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運命変転 悲しみの鎖に囚われし世界  作者: 蛸の八っちゃん
第四章 修羅の道を彷徨う魚人と旅人の星に吠える白虎
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淡く切ない恋

滅星まで後24時間 海の民アジト


洞窟で待機していたチャイの道案内でアジトに帰還した。 ティリスのいる部屋に行くと海の民だけでなく、かつての陸の民もちらほらいた。


「おや、行きの時よりも種族のバリエーションが増えていますね」


テンが驚いたような顔をして、陸の民たちに駆けつけた。


「えっ、あなたは……! まさか、ラバロさん!? ユナジルさんにオワーさんも……!?」


陸の民たちも久しぶりのテンに驚いた顔をして、再会を喜んだ。そこから海に引き摺り込まれた後の出来事を話した。


「元々海の民だったのを思い出させるために海に引き摺り込んでいるんだったんですね。 なるほど……でも、海の中で呼吸できるなんて……? いくらなんでもすぐには信じられませんよ」


「まあ、そうだが、俺たちが海の中にいるのがその証拠だろ。 試しに海に出てみなよ。 隣の部屋に窓があるから」


「ええっ! ……わかりました。 そう言えば、魔法の効果ってまだありますか?」


「いや、ちょうど切れた。 万が一のために隣で待機して、魔法をいつでもかけられるようにしとくぜ」


ポマリゼァン様のご加護のせいか、中に水が入ってこない扉を開けて、外に出たテン。 しばらくして、息が続かないで苦しそうにもがいたが、すぐに効果は現れた。


「がはッ……!? あれ、息が続く! 苦しくないわ! それどころか心地いいの。 心が洗われるような感覚……」


「本当か!? やはりルーツは海の星だったようだ」


晴れて海の民になったテンが部屋に戻るとちょうどロントとレオナルドがテンのお母さん(水晶ごと)を横にして、壁にぶつからないように部屋に入れた。


ティリスが一瞬固まって、何かを言いかけた。


「……ッ!! ベ……」


「どうしたんだ? 叔父さん」


「……いや、なんでもない。 水晶に人がいるようだが……?」


「これは水晶に閉じ込められたお母さんです。 どうやら封印がかかっているみたいで……」


「なあ、今思ったんだが、白虎の封印だったら同じく四獣の俺なら解放できそうじゃないか?」


「そう言われてみれば、あり得そうね」


「俺の炎で水晶を少しずつ溶かして、取り出すか」


「あたいの泡でもやってみるよ」


2人の炎と泡で水晶を溶かそうとするが、効果はなかった。


「違ったか……」


「ってことは、マカロフの仕業と見ていいだろう。 やつ自身を倒さない限り、封印は解けないだろうな」


「それはあり得ますね。 思念体を使っていると言うことは魔法使いと言えるでしょう。 封印魔法を使えてもおかしくありません」


「ありきたりだが、教祖様が津波を止めたのも魔法によるものだったんだろうか?」


「ふむ、教祖様がマカロフという可能性も十分にあるかものう」


「よし、真相に近づきつつあるな。 決戦は明日! 今日はしっかり休んで、英気を養おう」


「おうっ!」


一致団結の気合いを入れ、地上に戻ろうとする一行にティリスが声をかけた。


「ちょいと待ってくれ。 見せたいのがある」


「なんなの?」


「説明するよりも実際に見た方が早いだろう。 ついてこい」


数分後 アジトの地下の一室の前


ティリスが金属製の扉を力を入れて開いた。無機質な灰色の部屋に入ると、中心に透き通る青い色をした手のひらサイズの水晶が浮かんでいた。


幻想的な物体に一行は息を呑んだ。


「……ッ!! 綺麗……!」


「ひゃあ……! すごいや、あたいの宝物とも引けを取らないね」


「よく見るとテンの母さんが囚われた水晶と同じ色だな。 何か関係があるんだろうか?」


「ふうむ、なんなんだろうな。 で、これをどうして我々に見せたのじゃ?」


「これは星の命の片割れだ。 これを経由して、我々海の民にメッセージを伝えている。 昔はよく海の底から浮かんできたが……」


そこまで言って、少し悲しみを見せた。


「あの教祖が星の呼吸を弱めてしまってからは、浮かんでくる片割れがだんだん少なくなってしまった。 そして、今あるのはこれ一つだけだ……。 これがなくなると星は滅んでしまう……」


