玄武
裏の世界 真っ暗な空だが、数多の星が輝いているロマンチックな場所だ。 目が覚めると岳斗たちはこのただ広い世界の中にポツンと浮いていた。 まるで宇宙に来たかのような絶景に心を奪われたが、ふと、亀のことを思い出した。
「亀は……?」
岳斗たちが見回すとふと純粋な宝石に見える一滴の丸い水が浮かんできた。
「この水は何……? あっ!! みんな! 亀がいるわ」
「あっ、ほんとじゃ!」
足下に岳斗達を遥かに覆い尽くすほどの大きさである亀が優雅に泳いでいた。 さっきの液体は彼女の涙だった。 岳斗が少し心苦しそうに言った。
「亀さんよ、聞いてくれ。 泳いでいるところ悪いが、俺たちはあんたを倒さなくちゃいけねえ。 眠りの街を開放するためにな」
「クァー?」
「いくぞ! 心の準備できたか?」
「……ククァァァ!!」
事情は飲み込めたが、自分の世界を壊されてたまるかという叫び声をあげて亀が向かってくる。 犬と似ている尻尾の毛を逆立て、泡を大量に岳斗達目掛けて吐き出した。
「させないわ! ガトリングスコール!」
「俺も加勢するぜ! 燃えたぎる豪炎よ、万物を無に返せ!」
炎と鉄が亀へ降り掛かろうとしたが、なんと、泡に炎と弾が包まれて、中身ごと弾けてしまった!
「ムウ……。 泡には触れない方が良さそうじゃ。 岳斗、気をつけろ!」
「あたりめえさ! いくぜ、翔宙流星斬!」
岳斗は発想力を使って、周りに蜘蛛のトランポリンを作った。 そして、泡に触れないように気をつけながら、素早く亀を縦横無尽に斬りまくった。 しかし、不思議なことに、この亀は甲羅だけでなく腹も硬かったので、効果はなかった。
「くそお! 斬れねえ」
「外がダメだったら中だ! 時の軌跡を刻みし振り子よ、永遠の静寂へと堕ちよ!」
心臓を停止させる即死魔法を発動させたが、亀には効かないらしく、優雅に泳ぎながら、岳斗たちを見据えるだけだった。
「こいつ! 心臓がないのか!?」
「夢だから心臓が無くとも、どうもないと言うことか。 よし。 ならば、1回試してみたい爆弾があったんじゃ。 出でよ! マリゲータ!」
ダニエルはそう言って、亀にてんとう虫型爆弾を投げた。
「ほれ! ご飯じゃ!」
続いて、亀が口を開けた瞬間に餌を口の中に投げ入れた。 とは言っても亀に餌付けしたわけではない。 てんとう虫が亀の口の中に続々と入り込んでいる。
「へえ……」
「よくみとけよ! わしの芸術を見せたるぞい!」
てんとう虫が丸っこい外形に似合わず、足を素早く動かし、口の中に入っていった。 しばらくして、それは亀の顎を爆裂させた! 全壊とはいかなかったが、ダメージと共に口を開けることに成功した。
「よっしゃ! 今だ! ぶちこめえーー!! その身を神なる光に焼き尽くされてしまえ!」
「行くわ! シャークトルネード!」
世界を貫く神の光とそれに巻きつく鉄蛇が亀の口にぶち込まれ、亀は悲鳴を上げた。
「みんな。 じゃあ、行ってくるぜ!」
「おう!」
「気をつけて!」
「お前なら大ジョ〜ブだろ」
「うおおおおおお!!! 堕鷲星震陣ッ!」
雲のトランポリンを発射台にして、漆黒の入り口に光をも超える速さで突き刺す。 断末魔が聞こえたと思ったら、口の奥からシャボン泡が岳斗をあっという間に包み込んで、マジックかのように泡ごと岳斗を消した。 獣も同じように黒い粒子を発して、消えようとしたが、消える直前に異物が飛び込んできた。
「……!?」
「イッタダキマアーース!!」
アニーが亀の甲羅に歯を立て、なんと、甲羅に穴を開けてしまった!! そこから入り、まもなく亀は消失した。
「嘘!? 今のアニーよね? どうして……?」
「蘇ったのですよ。 ボスの手によってね」
謎の声に全員振り返った。 そこには雲を地面にして扇子を仰いでいる着物姿のヴィンオラフがいた。
「お前は誰だ!?」
「これはこれは大変失礼しました。 わたくし、『憤怒』ヴィンオラフ・シャーガと申します」言って、微笑んだ。
「憤怒? 雰囲気に似合わないな」
「よく言われます」
「これで、5人目か……」
「あなたがここにきたってことは獣の居場所を突き詰めたのね」
「ええ、そうですよ。 我々は2度も遅れをとるつもりはありません。 あなたたちにはここで死んでもらいます。 そして、岳斗君もアニーに飲み込まれる運命……」
「んなことさせっかよ! たとえゼロが何度回復させようと何度も倒すだけだ!」
「そして、必ずゼロをこの世から抹殺してやるわ!」
「……祈っていますよ。 あなたたちがどこまで絶望に抗えるかをね」
「ふ……。 絶望ならとっくに一度受けているぞ。 かかってきなさい!」
「ええ、受けて立ちますよ。 ふふふ……」
そう言うとヴィンオラフは不気味な笑顔と共に体の筋肉を膨張させ、着物を破いた。 さらに額から細長い角が生え、爪や歯も鋭くなり、泣く子も失神死するほど恐ろしい鬼に変貌を遂げた。 変身が終わったところで心臓を鷲掴みされるような叫び声をあげた。
「ヴオオオッーーー!! 貴様らぁ、全員殺してやる!」
「チッ……やっぱりこう言うことか。 死力を尽くすぞ!」
「おう!」
「もちろんよ!」




