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火を吹く伝説の武器

 ナイフが滅して冷静さを取り戻すことができた。


 安堵のため息を吐きつつ本来の目的に戻るのは当然な訳で。ナイフの脅威が消えてたせいか霧もすっかりなくなって辺りも散策しやすくなった。


 薬草の採取がここに足を運んだ本来の目的、危険が去ればそちらを優先させるのは当然な訳で。



「結局、あの霧は呪いのナイフのせいだったってことなんか?」

「状況から考えると、それが自然だよね」

「街を出て森に到着するまでの間、人っ子一人すれ違わなかっただろ? ならナイフは何処で俺たちに目を付けたんだ?」

「う、うーん。森の入り口に有ったんじゃない?」

「この森にゃあクエスターがごまんと来るんだぜ? 誰かが気付くだろ、普通は。なら、そう言う情報は斡旋所に入ってもおかしくねえんだよ」



 薬草を探すため地面と睨めっこのリーが隣の俺に愚痴をこぼしてくる。


 リーたちは、この森の常連である。


 彼らからすれば自分たちの仕事場の危険度が知らない間に跳ね上がっていたのだ、それはリーたちのクエスター活動にとって死活問題である。そもそも情報が入って来ないこと自体が不自然なことな訳で。


 斡旋所はクエスターの活動状況を把握した上で、そう言った情報とクエストの受理と共に提供する。


 それが無かったこと自体がリーにとってはあり得ないことだと言える。


 リーだけではない、他の二人も釈然としないと言った様子で薬草を散策していた。



「ナイフは聖なる光に浄化されちまって、これ以上の検証はできねえんよなあ。これが誰かの悪戯だったら大問題だぜ?」



 リーの至極ごもっともな意見に俺は、

「ま、まあまあ。街に帰ったら斡旋所に言うだけ言おうよ。証拠も無くなっちゃって中途半端に情報を拡めるのもマズいしさ」

と然りげ無く口止めを図る。


 俺の原因だとは、やはり口が裂けても言えません!



「街に帰ったら武器屋の爺さんをボッコボコにしてやる」

「翔太、何か言ったべか?」

「何でもない。それよりもズンダの足元に生えてる草が薬草だったりする?」



 後ろからズンダにツッコまれて、それを誤魔化すために強引に話題を変えてみる。薬草は基本の回復薬の原料だけあって、割と簡単に見つけることができた。


 それこそ適当に周囲を見渡すだけで目に入るくらいだ。


 採取開始から一時間も経たず俺たちは指定された量の薬草を集めることができた。ここに来た目的は達した訳で、であれば自然と帰り支度を手早く終わらせて、その場を立ち去るのは当然だ。


 そうなると興味は別のものへと移っていく。



「帰りがてら調査してくでゲスか?」



 俺たちの街への帰り道、会話の話題は当然呪われたナイフの一件となった。



「この森は俺たちにとってはホームだかんな。情報の欠如は財布に直結しちまうんよなあ」

「この森って世界樹のおかげで安全な場所だったんだべ?」

「街が遭難者対策に世界樹の近くに避難小屋を建てたのも、それが理由だかんな。危険なら、そもそも出入り禁止でいいはずなんよ」

「呪いのナイフだったら足を踏み入れただけで浄化されそうでゲス」

「世界樹の浄化効果は距離に反比例すんだよ。ん〜……、調査はしてえけど手掛かりが何もねえ!」



 リーは、

「うがああああ!」

と空に向かって叫んではトレードマークのリーゼントをガシガシと掻き乱してみせる。合コンと言う名の戦場の元に固い絆で結ばれた俺たちだけど、俺は完全に本当のことを言える状況ではなくなってしまった。