ティリスは言い終わって、しばらく黙っていた。


「叔父さん……俺たちに任せろ、星は必ず守ってみせる!」


沈黙を打ち破るようにロントが心強く言った。


「ありがとう。 頼りにしているよ、俺のロント」


片割れが震えて、星が細々しい声で語ってきた。


「……な……皆さん……」


「!! 星が! 星が語ってきた……!?」


ティリスの顔に激しい驚きと嬉しさが浮かんだ。


「水晶がしゃべってる? どう言うことなのさ?」


「ああ、これは星が自身の片割れである水晶を媒介に語ってくるのだ。 最後に語ってきたのは1週間ほど前だった……」


「もしかして、あの水晶も媒介になっているのでしょうか?」


「おそらくそうだろう。 しかもあれはかなりでかい。 しかし、マカロフはどうやってあんなでかい水晶を手に入れたのか?」


「それはわかりませんが……水晶の片割れが出てこなくなっている事に関わっていると見ていいでしょう」


片割れが蒼い光を発して、今度は明瞭に語ってきた。


「皆さん、聞こえますか?」


「ああ、聞こえる」


「よかった……ここ1週間ほど前から声が届かなくなった時はどうしようかと思いました。 あれから挫けそうになりながらも声をかけ続けました。 諦めなくてよかった…………ん? 茶兎のあなた……ベルシアの娘なの?」


突然母の名前が出てきた事に驚いたテン。


「えっ? そうですが、お知り合い……?」


「はい」


「ほう、ちなみにどう知り合ったんじゃ?」


「あ、ちょ……それ以上は」


ティリスが身を乗り出して止めたが、水晶は少し照れくさそうな雰囲気を出しながら言った。


「私には海を通じて、あらゆる情報が入ってきます。 少しだけ言うとべルシアは人気のない砂浜でよくティリスと会っていました。 随分親しそうでしたね、ティリス?」


一行が揃ってティリスの方を向いた。 ティリスはしどろもどろになるしかなかった。


「嘘……え、あなたが……!?」


ロントが面白そうにからかった。


「叔父さん、まさか子持ちだったとはね……やるじゃないか」


「いや、まあ…………はあ、一目惚れだったんだ。 砂浜で寂しそうに佇んているベルを見て、ハートが踊った」


「ティ……いや、お父さんからだったんだ」


「ほほう、それでどうしたんじゃ?」


「一応正面から上陸した。 陸の民を海に引きずり込んで、海の民というのを体に思い出させないといけないからな。 しかし、涙を流している彼女の瞳をうっかり見てしまって、動けなかった……。 それからは横に座って、2人ともずっと黙っていた」


「ふーん。 で、そこからどうラブラブになったのさ?」


両手を前に出して、照れ隠した。


「ちょ……いや、いくらなんでもストレートすぎないか?」


「その赤い顔、面白いわ。 ふふ……恥ずかしいなら私が話しますか?」


「んん……いや、俺が話そう。 


彼女は他の村人たちとうまく行ってないらしく、砂浜に来て、俺とよく会話していたよ。 そのうちに俺の方も彼女と会えるのが楽しみになっていった……」


懐かしそうに話しているティリスにテンはほっこりしている。


「そうだったんですか……ありがとうございます。 きっとお母さんも貴方にたくさん救われてきたと思います。


……でも、じゃあなぜ貴方は私たち親子と一緒にいないんですか?」


「……数年ほど経ったある日、俺が砂浜で待っていると彼女が服を乱しながら、一心不乱に走ってきた。 俺に抱きつくなり、大声で泣き叫んだんで、びっくりしたぜ。聞いてみると生贄にされそうになって、逃げてきたんだそうだ」


「生贄……!」


加那江が目を開けて驚き、手を口に当てた。


「うん……話を聞いているうちに彼女がいたたまれなくなって、海に連れて行くことを彼女に話した」


「断ったのか?」


「いや、むしろお願いされたよ。 それで、彼女を海の中に入れ、しばらく待った。 でも、いくら待っても海で呼吸できないで苦しんでいるので、咄嗟に陸に引き上げたんだ」


「そんな……どうしてでしょうか?」


ティリスが項垂れて言った。


「いや、原因はわからん。でも、その時のベルはこの世全てに絶望したような顔をしていて、正直辛かったな……


結局、村には戻らず、近くの洞窟で隠れ住むようになった。 俺もちょくちょく来て、世話をしてな……そのうち……あの、あれをだな……」


その先の言葉を言えずに顔を赤らめるばかりだった。


「なるほど……それでテンが生まれたと。 へへ、俺のいとこか……可愛いよな」


「……うむ、俺もそう思う。 ともかく家族3人で暮らした日々は幸せだった。


だったんだがな、数ヶ月後、俺が狩りを終えて、洞窟に戻ると2人はいなかった。 俺は慌てて、思い当たるところを探したが、見つけられなかった……。 それからは洞窟や砂浜を見に来てはいないことに落胆する日々が続いた」


