覚悟
その頃ハリーたちは王国軍の挟み撃ちに遭って、王城玄関前で戦っていた。敵も味方も大勢血を流して倒れている。 そこにハリーが弾を打たれた傷から血を流しながらも手下たちを逃すために自らしんがりを務めようとしていた。 爪を振るって、三人を薙ぎ倒した。
ハリー「お前ら、援軍が来る前に早く行けッ! 俺とベーノは少しでも食い止める!」
手下「いけません! しんがりは我々が!」
ハリー「何を言う! 俺はエントランスで岳斗たちを未来への一手として三階に送り出した! 退路を切り開いて、あいつらの未来を繋げるのは俺とベーノの役目だ! それに元々この戦いは俺が始めたものだ、お前らが命を失って良い理由などない! 生き延びろッ、お前らの未来のために!」
手下「そいつあ、無理ってもんです。 その未来への第一歩は親分が踏み出したんです。 ちゃんと最後の一歩も踏んでもらわないとッ! 俺たちは死んでも死に切れねえってもんですッ!」
周りを見てみると手下たちは誰もが退路を自ら捨てて、どこまでもハリーの手足になろうとしている。 その覚悟に心を揺さぶられた。
ハリー「お前ら……そこまで覚悟を決めていたのか」
と、ベーノが雄叫び声を上げた。 見るとハリーよりも多くの銃弾を浴びて、立つのがやっとだった。 その状態で両腕を広げながら前に走り出して、鋭い爪で十数人の兵士を深く切り裂いた。 断末魔とともに血を吐いて、倒れ伏した。 ベーノも血を豪快に吐いて、倒れそうになった。
ベーノ「がはッ……まだまだ倒れな……い。 倒れるわけには……」
ハリー「ベーノ! あとは俺たちに任せて、退けッ! これ以上は死んでしまうぞ!」
ハリーの問いかけに目を半開きにして、途切れ途切れに、しかし力強く言った。
ベーノ「ハリー……お前も死にかけだろう……。 俺は戦士だ、死ぬまで戦うだけだ。 しかし、お前は戦う者をまとめるリーダーだろう。 自分の足で立って、若人たちに道をしっかり示してやれッ!」
ハリー「ベーノ……」
ベーノの喝を心で受け止めたハリーは力が湧く感覚を感じた。 彼の瞳に覚悟が宿った。 戦士の心に聞こえる大音量で叫んだ。
ハリー「……てめえら! 俺は最後まで立って、背中を見せてやるぞ! だから、てめえらも生きて立てッ! 未来へ歩いている若者たちをこれ以上屍にしてたまるかッ!」
手下たち「うおおおおおおーーーッ!」
ハリーの一声で生気を盛り返す手下たち。 疲れが見えてきている王国軍を押し返して行く。 と、空からエンジン音が轟いた。
ハリー「ん!? 何の音だ……?」
手下「まさか、援軍!?」
上を見ると一人のサイボーグが背中の鉄翼を広げ、翼の下にあるジェットエンジンが火を勢いよく吹き出している。
ハリー「マフィーサ!?」
マフィーサ「ダァーーーーニエエエエエルゥゥゥゥーーーーッ!!!」
限界突破した闘気を声に乗せて、両手に持っているRPG砲を王城の三階あたりに発砲した。 爆発が王城にヒビを入れたのを見て、RPG砲を捨てた。
手下「させるかッ!」
数人の手下たちがマフィーサに銃を打ち放しているが、マフィーサは銃弾を気にも止めなかった。 と、背中から鉄の花が生えて、花の中心に橙色のエネルギー玉が溜まり始めた。
マフィーサ「プリースイートイッツウウウウウーーーッ!」
言い終わると同時にエネルギー玉を発射したッ! それは空気との摩擦の唸りを上げて、破壊的なパワーで王城の三階を貫通した。 スピードを落とさず開いた穴に突入するのを撃ちながら見送るしかなかった。
時を戻して、岳斗たちはカムリに操られて、自分の武器で仲間たちをお互いに殺し合おうとしている……。
カムリ「フハハハァ! 愚か者を見るのはこの上なく愉快であるぞ。 さあ、余が最も好むシチュエーションを見せよ!!」
部屋のどこかで岳斗たちを嘲笑って、高みの見物をしていた。 その時、何かが王城にぶつかって爆発した。 予想外の出来事に動揺した。
カムリ「なッ、一体何が起きて……」
状況を把握する余裕は与えられなかった。 ビームが部屋を貫いて、カムリを掠めた。 全員驚いて、ビームで開いた穴の方を見た。
カムリ「ヒッ……!」
岳斗たち三人「……!?」
すぐにマフィーサが飛んで入ってきた。 0.3秒の探索モードでダニエルを見つけ、母親を見つけた迷子の子供のように叫んだ。
マフィーサ「ダニエルーーーッ! あのウェポンズ、エクセレントね!! ミーにモアモア武器をプリーズッ!」
ダニエル「……ま、マフィーサ!?」
岳斗「嘘だろ!? このタイミングで」
カムリはあまりの驚きに『洗脳』を意識から追い出した。 我に帰った三人がマフィーサの方を見た。 あまりの興奮でマフィーサの両目から赤い光が輝いている。
マフィーサ「ウォォォォォーーー!! ミー、バイオレンス……イェェェェェーーーース!!」
両腕を銃に変形させて、万歳しながら乱発した。 カムリが我に帰って、マフィーサを操ろうとした。
カムリ「暴走した時のために尻尾を植えといて正解だった……。 この鉄屑、今操ってくれるッ!」
ダニエル「これ以上厄介なことになる前にどうかにせねば……む?」
その時、突然ダニエルの脳裏に遠い過去が浮かんだ。




