蜘蛛よ、我らの内なる心を繋げよ!」
「OK!」
心を通じ合えるようになった加那江とシャルルは連携攻撃を開始した。
「命の輪廻を廻る哀れな囚人よ、今一度、星の鎖を解き放て!」
スメグルの前の地面が一斉に浮かび上がった。 驚いたが、すぐ冷静になり、指を光らせた。
「地面が……! 消し飛ばすわ、フショーダックス!!」
指を動かすと、光の軌跡が消えずに空中に残った。 鳳凰の星座を完成させ、指を止めた。 すると驚くことに星座が鳳凰に変化した。 スメグルが指を岩の方に指すと、間をおかずに鳳凰が突進して、自分ごと岩を燃やし消した。 加那江たちはどこかに消えた。
「目眩しだったのね。 どこに行ったの?」
見回すスメグルの上にジャンプした加那江が気まぐれな弾幕を放った。
「はああっ、ゲリラサイクロン!!」
「そこっ! シート・クロヴィ!」
今度は盾の星座を描いて、加那江の弾幕を弾き飛ばした。
「下がガラ空きだぜ! 情熱的なビートを刻む地面よ、奴を森羅万象の輪廻へと堕とせ!!」
地面から石串がスメグルを針地獄へと誘う……とはいかず、野生的な反射速度で前に大きく跳躍し、着地した。
「なるほど、上に注意を向けたところに下……面白いわっ、あなたたち!!」
目も輝く満面笑顔を浮かべ、すぐさまさらに大きい星座を描き始めた。
「なら、これはどう? キート・パグダー・ベドヌ!」
星座を描き終わって、指を上に向けると、星座が鯨に変身し、体を捻りながら加那江たちの上に飛び跳ねた。
「鯨!? かなりでかいわ」
落ちながら、口を大きく開けて飲み込もうとする鯨を避けた加那江とシャルル。 地面を通り抜けて、消えていく鯨を見て、少しよだれを垂らしているシャルルがもの惜しげに言った。
「くっそー 本物だったら食えたのに!」
「今は食いしん坊張ってる場合じゃないわよ」
「わかってるって。 本物に見えただけさ」
軽口を叩いている二人だったが、地面の揺れに緊張感を取り戻した。
「何が起きているの?」
と、気づいた時には地面に消えたはずの鯨が真下からシャルルを飲み込もうとしていた。
「シャルル!?」
「嘘っ!? ええい、時の神クロノスよ 今一度戦地で孤立している仲間へ我らを導かんとせよ!」
口が閉じて、飲み込まれる寸前に加那江のもとにワープした。
「マジでやばかった……やれやれ、魚に逆に喰われてどうするって話だよな」
空中を跳ねている鯨を見て、加那江が言った。
「あの鯨、鳳凰と違って、消えなかったわ。 さすが四獣、そこらへんも思い通りってことね」
「ふっ、もっと楽しませてあげる! スターヤ・ザクリューブ!!」
スメグルがものすごい勢いで魚の星座を大量に描き始めた。 右手で描きながら、左手の平を加那江たちに向けて、襲撃の命令を下した。
「魚ちゃんたち、奴らを貫いて!」
魚群が加那江たちに襲いかかる。
「うお〜っ!! こりゃ、食べ放題だっ!!」
「全くもう……サイクロンクロウ!」
加那江の高速回転弾幕で、魚の大多数は外にそれたり、弾と一緒にスメグルに向かって行った。 スメグルも盾座を描いて、難なく防いだ。
「やるわね……だが、アタシの武器は星座だけじゃないわよん」
「なんですって……?」
スメグルはそう言い、両手を天に広げた。
「虚無を彷徨いし旅人よ、この地に降り注いで! アブーシャ・エゼンユーシェタ!!」
スメグルが言い終わって、両手を勢いよく下ろした瞬間、漆黒の天井に数百個以上の星が輝いた。 かと思うと、流星群が豪雨のように降り掛かろうとしていた。
「何っ!? 流星群まで召喚できるのかよ!」
