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運命変転 悲しみの鎖に囚われし世界  作者: 蛸の八っちゃん
第三章 問いかける爺と永遠の夢を見続ける友の亀
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報い

 岳斗たちは先ほど死闘を尽くしたナバラチャに話を聞きに行った。


「さっき戦ったばかりで悪いのですが、眠りの町について聞いてもよろしいですか?」


「もちろんじゃ! 何が聞きたい?」


「そうですね……じゃあ、ミベールが眠りの街になった時に起きたことを覚えていることはありますか? 些細なことでも構いません」


「ふうむ、あまりよく覚えておらんな…… なにしろ百年も前のことだからな」


「そうですか……」


「そういえば、私の父から聞いたことなのだが、いっぱいの民を引き連れてどっかから現れた王国がタウチー遺跡の隣にあるリオベール王国の跡を再建の地にしたのじゃった。 そして、オアシスをめぐって、三十年前くらいまで戦争が起こっておった……」


(図書館で調べた内容ね)加那江が本の内容を思い出していた。


「だから、病院にはいつも戦争で怪我を負った者でいっぱいいっぱいだったんじゃ。 そして、その中でも酷かったのはな、え〜と、でかい病院がある街ばかりのようじゃったがな……」


「でかい病院にたくさんの怪我人がいたのか?」レオナルドが聞いた。


「おお! そうじゃ! まさにそれじゃよ。 それと言ったらもう……わしが昔もっと大暴れしていた頃、どこかの大会で優勝を飾ったんじゃが、無茶してしまい、頭を十数針縫う羽目になってしまったのじゃ。 そして、ええと、確か退院するまで暇だったから病院中をほっつき回ったような……その時、戦争で怪我した人たちが廊下で寝てたのじゃ。 あまりにも多すぎて病院のベットが足りなくなってしまったようじゃの」


「そんなに酷かったのか……」シャルルが瞳を大きくして、呟いた。


「おお、おお、そうじゃよ。 中には腹わたの内臓が一通り飛び散ってもうめきながら治療を待っていたやつもいた。 廊下に溢れかえっているくらいだから、医者も看護師も大忙しでな、いつも怒鳴り声が響き渡っていた。まるでここも戦場だったかのよう、いや、実際ここも戦場だろう。 そしてな、白い袋に入れられて、火葬するためにトラックで並べられて送られていくことも珍しくなかった……内心わしも流石に怖かった」


(そうなのか……俺っちは親父から聞いただけであまり恐ろしいと思っていなかったけど、親父はそんな世界にいたのか……?)マックが唾を飲む音がやけに大きく響いた。


「どこもかしも戦争というのは地獄しか生まないというものだな……」


「うむ、まさにその通りじゃ。 お前さんも戦争の惨さを見た目をしているな」


「ああ。 大切なものがこぼれ落ちていくのを拾うことさえできない無力感を感じさせる」


「レオ……(あの時、私もあなたを拾うことができなかった……)」


 ナバラチャが暗い雰囲気を吹き飛ばすように話しかけた。


「さて、ここから本題じゃ! わしが退院して、家に帰ったあと、ニュースを聞いたのじゃ。 わしが入院していた病院がある街にミベールと同じ現象が起きたことを。 つまり、眠りの街になってしまったのじゃ!!」


「その街の名前って覚えてないかしら?」


「ああ、あれ、あれじゃよ。 えーと、なんとかチだったかのお……」


「なあ、もしかして、それって、ハフォーチか?」


「おお! それじゃ!! 岳斗、よく知っておるな。 あれが起きたのはわしが50歳くらいの頃だった」


「どうやら、ビンゴかもしれないな」シャルルが手を顎に置いて、頷いた。


 一行がナバラチャに話を聞き終わった時、修理が終わったダニエルがこっちに向かってきた。


「ダニエルさん。 お疲れ様っす!」


「うむ、マック。 待たせたな……んん? ナバラチャじゃないか! どうした?」


「ダニエルか。 今、眠りの街について色々聞かれたところじゃ」


「ほう……ところで、みんながいつもより騒がしいけど、何が起きたんじゃ?」


「ああ、岳斗がわしに勝ったんじゃよ」


「えーーーーーっ!! 嘘じゃろ!? 見たかったのう……岳斗、おめえ、すげえな!」


「へへ、そりゃどうも。 ところで、辛いことを聞くがいいか?」


「ミベールのことか? 構わんぞ」


「ダニエル、娘の治療費用を稼ぐ為に遠くに仕事に行ったって言ったよな?」


「うむ、娘のニコルはミベールで最も大きい病院に入院していたのじゃ」


「そうか……。 で、あんたの娘が入院している病院では、戦争で怪我を負った人で溢れかえっていたか?」


「!! ……その通りじゃ」


「やはりか……どうやら共通点が見つかったみたいだな。 戦争で怪我を負った人がたくさん入院している病院をもつ街という共通点がな。 とは言っても、残りの3つの眠りの街もそうなっているという裏を取らないと確実とは言えないけど」