 深刻そうに悩むリーたち。


 俺もまた、この状況をどうやって乗り切るか悩んでしまった。


 どう言えばリーたちを言いくるめることができるか天を仰ぐ、俺たち四人は完全に周囲の警戒を怠った訳だ。



「ぐぎゃーーーーーーーー!」



 そんな隙を突くかの如く重厚な獣の声が突如として場を支配する。


 まさかの事態に俺も、リーたちも全員が声のする方を一斉に振り向いた。吸い込めば木々が香る安らぎに満ちた空間に、それとは正反対の攻撃的な獣臭が満ちる。


 俺たちは、それぞれに武器を手に取っていた。俺は咄嗟にベレッタを構えてセーフティレバーを引っ張り、振り向き様に獣に銃口を向けた。


 初めての拳銃の扱いに、つい指に力が入る。狙う獣の全容なんて確認する間も無く、銃撃音に耳を塞ぐこともできず。


 その勢いのままトリガーを指で力一杯引いた。


 チャリーン。

 ドシー……ン。



「……へ?」



 想像もしなかった間抜けな音が立て続けに鳴った。


 あまりの想定外の出来事に俺を含めたリーたち三人も体が固まってしまう。その視線は俺に集中し、それが何となくだけど分かってしまうから俺も恥ずかしさで見る見るうちに顔が真っ赤に染まっていく。


 恥ずかしくてリーたちの方を見れません!



「今の……チャリーンっつったよな……え?」

「ドシーンは何の音か分かるんでゲスが……チャリーンは、どう言うことでゲスか?」

「俺も頭が追いつかないっぺさ」

「クレジットカード払いのお金が弾丸だから銃撃音も決済音ってことなの?」



 目の前のは見事に頭を撃ち抜かれた巨大な熊が大の字になって倒れていた。撃ち抜かれた熊の頭からは夥しい量の血が噴水みたいにピューッと音を上げる。


 勇ましい野生の獣の何と哀れな最期か。


 その光景だけで俺の拳銃の威力は理解できた。

 だけど、退治した俺自身が羞恥心で死んでしまいそうだ。


 それでも、このままではマズいとゆっくりと後ろを振り向いて、

「なんか……ごめん」

とリーたちに話しかけてみる。


 ピクピクと顔を痙攣させて笑いを必死に堪える三人の顔が俺の視界に入って来た。


 堪えるあまり、三人は俺から視線を外す。



「これの何処が伝説の武器なんだよお」

「威力は間違いなく伝説級じゃねえか……ぷぷっ! 翔太、おめえの武器って確か一発ごとに一万ペレス払ってんだよな!? なあっ!?」

「笑うなよお、俺だって知らなかったんだってば」

「ま、まあ翔太のケンジューのおかげで俺たちも怪我なく助かった訳でゲスから……っぷ、ぷぷー! このジャイアントベアーは俺たちが三人でかかっても倒せないでゲス、大金星でゲス」

