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運命変転 悲しみの鎖に囚われし世界  作者: 蛸の八っちゃん
第三章 問いかける爺と永遠の夢を見続ける友の亀
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別班

ゼロの仮面が割れる少し前 ハワード星のマバラーニャ島にある第12実験棟


命を拒むほど無機質である外観のコンクリート部屋。 そこに規律正しく並べられた緑色の液体入りカプセルが置かれていて、その中に入っている死人のような顔をしている人型の実験体が不気味さを強調させている。 そんな部屋に響く足音2つ。 ジンとウィルソンだ。


「え〜こんなだだっ広いところから目的のものを見つけんのかよぉ〜。 まじ帰って寝たいわ」


「なら、さっさと済ませようぜ、ウィル。 それにどうやら、ビンゴみたいだ」


ジンが指を指すと、木製の大きな机と数個の椅子があり、机の上に大小の書類が乱雑に散らばっているので、お目当てのデータを探すために書類を漁る。 数十分後、死者の実験データをまとめた書類を発見した。


「ん? ジン、これじゃないか?」


「おっ! まさにこれだ。 ふむふむ……どうやら、奴らは死者に人を襲わせる思考を植えたり、魂を吸って、不死身モンスターの試作や知能向上を通じて、一般社会に紛れ込み、知らぬ間に人々をこっそり襲い、襲った人に死者のエキスを入れ、繁殖するなどの実験をしてたみたいだな」


「おっ、この地図は獣の場所特定に役立ちそうだ。 よし これを持って、めんどくさくならんうちにずらかろうぜ」


2人がお目当てのデータを見つけて、立ち去ろうとしたその時、腹に響き渡るほどの甲高い数人の足音が聞こえた。 そして、数人の兵士(中世ヨーロッパ風の足軽服装)が研究室の入り口に立ち塞がっていた。 彼らは警戒を隠さず、剣を2人に突きつけている。


「貴様ら! そこで何をしているか! 白状しないなら痛めつけてでも吐かせるぞ!」


「おいおいおいおーい。 まじかよお〜」


「しょうがない。 正面突破だ」


「いけ! 奴らを痛めつけてやれ!」


兵士が2人に向かって、サーベルを上段に振り上げながら走りかかった。


「きえええええーーッ!」


「はあーあ。 怪我するの痛いしめんどくせーから、戦いは嫌いなんだがな……しょうがない」


ウィルソンはめんどくさそうに右手を兵士たちの前にかざした。 すると驚くことに兵士たちは入り口まで激しく吹き飛ばされた。


「なっ……バカな! くそ、あの犬を攻めるぞ!」


「ふん……舐められたものだな」


右腕のクロコダイルのトリオが首を伸ばして、兵士に噛み付いた。 叫び声を上げて抵抗していたが、そのうちに気力を吸い取られたかのようにぐったりしてして、クロコダイルに丸呑みされた。 数分後、兵士たちは全滅した。


「よし、帰るか」


2人が建物から脱出しようと黒いゲートを開けた。 その瞬間、音を置き去りにするほどの超音速で雷のかまいたちが切り刻んと向かって来た。 2人はジャンプして避けたが、黒いゲートは離散してしまった。 振り向くと大小の刀を腰に差している侍――まさに諸君が想像しているように青い袴、漆の鞘に収められている刀、そして、丁髷ちょんまげの服装――が立っていた。


「ふむ、なかなかの腕だな。 主から預かっていた兵士を全滅させてしまった」


「貴様は誰だ。 この俺を誰なのか知っていてか!」


「それがしはトザェモーンと申す。貴様らが獣を使って、何やらよからぬ事を企んでいると聞いた。 我らにとっての障害は潰さなければ……」


謎の侍はそう言うと剣を上段に構えた。 と、突然雷のような瞬間移動でウィルソンに切り掛かって来る。


「キエーーーーッ!!」


「はっ、瞬間移動かあ。 めんどくせー」


侍の鋭い刃風をステップバックで交わしたが、それで終わりではなかった。 刀の軌跡に残っている雷がウィルソンめがけて襲ってきた。


「げっ! やっば」


何とかテレキネシスで刀から出た雷のかまいたちを逸らした。 後ろで天井にぶつかって、勢いよく音を立てた。


「ぬう。 お主、中々やるではないか」


「褒めても何も出ないぞ。 つうか、戦うのめんどくさいし、お互いに何も見なかったことにしない? こっちは2人だし、あんたにとってもめんどくさいことになるんじゃね」


「断る! 拙者はとある組織に忠誠を誓う身でござる。 武士に敵前逃亡はありえん!」


「げえ……こういうタイプが一番関わりたくないんだよな。 まじ帰りてえよ〜」


「だが、関わってしまったら仕方がない。 なあに、この『強欲』ジンの名にかけて、勝利を俺のものにするさ」


「今すぐ帰って、ポテチ食いながらダラダラしたいけど、そう言ってられないか。 わかったよ、とっとと殺すか。 この『怠慢』ウィルソンの名にかけて」


ジンの右腕にあるろくろっ首クロコダイルたちがトンめがけて首を伸ばしながら自慢の牙をギラギラさせながら噛み砕そうとする。 しかし、侍の脚の周りに雷が光ったかと思うと消えた! いや、2人の後ろに瞬間移動したのだ。


