不動の星
時を戻して、岳斗たちが王国に入った頃。 シャルルハーレム組は多くの冒険野郎で賑わっているタウチー遺跡の入り口に来た。
「ハーレムじゃねーつってんだろーが!!」
「誰に喋ってるの?」
「えーと、まあ、天にいる人? さっ、そんなことは気にしないで早く行こうぜ! なっ」
タウチー遺跡は地上ではヨーロッパにあるような神殿の外形をしているが、奥に地下へと続く螺旋階段が大きくそびえている。 階段がある穴の直径は10メートルを下らないだろう。 一周階段を回り下るたびに石像のドアがあり、階段は闇の底まで続いているように見えるが、実際は最深部は地下206階だ。
「これはなかなか大きい階段ですね。 降りるだけでも結構な段数のようだ」
「なんか吸い込まれそうね。 落ちないように気をつけなくちゃ。 階段が広いのが幸いね」
「それにしてもよくここまで掘れたな」
シャルル達は1階ずつ遺跡のダンションに入って、みなみじゅうじ座が彫られている壁画などを探している。 今いる階は王国の民が使っていた器が長方体の箱である墓の上に置かれている。 どうやら、民たちの墓地にしていたようだ。
「さて、手がかり探すぜ!」
「遺跡の大きさの割には宝物が少ないのね。持ち去られたのは本当みたい」
「でも、約200年前の消失事件の前に書かれた言葉とかがあるかもしれない。 しかし、骨が折れるぜ」
「ざっと見渡した限り、槍はまだ見つかりませんね。 儀式の重要なキーワードにもなっていますし、さらに下にあるかも知れません。 どんどん行きましょう!」
数時間後 206階まで行ったが。これと言った手がかりが見つからなかった。
「ついに底に来てしまいましたね……」
「何か見落としているのかしら? それとも、盗まれた?」
「せっかく来たから、探してみようぜ。 しかし、建築技術はかなり発達しているな。立派な遺跡と言い、ここまで深く掘っても地上の天井が見えると言い……あっ」
「どうしたの?」
「ああ、上見て思い出したが、途中、階段の裏に星が小さく書かれていたな」
「ああ、そうでした。 しかし、小さすぎて、ここからでは見えませんね」
「よし、俺の出番だ。 宇と宙を彷徨いし運命の糸を解きほぐす神の手よ、我々が入りし魔窟をここに示せ! そして、我らの希望の炎で魔窟の道標となれ!」
シャルルが唱えるとタウチー遺跡の地下ダンジョンを小さくしたものが青い光を放ちながらその形を表した。 そして、小さき星があるところが金色に輝いている。
「お〜。綺麗ですね。 それにしても星は何か意味があるのでしょうか……?」
「それにしても……この間隔はどこかで見たような? シャルル、試しに色々な角度から見たいけど、動かせる?」
「できるぜ」遺跡を90度傾けて、底から見えるようになったところで、シャルルが閃く。
「はっ……!! こいつはみなみじゅうじ座だ!」突然エネルギーを入れられたようにシャルルが遺跡を元に戻して、星があった階層を急いで数えている。
「ああ、やっぱり!」
「何がわかったの?」
「これは、地上が206年前、ここが今だとすると、眠りの街になった年、場所がちょうどパンフレットの地図と遺跡の階層と一致するんだ!!」
「え!? それって大発見じゃない!」
「その階にある物がもしかしたらヒントになるかも……確か、上から順番に十字架を抱えた骸骨、魚を獲っている漁師が海に感謝している写真、地面に散らばったままの昔のワイン、大地が隆起して逃げ惑う人々を描いた絵、そして、『安らかに眠れ』と大きく書かれた数多の兵士たちの墓でした」
「何のメッセージかしら?」
「うーん? 全く見当がつきませんね」
三人が手かがりを前に結論を出せずにいたその時、通信機が振動した。