「でも、信憑性はあるわね」


「なるほど。 なら、戦争負傷者が多数入院している街を探せばいいということになりますね。 しかし、どこにあるのでしょうか?」


 一行が話に盛り上がっている時、マックが横から口を挟んだ。


「あのー、お話してるところ、すんません。 戦争なら、ここ30年間は全くと言っていいほど起きてないっすよ。 少なくとも俺っちが5歳になってからは聞いてないっすね」


「え!? そうなの?」


「そうっすよ。 俺っち、親父から戦争のことを聞いたのガキの頃までっすから。 大人たちがいうには、疫病が王国で広まって、一人残らず息絶えたみたいっす。 そこから、周りの王国も不気味に思って、誰も建国しようとしないという話らしいっす」


「そういえば、それ以来、眠りの街ができたという話を全く聞かないな」


「どういうことだってばよ? なんで突然戦争がなくなった? むむむ???」


「……始まりは200年前、タウチー遺跡の隣のリオベール王国から突然人がいなくなった。 そこから、殺戮事件、略奪、戦争などが起きた。 それも全て白昼堂々と。 その後から、眠りの街が現れた。 そして、それは戦争の終結に後追いするように起こらなくなった……。 そして、怪我人が多くいる街が眠りの街となる条件……? それと5つの街はタウチー遺跡からそう遠く離れていない……。 始まりの事件だけ他の事件とは違って、神隠しのように消えてしまった……。 まさか……!」ジェシカが弾かれたように顔を上げた。


「ジェシカ、何やら思いついたみたいようだな」


「はい、レオさん。 私、もしかしたら恐ろしいことに気づいたかもしれません。 ダニエルさん。 お伺いしますが、こういう星座をこの星から見ることができますか?」


 ジェシカはそう言って、ノートを取り出した。 そこに彼女の星でも親しまれているみなみじゅうじ座を描いた。


「これは……水を求めて彷徨う旅人を導きし神の十字槍を具体化した星座じゃな」


「むむ。 確か、槍の刃先がこの星から見て、常に北を向いて回っているのだったな。 わしも昔、武者修行の旅をしている時によくお世話になったものじゃ。 そして、交差点にある星は動かざる山の如しと言ってもいいほど不動なので、旅人の間では神として崇められている」


「へえ。 俺の星、地球では、こぐま座の北極星が不動の一点で他の星座がその周りを回っているけどな」


「もっと正確な形を表した図はありますか?」


「それならあてがあるっすよ。 知り合いの天文学者で、この村に隠居しにきた人がいるっす。 頼んで借りてきますよ!」


「ありがとうございます!」


 十分ほどして、星座の辞書を持ってきたマックが走ってきた。


「借りてきましたよ! これでいいっすか?」


「はい、助かりました。 目次によるとみなみじゅうじ座は226ページにありますね」


「えーと、226ページか……これだな」レオナルドが該当ページをめくった。


「加那江、パンフレットをください」


「わかったわ……はい、これよ」


 加那江からパンフレットを受け取って、地図と星座を見比べる。


「ありがとう。 やはり、こういうことでしたか……」


「あー、なんとなくちょっと飲み込めてきたな。 タウチー遺跡で何かやばいことが起こるんだろ?」


「おーっ。 お前、そこまでバカじゃなかったのか」


「うるせーやい」岳斗が照れて、シャルルの頭に手を置いた。


「ええ、岳斗のいう通りです。 タウチー遺跡で最後の悲劇がこれから起こるはずです」


「最後の悲劇って、まさか、戦争がまた起こるんすか!?」


「そうかどうかはわかりませんが、タウチー遺跡で大量流血を招くような出来事が起こり、眠りの街、いいえ、眠りの遺跡となる可能性があります」


 シャルルも推理に参加した。


「待てよ……タウチー遺跡が最後で、みなみじゅうじ座が完成するということは、それだけでは終わらないかもしれないぞ……」


「一体何が起こるのかしら……? 儀式なの?」


「儀式か。 クトゥルフ神話の流れで行くとクトゥルフ、ショゴスとかを召喚するということになるな。 神話生物は人間には抗えない。 んー? もしかして、裏で糸を引いているやつがいるんじゃないのか?」


