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ギロチンとリバース

「必殺必中!! 聖・殺与奪せいさつよだつうううーーーーーー!!」



 聖剣あほが必殺技の名前を叫んで突っ込んできた。


 聖なる感じがゼロの必殺技はただの突進で、必殺必中の感じもゼロだった。

 むしろマイナス。


 何処の誰がこの剣を聖剣と名付けたのか、それを考え出すとムカムカが治らなくなる。名も知らぬ過去の誰かのやらかしに苛立つ中で俺は右に飛んだ。


 ティティアラは翼で羽ばたいて、魔王ばかは俺の左に回避の動きを見せる。



「グハハ! この聖剣に斬れぬものはない、貴様ら死ぬ気で避けるのだ!!」

「地面を一周して空から降ってくる剣だもんなあ」

「ホホホ、私は無関係ですのでドロップアウトしますわねえーーーー。ダーリン頑張ってええーーーーーー」

「えええええ? ティティアラさん手伝ってくれないの?」

「私の怒りは芝崎様との結婚でケジメがつくました、ではではーーーー。ホホホホホ」



 セイレーンの族長おには投げキッスを残して下に降りていく。

 リーたちの元へとゆっくりと着地すると今度は何度も手を振って、

「今日の晩御飯はハンバーグですよおーーー」

と新婚コントを始めるのだ。


 そこに俺の意思は?


 下からはセイカとティティアラにモンピアが黄色い声援を上げる。

 仲間たちは諦めろと言わんばかりに俺に同情を向ける。一人だけ何処からか邪な殺意を向けるメボタはいつまで経っても行方不明のまま。


 俺はたった一人、魔王ばかと一緒に聖剣あほが飛び交う空間に取り残されてしまった。



「俺、寂しくて死んじゃうよ?」

「グハハハハハ、次期魔王ともあろう男が情けないこと言うではないか!!」

「勝手に魔王にしないでよ」

「いや、ノベナアーツと夫婦になれば貴様こそが次代の魔王を継ぐ者だ! その暁には我は大御所にでもなって一人の戦闘狂として余生を過ごそうではないか!!」

「……今も充分に戦闘狂じゃないか」

「何をグダグダと言っとるかああーーーーー!! 吾輩こそは聖剣『邪神身代あらぶるかみのうつし』也いい!! 闇属性の真髄を見せ付けてくれようぞおおーーーー!!」

「ツッコむ勇気が湧いて来ない、何処からツッコめって言うんだよおおーーーーー!!」



 チャリーンチャリーンチャリーン。


 シャリ〜ン。


 必死の抵抗に拳銃を握りしめて何発も銃弾を撃ち込むも、聖剣あほは金属音を鳴らして全てを跳ね返す。セイレーン以上の高速飛行で聖剣あほは突っ込んで、回避されては空中で旋回し突撃を繰り返すのだ。


 攻撃が効かないと分かると俺は頭を抱えて逃げ回るしかない。


 コイツは出会った敵の中で間違いなく最強の敵だ、隣の魔王ばかと同レベルだ。



「グハハ、聖剣は闇属性が強すぎて世界樹の癒しさえも跳ね返す! 芝崎翔太よ、貴様はどうやってこの強敵に抗うか!?」

「魔王も無駄口はいいから戦ってよ!」

「貴様との契約は世界樹との戦いを共闘せよ、だったな? ティティアラの一件は姪っ子が原因だった故に手を出したが今回は手伝う理由が皆無。我も戦いすぎて胸焼けがしてなあ、いまは食休みだ。グハハハハハ!!」

「この期に及んで勘弁してくれよおおお……」



 魔王ばか聖剣あほとの戦いを傍観すると言う。

 彼は他の枝に乗り移って寝転がる、懐から酒瓶とポテチを取り出してスポーツ観戦を楽しむ格好となった。


 時折、

「グハハ、いいぞ! ドンドン攻めよ!」

とジェスチャーを交える姿は甲子園ホールでボクシングの試合を楽しむそれだった。


 しかし今の俺には外野を野次する余裕などあろうはずも無く。


 俺は幾度と無く繰り返される聖剣あほの突撃を延々と避けるしか無かった。



「量産型の伝説の武器程度で吾輩の体に傷が付くと思うなよおおおーーーーーーー!!」

「量産型と伝説は両立しません……うおっとお!?」

「いちいち煩いガキめがあ!! 喰らえい、必殺必中、一殺多いっさつたしょう・聖!!」

「それって一人を殺してたくさんの人を助けるって意味だよね!? うっひょおおおーーーーーー!!」



 技の名前は変わろうと、結局、聖剣あほは同じことを繰り返す。


 しかも角度を変えて執拗に続く、目に見えない速度で右から左へ飛んだかと思えば不意を突いて下から聖剣あほが姿を見せる。足場だった枝をブチ破ってナイフが俺を突き殺さんとやってくる。


 甲高い声で罵声を浴びせながら飛んでくるのだ。


 俺は思わず下半身を盾で防御するも聖剣あほには伝説の盾さえも突き破る破壊力があったらしい、バキバキと音を立てて構える盾すらも破壊されてしまったのだ。


 俺の下半身はちょん切られる寸前のところまで追い込まれてしまった。



「ちょっ……とおおおおおお!? 避けられないいいいいいいーーーーー!?」

「聖剣たる吾輩に嫡男むすこを介錯される幸福を噛みしめるのだあああーーー!」

「切腹を省略しちゃったらただのギロチンじゃないか! ギロチン、コおおおおうえええーーーーー!!」



 股間からの血飛沫が脳裏に浮かんで嘔吐してしまった。


 キラキラと光って真下に落下する俺の粗相は偶然にも聖剣あほへと向かう。上昇と落下が一本の線で繋がった。全速力で上昇する聖剣あほは当然停止など不可能、キンキン声の悲鳴を叫ぶ聖剣あほから感じた余裕は先ほどまでと比べて明らかに薄れているのだ。


