表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/50

困った時は笑って誤魔化そう

 聖剣あほと一種族の族長おにの衝突は誰の目から見ても回避不能な状況だった。その様子に俺は諦めの感情をため息に変えて隣に視線を向ける。


 その視線の先で魔王ばかが、

「グハハハハハ! 両者とも血が激っておるではないか!!」

と二人を煽るのだ。魔王ばかは何処まで行っても自由気ままで一貫して戦闘狂の様相を崩すことはない。


 先ほどは戦闘に胸焼けしたと発言した魔王ばか


 彼は観戦であれば限界を感じないタイプなのだろう、正にバトル観戦は飲み物だとでも言いたげに彼は前のめりになっていた。


 ティティアラと聖剣あほの衝突を今か今かと待ち侘びていた。



「このままだと埒が明かないよ」

「ん? どうした、互いのプライドを賭けた熱風吹き荒れる戦闘を見逃すことほど勿体無いものは無いぞ!! グハハハハ!」

「魔王とキャラが被るんだよなあ……すううううううう……」



 背に腹はかえられぬ。


 胸を張り大きく息を吸い込んでピタリと動きを止めた。目の前の諍いが及ぼす影響を考えると誰かが止めないと駄目なのだ。


 魔王ばかは終始スポーツ観戦に興じる姿勢でアテにはできない。


 俺は消去法で自分が何とかせねばと諦めの境地だった。吸い込んだ息が危うくため息になりそうな中でギリギリで踏み止まって慣れない音量を叫んだ。



「ぐははははは!! 聖剣よ、俺はサキュバスの姫と結婚する男だ! ……遂に言っちゃったよお」



 これには流石の聖剣あほも無視はできなかった様で。


 驚きすら忘れてすごい勢いで俺の方を向く。



「何だとお!? ガキが口からデマカセを言うと我輩が許さんぞ!!」

「本当だ! この男はノベナアーツ、我が姪っ子にしてサキュバスの義理の姫との結婚が決定しておる!! グハハハハハ!!」

「な、何いいいいいいいーーーーー!? 吾輩は聞いておらんぞ!!」

「ぐははははは!! 更に! 俺はセイレーンの姫とも結婚する予定だ!! ……自分で言ってて虚しいよお」



 水戸黄門にでもなった心地がする。


 俺のカミングアウトに対する聖剣あほの反応は面白いくらいに俺に突き刺さってくる。


 俺の心臓に何本ものナイフがグサグサと突き刺さってくる光景を垣間見た気分だ。



「吾輩が敬愛するサキュバスと忌み嫌うセイレーンの姫を同時に娶るだとおおおーーーー!!」

「グハハハハハハ! サキュバスは人間がいなくなれば生存もままならぬ、それ故に奴らは勇者となって人間を守るため我を人間の敵と勝手に決め付けて戦っていたのだったな!」

「あれ? 聞いて話と違う。魔王は人間のためにサキュバスとセイレーンを抑え込んだんじゃなかったの?」

「グハハ! 人間たちは自分たちが守られているなど微塵も感じておらんわ! その上サキュバスは強い、それ故に一度戦闘となればそもそも人間を無自覚に巻き込んでしまうのだ!」

「あーー……ぐははははは。この笑い方、虚しいな」

「サキュバスと人質交換の体を成した理由はセイレーンとは違い奴らが我を攻め込んで来るからだ! グハハハハハハ!」



 沈黙が一気に辺りを包み込む。


 そのせいで魔王ばかの高笑いがいつも以上に耳障りだ。今回は聖剣あほの甲高い叫び声と相まって余計に煩く感じてしまう。


 驚きのあまり聖剣あほは俺の溜め撃ちを蚊を振り払うかの如く弾き飛ばしていた。


 火事場の馬鹿力かな?


 あまりにも簡単に自分の奥の手を遇われて密かにショックを隠しきれず膝を突いてしまった。


 あまりのショックに、

「ぐはは……俺の結婚が世界を救っちゃうの?」

と世界の人身御供となった自分を思わず嘆く。



「芝崎様のグハハはあまり意味がありませんでしたわね?」

「恥を忍んで魔王ポーズに踏み切った自分がピエロみたいだ……」



 間髪入れず突き立てられたティティアラのツッコミが的確過ぎて目尻から涙がこみ上げてくる。手で顔を覆っても涙を塞き止められずにいる。


 ティティアラには気遣いの一つも覚えて欲しいと真剣に願うばかりだ。


 一番騒がしかった聖剣あほに至っては、

「このガキが……平和の架け橋だと?」

などと驚愕の感情を声色に乗せて呟くだけで大人しくなっていた。


 場が静まり返ると他の音が耳に入る様になってくる。


 下からはリーやズンダの泪ぐんでせせり泣く音と共に、

「流石は芝崎様ザーマス。私たち親娘が添い遂げるに相応しい器ザーマス」

や、

「お兄ちゃんはやる時はやる男なんです!」

と言った賞賛の嵐が俺を殴り付けてくる。


 褒められれば褒められるほどに新たな罪悪感が生まれるのは気のせいなのだろうか?