「チッ。 素早い野郎だ」


ジンが今度は尻尾の白蛇に侍を噛ませようとするが、奴め、残像を見せるほどの素早さで避けてしまう。 哀れな白蛇は実験体が入っているカプセルにぶつかり、ガラスと生命保護用液体を床一面にぶちまけた。


「無駄でござる。 拙者の動きには誰もついてゆけぬ」


「はん、そのスピードキングの座を貰い受けてやるぜ」


「強欲か……見苦しいわ! 切り捨ててくれよう。 雷遁燕突!」


目にも留まらぬほどの速さでジンに向かって走り、神速の突きを繰り出そうとした時、侍を緑色の液体に濡れたガラスの破片が襲ったので、仕方なく後ろに下がった。 ウィルソンがテレキネシスを発動させたのだ。


「あーあ、こんなに散らかしちゃってさ〜。 一体誰が片付けるんだよ? 俺はいやだかんな」


「邪魔するでない! 貴様らには選択肢はただ一つ……拙者におとなしく首を刎ねられることであるぞ! コオオオオオオオ……!!」


目を閉じて、全力の呼吸をした。 しばらくして、奴の目が勢いよく見開かれた。


「見えたぞ。 貴様らが拙者に斬り捨て御免される風景が! 音雷魔神斬! とおおおおおおおーーーーーッ!」


侍が世界をも置き去りにするほどの神速、いや、侍速で全方向から2人を斬る。 斬られた心臓、筋肉、内臓の破片がめったやらに雷で焼かれ、無慈悲にも地面にぶち撒かれた。 そのあと、2人は斬られたことにすら気づかずに倒れた。 後には刀になぞるかのような雷の軌跡がパチパチ音を立てながら静寂を慰めているだけだった……。


「あっけない最期でござったな、斬り捨て御免被る。 ではさらばじゃ」


侍が2つの亡骸に礼をして、去った。 足音が完全に聞こえなくなったその時、ジンの右指がわずかにびくついた。


「……おい。 ウィルソン。 聞こえるか? それとも、めんどくさくてくたばったか?」


「おいおい、くたばるのもめんどくせーんだよ」


「そりゃ、どう言うことだ? ただ寝てりゃいいだろ?」


「はっ。 くたばった後、死の流れに乗りながら、アジトにまで行かなきゃならないんだぜ。 はいこれ、めんどくさいその1な。 そんで、ポテトが食えないから我慢して泳がなきゃならん、めんどくさいその2だ。 後、アジトを探す……つーか喋るのもめんどくせー。 とっとと起きようよぉ〜」


「そうだな。 しかし、あいつ、俺らがわざとやられたことにも気づかないとはまだまだだな」


2人は身体中が斬り傷でボロボロになった状態で立ち上がった。 周りには2人の内臓、血が散らばっている。


「あーあ、人の体をこんなにしてくれちゃってさ、超能力で内臓を修復すんのも結構めんどくさいしきついんだよな……しかも、ジンのと混ざってるから見分けるのもめんどくさ。 いっか、適当で」


そう言いながら、ウィルソンはジンか自分のどうかも見分けがつかない内臓を適当に繋ぎ合わせて、修復した。


「ん? つーか、ジン。 お前、心臓がほとんど持っていかれてるじゃねーか」


「心配いらん、材料は腐るほどあるからな。 ククク」


牙を見せて、不気味に笑うとジンはなんと自分の胸に左手を突っ込んで、むしり取った心臓の残骸を地面に捨てた。 そして、無事だったカプセルを叩き割って、人型の実験体の胸に手を突っ込んだ。 実験体は一瞬痙攣させたが、すぐ動かなくなった。 永遠に。


ジンは奪い取った心臓を自分の胸に抉り込んだ。 すると信じられないことにちぎられた心臓の血管がジンの血管に結合して、鼓動し始めたではないか! 驚く間もなく、ジンの胸が閉じられた。


「あんたのそれ、何度見ても不思議だぜ」


「いやいや、ちっとも不思議じゃあない。 たった1つのシンプルな理由、それは『俺のものは俺のもの、世界のものは俺のもの』だからだ」


「いや〜、ジン先生。 あんたはちっともブレないなあ。 そんな暴論言うのあんたとどっかのガキ大将くらいだよ」


「そりゃ、光栄なことだ。 さあ、帰ろうぜ」


人知れず嬉しそうに尻尾を振ったジンは黒いゲートを開け、ウィルソンと一緒にゲートの中に消えた。

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