人生のオワリは重婚で
気を抜くと一気に押し切られる。
波動となってビリビリと伝わる光の球の衝撃はその場の全員を脅しにかかる。一瞬でも気を抜けば魂ごと消滅する恐怖に駆られた。
魂の有無など関係無く誰もがそう感じるだけの迫力が光の球にはあったのだ。
もっと細心の注意を払えばこんな筈ではなかったと、
「魔王の馬鹿力のせいで一苦労だよ!」
と光の球の対処に追われながらも大声で苦言を呈する。
魔王の役目は光の球の勢いを殺すこと。
もう少し加減して軌道を修正してくれれば、こんな苦労はしなくて済んだはず。俺を追い込もうと迫り来る光の球の威力は半分が魔王のせいなのだ。
本人はその自覚がまったく無いらしく、
「グハハハ! 我も素晴らしい仕事をしてしまった、この手助けは特別大サービスだ! 払いはツケでも構わんぞ!!」
と恰も俺に対する貸しだと言わんばかりに上機嫌だった。
ツケなど以ての外、そもそもこれは貸しだ!
「ぐおおおおおおおおーーーー……、俺の腕が折れちゃうよおおおおおお」
「折られるくらいなら自ら折ってしまえい! 我が骨を拾うと約束しようではないか、グハハハ!」
理解し難い思考回路は意味不明な発言で他人の気概を圧し折ろうと襲いかかって来る。魔王の理論は誰かに折られる前に自分で折ってしまえば敗北ではない、つまり折られない努力は放棄すると言うものだった。
魔王は脳みそが複雑骨折しているのだろうか?
俺の腕が骨折した時は医療費全額を魔王に請求してやろうか?
「ずおりゃあああああーーーーー! あっちへ行けえええええーーーーー!」
「随分とご苦労されておりますわね? 芝崎様、頑張って下さいな」
「ぐっ、ティティアラさんも他人事みたいに。少しは手伝ってよお、夫婦の責任は折半なんだろお?」
光の球に押し切られまいと必死に抵抗する俺にティティアラは話しかけるのだ。無関係と装う彼女の様子は素人目にもわざとらしく映る。
まるで偶然通りかかったと言わんばかりに、
「あらまあ、殿方の上腕二頭筋ってセクシーですわあ」
とオーバーフォーは俺の腕を指でなぞって邪魔を始める。
俺を押し込む光の球の威力は魔王の責任を差っ引くと残りは全て彼女が原因だ。
にも関わらずティティアラは浮ついた様子で俺に纏わりついてくる、終いにはフーッと俺の耳元に息を吹きかける始末だ。
そんな邪魔が入れば俺も気が抜けてしまう。
「うひゃあああああ……力が抜けるうううーーー」
「おっもしろーい。芝崎様の膝がガクガク言ってるうー、ホホホホ」
「もっと本腰で取り組まんかあ! 貴様、我が手助けをした恩を忘れてはおるまいな!」
「ど正論で冤罪を二人がかりで擦りつけないでよお……」
魔王からまさかのお叱り受けてしまった。
ティティアラはと言えばあくまで無関係を装って俺の全身を指で一筆書きでなぞり続ける。この二人は俺の邪魔をしたいのか、それとも助けたいのか。
この絶体絶命の状況下でコイツらは結託して無自覚に命懸けで俺を弄んでくるのだ。
その横で聖剣がソワソワとしながら俺たちのやり取りを覗き込んでいた。いつ復活したかは定かでは無いが、その様子は寂しさから友達の輪に入りたいと望む転校生の様だった。
聖剣にまで邪魔されては堪らないと、
「仲間に入れないよ?」
と先に牽制をすると彼は、
「がーーーーーん」
と聖剣らしからぬショックを受ける反応を見せていた。
皆んなが寄ってたかって俺の邪魔をする。
悪気が無いのがタチの悪さを感じさせる訳で。
魔王もティティアラも早く打開しろと、この状況で俺を急かす。左右から肘で俺を突いて収拾をつけろと簡単に言うのだ。
集中などさせて貰えず俺は考えた。
考えて頭を抱えて悩んで。
すると唐突に名案が閃く。
思い付いたら即行動と背中に左手を伸ばして、
「どうして初めから可能性を捨ててたんだろう」
と自分の愚かさに呆れながら背負っていた盾を構えた。
魔王も俺の様子で何がしたいか察したのか、
「グハハ、面白いことを思い付いたものだ! 我も先代すらも思い付かなんだぞ、グハハハ!」
と感心する様に面白がってくれる。
右手で光の球を御しつつ左手で盾を構えて準備は万端だ。
誰もが試したこともない試みに込み上げる興奮と不安は口から逃げる息に乗って全身から押し出されると、いつも間にか冷静さを握り締めていた。俺の変化に魔王もティティアラも既に悪ふざけは興味が無いと、半歩下がって興味津々と注視する。
「上手く行ってくれよお。ぐはははは」
「グハハハ! 魔王オーラを極めし者よ、今こそ存分に暴れてみせい!!」
「盾へ魔王オーラを注入開始だ」
「間封じの盾を光属性の魔王オーラで強化とは見事としかいいよがない発想だ、グハハハ!」
盾を体の一部と捉えてオーラで強化。
「……成功した、いけえええええーーーーーーーー!!」
思い付きで試した試みは見事に成功して光の球の圧力が一気に弱まった。それどころか逆に後退して、気が付けば信じられない速度で吹っ飛んでいった。
それこそ魔王が殴り飛ばした時の様に凄い勢いで弾き返されていく。
その光景を見ながら安堵の息を吐いて、ようやく事件は解決したと確信できた。疲労で腰から力が抜けていく感覚があった。張り詰めた緊張が針で刺された風船の如く萎んでいく感覚、立つ力さえ失って俺はその場で尻餅をついてしまった。
するとすぐさま俺の背中を叩く人物が現れる。
「グハハハ、上出来だ!」
魔王が座り込む俺に労いの言葉を送ってくれた。
ここまで俺に苦労を強いた張本人は自分のやらかしを笑って誤魔化す達人で、その労いの言葉で余計に疲労が溜まる感覚だけが残るのだ。
それでも彼のペースに乗せられながらも乗り越えた経験は大きい。
成長できたことを実感して俺は自然と笑みを零す。
「疲れたあああーーーーーー。当分は屋敷に引きこもって休養だな」
「グハハハハハ! 貴様にそんな暇はあるまい!」
「え?」
しかし、この魔王はそんなに甘くない。
自分の願望を否定されて、振り向くと魔王は魔王らしく口元を吊り上げて俺を地獄へと誘うのだ。
コイツは魔王だ、それを俺は今この時、改めて思い知ることとなる。
「貴様はノベナアーツと結婚するのだろう!? 明日から結婚式の段取りを進めるぞ、グハハハハハ!!」
「……覚えてたの?」
「ついでにティティアラの娘とも結婚してしまえ!! 面倒ごとは一気に終わらせた方がよかろう!!」
「俺の人生オワタ」
俺の人生は魔王との出会いを境に閉まることのない地獄の門が開かれていたらしい。
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