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一周して大団円

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

一定期間投稿が叶わず逆に溜め込む形となりかなり駆け足での連載となりました。


今後は止めていた連載の完結を目指しつつ、新しい作品も考えていきますので、

その際はまたよろしくお願いしますm(_ _)m

 この世界は複雑で雁字搦めに種族の事情が絡み合っている。


 大御所の姪っ子にしてサキュバスの義理の姫であるセイカが人間社会の最高責任者で、その大御所は人間社会で手広く事業を展開する敏腕経営者。


 更にその大御所は二大種族の手綱を握りしめる。


 それを人間たちは知りもせずに大御所を敵と見定めて抵抗する時代があったのだ。


 全てを聞いてふと思い浮かんだ疑問があった。


 俺は並走する彼に向かって、

「どうして大御所は封印されてたの?」

と正気を失った状態でセイカに引き摺られながら問いただしてみた。



「グハハ、封印されたからに決まっておろうが!」



 大御所から帰ってくる解答はバカ丸出しだった。質問そのものが解答となって帰ってくると受け取る方は苦労しか感じない。



「いや、そうじゃなくてさ……」



 山彦のエコーかよ!



「随分前に我の居城に迷い込んだクエスターがおってな、確か名前はオキナとか言ったか?」

「……急に聞きたくなくなってきた」



 その名前が大御所の口から出たら粗方の想像ができてしまう。



「我の居城と知らずに迷い込んだ様子でな、当時魔王だった我と鉢合わせするなり慌てて脱兎の如く逃げ出しておった。その時に落としたアイテムが封印のタキシードとウェディングドレスだったのだよ」



 ……最後までお前か。


 大御所はオキナの落としたアイテムに触れたことで問答無用に封印されたと語っていた。昔話だったからか、彼の口調は少しだけ柔らかかった。


 目を細め、顎に手を当てながら昔はこんなことも有ったと青春を語る老人の様な表情を大御所は浮かばせる。



 その傍らで俺はオキナのやらかしに顔面がカチコチに固まってしまう。

 セイカに引き摺られながら空を仰ぐ姿勢で俺は動かなくなった顔の筋肉を無理やりに動かそうとする。それでもピクリともしない自身の筋肉に俺は降参してしまう。


 笑い声すら引き攣って俺はオキナのやらかしを心の中で静かに大御所へ謝罪するしかないのだ。



 それと同時に気付くこともある。



 大御所のアイテムの具体的な形状の説明に反射的き上半身が起き上がる。キョロキョロと周囲を見渡して嫌な予感がプンプンと臭う光景に首が固定してしまった。



 アイリスとトメさんが笑顔で話し込む光景だ。



「……魔王、質問」

「我は大御所で魔王は貴様の方だ、グハハ!」

「その封印のタキシードとウェディングドレスって、どうやって使うの?」

「グハハ、貴様も妙なことに興味を持つ男だ! アレは共鳴することで効果が発揮される代物よ、それぞれを着込んだ者が抱き合うことで共鳴し、それに触れた者を有無を言わさず封印してしまうのだ!!」



 トメさんに懐く様子のアイリスが抱っこしてくれとばかりに両手を上げる。トメさんもまた母性全開でアイリスの小さな体に手を伸ばす。



「アイリスちゃんは本当にいい子だねえ」

「おばあちゃん、だっこしてえ」



 そして近くにはティアラ、最強の合コン荒らしは微笑ましい光景する許せない性分らしい。


 歴戦の合コン荒らしが今、二人に絡んでしまった。ティアラは後ろから二人の方を無造作に触れる。



「そう言うの超ウザいんですけどお〜。私の結婚式でえ〜あざといガキがお小遣い目当てにババアに懐くなってのお〜。……って、キャアアアーーーーーーーー! なんかあ凄い力に体が吸い込まれるうううーーーーー!!」



 ティアラはランプの魔人の如く、タキシードに吸い込まれてしまった。


 彼女の悲鳴すらも一瞬で消え去ってしまった。俺はと言うと見てはならないものを見てしまったと、咄嗟に顔を両手で覆う。


 ズルズルと引き摺られつつ、必死に言い訳を考えていた。


 眼の前にいたはずの二人は、

「おばあちゃん、だれかのこえがした〜」

「そうだねえ、肩に感触があったねえ。でも誰もいないみたいだけ気のせいかねえ」

とティアラの存在にすらまったく気付いていない様子で、やはりニコニコと笑顔を浮かばせてトメさんがアイリスを抱き上げる。


 ティアラを襲った現象に気付いた人物は二人。


 俺とズンダは開いた口が塞がらなくなってパクパクと口を動かすだけ、アイコンタクトの会話のみで話し合いを終わらせた。



 俺たちの出した結論は、

「片方は証拠隠滅完了」

「トメさんが無事なら何でも有りだっぺ」

とバラバラな内容だった。


 この時の俺たちがまったく意思の疎通が叶っていなかったことは墓場まで持っていく事案である。



 ティアラの消滅は疾走扱いになるも、実の親さえも直ぐに忘れてしまい俺はソッと胸の中で未来永劫仕舞い込むことになる。ティティアラもモンピアも少しは自分たちの姫様を心配しろよ、と合コン荒らしに同情したのは内緒の話。