「ん? 岳斗からだわ。 何かあったの?」加那江が通信機を耳に近づけて、言った。 岳斗の声が聞こえた。
「こっちはみなみじゅうじ座を追ってたら、人魚にメッセージが隠されているのを発見したが、解読できないので、シャルルに相談しようと思ったんだ。 そっちはどうだ?」
「こっちもみなみじゅうじ座を見つけて、色々関係性がわかったけど、結論には結びつかないわ。 一旦戻って、情報を共有しましょう」
「了解。集合場所で落ち合おう」
電話が切れ、加那江は二人に岳斗からのメッセージを伝えた。
「OK。 わかった」
「しかし、この高さを上るのはきついわね……」
「心配いらねえよ。 魔法で一っ飛びだ! 時の神クロノスよ 今一度我らの休息拠点へ我らを導かんとせよ!」
シャルルが唱えると3人は白い光に包まれ、消えた。
太陽がかなり傾き始めているが、相変わらず灼熱世界だ。 岳斗組とシャルル組が集合場所に合流して、情報を共有した。
「つまり、人魚が、みなみじゅうじ座が真上に来る時に起こることを伝えていたのですか……」
「そういうことになるが、どうも解読されていない言語でな、未だ不明だ」
「タウチー遺跡での星と壁画がどう関係あんだろう? どっちもみなみじゅうじ座と連動しているが、共通点がいまいち浮かばねー」
「しかし、連動しているということは法則性はあるようじゃの。 試しに「十字架を抱えた骸骨=〇〇の〇〇が亡国を〇〇照らす」にしてみたらどうじゃ? シャルル、何か閃いたか?」
「ひらめかんが、いいアイデアだ。 えーと
「十字架を抱えた骸骨=〇〇の〇〇が亡国を〇〇照らす」
「魚を獲っている漁師が海に感謝している=〇〇を〇〇に招く神(太陽)が〇〇の魚を輝させる」
「地面に散らばったままの昔のワイン=〇〇時、〇〇が〇〇大地を〇〇だろう」
「大地が隆起して逃げ惑う人々=そして、〇〇怪物が現れ」
「『安らかに眠れ』と大きく書かれた数多の兵士たちの墓=〇〇の眠りをこの星に〇〇するだろう」だな」
「相変わらず謎だけど、両側にいくつか似ているワードが出てるわね。 骸骨は亡国、地面は大地とかね。それにワインが血を、魚は人魚を連想させるわ」
「それに繋げると『大地が隆起して、怪物が地上に現れる』とも考えられるぜ。 逃げてる理由も説明つく。 しかし、この順番だと血が流れてから怪物が現れることになる?」
「眠りを星に約束するとは……やはり、タウチー遺跡だけでは済みませんね」
「血が流れるのは親父の代で終わりだと思っていたのに……」
「最初の十字架はみなみじゅうじ座がここを照らすという意味で間違いないな」
レオナルドが指で十字架を描いたところで、ダニエルが思い出したように言った。
「加那ちゃん、人魚は多分関係ないと思うぞ。 王宮では人魚が交差点だったんじゃ」
「ええ……? でも、他に魚がいたのかしら? オアシスにはいたの?」
「オアシスには魚はいなかったっす。 困ったっすね」
「あとちょっとなのに嵌まらないのって、もどかしいぜ! うーーん??? 何か見落としてないのか?」
日没が近いことに岳斗たちが焦っていると夜空を見に来たらしい観光客たちがバスガイドに案内されながら正門を通過する。 そして、バスガイドが腹から声を出して説明を始めたので、岳斗たちからも聞こえた。
「みなさん。 今通った門は約200年前まであった王国の正門です。 当時の王国はリオベール王国と言いまして〜、ここの豊富なオアシスを巡って、昔からよく他の国に侵攻されていましたよ」
観光客が様々な反応を見せる。
「へー。なかなか頑丈そうな壁だな」
「こわーい」
「ロマンがあるなあ!」
