砂漠の死線
砂漠の世界にいる狼蛇やハリネズミならぬハリモグラなど、多く湧き出るモンスターを避けながら目的地に進む。
「うへぇー、こんなにモンスターいるんじゃあ命懸けだな。 爺さんって戦えたりするか?」
「心配いらんわ! これでも武器扱ってるからな。 わし自身も武器持っていて、ほれ!」
ダニエルが背中から自分の身長ほどの長さのハンマーを取り出して見せた。
「このハンマーで敵をホームランするんじゃあ! わっははは!」
「宜しく頼むぜ。 ダニエル」
「俺っちも愛用の散弾銃で蹴散らして見せるっすよ! 親父譲りの戦士の血が騒ぐぞー!」
岳斗たちが旅の途中でたわいもない話をしていると突然駱駝馬に乗っている全身を黒いマントで羽織った黒い覆面の男が岳斗の横に並走した。
「んあ? あんたも旅か? それにしてもこんな砂漠で暑そーな格好して大丈夫か?」
「心配いらんよ。 それよりも2秒後の自分の身を心配しろよ」
「へ?」
黒ずくめの男はそう言うと仮面越しだが、不気味に微笑んだような雰囲気を出し、マントを脱ぎ捨てた。 そして、岳斗の剣の刃渡りと同じくらいの長さの黒い剣を背中から取り出した。 岳斗に向かって、上から振り下ろすのを驚きながらも剣で受け止める。
「ふっ。 なかなかの反応だ」
「あんた、何するんだ! あぶねーじゃないか!」
そう言いながら、剣を左手に持ち替えた。
「ククク……振り落とされんなよ」
その一言が戦闘開始の合図になった。 ゼロと岳斗は互いに馬に乗りながら、殺陣の如く、剣と剣が踊る。 その度に鉄がぶつかり合うシンフォニアが無毛の荒野に轟く。
「っだ! ぬっ! ふん!」
「はっ! やあ! ダァ!」
「助太刀しようにも付け入る隙がないわ」
「俺っちの銃じゃ、岳斗も巻き込んじゃうっす」
「それだけ奴がただ者じゃないということか。 いや、あいつは多分岳斗より強いだろう。 岳斗が腰や肩の回転を使って、体全体で斬りかかってるのに対して、奴は右腕以外微動もしないのに軽く渡り合ってる」
「確かに。 それに岳斗は汗を流してるが、奴は暑がる素振りも全く見せてない。 これは長期戦は不利だな。 どうするか?」
「よし、ここは俺がやる。 蜃気楼を映し出すサラマンダーよ、その幻想鏡に映る邪を爆せよ!」
岳斗とゼロの周りに爆撃が起きた。 心の中に邪悪を持つものにしかダメージを与えないので、岳斗には効かない。 爆撃の瞬間、土埃でよく見えないながらも、ゼロの血と服の一部が飛び散った。 その後に落馬の音が聞こえた。
「やった! 大丈夫ですか? 岳斗」
「ああ、助太刀ありがと。 実はちょっとやばかった。 やれやれだ」
安心したのも束の間、消えかけた土埃から駱駝馬から落ちたはずのゼロが現れた。 しかも、服も肉体も無傷!
「バカな! 血が飛び散るのをこの目で見たんだ」
「困るぜ〜。 せっかくの一騎打ちを邪魔しちゃ。 まっ、俺は岳斗の実力を偵察に来ただけだからな。俺の気は済んだよ。 もういいぞ、アニー!」
「ぬっ? 仲間だと?」
岳斗が周りを見渡したが、どこにもアニーの姿は見受けられない。
「どこにもいないぞ……?」
その時、地面の中から咀嚼音が短いリズムで連続して刻まれた。
「ん? 地面から聞こえる……なんだよ?」
「まるで土を食いながら追いかけてるような?」
ついに謎の声の正体が地面から出てきた。 そいつは前を地面を泳ぎながら、土を食っているっ!
