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運命変転 悲しみの鎖に囚われし世界  作者: 蛸の八っちゃん
第三章 問いかける爺と永遠の夢を見続ける友の亀
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アドレナリンが血走る漢の戦い

 朝日が砂漠を輝かせる。 これから仕事を始める人々で賑わい始めた。 出発準備を整えた一行は宿を出て、車やラクダ馬に乗った。


「じゃあ、わしが周りの村を案内する…… と言いたいところだが、わしの仕事もあってな……マックに案内させることになる。 マック、構わんな?」


「ええ!もちろん! お安いご用ですよ。 任してくださいよ〜!」


「はい。有り難うございます。 みなさん、いきましょうか」


「おう。レッツゴー!」


 岳斗たちはミベールにより近い村を回って、聞き込みしたが、昔のことなので、はっきりした情報は得られなかった。 そして、今、5つ目の村に入るところだ。 今までの村と比べて、規模や人口が多く、一際目立つオアシスが太陽の光を受けて、輝いている。 岳斗たちはとある家の前に来た。


「ワラベルさん。 折れた弓を治しに来たぞ」


 ダニエルが依頼者らしい人に呼びかけると扉が開いて、中からラクダ獣人が現れた。


「おお! ロワノフさん。 さすが早いね。 弓が折れるとあっしは死活問題なんだぜ。 どうぞ〜」


「うむ。 お邪魔するぞ。 お前らは聞き込みするなりして、自由にブラブラしていいぞ。 できるだけ早く終わらせるからな」


「わかったわ」


「うっす。 了解っす!」


 戸が閉まった。 岳斗たちは早速眠りの街について聞き込みをする。 広場では、ラクダ、フェネック、トカゲ、ガゼルなど、砂漠に適応している獣人が商売したり、昼寝したり、踊ったり、噴水の水を浴びていて、賑わっている。


「ちょいと、聞きたいことがあってな。ミベールが眠りはじめた時のことについて知っている人はいないのか?」


「うーん。 そうだな、何しろ100年前くらいだからなあ。 じゃあ、あそこにいるチャンピオンに聞きなよ」


村人が指を差した所には、村一番の熱狂で包まれているリングがある。 ちょうど試合をやっていて、野次馬たちが盛り立てている所だ。 彼らはビールを飲んでいたり、ギターを履いていたり、お祭り気分である。


「リングの上にいるカンガルーの獣人だよ。 なかなか歳食ってるだろ」


「ふーん。それに貫禄がある」


「あっ、あの人はナバラチャ・ゴンザレスっす。彼は生涯一度も格闘技の試合で負けたことがないという伝説があって、男たちの憧れっすよ!」


「そうそう。 お兄さんよ、お前さんも1回戦ってみなよ!」


「へえー、さぞ強いんだろうな。楽しみや」


 岳斗たちは村人が案内したリングに行った時、ちょうどゴンザレスが叫び声と共に挑戦者を薙ぎ倒した。 挑戦者は転がって、リングのロープに勢いよく叩きつけられた。


「これはっ! やはりこの男は最強だ! チャンピオン、今日で15連続勝利だーーーーー!」


「うおおおおおおーーーーーーーッ!!! チャンピオン! チャンピオン! YES!! YES!!」


 ナバラチャが勢いよくリングの隅に駆け寄り、コーナーポストの上にジャンプした。


「我こそ最強だ! 誰か、わしを倒す者はおらんかーー!」


 チャンピオンの決まり文句が響き渡ったその時、1人の男が雷のように駆け寄り、高くジャンプした! そして、反対側のコーナーポストを超えて、リングイン!


「俺は澤宮岳斗だ! あんたを倒してやるぜっ!」


「なんと! 凄まじいジャンプ力で文字通り飛び入り参加です!」


「おお! これは若々しいエネルギーに溢れているっ! しかし、わしは若いもんにはまだまだ負けんぞ!」


「おーーーーっと!!これは世紀にも見ぬほどの激しい決闘になる予感がきましたよおおおーーーーッ! 果たして、この謎の若者は我ら自慢のチャンピオンを破るのでしょうか!? さあさあ、皆様、眼をがっしりお見開きくださいませええええ!」


「チャンピオンチャンピオン!! ぶちかませ!」


「いいや、少年、その我らが誇りのジジイを倒してしまえーーー!」


「いけ! 新しい時代を開けーーー! GAKUT!GAKUT!YES!YES!」


 星が揺れるほどの村人たちの声量が響き渡る。 そこに追い討ちにリズムを合わせて地面を真下に蹴るので、まるで地震のように激しく揺れた。


「ひゃあ! すごい揺れるわ。まるで地震が起きたみたい」


「いつもあんな感じなんすよ。 ほら、ここら辺は砂漠なんで、娯楽も少ないっすから」


「こりゃ、レブリアム王国にも引けを取らないな」


「そろそろ始まるぞ。 しっかり見るか」


 岳斗とナバラチャの試合開始を告げるコングが鳴る。


「くらえ! 我のタイフーンラリアットを!」


 ナバラチャが激しく回りながら、文字通り台風として、岳斗に襲いかかってきた。


「老いぼれめ! 無理しすぎて目を回すんじゃねーぜ! うおおおおーー!」


 岳斗は台風にも臆せずに一直線に走る。 ナバラチャの目の前まで来て、左腕でナバラチャの右腕を掴んで、回転を止めた。 そして、右膝を挙げて、左脇腹に膝蹴りをぶち込んだ!