 周囲の様子に魔王ばかが、

「流石は我が認めし男也! やはりノベナアーツを託せる男は貴様だけだ、グハハ!」

と何故か誇らしげに語る。お前の言うとおりにした結果、不要な恥をかかされたのは俺だとクレームの意味でぶん殴りたくなってしまう。


 それでも、それは些細なことと。


 偶然視線を向けたティティアラに俺にニッコリと微笑んで、ヒラヒラと手を振ってきた。すると次第に彼女は困った様な様子を覗かせ始めた。


 そして彼女のまさかのカミングアウトによって俺の怒りは逆に何処かへ吹き飛ばされてしまったのだ。



「これ、どうしましょう。ホホホホホ」



 ティティアラは光の球のぶつけどころを見失って、眉を顰めながら俺に話しかけてきたのだ。



「ティティアラさんも俺に免じて怒りを抑えて貰えますか? まずは光の球を消すところから……」

「我がセイレーンの奥義は一度生み出すと消せないのです」

「もう嫌……」

「どうしましょう〜。でも私も芝崎様の未来のお嫁さんだしい〜、責任は夫婦折半と言うことで宜しくて?」

「……言いわけあるか」



 ぶん殴りたい奴が俺の周りでドンドンと増殖し続ける。

 ティティアラは子供みたいにぷくーっと頬を膨らませて、

「えええーーーーー、夫婦は助け合うのが当たり前なのですよお? プンスカプンスカ」

と他人を逆撫する擬音語を連呼する。


 咄嗟に懐から札束を取り出してティティアラに往復ビンタを喰らわせてしまった。



「あん! ああん、あっ……あ〜〜〜ん♡」

「翔太ってよお、感情が昂ると札束で女を殴る奴なんよなあ」

「リーも一言多いべよ。俺たちだけでも静かに見守ってやるっぺさ」



 二人とも煩いな。

 俺も他人に指摘されて痛感させられた。



「芝崎様、お困りか!? 吾輩ならばセイレーン如きが生み出した光の球をいとも簡単に消し去ってくれようぞ!!」

「お? 聖剣君、急に様付けなんてどうしたの?」

「サキュバスの姫君と結婚するとあれば吾輩にとっては芝崎様はマスターも同然、ならば役に立ちたいと思い立つは至極当たり前ですぞ!」

「それは有難い。で、具体的には?」

「はっ! 光の球を剣先で突いて爆発させます!!」

「却下」



 やっぱりアホか!


 この場で爆発させたら俺も危ないだろうが、そもそも世界樹の目の前で爆発させたらセイレーンとの遺恨が確実に残る。


 間髪入れずに却下をすると聖剣あほは見るからに影を落として落ち込んでしまった。剣のくせに隅っこでいじけてしまった。


 ここは動物園ですか?


 少しはまともな意見を言える人物はいないのかと辟易してしまう。


 だが、俺が困り果てると決まって助言をくれる人物がいた。

 彼は後ろから俺の肩にポンと手を置いて自信を漲らせたまま俺に話しかけてくるのだ。振り返ると魔王ばかが気持ちのいい笑顔を浮かばせて親指を立てている。


 俺の本能はもう魔王ばかにすがる他ないと無意識に結論付けてしまった。



「魔王ポーズだ、貴様が魔王オーラを習得するしか全員が助かる道は無い」

「ああーーーー……一番現実的な意見がそれかあ。間封じの盾で消しちゃえば……」

「グハハハ、今回ばかりは威力が桁違いだ! 盾では厳しかろう!」



 魔王ばかが軽々とティティアラの光の球を殴り払った光景が脳裏を遮る。



「我も手伝ってやる故、貴様もいい加減に腹を括るのだ、グハハハハハ!!」

「ぐはははははーーーーははーー、……はい」



 魔王ばかの提案にガックリと肩を落とすも、覚悟は決まった。


 聖剣あほが一人いじける中で息を整えて俺は魔王ばかと隣り合い精神を高め始めたのだった。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