嚆矢濫觴(こうしらんしょう)
鬼達との戦いが終わり、一夜明けた次の日の朝の事だった。
じぃさんが真面目な顔で桃に話し出した。
「桃…旅に出てくれるか?」と言うと桃は「何で?ここで迎え討つよ!ダメ?」と返した。
じぃさんは「えっ!?」と驚き、「いやっ、ダメって言うか、その…始まってしまったので…仲間集めたりとか…」としどろもどろで言っていると
「じぃちゃん。嘘だよ!冗談!わかってるよ。俺がここに居れば村の皆んなにも迷惑がかかるし。それに俺が産まれて無い時は、この村に鬼が来たなんて事も無かったんだろうしね…」と桃は言った。
じぃさんは悲しそうに「桃、、すまん」と言い、「お前に渡すものがあるんだ」と言って、奥の部屋から何やら箱を持ってきた。
箱の中をガサゴソして、中から勾玉の付いた首飾りを出してきた。
じぃさんは首飾りを手に取り「これは太郎の想いを溜める不思議な勾玉だ。どうやって溜めるのかは俺もわからない。まっ!桃なら使えるだろ!」と言い、桃の首にかけた。
また箱の中から、背中に桃太郎と書かれた派手な服を出してきて「旅に出る時に、これを着る約束らしいのだが…」と桃に着せようとしてきた。
桃はその服を見るなり嫌な顔をして、手を前に出して高速で左右に振り、早口で「結構です!遠慮します!出来るだけ主人公は避けたいので!いつもの上下、黒の服で行きます」とキッパリ断った。
じぃさんはふふっと笑い「桃らしいの」と言い、今度は刀を持って来た。
申し訳なさそうに「折れてしまっていてすまないが、これが鬼鬼斬桃と言って、鬼を斬る刀だ。先ずは、山を越えた町に行き、刀鍛冶を探して直してもらってくれ。」と言って刀を桃に渡した。
桃は「オッケー!」と軽い返事で刀を受け取った。
そして旅に出る準備を始めていった。
ある程度荷物をまとめて、旅の準備が出来てくると、じぃさんがまた話し始めた。
「本当は俺がやらなければいけない事なのに…すまない!尻拭いをさせる様な事をしてしまって…」と桃に頭を下げながら言った。
桃はニッコリ笑い「んー、何て言っていいかわかんないんだけど…こんなに大きくなるまで、育ててくれてありがとう!凄く感謝してる!」とじぃさんに言った。
その言葉を聞いて、じぃさんは下を向いたままグスグスと涙を流してる様だった。
桃は続けて「俺なりの主人公って奴を目指してみるよ!じぃちゃんの言いつけを守って、俺の邪魔しそうな奴はかわしながらね!じゃ無いと戦いばっかりで、いつか死んじゃいそうだからね。」と笑った。
じぃさんは顔を上げて桃を真っ直ぐ見て「世界が平和になったらまた…また…」と言うとまた泣いてその先の言葉に詰まった。
桃はじぃさんの肩をガシッと組み「また一緒に暮らそう!今度は桃太郎と桃じゃなくて!じぃちゃんと子供として!」と肩をグイグイしながら言い、「必ず帰って来るから」とじぃさんの肩をポンポンした。
そして家の外に出ると、村の皆んなが待っていてくれた。
「頑張ってね!」「疲れたらたまには帰って来いよ!」と声をかけてくれた。
酒場の女マスターが桃に近付き「じぃさんの事は私に任しときな!もう長い付き合いだ!心配いらないよ。それより桃!負けるじゃないよ!」と言い、桃のお尻をパーンと叩いた。
桃ははぁーっとため息をついて「まったく本当に皆んな俺に主人公辞めさせる気無いな…」と呆れて言った。
そして紋章の入った左拳を上に挙げ「とりあえず行って来る!皆んな元気でな!」と言い村を後にした。
続