 俺の粗相と聖剣あほは残り数十センチまで距離を詰める。



 聖剣あほは粗相に接触する前に恐怖に塗れたのか、

「貴様ああああーーーー、聖なる剣の吾輩に対して不敬の数々を働くだけに飽き足らず冒涜すら厭わないだとお!? 思い留まるのだ、貴様は完全に包囲されているうううーーー!」

と、どう言う訳か警察口調で俺を説得し始めた。


 必死さは充分に伝わってくるが、肝心の俺に説得を受け入れる余裕が有ろうはずも無い。逆に聖剣あほから漏れる恐怖に充てられて下半身がブルブルと震えだす。


 俺は恐怖に負けて尿意を催した訳だ。



「……このままだと漏れちゃう、我慢できない」

「な、何だとおおおーーーーーーー!? き、貴様あ! まさか聖剣たる吾輩に聖水をぶっかけようと言うのかあああーーーーー!? それは冒涜にも程があると考えんのかあ!」

「切腹省略のダイレクトギロチンで我慢なんてできない……おうえええええ!!」

「サラリと吾輩のせいにしつつ、ここに来て粗相の追加だとおおおおーーー!? 頼むから聖水だけでも勘弁してくれえええーーーー!!」



 自分も流石に失禁だけは何としても回避したい。


 異世界に移住して公衆の面前で大人として恥をかきたくない、その思いだけで無理な体勢のままキュッと下半身に力を込める。すると僅かに尿意が落ち着いてくれた。



「大人として我慢、我慢してくれよ俺ええええ……」


 情けない声で赤ん坊をあやす様に優しく自分を鼓舞する、しかし内股の姿勢で下を我慢すると上の勢いが増幅される様で。


 喉に力が入ると粗相は更に速度を上げて聖剣あほに向かって接近する速度がグングンと加速する。天の川を思い起こさせるキラキラとした輝きを纏って俺と聖剣あほを赤い糸で結ぼうと伸びていった。


 だが、そんな縁結びは要らない。



「くっそおおおーーーー! こうなったら最終手段だああーーーー!!」

「グハハハハハハ、よもやあの極悪聖剣に命懸けの奥義を使わせるとは流石は我が認めた男だけはある!」

「聖剣の形容に極悪っておかしいよ……おうえええええ」

「二度目の追い粗相とは何処までもえげつない奴め、もはや背に腹は代えられん! 秘技・瞬間移動!!」



 目の前から忽然と聖剣あほの姿が消えた。

 俺の吐き気も要因が消え失せたことで、ようやく落ち着きだした。ホッと安堵の息を吐いて口元を拭い、敵の姿を探し出す。


 目に入ったものは、

「あらまあ、急展開ですわ」

と驚きを隠せずにいるティティアラのキョトンとした表情だけ。


 状況が全く掴めず混乱は色濃くなるばかりだった。



「グハハ、聖剣は瞬間移動で貴様の粗相から回避したのだ! 瞬間移動は己の寿命、生命力を大量に消費して発動する。貴様はあのアホを極限まで追い詰めたと言うことだ!」



 魔王が状況を解説してくれた。


 聖剣は自身の生命力消費よりも俺の粗相で汚れる方が嫌だったらしい。何方を優先するかと問われたら悩むところだ。人の粗相とは命を削ってまで回避すべきことかと真剣に悩んで俺は答えを出した。



「それって一周回ってバカじゃないの?」

「いや、ただのアホだ!」



 魔王ポーズを解いて魔王ばかが右手を振って否定する。


 俺の答えは減点だと言い切ったのだ。


 そして再び腕を組み直すとニヤリと笑って逃げた敵の姿をその目で捉えた。魔王ばかの視線は真上に向く、視線の先には生命力を使い切って弱りきった聖剣あほの姿があった。



「貴様ああああーーーーーー! 聖水などと闇属性の最大の弱点をチラつかせて吾輩に心理戦を挑んだことを後悔させてくれるぞおおおおおーーーーー!!」



 魔王ばかに極悪と評された聖剣あほが恨みを原動力に俺へ向かってくる。


 生まれ持った刃も暴言も切れ味が抜群で、聖剣あほのくせに闇属性であると今更ながら強く頷いてしまう。敵の見事な興奮ぶりに俺は逆に冷静さを取り戻した。


 そうなると周囲ががシッカリと見えてくる訳で。



「魔王の言う通り聖剣は瞬間移動の代償で動きが鈍くなったみたいだね。これなら何とかなりそうだよ」

「グハハ、下半身はもう限界ではないのか? 下半身のダムは決壊せんのか!?」

「サクッと終わらせてトイレに直行するだけだ」



 そう言って俺が銃口を真上に向けると魔王ばかが、

「随分と大きく出たな。相手は伝説のアホなのだぞ?」

と言うものだから俺が、

「アホだから大切な場面で判断を誤るんだよ」

と返すとポンと背中を押してくれた。



 シャリ〜ン。



 魔王ばかに後押しされる様に俺は迷いを断ち切って拳銃のトリガーを引いた。全力を込めた俺の銃弾は光明を得たかの如く逞しく光を帯びて極悪非道な聖剣あほへ一直線に飛んでいくのだった。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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