「もぐもぐ、ゴリっ、ごくっ。 マテ。 オラ、オマエ、クウ」
「なにぃーーッ! こりゃ驚いた! 土食いおなごじゃ!」
「オマエ、ウマソウ。 オラ、トブ。 イタダキマァース!」
「ヤバイッ!!」
アニーが地面から飛んで、岳斗を丸ごと飲み込もうと口を全開した。 岳斗は馬を右に動かして、アニーの飲み込みを避けたが、無理に避けたせいか、馬が岩に足をぶつけ、前に放り出された。 受け身は取ったが、ゼロが進行方向に道を塞いだ。
「ウワァーーーーッ! マジかよ」
「岳斗! 今行きます!」
急ブレーキして、全員車や駱駝馬から降りた。
「大丈夫っすか!? 岳斗!」
「ああ、大丈夫だ。 しかし、とんでもないことになっちまったな……」
馬から降りた形になったので、戦わざるを得なくなった一行はアニー、ゼロと向き合う。
「あんたら、何者だ!? はっ……まさか、結社か!?」岳斗が思い当たるように叫んだ。
「結社……憤怒? 暴食? 怠慢? それとも強欲? どれなんだ?」シャルルが考察している。
「ククク。 俺はゼロ・ラグナイド。 結社のボスだ。 ジョー、パイン、マドレーヌが随分お世話になったな」
「んだって! ボスがこのタイミングで出てくるのかよ! フツー最後に、城の奥で椅子に座るもんじゃねーのか?」
「そりゃ、ステレオタイプだぜ。 悪いがな、勇者様がくるまで待っていられるようなタチじゃねえ。 そして、こいつは『暴食』アニー・ゴーウィンだ」
「ハラヘッタ。 クウ、イイ?」指を口にいれながら、言った。
「いいぜ。 好きにしろ」ゼロが振り返って、言った。
「ソウカ クウ、クウ……ウガァーーーーッ!」
アニーが口を大きく開けて、岳斗たちに全力疾走で走ってくる。
「そんなに食いたいなら食わせてやるわ! 最後の晩餐をね! ゲリラサイクロン!」
「ゴチソウ、ゴチソウ!」
加那江が高速回転させた弾をゲリラ豪雨のようにアニーに降らせた。 近くにある弾同士の回転エネルギーが互いに影響を与えて、予測不可能な軌道を生み出した。
「ここまで複雑だと避けられねえだろッ!! 悪いが、とっとと退場してもらおうか!」シャルルが勝利を確信したように叫んだ。
アニーは仁王立ちしながら口を大きく開けた。 避ける気配は全く無い。 諦めたのか……と、勢いよく大量の弾を吸い込んだ。 そして、驚くことに頭の後ろに貫通することなく、飲み込んでしまった!
「!! なんて事っ!」
「なら、これは食えるか?」
レオナルドがそう言って、何の種もない鉄の矢を放った。 アニーも口を開けて待ち構えた。
「クウ!」
アニーが鉄の矢の味を楽しみにしてると直前で矢に火が大きく燃え上がり、アニーを包み込んだ。 アニーは炎に燃えて、転げ回る。
「グオオオオ! クウ……ノコサズ、クウ! コオオオオオッ!」
なんと! 勢いよく吸い込んだので、周辺の炎が口に引き込まれて、完食してしまった!