「それに討伐したジャイアントベアーは斡旋所に持ち込むと買い取ってくれるっぺ。今日の打ち上げは翔太の……ぷっぷぷー! おかげで豪華になるだべさあっはっはっは!」



 マブダチ三人に本気で笑われてしまった。


 リーたちは大口を開け、腹を抱えて笑う仕草を見せる、笑われた側としては顔を真っ赤にして俯くしかない。


 プルプルと小刻みに震えるだけで、俺は何も言い返せなかった。

 梅干しを頬張った様な顔付きになって言い訳の言葉も出なかった。


 それでも全員が無事なら、それでよし。


 例え俺が笑い者になろうとも場の雰囲気は平和そのものだった。


 だからこそ油断は生まれて、俺たち四人は次の瞬間の出来事に反応が遅れてしまう。



「小僧どもーーーーーーーー! 我を侮辱したこと絶対に許さんぞーーーーーーーーー!」



 呪いのナイフが俺たちの油断を突いて突っ込んでくる。


 咄嗟のことにビックリした俺は声のする方向を振り向いて、

「ええ!?」

と驚きの声を吐き出した。先ほど世界樹の光で浄化されたはずのナイフは怨念を声に変えて俺たちに向かってくる。


 その距離、目算にして五百メートル程度。


 チャリーンチャリーンチャリーン。


 飛び道具持ちの俺は握りしめたままのベレッタの銃口をナイフに向けて数回発砲レバーを引く。


 発砲音はやっぱり電子決済音で、絶体絶命のピンチの中で仲間たちの笑いを誘った。



「ぷぷーーーーーー! この距離で命中すんのは色々と凄えけど、ぷぷーーーーーーー!」

「小僧、それは伝説のケンジューだなあ!? だが我とて伝説の魔王が愛用せしナイフ、その距離なら利かぬわ!」

「あっはっはっは! 銃弾がナイフに効いてないっぺさ、ぷーーーーーー!」

「リーもズンダも笑ってる場合かよ……下手したら死んじゃうんだぞ?」



 放った銃弾はナイフに当たってキンキンキンと甲高い音を立てて跳ね返される。力尽きて地面にボトボトと落ちる様が何ともシュールだ。


 あまりにもシュールで情けなくて、伝説の武器の定義が分からなくなってしまう。



「ぷぷー……とは言え確かにピンチなのは間違いないでゲス。ぷぷー」

「メボタも笑うなよお。それより早く逃げないと」

「無理でゲス。あのナイフは逃げたって何処までも追いかけてくるでんでゲスよ。それよりもケンジューの溜め撃ちを試した方がいいマシでゲス」

「溜め撃ち? そんなことできるの?」

「溜め撃ちこそ伝説の武器の特徴なんでゲスよ。ケンジューのトリガーを長めに引っ張って溜まったら離せばいいでゲス」

「小僧どもーーーーーーーー! そこを動くなよおーーーーーーーーー!」



 ナイフは見る見るうちに加速して俺たち目がけて一直線に向かってくる。


 その速度はテレビで見たオリンピックの男子百メートル短距離走の金メダリストよりも早く、追い付かれたら間違い無く殺されると思った。


 ナイフの放つ怨念のオーラはそう感じてしまうほどのものだった。


 恐怖を覚えて十秒程度経った頃、拳銃の溜め撃つが効かなかったら如何するのかと考えるも、確かに逃げ道は無いだろうと自己解決して両手で握りしめた拳銃の銃口をシッカリと前に向ける。


 ガタガタと震える手を力付くで抑えて、ナイフとの距離が百メートルとなったところでレバーから指を外す。



 シャリ〜ン。

 今度は先ほどとは別の重厚な電子決済音が拳銃から鳴る。


 ギャップしか感じない銃撃音に俺は、

「オワタ」

と涙を頬に滴らせて空を見上げながら呟いた。



 しかし、その間抜けな音とは裏腹に拳銃から勢いよく飛び出していった銃弾は最早銃弾とは言えない代物だった。漫画やアニメで見るような魔法の類しか表現しようの無い光の球が銃口から発射された。



「なんだとーーーーーーー!? あんな小僧どもが……伝説の武器の溜め撃ちを!? それは一発撃つ度に通常の百倍のクレジット払いが請求される、人間にとっては身を滅ぼす一発だぞ!? 貴様は請求が恐ろしくないのかあ!?」

「え? なんか言った?」

「話を聞いとらんのか!? ケンジューは仲間の命を守るために自己破産しかねん諸刃の剣と言っとるのだ!! って、ぎゃあーーーーーーーーーーーーー!」



 敵が俺の財布の中身を心配する。

 それから直ぐに、その敵の悲鳴が聞こえて来た。


 見上げた顔を声の方向へ向けると俺の視界に巨大な光が入り込んできた。むしろ巨大すぎて光しか目に映らないくらいだ。敵の悲鳴は、その光の先から聞こえて来るのだ。


 その状況から悲鳴の理由は何となく察することができた。

 呪いのナイフは消滅してしまったのだろう。



「え? もしかして溜め撃ちが効いたの?」

「みてえだな。まあ、おめえのことだから支払いは心配しねえぞ?」

「百万ペレスぽっちだしね」

「ぽっちね、いつか言いてえセリフだな。あ、請求額の確認は魔力メーターでできっから街に帰ったら見とくんだな」



 リーの興味は、もはや呪いのナイフから移っていたらしい。


 とは言え相手が消滅してしまったのだから当たり前と言えば、それまでなのだけど。リーたちが仲間想いだと素直に帰結しておくとしよう。



「翔太のケンジューって威力がハンパじゃないでゲスな?」

「だっぺ」



 メボタとズンダの感想は目の前の光景を見れば一目瞭然だ。


 自分の放った銃弾によって目の前の木々が綺麗さっぱりと消滅した光景は拳銃の溜め撃ちが如何に危険か、理解するには充分過ぎるほどの結果だった。



「あの爺さん……なんてことしてくれてんのさ」



 世界樹の癒しによって心が浄化されたセイカが木の枝に引っ掛かっていた。


 おそらく俺の銃弾によって弾き飛ばされたのだろう。俺は、オキナへのツッコミを漏らしつつ、ただ呆然と目の前の事実を受け入れることに躍起になるのだった。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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