「過酷な最後の砦だったので、多くの戦死者をこの門で出しました。 当時は戦争で死体を持っていく余裕がなかったため、数多の死体を数段に積み重ねて、銃を撃つ兵士の壁にしたり、敵からの目隠しや奇襲に使われていました」
「ええー。 とても信じられないなあ」
「わしも昔は戦争していたのだが、そこまでひどいのは見ておらんな。 ふうむ、かなり激しい戦争だったようだ」
「まじ〜? やば〜ん」
「そんな風景だったものだから、他の国から『死者の墓』と呼ばれていて、王国の身内からも恐れられていたらしいです」
ガイドは門を説明し終わると観光客と共に岳斗たちの近くを通って、昔からの煤が付いている直径30メートルほどのお椀がある広場に行った。 今日は珍しくお椀の中で火が天を貫く勢いで燃えている。
「そしてですね、このお椀は焦げていますが、何に使ったかわかりますか?」
「お祭りか?」
「うーんと、共同料理場!」
「あっ、俺聞いたことあるぞ。 火葬するのに使ったんだ! 砂漠だから燃やす火種がないんで、とっても貴重な神木を王国が厳重に世話している!」
ガイド「そちらのお兄さん。正解です!! 数十年に1回砂葬されていた兵士や民を掘り起こして、火で肉体を焼くことで宇宙に浮かぶ星に魂を送り届けたのです。その際も火の粉が死者たちの星への道標とされていました。 その中でもみなみじゅうじ座の不動の星は死者にとっての輪廻転生への門と信じられていました。 206年ごと、つまり真上に不動の星が来るたびに王様も含めて、民が全員この広場に集まって、ご先祖様の輪廻転生を熱心に祈っていたのです。 さあ、皆様。 あなたたちを産んでくれた両親を産んでくれた祖父母を……そして、そのすべての始まりのご先祖様に想いを馳せてください……」
観光客が想いを馳せて黙祷している。
「死者の墓ねえ……マジで恐ろしい時代もあったもんだな」
「死者の墓といいやあ、5つ目の文にも書いてあったな……火を見てたら魚が食いたくなったな。 ここ数日食ってない」シャルルが涎を垂らした。
「そういえば、魚って460年前くらいの王様が他の星から連れてきてペットにしていたそうですよ。 そこからリオベール王国が滅ぶまで代々の王様に大事に育てられたみたいっす。 なんでも魚を手に取っただけで死刑にしていたほどっすから」
「そうですか……。 魚を……ん? もしかして、そうか! レオさん、パンフレットください」
「新しいみなみじゅうじ座でも見つけたのか?」パンフレットを渡しながら、質問した。
「はい! まさにそうです。 それも決定的な……」
「えっ!?」岳斗が驚いて振り返った。
ジェシカが受け取ったパンフレットを広げて、ペンで彼女の中に思い浮かんだ場所に最初の星を描いた。
「これは……! 1つ目の星じゃな? ウォーバーじゃったかのう……」
「ええ、ダニエルさん。 そうです。 まず、土葬した者をわざわざ火葬にし直す風習です。 数十年も土葬していたならばすでに骸骨になっているでしょう。 また、みなみじゅうじ座と火葬は密接な関係があります」
「輪廻転生じゃな。 王様も出席していたほど重要なイベントだった」
「繋がったな! この調子で残りも考えるか。 マックのいう通りなら、昔のオアシスには魚がいたということになる。 これが2つ目の星か。 スソリーチだろ?」
「ワイン……血……。 そういえば火葬場のさらに向こうに王国の拷問所や処刑場があったのよね。 罪人の血が多く流れていた可能性はあるわ。 3つ目っと、ミベールだったわね」
「『兵士の墓』と言われてきた門が5つ目の星……マラマラだな。 4つ目の星はわからんが、位置関係から多分ちょうどタウチー遺跡あたりだ」シャルルがレオナルドを見た。 レオナルドも頷いた。