「ふむ、ダメージは与えられたが、これでは足りんな。 なあ、岳斗」
「ああ、なんでも食ってしまう口があるのなら切り落とせばいい! 疾葬昇虎剣!」
炎の十字架から脱出したアニーに、スライディングで襲いかかる岳斗。 アニーが気づくもすでに遅し。 足元で飛び跳ねて、右腹から左肩まで勢いよく斬った。 大量の血飛沫と共に上半身が空中に飛び上がって、地面に落ちた。 立っているままの下半身を飛び越えて、岳斗はゼロの前に着地する。
「さて、これであんた1人だな」
「心外だな。 俺様がやられると思ってるところがさ。 それにアニーがくたばったと思い込んでるとこもだ」
「ぬ?」
「はっ……! 岳斗! 後ろだっ!」ジェシカが緊迫した声で言った。
後ろからぬょるりと何やら蠢くものが擦ってる音が聞こえ、一瞬背筋が凍り、危険を感じた。 振り返らないで右斜に走ってから、後ろに疾潜土竜剣を出した勢いで、振り返った。 その瞬間、岳斗は鳥肌が立って、恐怖を感じた。 アニーの下半身の断面が丸ごと口になって、数個の舌が蛇のように飛び出ている。
「あ……コイツァ、あり得ねえ!」
「これは……! 暴食って言われる訳だ」
「オマエ、クウ……」
アニーの幾つものの舌がものすごい速さで岳斗の手足に巻きつき、引き摺り込まれる。
「やべえ! 手も足も出ん!」
「貴様! その舌斬ってくれる!」
ジェシカが岳斗に巻きついた舌を斬ろうと駆けつけたが、新しい舌がジェシカの前に塞がって、駆けつけられない。 斬り落とすが、キリがない。
「ジェシカ! 私がやるわ」
「俺も加勢するっす! フルスロットルバースト!!」
加那江とマックが連射して、岳斗に巻きつく舌を撃ち落とそうとするが、弾を素早く巻き取られ、食べられる。
「くそ……。 やばいっすよ。 岳斗、このままじゃ食われる!」
「ふむ、閃いた。 加那江、レオナルド、シャルル、いい案があるぞ」
3人を集めて、案を小声で伝えた。
「わしな、自家作の爆弾持ってるんだが……かくかくしかじかでどうじゃ?」
「よし、それで行くか。 ジェシカ、ちょっと一旦下がってくれ!」
「なるほど、わかった」
加那江とレオナルドが代わって、前に出た。
「光を喰らいし冥門よ、焔龍に飲まれるが良い! ポテュバラ・フレコン!」
矢を地面に打って、焔龍を地面の中にうねらせた。 そして、アニーの足元で地上に出て、アニーを噛み焼こうとした。 地面を泳ぐ炎のドラゴンの襲来を避けるために下に注意が行った。
「そして、鱗から零れし龍の子よ、天衣無縫に揺らめく焔の羽織となれ! カオスファンタジア!」
加那江が予測不可能な弾をさらに多く放った。 加那江の弾がレオナルドの炎に触れた瞬間、次々と7色の光に包まれた。 火玉を周りに回しながら、弾同士がさらに複雑な軌道を描いた。 上下の変幻自在な猛撃にアニーの舌の処理が追いつかなくなる。
無数の火玉が全方位から体を貫通し、混沌の死を約束されたアニー。 上からダニエルの爆弾がアニーの口にホールインワンする。
「ナンダ? クチノナカ、ハイッタ。 ナニ?」
「よっしゃ! わしの腕もまだ衰えてないわい! ジェシカ、岳斗に巻きついてる舌を斬り落とすんだ!」
「承知! 輪暴紅風舞!」
ジェシカが風のリングで舌を斬った。
「よっしゃ、脱出できた。 サンキュー!」
「マドレーヌ、ちょいとパクるぜ。 セブレイトフィールド!」
シャルルが唱えるとアニーを包む半球形のバリアが現れた。
数秒後、突然、アニーの下半身が爆発して、木っ端微塵になった。 そこに追い打ちをかけるように爆弾の残骸から酸液のミストが噴出し、肉体を原子の一欠片レベルまで溶かす。
「今度こそほんとにくたばったようだな。 あー、やれやれ。 SMプレイしに来たんじゃねーんだぞ。 ほんとによー。 唾液だらけでたいへ……あれ? 唾液が付いてねえぞ」
「なんと、奇妙じゃのう。 あのおなご、乾燥しているのか?」
「へぇ、なかなか面白い体してやがる。 ん、乾燥……?」シャルルが何かの違和感を感じた。
「ククク、なかなかやるじゃないか? おまえら。 でも、ほんとに終わりかな?」
「あっ、忘れてたわ! 下半身だけで動くなら、上半身だって動くかも!」
「なんと! 俺の矢で焼き尽くしてやる!」
「もう遅い」
ついさっきまで亡骸のようだったアニーの上半身がむくむく膨れ上がる。 彼女が砂漠の乾燥した土を貪り食って、下半身を再生させ、立った。 そして、太陽をも覆い隠すほど巨大になった。




