武士とモフモフLOVE姫様と哀れな兄弟
翌日、昼ごはんを食べ終えた4人は出撃準備している。 そこに家臣たちがジェシカの武装を持ってきた。
「王女様、お持ちして参りました。 どうぞ」
「ありがとうございます。 岳斗、武器はいらないのですか?」
「あっ、あいつの剣は溶けたんだっけ。 岳斗の胴体くらいの太さの剣と加那江の短刀を用意して欲しいんだけど、あるか?」
「了解しました。倉庫を探して参ります。 しばしお待ちください」
数分後、家臣が注文通りの剣を持ってきた。 岳斗と加那江がそれぞれの武器を受け取った。
岳斗の剣は向こうまで透き通るような水色の刃文(相手を斬るときに相手に向ける面、鋭い方)と燃え盛る炎の波のような紅い鎬地(峰斬りにするときに相手に向ける面)が特徴的だった。 加那江の短剣は見た目が以前より短い普遍的な剣だが、手に馴染み、使いやすい。
「おお〜 こりゃかっけ〜ぜ、ありがたい。 大切に使うぜ」
「そう言ってくれたら我々も嬉しいです」
「そういや、加那江、今まで、剣貸したままだったよな。 すっかり忘れてたぜ」
「いいえ、大丈夫よ。 あくまで、弾切れした時の予備の武器だから。 それにもう新しいの貰ったから」
二人のやりとりにジェシカが微笑んで、自分の武器を思い出した。
「楽しそうでなによりですね。 ああ、そうだ。 バットフ、私の愛用の薙刀を持ってきなさい」
「はい、王女様 こちらです」
「よし、じゃあ……」
言いかけて、薙刀を持つと突然彼女から出るオーラが一変して、ピリッとした。 同時に彼女の眼力が鋭くなった。
「皆のもの、出撃じゃーーッ!」
「なっ!? いきなりキャラ変したぞ!」
「ええっ、薙刀を持つと性格が変わるってこと?」
「やれやれ、ほんとこのパーティーは癖者揃いなこった。 まあ、頼もしくていいじゃねえか?」
4人が準備をしながら談笑してると、長いスカートが特徴の白いワンピースを着たかわいい女の子がやってきた。 ジェシカの少女時代を鏡写しにしたようなポニー獣娘で、違うところと言えば、ショートヘアで、水色寄りの紫髪であることだ。
「お母様は普段優しいのですが、薙刀を持つといつもああなるのですわ。 勇敢でしょう?」
「ああ、全くもってあんたの言うとおりだ。 そんで、君もそのDNAを50%ジェシカからプレゼントされてる」
「ねえ、貴方、ジェシカのお娘さんよね? お名前聞いてもいいかしら?」
「もちろん! 私はクリスティーヌ・スカイウォーカー・グランターンですわ。 皆様、お見知り置きを」
クリスティーヌはそう言うとスカートの両端をつまんで、お辞儀した。 と、視界の端にシャルルを捉えた。
「ん? まあ! 二本足で歩くモフモフな猫ちゃんだあ! 私、おとぎ話でケットシーの話を聞いてから、ずっと会いたいの思ってましたの!」
「えっ! そりゃ、嬉し……」
シャルルが言い終わらないうちにクリスティーヌが目をキラキラさせながら、物凄い勢いで走り寄って、シャルルを抱きしめたり、顔をわしゃわしゃしたり、胸に顔を思い切り埋めたり、モフモフの感覚を心の底から楽しんでいた。
「きゃー♡ ほんと、すごいモフモフゥ〜! いつまでも触りたくなるわ! スゥー」
クリスティーヌがシャルルを抱きしめて、思い切り猫吸いを堪能し始めた。
「だぁーっ! くすぐってぇ! 誰か助けてくれぁ〜っ! おてんばすぎるぞ!」
シャルルが必死に助けを求めるが、岳斗はニヤニヤして見ているだけだった。
「だははは。 そう、猫はいつだって隅から隅までモフモフされる運命なのだよ。 気持ちはずっけーわかるわかるの満タンでごさあ」