「うむ。 ハフォーチの位置にあるタウチー遺跡を警戒しとくか。 ともかく、これで我々が探していた不動の星を見つけたな……」
「ああ。 そこに行こうぜ!」
岳斗たちは不動の星がある座標に行ってみたが、そこは特になんともいえない砂が広がっているだけだった。
「あれ? なんもないぞ」
「うーん。 3つのみなみじゅうじ座から全く無関係とはいえないのですが……」
「あっ。 俺らが手掛かりにしてたのって、いずれも昔からあった物だよな?」
「そういえば、音楽も古代じゃったな」
「壁画も数十年前に描かれた状態ではないわ。 絵の具が結構色褪せているから確かよ。 なんだが、予言されているみたいで気味悪いわね」
「そうか……もしかして、2世紀も経っているから埋まってしまった? なら、掘ってみるか? いいのかな?」シャルルが自分の爪を見ながら言った。
「まあ、パンフレットには発掘した宝を国に届け出すことを条件に発掘を全面的に認めていると描かれているから大丈夫でしょう」
「よっしゃ。 やってみるか!」マックが立ち上がった。
「受付でシャベル、スコップが貸し出されているっす。 持ってくるっす!」
「おう、頼むぞい」ダニエルが言い終わらないうちにマックが走り去った。
「俺も行くぜ」岳斗も追いかけた。
しばらくして、岳斗とマックが人数分のシャベル、スコップを持ってきて、発掘作業を始めた。 あたりが薄暗くなり、月が出始めた時、突然スコップの手応えがなくなった。
「ん? 手応えがなくなったわ」
「ああ、こっちもだ。 お目当てかもしれねーな」
「何が出てきたんじゃ……?」
皆が砂に埋もれた何かをのぞこうとした。
「これは……! 白いゲート! まさかこんなところでお目にかかれるとは思わなかったわ!」
「まさか……怪物というのは獣のことだった?」シャルルが呟いた。
「ん……? 俺には何も見えんぞ……?」
「私もです……」
「俺っちも……」
「え……?」加那江がレオナルドたちを見た。
どうやら白いゲートが見える人と見えない人がいたようだ。 見える人に手をあげてもらった結果、岳斗、加那江、シャルル、ダニエルの4人が見えるという結果となった。
「マジ……? 見えない人は白いゲートがあるところを通過しても裏の世界に行けなかったよな」
「前回はアビリアがそうでした。 どうして……?」
「まっ、どんな法則があるかは全くわからんが、とにかく、それぞれでできることをやろう」
「わかった、シャルル。 表の世界は任せろ」
「こっちも任せてくれ! じゃあ、みんな行くぜ!」
岳斗が先にゲートに向かって飛び降りた。 岳斗を追って、三人も白いゲートに向かって、穴の上から飛び降りた。 ジェシカとレオナルド、マックはそれを見守ってからタウチー遺跡に向かった。 その三人を見ている人影三つ。
「見つけましたか……我々の予想以上に素晴らしいお方たちですね」
「そうだろう? 私の最高傑作のモデルになり得る紳士たちだ。 さあ、二人とも行くが良いさ。 あの三人は私に任せたまえ。 アニー、表と裏の世界の境界を食べてくれ」
「ワカッタ。 オラ、クウ」
そう言うとアニーは口を動かす。 何も知らない人から見たら口バクしているようにしか見えないが、彼女はなんと境界を食べてしまっている……その胃袋が気になって仕方ない。
「じゃあ、獣を手に入れてから、また合流しましょう」
「もちろんさ。 諸君に幸在らんことを!」
ヴィンオラフとアニーは裏の世界へのゲートを潜って消えた。 ジョーは今夜起こるショーに心を躍らせながら、日没して、宝石のように輝くみなみじゅうじ座を見上げていた。
「……やはり綺麗だ。 芸術というのはこうで在らねばな。 絶対的な芸術の才能のおありの神よ、貴方が創った世界は素晴らしい……」