垂れ下がっているティリスの尻尾に手を置いた。


「……その辛さ、わしにもわかるぞ。 突然家族と会えなくなるのは誰だって辛いものじゃよ」


「パパ……」


「ありがとう。 でも俺は幸運だった。 なんだって、今日テンとベルに会えたからな」


ティリスがテンの元に歩き寄って、抱きしめた。


「テン……お帰り」


突然抱きしめられて、顔を赤めたテン。


「あ……た、ただいま……! おっ、お父さん!!」


「あっ……ふふふ、お父さんか……そうだ、俺がお父さんだ」


「あ……」


照れながらも温かく微笑んだティリスにテンが号泣して、勢いよく抱き返した。


「あっ、ううッ……お、ヒックゥ……お、お父さぁん!!」


2人の温かい再会を数分ほど見守った後、水晶が改めて言った。


「さて、50年ぶりにテレパシーができたとはいえ、私の命は随分弱まっています。 ベルシアの分を足しても、持ってあと数日。それよりも、24時間後に降り注ぐ隕石が私の命を根こそぎ奪って行くでしょう」


「安心しろ。 そんな事には絶対させないぜ」


レオナルドが力強く言った。


「ありがとう……私の子供達も救われるでしょう。 私もできる限り力を貸します」


「今は気持ちだけ受け取るぜ。 あいつらをよろしく頼む」


「ふふ、もちろんですよ。 貴方たちも頑張ってね!」


「あいよ、任されたぜ。 叔父さんも無事でな」


「ああ、お前もな」


拳を突き合わせて、笑い合った。





大部屋に戻ってきた一行


ティリスが加那江たちの前に立って、言った。


「さて、お前らはどうする? ここで泊まってもいいんだが……」


「いや、怪しまれるから一度宿に戻って、深夜3時にまた草原で集合にしようと思う。 飛行船を使って行くつもりだ。 全速力で行けば、4時間ほどで着くだろう」


「そうか、わかった」


「あの、私は残っていいですか? お父さんに色々私の知らないお母さんの話をしてほしいんです」


ティリスが太陽のような笑顔を見せた。


「もちろん、いいぜ! あ、別に敬語じゃなくてもいいんだぜ」


「あははは……やっぱ、可愛いなあ。 じゃあ、みんな、また明日」


「ああ、また明日会おう」


固い握手を交わした男2人。 ロントとテンを残して、加那江たちはチャイに案内されながら地上に戻って行くのだった……。





滅星まであと22時間 太陽はすでに沈んで、暗闇


注意深くエイ門番を踏まないように気をつけて、村に入った一行。 居酒屋に入って、腹ごしらえをした。


「あー、食った食ったよ。 ルーリ、あんたは天才だよ! まじでうまい! バッチグー!」


「もちのろんよ! アタシ、これでも30年ほど料理しているからね。 客に出しても恥ずかしくないくらいまでには上手くなるもんさ! あはははっ!!」


「こうも美味しいと箸が進む。 今度遊びに来る時にはクリスも連れてこよう。 きっと喜ぶぞ」


「ええ、楽しみですね」


「ジェシカ、レオ。 あんたら、いい親だね。 見てて分かるよ。子供を語る時に幸せな顔をしてるんだもの。


羨ましいな、私は結局子供を産めなかったからね……」


「多分、貴方も幸せだと思いますよ。 テンはとってもいい娘ですね」


「そうだよ。 アタシには勿体無いくらいにね」


しばらく話に華を咲かせてから会計をして、居酒屋を出た。


「さて、じゃあ集合まで仮眠ね」


「了解じゃ。 明日は長くなるわい」


「あっ、みんなは先に戻ってくれ。 俺は岳斗のところに見舞いに行ってくる」


「わかったわ。 あまり遅くならないようにね」


「わかってるぜ。 じゃあな」


病院 岳斗の病室 2人きりで静かだ。


岳斗の頭の横から覗き込んでいる。


「岳斗……俺たちは行くぜ。 心配するなよ。 俺たちで虎を止めてくるから、お前はしっかり休んどけ」


そう言って、岳斗の頭に肉球を押し付けて、撫でた。





宿 薄暗い男子部屋


2人が明日の戦いについて話しているところにシャルルがやってきた。


「あっ、シャルル。 おかえり」


「ただいま。 岳斗は変わりないぜ」


「そうか……まあ、ここまで来たら腹を括るしかないな」


「ああ、ロントとテン、思いがけない仲間も加わっているから戦力は心配しなくていい。


さ、明日は早いんだ。 しっかり寝ようぜ」


「ああ、また明日な」


男子3人は明日の戦いのためにベットに潜り込むのだった。

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