「お兄ちゃん!」

「だからセイカさんもお兄ちゃん呼びは本当に勘弁してよおおお……」

「以前にも言いましたけど妹が四人もいるので実家の家計が苦しいんです! 結婚したら屋敷に家族を住まわせても良いですか!?」



 セイカは会場に向かって真っ直ぐに走る。

 俺の事情など本当にお構いなしな様子で、何時だって前しか向いていない。俺が体を縛り付けて街へ出かけた時も勝手に抜け出しては無茶をする。


 今回は自分の実家を心配して結婚後のことを、本当に突拍子もなく相談してくるのだ。



 その表情は見なくとも想像がつく。



 彼女は笑っているのだろう、耳に届く声色と俺たちに並行して走る大御所の表情を見れば分かってしまう。


 ふと思い出す。


 セイカは家族が絡むと元気が溢れかえって、それこそ周囲の目など気にすることなく暴れる女性ひとだった。


 そう言えば出会った時も妹が四人いるからと家計のことそれとなくチラつかせていたなと、あの行動は自身よりも家族を優先させてのことだと今更になって納得してしまった。



 セイカは決して悪い人ではない。



 それは四十代に突入して声が渋くなったとしても変わらない部分だ。気が付けば俺は彼女を受け入れる理由ばかりを探していた。


 俺は世間体だけを気にして彼女との結婚を頑なに拒んでいた気さえし始める。



 俺は自分自身の想いが一番分からない。



 ズルズルと引き摺られながらポツリと、

「セイカさんは幸せなの?」

と踏み込んでみた。



「答えはノーです!」



 意外な答えに耳を疑ってしまった。



「出会った頃は結婚を嫌がっていたよね?」

「首都は財政難で、ふるさと納税の施策を立案しても誰も手伝ってくれないし知らんぷりを決め込むし。あの時は完全に不貞腐れてました!」

「最高責任者が不貞腐れたらダメでしょ……」

「街の皆んなは元々諦めてるんです! 異世界との外交も適当で一円二十億ペレスの円高になっても、自分のせいじゃないって他人のせいにする。そんな状況を改善しようと動くにも応援してくれるのは家族だけなんて状況、誰も関心を持ってくれなかったら不貞腐れます! だから、あの時はなんで私がって気持ちが強くてツンデレしちゃったんです!」



 色々とツッコむところは潜在する。

 納税のために移住者と結婚しろなど人身御供以外の何者でもない訳で、それなら根本的にルールを変えろと言いたくなる。



「現地民と結婚するか仕事しないと永住不可なんてルールを変えればいいじゃないの?」

「治安が悪化します! お兄ちゃんくらいお金に余裕がある人なら私の味方になってくれるって信じることにしたんです!」



 即答だった。

 セイカはまったくの考えなしでは無かったらしくスッパリと言い切った。並走する大御所もフォローする様に、

「グハハ、それでは無尽蔵に住民が増えてしまうだけだ! 無意味な住民の急増は治安悪化の要因である!」

と続けて補足する。


 街の人間たちにとっては大御所が治安の悩みのタネなのでは? と思うも敢えて口を紡ぐ。



 ふと思い出す。


 大御所が以前に言った発言、セイカはクセになる。強い想いを抱く彼女が俺も大御所と似たような感覚が芽生えだしてしまったのだ。



「札束で殴ってから人が変わった様に感じたのは、そう言うことなんだ」

「お兄ちゃんと出会えて私は、もう一度だけ頑張ろうって思えたんです!」

「トラウマで死ぬから、そろそろお兄ちゃん呼びはやめて欲しいなあ……」



 吐いた愚痴も知らずのうちに他意も無く、照れを隠そうとする自分自身が逆に恥ずかしく感じてしまう。


 引き摺られる形ながら足を握りしめるセイカの温もりを感じながら俺は覚悟が決まった。ここまで求められては嫌な気持ちなど有ろうはずも無く、俺は情けない格好で結婚式のリハーサルへ臨むこととなった。



「グハハ! 我の言葉に嘘は微塵も無かったであろう!?」

「言い返したいって考えるのは俺の器が小さいってことなのかな?」



 大御所は何も言わずニヤリと不敵な笑みを俺に向けていた。


 今日も異世界の天気は晴天で、俺もここから先は心を曇らせることは無いだろう。



 こんな平和なドタバタが毎日ずっと続きますように。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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