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運命変転 悲しみの鎖に囚われし世界  作者: 蛸の八っちゃん
第一章 少年の中で廻り出す運命の歯車
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少年よ、運命を変えろ

 こうして激しい戦いを終えた3人は帰路につくのだった。 赤い夕日が畑から見える。 岳斗とシャルルが家の扉を開けるころにはもう太陽は定時帰宅して、星々が挨拶していた。 親愛なる兄と弟が帰宅して、出迎えんとする足音がリズムよく響く。


「帰ったぜ もみじ ひまわり さくら」


「ニャン ンナァー (兄様帰りましたの)」三毛猫のもみじが岳斗の前で礼儀正しくお座りしていた。


「ミャオ! (兄貴 飯くれや)」黒猫のひまわりが岳斗のズボンに爪をひっかけて引っ張った。


「にゃおぉ〜ん(岳兄〜 撫でてん♡)」キジトラのさくらが岳斗のもう一方の足を回るように体を擦り付けた。 甘えん坊だ。


「帰ったぜ ねーちゃん方」


「うむうむ やはりコイツァ天国だな。 飯用意するから待ってろ。 おお……さくら、撫でてやろう」


 このニャンコ達は3匹とも同じ段ボールにいた。 そこを2年前、岳斗に拾われている。 岳斗の数年間の観察では紅葉はお姉さんキャラ、ひまわりはボーイッシュ、さくらは甘えん坊の末っ子だ。


 シャルルと美猫3姉妹に飯をあげた岳斗は水餃子を家族団欒で召し上がり、3姉妹を撫でる、頭にキス、猫パンチのフルコースに満足して、眠りにつくのだった。




 翌朝 生まれ変わった朝日が草原に広がる新緑の草を輝かせている。 様々な所から襲いかかってくる紐付きの木を躱しながら、1.5メートルほど顔を見せている10本ほどの杭に木剣を打ち込むことを繰り返している男がいた。


「キェーッ! ふっ! はっ! とお〜っ!!」


 彼の最後の打ち下ろしで、杭を真っ二つに割った。 岳斗は周りを見渡し、今しがた割って倒れた杭に腰を下ろした。


「さてと、杭が少なくなってきたし、補充するか」


 岳斗は朝の鍛錬を終え、目を閉じて、瞑想をしている。 その時、ふと回想に入った。





 継切れ継切れ、風景が浮かんでくる。 山の中で数頭の熊が額から血を流していたり、口から血を吐いている状態で倒れている横で、全身血だらけで倒れている北三郎らしき者と隣で大泣きしながら動かない男をゆさぶる少年。 その少年も背中を熊に引っ掻かれたらしき3本の大きな傷を負っていて、今にも死にそうだ。 震えて、心細い声量で男に話しかけている。


「お父さんっ! おきてよ! ねぇ、死なないで……」





 移り変わって、病院の手術室で青い布をかけられて、横たわっている北三郎と彼を手術する医者、看護師たちが映っている。 麻酔医の横に心停止を告げる警告音が鳴り響く。 医者たちは汗を浮かべながら、何やら看護師に怒鳴りながら指示しているようだ。


「おい! 心停止だ! アドレナリン1mg!」


「はい! アドレナリン注入します」


 アドレナリンを注入したが、心停止は続いたままだ。


(これはいかん。 ここまで酷いとどうしようもない。 やるだけやるがおそらく助からないだろう)







 また、風景が変わった。 白い空間で、白髪が長く垂れ下がり、白ドレスを着た女性が何やら語りかけてくる。


「ト……岳斗……運命を変えるのです……」


「なっ……!?」






 突然現実に帰ってきた岳斗は最後の風景に首をかたむける。


「何だったんだ……? 運命……?」


 山から家に戻ってきた岳斗は汗を吸収した服を洗濯機に放り込んで、風呂室に入った。 体全体を写すほどの大きな鏡が岳斗の体を映した。


 彼の体にはいくつものの死線を潜り抜けたような傷跡(主に獣の噛み跡、引っ掻き傷など)があちこちに刻まれていて、特に大きい動物に引っ掻かれたらしく、背中の大部分を占める大きな傷が3本もその存在を主張している。