「え?」


「確かにありえるわ。 なんかタイミングが良すぎる。 ねえ、マック。 タウチー遺跡に観光客が来たのはいつからなの?」


「あっ、ええと。 確か、5年前くらいからっすね」


「……! あり得ない話だろうと思うが、リオベール王国から消えた人々は実はタウチー遺跡のどこかに隠れていて、何かしらの目的を企んでいるかもしれん。 もしくは彼らを儀式を遂行するための操り人形にしている黒幕がいるのだろうか?」言い終わって、レオナルドは黒幕の目的を考えた。


 ジェシカ「そこまでは憶測を出ませんが……。 少なくともこの一連の悲劇が全て仕組まれていると考えたほうがよさそうです」


「そんな……わしの妻と娘、愛犬はその企みに巻き込まれたということか……」


 ダニエルの拳に力が入る。 元々赤い顔をさらに赤くし、肩を震わせている。


「これも報いなのか……」


「報い?」加那江がダニエルの顔を見ながら、自分の顔を傾けた。


「……わしはタウチー遺跡に行かなければならん。 己の中の弱さと決着をつけるために! 頼む! 改めて、わしにも同行させてくれ!」


「ダニエルさん……」


 真剣な眼差しで訴えかけるダニエルの前にレオナルドが片膝をつけて、目線を合わせる。


「何があったかはわからんが、無理には聞かない……と言いたいところだが、これから行くところは生半端なところではない。 平和に暮らしている人々を殺すことを厭わないどころか計画を立てたり、白昼堂々と殺戮する極悪人が待ち受けているだろう。 そして、彼らの背後には儀式とやらを遂行しようとする黒幕がいる。 一瞬の迷いで容易く命を落とすだろう」


 一瞬黙って、話し続けることを決意した。


「私たちには獣を回収して、全員生きて帰るという目的があるのだ」


「獣のこと、言っていいの?」加那江が不安そうに言った。


「ああ、ここまで来たら調査では通らないだろう。 ダニエル・ロワノフ! 出会って数日だが、私は貴方も大切な友人だと思っている。 私は貴方を守りたいが、敵がどのくらい強いかわからないのだ。 守り切れないかもしれない。 だから、お互い生き残るために腹を割ってくれないか?」


 レオナルドの熱い眼差しに感激して、心を開いた。


「……わかった。 全て話そう。 しかし、貴方たちも話してくれないか? 本当の目的を。 わしの方こそお前を友人だと思っている。 それに一時的とはいえ、わしも仲間に加入するというわけじゃからな。 チームワークは大事じゃろ?」


「いいだろう」




みなみじゅうじ座が輝いている夜 村に一泊する。


食堂


宿に泊まっているのは岳斗たちだけなので、食堂は岳斗たちの貸切である。 宿の女将が運んできた手作りの料理から美味しそうな匂いが漂う。


レシピその1:メダカくらいの小ささの蛇を体内に寄生させているアリクイの胃を切開して取り出したアリに漬けた蛇肉を強火で焼いて、唐辛子をたっぷりまぶした砂漠の旅に欠かせないおつまみ 疲労解除・血流改善・滋養強壮の効果あり


レシピ その2:水分と脂分を大量にこぶに貯めているラクダエリマキトカゲを丸ごと使って、出汁にした味わい深いシンプルなスープ 発汗による熱の発散の能力向上・水分不足解除・代謝上昇の効果あり


「召し上がれ!」女将が笑顔満点で岳斗たちに夕飯を勧めた。


「おお! いただきまーす」


「これは! 辛いけど元気が出るわね」加那江が顔を赤くしながら、おつまみを味わった。


「俺っち、風邪引いた時によく飲んでたっすよ」


「それにスープはこの暑い砂漠でも無理なく飲めますね。 優しい味」


「へへへ。 あーりがとうごぜえますだ。 おらの愛情たっぷりの手作りだべ」


 女将の料理を余すところなく堪能したあと、明日に向けての本題に入る。 レオナルドが真剣なトーンでダニエルに言った。


「ご馳走様。 さてと、聞かせてもらおうか。貴方の迷いの根源を」


 ダニエルが長く深呼吸して、話し始めた。


「わかった。 では初めから話そう……」

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