朱雀の奪い合い
岳斗とレオナルドは気がつくと加那江たちの前にいた。 3人は顔を上げて、驚いていた。 頬に涙の跡を残しているジェシカがレオナルドに駆け寄り、抱いた。
「レオナルド……! 無事だったのか!」
レオナルドがジェシカの頬を触って、涙を拭った。
「心配かけたな、ジェシカ。 クリスは元気か?」
「ああ、お転婆な娘になっているぞ」
「ははっ。 そうか、よかった」
「感動の再会?のところ悪いんだけど、2人はどう言う関係なんだ?」
「ジェシカは俺の妻だ。 なかなか美人だろ?」
「なんと……そのようなセリフをよくも恥ずかしげもなく吐くとは。 言われたこっちが恥ずかしいぞ。 フフッ」
「……えと、ちょっと待って。 どう言うこと? なぜあなたは岳斗と一緒に突然現れたの?」
「そいつあ、レオナルド=獣(朱雀)だからだ」
「正確に言うと、獣に吸い込まれた魂の情報が獣の外形に影響を与えているようだ。 岳斗が俺の手を握って、運命変転で脱出した」
「そういえば、お前と獣って、瓜二つだよな。 獣がそのまま人型になったような。 それに魂を吸い込まれたってことは戦って、負けたのか?」
「いや、その逆だ。 獣と共鳴して、わかったことだが、獣は自分が倒されるとき、倒した者の魂を体ごと取り込んでいる」
「あんた、そんなに強かったのか。 こっちは4人かがりでやっと倒したって言うのに」
「いやいや、何人かの側近と共に戦った。 しかし、厳しい戦いだった。 多くの戦士たちを亡くしてしまった」
「とにかく、終わったな。 王様に報告するか」
「いや、レオナルドのような獣はあと3体いるはずだ。 レオナルド自身が四神と名乗っていたからな」
「あらあら、試練に打ち勝ったの?」
突然の横槍に岳斗たちは驚いて、振り返った。 そこにはマドレーヌ、ジョー、そして、パインが立っていた。 彼らの殺気じみたオーラが感じてとれる。
「シャルル、てめえ、よくも罠に嵌めやがったな! 加那江にはそばかすを馬鹿にされるし。 それに、岳斗! 鬼か、てめえッ! こんな乙女を思い切りぶん殴りやがって、頬が腫れたじゃねーか!」
マドレーヌはそう言って、冷却絆創膏が大きく貼られた左頬を指差した。
「クソ野郎ども、まじで許さんからな。 細胞の一片まで焼き尽くしてやるっ!」
「ああ、こちらのマドモワゼルは大変お怒りだ。 これ、マドレーヌ。 そんなに怒ったら、肌の美容によろしくないぞ」
「ウルセェ! 余計なお世話だ!」
「おお、これはとりつく島もないねえ。 岳斗君、マドレーヌのお肌の健康のためにも赤髪の紳士をそちらに引き渡してくれないかね?」
「悪いな、断る! 店に行って、保湿バックでも買ってやれよ」
「パイン、お前らのボスは麒麟を使って、誰に復讐しようとしてるんだ?」
シャルルの質問に意地悪そうに微笑んで、人差し指を口に当てた。
「可愛いにゃんこちゃん、それは自分たちで調べなさい。 最もこの死線を切り抜けられたらの話だけどね」
「チッ…………わかってたことだがな」
「おい! ちんたら話してんじゃねえよッ! クソ野郎ども、死ぬ覚悟は決まったか!?」
「生きる覚悟ならあるさ。 かかってこいよ!」
「わかったわ。 シャルル、この死線を潜り抜けられるかしら?」
「舐めんじゃねえよ。 俺も魔導士としてのプライドがあるからな」
パインがそう言うと、彼女はダーツの矢を左手から数本、右手から細い剣を出した。 マドレーヌ、ジョーもそれぞれ杖、薔薇を手に持って、戦闘態勢を整えた。
「せいぜい泥臭く抗えよ?」