「くっ……全部撃ち落としてやる!」
加那江が流星群に狙いを定めようとするが、肉眼で見えると思った時にはすでに地上に降り注いでいた。
「なっ!? 速くて狙えない!」
「この魔法でなんとかしてやる! 霧を祓う光を宿いし神槍よ、道を塞ぎし罪人を天まで貫き飛ばせ!!」
シャルルが流星群に負けないほどの数の光槍を召喚すると、流星群に向かって発射した。 光槍と流星群の衝突で起きた衝撃波が加那江たちにも激しく届いている。 そこに大量の魚群が戻ってきた。
「加那江! 魚たちが戻ってきたぞ!」
「ええ、シャルル。 こっちは任せて!」
「よし、流星群は俺の仕事だ」
加那江は流星群を避けながら、魚群を撃ち落とす。 シャルルは加那江に降りかかる流星群への警告を送りながら、流星群残滅に取り掛かっている。 スメグルは二人の足掻きを黙って見ている。
しばらくして、満身創痍の二人は余裕なスメグルを見据えている。
「はぁはぁはぁ……」
「くそ、こりゃとんでもねーぞ。 あいつはこんなのを2回もクリアしてたのかよ……!?」
「まあ! もうおしまいなの? まだまだテンションアゲアゲじゃないけど、引導を渡すしかないわね。 チョデラー・ラゼェーズヌゥ!」
スメグルが大きく横線を引くと天が裂けて、宇宙よりも漆黒に近い空間が現れた。 その隙間からブラックホールならぬブラックボールが落ち出た。 冥王の死神として加那江たちに降りかかってくる。
「まるでゼロが出した狼の球みたいだわ。こんなのって……」
「加那江、諦めるなぁ!」
シャルルが絶望に苛まれた加那江を励ますように叫んだ。
「そんなこと言われたって……あ」
「……!! それで行くか」
「ええ」
相手の閃きが自分にも伝わってくる奇妙な感覚を感じながら、シャルルと加那江は瞑想をするように目を閉じた。
「……? 諦めたの? 残念でしょうがないけど、これも運命ね」
ブラックボールが加那江たちに触れようとした瞬間、シャルルが目を見開いて、ブラックボールを口から吸い込んだ。
「ええっ!? 吸ったの……?」
シャルルの周りが黒いオーラで包まれた。 かと思うと、漆黒の線がシャルルから加那江に疾った。
「これで終わりよ」
目を見開きながら、スメグルに銃を向けた。 銃口には漆黒の球が充填されている。
「スコトゥスレインボー!!」
二人の叫びと共に、全てを無に返す漆黒の軌跡は次元を捻じ曲げながら、俊速でスメグルに飛んで行った。
「きゃあっ! 避けきれない……!!」
スメグルに当たって、大爆発を起こした。 その衝撃波で加那江たちははるか後方に吹き飛ばされた。
「うわあああーーッ!」
長い距離を転がって、止まった二人はしばらく経った後になんとか起き上がった。
「うっ……はぁ、いてて」
「おい、大丈夫か……肩痛めてないか?」
「いいえ、打ち身だけよ。 肩は大丈夫だわ」
「今ので、倒れてくればいいのだが……」
祈りながら、スメグルの方に歩いていく二人。 爆発した石の霧が薄まって、スメグルが肩で息をしながら立っているのを見た。 両腕を交差させて、ガードしている。
「嘘っ!? あれで倒れていない……」
「マジかよ……もう体力残ってねえわ」
並外れた頑丈さに仰天した二人にスメグルは告げた。
「あなたたちには本当に驚いたわ。 まさか、あんな反撃をしてくるとはね……おかげで手袋がボロボロだわ」
スメグルはそう言って、ほとんど破れかけている手袋を脱ぎ捨てた。 それから、加那江たちに投げキッスした。
「よくやったわ。 あなたたち、合格よん!」