「ぬうっ!」


「なんと! 最強の男とはいえ、110歳の老人に膝蹴りをぶちかますとは只者じゃないッ!」


「おおおおーーーー!! そのろくでなしをぶちかませ!」


「おい、ジジイ! クソ野郎をボコボコにしちゃまえ! この野郎!!」


 岳斗がチョップでナバラチャの首に一撃を与えて、ロープまで飛ばした。 ナバラチャがその勢いを利用して、岳斗に強烈な張り手を喰らわした。


「出たっ! 張り手はナバラチャがよく使う技っすよ」


「ああっ!! 岳斗、頑張って!」


「グベッ! 野郎、やりやがったな」


 岳斗は怒りをパワーに変え、ナバラチャを持ち上げ、パワーボム(相手を肩まで持ち上げて、背中からマットに叩きつける)を披露した! ナバラチャも負けずに寝た姿勢から逆さ立ちして、岳斗の首を絞めた。


「おーーーー! ヘッドロックだっ!」


「いいぞ! そのままダウンさせちまえ!」


「っ! くそ! 俺を甘く見るなよ!」


 岳斗が首を絞められたままコーナーポストを蹴った。 そして、空中から落ちて、鳩尾にエルボードロップ(本来は寝てる選手に倒れ込んで、膝を打ち込む)を喰らわした。


「ンゴお!! ふー、ふー、今のは流石に効いたな……。 しかし、これで終わると思うなよ。 地獄を見せてやる!!」ナバラチャが気合声をあげながら、ラリアットを喰らわす。


「今更それかよ! カウンターで冥土までぶち込んでやるぜ!!」


 岳斗がラリアットへのカウンターとして、強烈な蹴りを喰らわすが、なんと! ナバラチャはタッキングして避けた!! ラリアットを囮にして、岳斗の後ろに回り込む!


「なんだとおおお!!」


「おおっ! 囮で後ろに回るとは! あの爺さん、伊達に勝っているわけではないな」


「ええ、レオさん。 岳斗と張り合うとは、さすがチャンピオンですね」


 ナバラチャが岳斗の腹に両腕を回して、岳斗を持ち上げたっ! そして、そのまま、後ろにぶち込んだああーーーー!!!


「うおおおおおおおーーーーーーーーーッ!!!」


「ブラボーーー!」


「ありゃ、死んだなあ!!!」


「そのままくたばれーーー!!!」


「出ましたあああああ!!!!! ジャーマン・スープレックス!! 彼のフィニッシュ技の一つで、数多くの対戦者を悉く沈めてきましたッ!!! 果たして、彼は起き上がれるのでしょうか!?」


「嘘っ! 凄まじい技ですね! 岳斗は大丈夫でしょうか?」


「あいつも死線をいくつも潜り抜けているから生きてるとは思うが、どうかな?」


 カウントが青空に響き渡る。野次馬たちもそれに同調して、地面を蹴る。


「1! 2! ……さ」


 試合決着の数字が熱意で昇華しようとしたその時、なんと! 岳斗の体が回転して、絞技から脱出した。


「OH MY GOD!!!!! なんと!!ギリギリで踏みとどまったあああーーー!!!!」


「やった!!」


「嘘っ!? こいつを喰らったら3カウントどころかその日は起き上がれないことで有名なのに……岳斗、すげえっすよ!!」


「よし! 岳斗! ここから逆転しろっ!!」


「任せろ。 俺が強いことを見せてやらあ、レオナルド!!」


 岳斗は起き上がったナバラチャをロープに突き飛ばして、助走からのジャンプで体当たりした(フライング・ボディ・アタック)。 ナバラチャはかわして、平手打ちを打ち込むが、岳斗はかいくぐり……もう1回ロープから助走をつけて、足から飛び込んだ! そして、自分の股にナバラチャの頭を挟み込み、上から地面に向かって円を描きながら落ちた。 と、思ったら自分の遠心力を利用して、足でナバラチャをマットに叩きつけた!


「YEAHHHHHH!! ヘッドシザーズ・ホイップだああああ!」


 追い討ちに岳斗はコーナーポストに上がって、倒れ込んでいるままのナバラチャにジャンプ! そして、自分の脚を喉に叩きつけた!!