ついにバトルスタート! レオナルドがパーティイン。
パイン VS 岳斗&レオナルド
岳斗がパインに向かって、走りながら、疾潜土竜剣を繰り出す。
「甘いわ。 デスフィチリセペ!」
幾つもののダーツが土竜を裂いて、岳斗に襲いかかるが、レオナルドの矢の炎がダーツを包み、全て消え失せた。
「俺の炎は真空すらも燃やし尽くすぞ」
「へえ、なかなか面白いお兄さんね?」
ジョー VS 加那江&ジェシカ
マドレーヌ VS シャルル
「ジェシカ、気をつけて。 ジョーの薔薇の中の水分は鉄をも溶かすわ」
「相わかった。 触れなければいいと言うわけか。 ならば、これを喰らえ! 輪暴紅風舞!」
薙刀を勢いよく回して、できた風の刃輪をいくつか2人に向かって飛ばした。 ジョーが薔薇の鎖を布のように組んで、自分とマドレーヌの盾にしたが、ジェシカの輪は鎖をものともせずに切り裂いた。 それどころかジョーの薔薇の毒を纏い、襲いかかる。 マドレーヌと共に避けながら面白そうに言った。
「ほう! これはなんと面白い技だ。 ならば、お返しに私の華麗なる技を発揮させてもらおうか?」
そう言うとジョーは片手を地面に置いた。 加那江たちの周りの地面から大量の薔薇の花が芽吹き、一面美しい薔薇の庭園が出来上がった。
「私の芸術をとくとご覧になるが良いぞ! 諸君。 ヘブンローズブリザード!」
ジョーが指を鳴らした瞬間、ジョーの薔薇が紙吹雪のように舞った。 加那江たちに毒を含む薔薇の花びらがところどころ掠り、毒が体に染み渡り始めている。
「ぐっ。 毒で目眩がして、狙いが定まらないわ。 まずいっ!」
「この薔薇をどうにかしてやる。 輪暴紅風舞!」
気合で薔薇を刈り取るが、刈り取っても次々と薔薇が新しく生えていく。
「加那江が毒でやばい! 岳斗、レオナルド! 俺は解毒魔法使うから、マドレーヌも相手してくれ!」
「おうよ。 レオナルド! パインは俺が食い止める」
「うむ! マドレーヌは任された」
「行かせるかよ! セブレイトフィールド!」
半球型の魔法の壁を出現させ、パイン、マドレーヌ、岳斗、レオナルド、シャルルの5人が閉じ込められた。
「これで足止めのつもりかよ? 燃えたぎる豪炎よ、この壁を無に返せ!」
激しい炎が壁を燃やし尽くした。 しかし、壁はなんとも無かった。
「なっ……くそ。 邪魔するなよっ!」
「シャルル、どけ。 俺が射る。 イジニスヴァクス!」
炎のエネルギーを矢の先端一点に集中させ、射った。 しかし、同じく矢が激しい光を発して、衝突しても壁にダメージはなかった。
「こっちもダメだ!」
「てめえこそ私を放っとくんじゃねぇよっ! 黙って、私に殺されな!」
「加那江とジェシカが毒の泉に溺れる前に、貴方たちはあの2人の命を救えるかしらね? いいえ、きっと無理」
パインの挑発に岳斗が激昂した。
「なんだと。 やってみなければわからんだろ!」
「岳斗よ、おそらく、マドレーヌを倒せば、結界が解ける仕組みなのだろう。 一気に攻めるぞ! パメンヴァラ!」
レオナルドの呪文で岳斗たちは体内に闘志が燃え上がる感覚を感じた。
「うおおお、力が沸いてきたっ! マドレーヌ! 有利になったのはてめえらだけだと思うなよ! 飛天流星斬!」
岳斗が半球の壁を飛び回りながら猛撃を加えた。 パインは剣で躱しながら、いつの間に出した小型銃で撃ち落とそうとする。
「まあ、坊や。 頼もしいこと言ってくれるわね? なら、お姉さんの頼みでとっとと殺されてくれない?」
「んなアホな、そりゃこっちのセリフだっ! ダァーッ! 堕鷲星震陣!」