 自分の裸体を見ながら呟いた。


「……強くなっただろうか? 俺は」






 シャワーを浴びて、着替えた岳斗は居間でシャルル、北三郎、るり子と会った。 邦子は朝ごはんの準備で台所にいる。 シャルルは二本足で立って、岳斗に手を振った。 岳斗は家族みんながその事実を共有していることに少し驚いた。


「おっす」北三郎が片手をあげて、フランクに挨拶した。


「おはよー 岳斗くん」るり子がシャルルを撫でながら振り返った。 その顔は間違いなく天国に行けると約束された信者のような微笑みを浮かべていた。


「よう 岳斗」シャルルが日本語で喋った。 見た目通りハスキーボイスだ。


「あれっ、いつのまにかみんなの前で喋ってるのか?」


「ああ お前にばれたなら、今更別に隠す理由もないしな」


「まあ、お前が喋る猫だとしても変わらず可愛いのは変わらんからな」


「猫と喋るの私の夢だったのよねー」


「るり子、まるでピュアな少女みたいだったぜ。 俺が何か返事返す度に床を転がって、嬉しがってたよ。 ところで、うまそうな匂いが漂ってくるぜ。 こりゃ、シャケだな」


 岳斗は3人の会話を聞きながら台所に行って、家族のご飯、味噌汁を載せているお盆をテーブルに運んだ。 邦子が後に続いて、塩がよく振られているシャケを運んできた。 シャケの匂いが部屋中に広がり、食欲をそそられる。


「岳斗 ご飯できたよー。 シャルル、今日はしゃけも付くよー」


「おうよ」


「おおっ! 母ちゃん、うまい焼きたてじゃねえか!」


「にゃあ? (あたしにもしゃけくださらない?)」


「もちろんみんなの分もあるよ。 さあお食べ、かわいい子たち」






 学校の始業前 自分の席で頬杖をついて、ぼんやりしている岳斗に近よる影が2つ。 そのうちの1つが岳の視界を奪った。


「お~っす」


「その声は十次郎か よく飽きないな」振りかえずに言った。 いつものことだ。


「へへ、ガクート おめーこそ、もー少しおどろけよー」


 岳斗の目を手で覆ったチャラそうな茶髪男子は一ノ瀬十次郎だ。 岳斗の目を塞いで、ケラケラと笑った。 岳斗の後ろからもう1人の声がかかった。 上はアフロで、側頭部と後頭部は坊主の髪型をしていて、縁が黒く厚いメガネをかけている男子。 江戸新吾だ。


「岳斗、昨日借りたジャンプ返すぜ」新吾が手に持っているジャンプを岳斗の机の上に置いた。


「おーよ」


 岳斗が友の2人とたわいもない話をしたり、ふざけあったりするところに加那江がやってきた。


「おはよーッ! ガークトォく~ん」昨日の裏世界が嘘だと思えるほど満面の笑顔で手を大きく振った。


「加那江 おっす」こちらはテンションを上げず、そっけない返事をした。


 加那江が自分の椅子に座って、岳斗に質問した。


「今日ひま?」


「まあな」


「OK、じゃあ放課後ね~」


 岳斗と加那江が仲良く話しているのを見て、十次郎が肘で岳斗の肩を突いた。


「おいおい岳斗。 おめーもすみにおけませんなァ〜 いつの間にわしつかみしちゃったのさ?」


 十次郎の肘を手で押しのけながら言った。


「おい、早合点すんな。 オヤジじゃないんだからホイホイナンバせんよ」


「そのオヤジのDNAを50%受け継いてるのはだれ?」新吾が肩をすくめながら、両手を広げた。


「ちょ待てよ、あのエロオヤジと一緒にしたら困るぜ」岳斗が慌てて振り返った。


「まあ、ぜいぜいがんばれや」


「どーも。 つーか加那江がいる所で話すような内容じゃねーだろ。 隣の席なんだぜ」


 そこまで言って、加那江の方を見た。 加那江がケラケラ笑って、茶化した。


「大丈夫大丈夫。 恋バナくらい1つや2つあってもおかしくないから」


「そーゆー問題か?」

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