グハハハハハハハハ!
「グハハハハハハハハ! もっとだ、もっと体内に力を取り込むのだ!!」
「ぐははははははははは! ぐはははははははははは!!」
「声が小さい! 今一度だ、グハハハハハハハハハハハハ!!」
やはり魔王は魔王だった。
ティティアラの生み出した光の球は先ほどよりも巨大なことは一目瞭然。
それ故に、より多くの力を体内に蓄える必要がある、それは俺にも理解できる。だから文句は言わない、言える訳がない。
問題があるのは力を蓄える方法だ。
俺は何処ぞのレスラーの親子が実践する健康法の如く腹から笑い声を笑顔で出し続けていた。魔王がこれしか方法は無いと言うから渋々も従いはする。
にも関わらずだ。
どうして俺は周囲から冷ややかな目で見られながら笑い続ける必要があるのか?
皆んなの目線が笑顔ながら何処か冷ややで泣きたくなってしまった。
「ぐはははははははは!! ああーーー……、疲れたあ。のど飴頂戴よ」
「存分に食すがいい、後で歯を磨けよ、グハハ! 魔王オーラは先代の魔王が人間の落としたドロップアイテムより獲得したスキルでなあ、完全に使いこなすまでは少々骨が折れるやもしれん!」
「意外。後天的なスキルなんだ」
「数十年前のことだ、愚かにも先代へ挑んだ駆け出しのクエスターがおってなあ。ソイツが伝説の聖水を逃げる際に落としていったのだよ。戦利品を飲み干した先代は魔王オーラに目覚め、更に強さが増したと言う訳だ。グハハ!」
魔王が魔王の歴史を語る。
喉を痛めた俺にのど飴を放る魔王は何処か楽しそうだった、先代の魔王とやらを語る目付きもキラキラと輝いて嬉々とした様子は明らかだった。
身振り手振りを交えての語りは俺も聞き入ってしまいそうになる。
しかし今はティティアラが生み出した光の球を片付けることが先決な訳で。名残惜しくはあるが俺は魔王の語りに待ったをかけた。
「今はそれどころじゃないから後でゆっくりと聞かせてよ」
「グハハ! 良かろう、オキナとか言う愚かなクエスターの話はティティアラの奥義を片付けてからジックリと話そうではないか!!」
「ちょっと待った。……先代の魔王に挑んだクエスター、オキナって名前なの?」
一気に風向きが変わった。
「気が変わるのが早い奴よ、グハハ!」
俺が突然食い付いたから魔王も笑いながら怪訝な表情へと一変する。俺の視線がクルリと方向転換したことに違和感を感じた様子で、首を傾げるのだ。
俺も自分から魔王の昔話を後回しにしおいて申し訳ない気持ちはあった。
魔王の答えに粗方の予想が付いて地の底から響く様な声で、
「またお前か……」
と恥ずかし過ぎるスキルの習得を強要された恨みを漏らしてしまった。
時を超えるばかりかオキナは魔王経由でやらかしてきたのだ。
全身で怒りを震わせる俺に魔王は、
「グハハハハハ! それよりも早く力を蓄えるのだ、もっとだ! グハハハハハハハハ!!」
と更に恥を上塗りしろと言う。
「こうなったらヤケだあ! ぐはははははははははははははは!!」
「その調子だあ、グハハハハハハ! ……そろそろか、今から全開で魔王オーラを解き放てええええーーーーー!!」
「ぐははははははははは、うおおおおおおおーーーーーーーー!! 魔王オーラ全力開放うううーーーーー!!」
魔王の号令で体内から取り込み続けた力を解き放った。
見様見真似ではあるが、上手くオーラをコントロールできたらしい。俺と魔王を中心に突風が吹き荒れる。生まれた突風が俺たちの全身を轟音を上げて包み込む感覚だ。
それは時間と共に穏やかさへと変化する。
全身から力が漲る様な、同時に誰かに守られている。そんな安心感で満たされる心地だけが残る。魔王オーラとは名ばかりの聖女の如く清く美しい力が優しく俺を包み込む。
「これが魔王オーラ……」
「貴様の生まれ持った魔王の才能は一級品だ! やはり我の見立ては正しかった様だ、グハハハ!」
まったく嬉しくないお褒めの言葉。
金で買ったとは言え俺は勇者から魔王へと転職を果たした訳で。勇者とは正反対の魔王の才能がある、まるで今話題の二刀流日本人メジャーリーガーにでもなった気分だ。
今だけは憧れるのをやめた方がいいのか?