「オイコラァ! 人を変態みたいに言うなっ! ガクトオオオーッ! 助けんかー! のわあーーー!」
「これ、クリス 離してやれ。 シャルル殿が困ってるではないか」
「えー。 だってだって、すごい可愛いんですの。 やめられん〜」
その時、扉が開いて、耳をつんざく怒鳴り声が響いてきた。
「クリス様ッ! はしたないですよ! このお方様は遠い遠い星の王国からの調査ではるばるここまでやってきたのですよ。 これ以上やるなら、こめかみをうんと強くぐりぐりしますよッ!」
「きゃーっ! マムルさん。 いやっ。 それだけはっ! それだけは勘弁してぇ〜!」
マムルのすごい剣幕に、可哀想なクリスティーヌは泣く泣くシャルルを撫でることを断念したのだった……ほんとに泣いてたりして。
「シャルル様 皇女様がご迷惑をおかけしました。 申し訳ありませんでした」
「いやいや、お元気な娘ですね……? なんかどっと疲れたような……って、岳斗! お前〜、よくも可愛い弟を見殺しにしやがってぇ〜。 許さんぜ! 7代遡って祟ってやらあ!」
「一代前なら好きなだけ祟っていいんだが。 あっ、もしかして、俺にモフモフしてもらいたかった? んへへへへへ〜」
岳斗がいやらしい手の動きをして、シャルルに近づいたので、シャルルは高くジャンプして、岳斗の鼻柱に怒りの鉄拳をぶち込んだ。
「この馬鹿やろーが! おたんこなす野郎!」
「ッデェーーッ! てめえなんて、……あれだ、あの、あー、バーカ! バァーカ! アホォーーッ!」
「恐ろしいほどの語彙力のなさ……」
「うわーん! バカって言った方がバカなんだあ!」
「バカって言った方がバカって言った方がバカだ〜!」
「バカって言った方がバカって言った方がバカ……(エンドレス)」
岳斗とシャルルが小学生、いや、幼稚園レベルの悪口合戦を繰り広げながら、シャルルの頬をつまむ、岳斗をキック、引っ掻くなどの兄弟喧嘩を放っといて、加那江、ジェシカ、クリスティーヌ、マムル、バットフは出発前の打ち合わせをしていた。
「軍の準備は整ったか? バットフ」
「はい、女王様。 いつでも出発できます」
「クリス様、お母様は王様としてのお仕事に行くのですよ。 いってらっしゃいしなさい」
「はい、マムルさん。 お母様、いってらっしゃいませ!」
「うむ、行ってくるぞ。 明日には帰ってくるからな」
「はい! 村のみんなによろしく言っといてください。 クリスは元気でやってると」
「うむ、承った」
出発しようとした時、まだ取っ組み合いをしている2人を見て、加那江が呆れて言った。
「岳斗、シャルル。 いつまでも子供みたいな喧嘩してないで、行くわよ」
「いいや、こいつを魂が抜けるほど隅々まで、モフモフしないと気が済まん!」
「何言ってるんだ、このケモノ中毒野郎が! その間抜けヅラを二度とできなくさせてやろうかッ!」
そこまで言って、岳斗の顔を爪で引っ搔いた。 加那江が諦めたように言った。
「……マムルさん。 このバカどもたちに制裁をくわえてやってください」
命令を受けたマムルが血管が浮かぶほど両腕力を込めて、げんこつ拳を胸の前に持って行った。
「わかりました。 二人とも、こっちきなさい。 ぐりぐりの刑です。 ……いやとは言わせませんよ?」
マムルのあまりの剣幕に二人は思わず喧嘩をやめて、互いを抱いて涙くんだ。 マムルのあまりの剣幕にただただ震えて怯えるしかなかった……
「ひええええーーッ!! お、お許しをーーォォォ!!」
3秒後、地獄でも滅多に聞けまい2人の悲鳴と叫び声が王国中に響き渡るのだった……。




