友情
同時刻 村
岳斗も眠れないので、村を散歩して、星空観察を楽しんでいる。
「…………綺麗だな」
そう言ったきり感傷的になって、喋らなくなった。
しばらく歩いたら石のベンチを見つけて、静かに座った。 長いため息は冷気に冷やされた水蒸気となって、空中に離散した。
「はあ……………………………………………………寒いなあ」
「ん、あれは岳斗? おーい、どうしたんすか? こんな夜中に」
ふと呼び声が聞こえて顔を上げると長袖の革コートを着たマックだった。 マックがやってきて、岳斗の隣に座った。
「マックか……あんたこそどーしたんだ」
「いやあ、俺っち、星空を見るのが子供の頃から大好きだったんすよ。 ガキの頃、戦争から帰ってきた親父によく砂漠の観測スポットに連れてきてもらって、そこじゃ、もうほんとに海が広がっているようっすよ!
寒かったっすけど、それよりもワクワクが余裕で勝ったっす」
「ふーん、確かに綺麗だな…………うん…………」
微妙に元気のない岳斗に気づいて、マックが言った。
「つーか、どうしたんすか? 元気なさそうっす」
「あ…………そうかあ…………。 まあ……………………………………………………」
重い口を開けない岳斗をよそにマックは話し始めた。
「あー、確かにあんなことが起きてりゃ、気が重いどころじゃないっすね。 ちょっとわかりますよ。 じゃあ、俺っちの話でも聞いてくださいよ。
これは親父や村の知り合いたちから聞いた話なんですがね…………
俺の親父は元々はこの砂漠を駆け回っている兵士でしたっす。 確か、東のロエシ国についていたっけ。 親父は国の中でも凄腕の銃使いとしてちょっとした有名人でしたよ。 遠くにある敵の頭を正確に撃ちとったそうっす。 それは百発百中とか…………」
「お、おお〜」
「そんで、俺っちが5歳ほどの時でしたかね…………? ロエシ国があのリオベール王国を7年ぶりに攻めるんで、親父はやる気満々でした。 前日に貴重な酒を一杯飲んで、闘志を高めていたそうっす。 翌日、親父が朝早く家を出て、程なくして、1人のお爺さんと楽しげに語りながら帰ってきたっす。
その人がダニエルさんで、親父はお得意さんだったそうっす。 最高傑作の銃を作ってもらったそうで子供みたいにすごい喜んでいたっすよ」
「無邪気な人かな?」
「そうかもっすね。 ダニエルさんは仕事の関係でしばらく俺っちの村に滞留するので、戦争に行ってしまった親父の代わりにいろいろ鍛造を教えてもらったっす。 ほんと魔法みたいでしたよ! 手助けしてもらいながらだけど、初めて自分で剣を作れた時はほんと、嬉しかったっすね…………」
マックは楽しかった昔を思い返して微笑んでいる。 しかし、次の瞬間、少し悲しげな雰囲気が漂ってきた。
「まあ、ダニエルさんにいろいろ教えてもらいながら1年ほどすぎたある日…………親父が帰って来たんすよ」
「へえ〜、帰ってきてよかったじゃんよ」
「ええ、まあ……ただ、全身に銃で撃たれたりとかの傷を負って、しばらくして亡くなったんすよ」
「あ…………」
「気にしないてくださいっす。 もう昔のことっすから。 死ぬ間際に親父はこう言ったっす。 『マック。 今思えば、俺は人を殺して、血を流してばかりの人生だったな……だがな、安心しろ。 俺の勘だが、戦争はもうすぐ終わるだろう。 血が流れることもなくなる。 その時、人を助けて、世界を輝かせる男にな…………れ…………』
これが親父の最後に言った言葉っす。 今思えば、この時俺っちの夢は決まった。 この魔法の鍛造術を極めて、皿、アクセサリーとか、みんなが欲しいものや必要なものを作って、世界を幸せにするって…………」
「…………」
「それから本格的な修行が始まったっす。 ダニエルさんからいろいろ課題が与えられて、何度もやり直しになっても諦めず、工夫して、やっと!! やっと、3年前に1人前として認められたっす!! 嬉しかった…………」
今思い出しても、あの時の感情をはっきり思い出せるようだ。
「おおっ!! あんた、すげえ根性だな!」
「まあ、ダニエルさんに言わせるとまだまだ青二才ということっすけどね。 実際、ダニエルさんにはまだまだ追いつけてないっす」
「そうか……」
ここでマックが岳斗の方を顔を向けて言った。
「あの、岳斗。 俺っちがアドバイスなんておごかましいっすけど…………失敗しても、挫けてもいいっすよ。 休んで、また立ち上がればいいっす。
俺っちなんか今までそれの繰り返しなんすよ。 腕が上がったと思ったら、まだまだと自覚したり……たまに嫌になることもあるっすけど、でもやっぱり、人生はそれで面白いんすよ。 へへ…………」
ここまで言って、マックは星を見上げた。 岳斗も一緒に星を見上げ、ぼそっと言った。
「…………そうだな。 そうだよな、マック。 …………俺、頑張るよ。 一緒に戦おう」
「もちろんっすよ!!」
岳斗とマックが友情に結ばれた男たち特有の握手を交わした。