「……本当!?」
「ほらほら アタシの胸に手を触れて、元の世界に戻ってね〜」
「あ それなんだが、今俺たちは結社というヤバイ組織と戦ってるんだ」
「そいつらが世界を滅亡させようとしているの。 そしてあたしたちはそれを止めている」
「ええっ、そうなの!? ねえ アタシ、どうすればいいの?」
「握手して欲しいの。 そうすれば、あなたは像にならず、仲間として一緒に戦えるわ」
「うんうん。 お前、すごい強いから頼りになるぜ」
「OK! 事情はわかったわ。 握手すればいいのね」
加那江がスメグルと握手しようと近寄った瞬間、何もない空間からマドレーヌともう一人の男が突如現れた。
「え……? マドレーヌ?」
姿を表し始めたマドレーヌは加那江に向かって、ニヤッとしながら、スメグルの胸に手を触れた。 その瞬間、驚いているスメグルが急激に小さくなりながら、4本足の白い像になった。 と、同時に視界が白くなり、ロントがいる部屋に戻った。
「戦いご苦労様。 おかげで楽に横取りできたわ」
「何……?」
「おい、加那江 そいつらは誰だ? それにその像って……」
「返してっ!」
加那江がマドレーヌから白虎像を取り返そうと手を伸ばした瞬間、金縛りにあったように体が動かない。
「!? 体が……」
「くっ……俺もだ」
見ると、もう一人の男――ウィルソン――が加那江たちに向けて、左手をかざしている。 同じく動けないロントはウィルソンを睨みつけて言った。
「おい、お前の仕業か?」
「そうだよ〜。 しばらく大人しくしてくれよ、戦うのめんどいからな」
ウィルソンが気怠けに言った。 それから、マドレーヌを見た。
「マドレーヌ、どーする? このまま縛り付けるのもめんどくせーかんな」
「そうねえ、とりあえず白虎像の中に封印しちゃえばいいわ」
「おいっ、お前らは誰なんだ?」
「あら、シャチ獣人のあなたには会ったこと無いんだったわね。 私は『嫉妬』マドレーヌ・ミラージュ。 ほら、あなたも紹介しなさい」
「え、まじ? めんどくせーな、俺は『怠慢』ウィルソン・ハベリックだ」
「ねえ! ロント、あなたの馬鹿力で念力を打ち破れないの?」
「さっきからやってるが、無理だ。 とても強い力で押し込まれるような……」
「ふーん、ロントって言うのね。 初めまして、そして……さよなら」
マドレーヌが見る人を呪う邪悪な笑顔を浮かべると、杖を振って呪文を唱えた。
「哀れな生贄よ、明ける事のない夜で永遠に眠りなさい」
唱え終わって、杖を加那江たちに鋭く向けると、竜巻に巻き込まれるように、加那江たちが悲鳴を発して白虎像に吸い込まれた。 白虎像はしばらくマドレーヌの左手の上で震えていたが、すぐに収まった。
「ふふふ……これで邪魔者はいなくなったわ。 ぜいぜい白虎の核にでもなりなさい。 ウィルソン、さっさといくわよ!」
と、ウィルソンが片膝を地面に突きながら、両手を前に出して回している。 マドレーヌは訝しげに聞いた。
「ウィルソン、何してるの?」
「あっ、知らない? これ、マフーバって言うんだけど」
「何よ、それ?」
「あー、俺の親父がハマった漫画『龍魂』で天津パンって奴が悪魔を封印する時に使った必殺技」
「いや、そもそもその漫画知らねえし」
「えー……これも時代か。 1から説明するのめんどくせえなあ。 ええと……」
「興味も時間もないからいいわよ」
興味なさそうに言って、入り口の方に歩き始めた。
「え、それもそれで傷つくんだけどな……ま、いっか」
渋々、マドレーヌの後をついていくウィルソンだった。