……だがこの現状、落とし込み方によっては悪くはない気もする。
「それで魔王、これからどうするの? 光の球を思いっきりぶん殴ればいい?」
「うむ! 今回は前回よりも球のサイズが大きい故、我が一度浮かせて勢いを殺す。貴様はトドメの一撃で空の彼方へ吹き飛ばすのだ!」
「トスからのアタックだね。了解」
「そろそろ私も光の球を維持するために姿勢が辛いですわ。肩を上げ続けると痛みが酷くなりますの」
ティティアラは四十肩か。
だが口が裂けてもそれは指摘できない、下手に機嫌を損ねれば彼女の怒りが俺に向くこともあり得るからだ。
意外と鋭い魔王はそう言う他人の思惑を敏感に察知して、
「グハハ! それで正解だ、ティティアラに殺されるぞ!」
と聞かれたくない発言を大声で張り叫ぶがタチが悪い。
「それでは行きますわ〜。ゆっくりとゆっ〜くりと、そ〜れ」
「うわわ! ティティアラさん、合図もしないで投げないでってばあ!」
そこにティティアラが空気を読まず光の球を俺たちへ向けて放り投げる。
今、最も問題のセイレーンの奥義が俺たちの方に向かってくる。ゆっくりと、ジワジワと世界を崩壊させるだけの威力を携えて光が接近する。
眩しさで思わず目を瞑ってしまいそうな光の球の裏で、
「新郎新婦の初めての共同作業ですよ〜」
とティティアラは完全に新婚気分だった。
「グハハ! ティティアラは浮かれておるなあ!」
「魔王は手筈通りに頼むよ、ぐはは」
「任せておけい、グハハ! 貴様は我のトスを先回りして待っておるのだ!」
視認が容易なほど強大に膨れ上がったオーラを纏った魔王が臨戦態勢へと移行を開始する。拳法の達人が呼吸を整える様にゆっくりと息を吐き両腕を弧を描く。
魔王の本気に周囲が固唾を呑む音が鮮明に聞こえてしまった。
静寂の中で魔王は一定の速度で進む光の球を待ち構え、再び両腕が動く。半身の姿勢となって距離を測るためつもりなのだろう、彼は開いた左手を前に突き出した。
逆手の右手にオーラをより濃く纏わせて脇の位置に固定される。
「おお、オーラって部分的に強化できるんだ。ぐははははは」
「グハハハハハ! 貴様とて他人事ではないぞ、やらねばティティアラの奥義は弾き返せんぞお!」
「え? マジ?」
「大マジだあ! グハハハ!」
オーラ初心者に上級者のテクニックを駆使しろと魔王は魔王(初心者)俺に要求する。
一見無茶振りに見えるが、これまでの魔王の言動から信頼されている気がした。そうなると自然と自分で試行錯誤する様になる訳で。
「……できた」
「呆けておる場合では無いぞ! グハハ、トスだああああーーー!!」
「ぎょええええーーーーーー! せめて合図してよおおおーーー!!」
拳の強化に成功して感動を覚えた俺に魔王は無慈悲にも手加減無しで光の球を軌道修正する。メキメキと音を立て力を込めた右拳をフルスイングで光の球に放り込んでいた。
魔王は手加減を知らない様で。
せっかくティティアラが手加減して投げた光の球を全力で殴ったのだ。その結果、俺に向かって高速で光の球が迫ってくる。
それは移動速度を追い越して視覚で俺に精神的なマウントをかけようとニヤリとほくそ笑んだ気がした。
そうなれば本能的に心も体も拒絶を示す。
「勘弁してくれよおおお……」
「グハハハハハ! 愚痴を零す暇があったら体を動かすのだ!!」
「ど正論かよ、くっそおおおおーーーーー! こうなったらヤケだあああーーーーー!!」
「良い咆哮だあ! グハハハ、全身全霊を込めて空の彼方へ吹っ飛ばしてしまえい!!」
俺も魔王を見習って自身の全てを込めた右拳を突き出した。
魔王の声援が俺の背中を押してくる。
他の仲間たちも俺に声援を送ってくれる。
「翔太あ! 負けんじゃねえぞおおーーーー!」
「俺たちの分も頑張ってくれっぺよおおーーーー!」
「ゲスーーーー……」
「お兄ちゃん頑張って下さーーーい!!」
仲間たちの声援に若干のトラウマを思い出しながらも放った正拳突きが光の球と衝突を果たした。その衝撃が世界樹を中心に一気に周囲へ拡散していく。
事前に勢いが弱まったとは言えセイレーンの奥義は、やはり生半可なものでは無かった。想像以上の威力を拳で直に感じ取って、歯を食いしばる。
俺と光の球の攻防はギリギリのシーソーゲームの様相が顔を覗かせ始めていた。
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