「生を吐き出し、死を喰う怪物よ。 その牙でやつを刺し潰せっ!」
マドレーヌの呪文で土柱の針を出して、岳斗を突き殺さんとした。
「させるか! オキョーセ・ベゲス!」
そこにレオナルドが周りに8つの蛇頭の火玉を回転させた矢を発射した。 大蛇の火頭が矢に追従して、それぞれ広範囲に炎を吹いた。 矢がマドレーヌの土柱に刺さった瞬間、炎に燃える八岐大蛇の本体が現れ、世界ごと飲み尽くし、パインとマドレーヌを永遠の劫火へと誘った。 土棘は完全に跡形もなく焼け消え、地面も幾つものの凹みができた……。 しかし、マドレーヌが2人を包む絶対鉄壁の半球を出現させて、無傷だ。
「くっ。 流石にそう甘くな……、む? 外側の半球の地面がところどころ微妙に溶けている……」
その時、シャルルの脳裏に閃きの女神が降臨した。
「おい、レオナルド! 矢の先に火の玉をできるだけ小さく詰め込んで、半球の周りにいくつか撃ってみてくれ。 ただ、まだ爆発させるな」
「何か思いついたようだな……わかった」
矢先に火玉を宿して、撃った。
「幻想の中で揺らめく残炎よ、迷闇の使者に叛逆せよ! 岳斗! いけ!」
「おうよ! 堕鷲星震陣ッ!」
球の頂点に刺し、シャルルの所にジャンプした。 岳斗の一撃は燃えて脆くなった地面に亀裂を入れて、地面の欠片を上空に上げた。 横たわった矢の上に莫大な量の地面が落ちて、其奴らに闇を見せた……。
「こんなことやっても無駄なの分からないかな~? 私の魔法は完璧だっつてんだろ、とっとと諦めんかい! 木瓜が!」
「ん? 地面に違和感感じるわ?」
その瞬間、マドレーヌとパインが立っている地面が外からの熱で急激に膨張して、解放された岩の欠片群が狭い半球内で反響させながら、2人に勢いよくぶつかった。 そのダメージで内外の壁は消えた。
「ッ……! ばか……な!」
予想外の反撃に驚愕しながら、霧が晴れるようにマドレーヌの体が霧散して、消滅した。
「よっしゃ! 加那江! 待ってろ。 今、毒を解いてやる!」
シャルルが加那江に向かって走り出した。
「なるほど、マドレーヌの壁は熱を通すことを見破ったみたいね?」
すぐにパインが血だらけでかろうじてよろよろと立ち上がった。 しかし、余裕そうに微笑んでいる。
「シャルルは俺の自慢の弟だからな。 お前さんらの敵じゃない」
「薔薇を焼き尽くしてくれる! ラージス・フディラ!」
空中に撃った火矢が焔の花を咲かせ、枯れ落ちた火粉が毒薔薇のラビリンスを幻想に送り届けた。 シャルルは加那江とジェシカに解毒魔法をかけた。
「星の欠片に住まし小人よ、穢れし泉に慈悲の雨を降らせよ!」
加那江とジェシカの体を緑色の蛍光が包み、なんとか起き上がれるようになった。
「助かったわ。 ありがとう」
「危なかった。 私も毒で動けなくなった時は流石にまずいと思ったぞ……」
「よかった、無事で。 こっちはマドレーヌ倒したぞ。 よし、ここから反撃だ!」レオナルドが立ち上がって、ジョーを見た。
「あー……私の最高芸術とも言えるこの薔薇庭、結構気に入ってたのにねえ。 芸術を理解する者に出会えなくて、寂しいよ。 マドレーヌも倒れてしまったしねえ?」
「そうね。5対2じゃ流石に分が悪いわ。 安心して、数は揃えたから」
「……? まさかっ! 岳斗は……?」
シャルルが嫌な予感と共に岳斗の方を振り向くと、そこには加那江たちを見据えて、殺気を隠しきれない仁王立ちをしてる岳斗がいた。 岳斗の目には渦巻き模様が描かれていた。