「アンビリバボー!! ギロチン・ドロップだ!! 流石にこれは効いたか!!」


「ジジイ!!何やってんだ!!」


「とっとと起きやがれ!! てめえのヨレヨレケツに釘バット喰らわすぞ!!」


 しかし、驚くことにナバラチャはなんとか起き上がった!


「まじか、なかなかやるな」


「面白い!! こうなったら、絶対貴様には負けんぞ! わしのブレーンバスターで地獄に落としてやる!」


「おおおおおおおお!!! なんとなんと!! フィニッシュ技を宣言いたしましたあああ!!!!」


「よっしゃああああ!! そのクソ若造の首をへし折れ!! ナバラチャ!ナバラチャ!チャンピオン!チャンピオン!チャンピオーーーーーーーン!!!!!」


 野次馬のボルテージが最高潮に達した!! 足踏みでリングが揺れる! 岳斗とナバラチャは同時に走る。


「っの野郎!! これで決めてやるぜ!」


岳斗がナバラチャにとどめのジャンピング・ハイキックを繰り出したが、ナバラチャも空中キックを繰り出した。 互いの顔を蹴り飛ばされて、勢いよくロープに叩き込まれた。 それを利用して、再び助走!! 一旦交わって、反対側のローブにぶつかって、勢いを増やす。 そこから、互いに互いの腹を両腕で掴む! 


「おい!! 相撲を見にきてんじゃねーぞ! とっとと鼻から糞を垂れ流しやがれ!」


 岳斗は関節技を決めようとしたが、そこはさすがその道のプロだった。 ナバラチャが手足をまるで蛇のように動かし、あっという間に絞技の卍固めを決めた!!


「のわああああーーー!!! ちくしょう!」


「わしもタダではやられる訳にはいかんぞ!」


 岳斗はジタバタしようにも無駄無駄!! 卍固めで身動きが取れなく、口から泡が出始める。


「おーーい!! 諦めるんじゃない! つっても流石にダメか? ……一か八か、ジェシカ! これを持て!」


 レオナルドはジェシカの薙刀を取って、彼女の手に置いた。 言いかけて、闘気を瞳に宿しながら、これ以上ない喝を注射した。


「なんですか? レオさ……岳斗ッ!!! 負けたら、貴様をロンウオ崖(銀河一高い崖として、ギネス記録に乗っている。さらに、真下に鉄をいとも簡単に貫ける岩の針山がある。 落ちたら綺麗な死体どころか判別が付くかどうかすら絶望的だろう)から落とすぞ!!」


「うわっ!! 薙刀持つと人格変わるんすか!?」


「ああ、俺らにとってはいつも通りの風景だ。 まあ、数日前からなんだけど」シャルルが不思議そうに言った。


「ぬう!!! (どこかはわからんがとんでもなく恐ろしい場所だということが直感でわかる!! そして、彼女が本気だということも!!) ぬああああああああ!!!」


 岳斗の体からとんでもないパワーが吹き上がり、筋力で卍固めを破った!!!


「何いいいいいいい!!!」


「ジジイいいいいいいい!! 地獄に落ちるのはてめえだああああああ!!!!!!」


 岳斗の中にかつてないほどのアドレナリンが迸る!!! そして、ナバラチャを背負い投げでコーナーポストに叩きつけ、地面に落ちる前に抱える! そして、コーナーポストの上に駆け寄り、天高くジャンプ!! そこから、5回転した上で、岳斗が両足でナバラチャの上半身を固め、ナバラチャの脳天をリングに叩きつける!!!!!!


「うりゃあああああ!! スクリュードラゴン・ヘルファイア!!!(彼発案の技)


たあああ!!! チンコが痛えーーーーーー!!!!!!」


「んげばああ!!!!」


 股から脳天一直線まで、全体重かけられて、叩き込まれた!! カウントがはじまる!


「1! 2! ……3!!! ガクトの勝利だ!!!!!」


「うおおおおおおおおーーーー!!!!!!」 


「なんと! 彼がやってくれました! チャンピオンの不敗の伝説を破ったあああああーーーーー!!!!!」


「いよっしゃあーーーーー!!!」


「やったぜ!! お前ならできると信じてた!」シャルルが自分事のように喜んだ。


「嘘でしょ!? まじ……?」


 戦いを終えた岳斗とナバラチャが互いを称えるハグをした。 そして、リングを降りた後もプロレスを愛すべき野郎どもとの熱ーいハグが待っていた。 レオナルドもその中に紛れていた。


「岳斗、よく頑張った!」


「おう! おお、スゥー……」


「チッ。 こいつの悪い癖だ。 流れでちゃっかりレオナルドの首元のもふもふを堪能してるぜ。 ところで何か忘れてないか?」


「……ん?? あ! そうだった。話聞くんだった」


「やれやれ。 こいつは3歩歩いたらバカか記憶喪失にでもなるのかしら」

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