勘弁してくれよおおお……
「芝崎様、一体全体どう言う了見か教えて欲しいザーマス!! セイレーンと一戦交える覚悟がお有りと考えて良いザーマス!?」
正気を取り戻したモンピアが上から怒鳴る。
俺はしゃがみ込んだまま、
「世界が平和で良かった……」
と聖人みたいな言葉を小さくボヤく。
「翔太、おめえブチ切れられてんぞ?」
「お? ……あ、ああ」
見るに見かねてリーに肘で小突かれて初めて俺は気づいた。
確かにセイレーンの視点から見たらセイカを助けた様に見えるかもしれないと、ようやく状況の整理が付いていく。
俺を心配するセイカが近くに着地するとモンピアの怒った顔はより一層真っ赤に染まるのだ。今の彼女は容易に他人の言葉を聞き入れる状態では無いらしく、本気の殺気を俺に投げ飛ばす様だ。
「見損なったザーマス! 下等なサキュバスの肩を持つ殿方に愛娘はあげないザーマス、姫様と結婚して精々後悔するがいいザーマス!!」
「あのママさん、自分の種族の姫を平然とボロクソに言うだべな」
「多分だけどよお、興奮し過ぎて自分でも何を言ってるんか分かってねえんよ。普段我慢してる本音がここぞとばかりに出でんだよ」
「外野がやかましいザーマス!! 私は芝崎様と喋ってるザーマスよ!!」
「世界は破壊したらダメでしょう」
真っ赤な顔で湯気を上げる。
今のモンピアに一番ピッタリな表現がそれだった。駆け寄ってくるセイカを制して俺は虚無感にも似た空気を微睡みの中で必死に言葉を吐き出した。
しかし当たり前の至極尤もな発言はモンピアの激情には太刀打ちできないらしい。
彼女は、
「私はまだ三十代前半ザーマス!!」
と間違いなくセイカを意識した発言でかき消そうとするのだ。
するとセイカはその言葉にカチンと来たのか、
「あ? 四十代を舐めないでくれませんか?」
とメンチを切りながらズカズカとガニ股でモンピアへ歩み寄っていく。
この二人の張り合いは終着駅の無い線路の如く延々と続く様だった。
「あのさあ、セイレーンは闇の特性が強いんでしょ? 一か八か間封じの盾で防いで俺もようやく身をもって分かったよ。だからセイレーンは癒しの力を持つ世界樹に近付けないんだ」
「その通りザーマス! そこに気付くとは流石は芝崎様ザーマス!!」
「だったらさ、もっと他の種族と仲良くしようよ。独占するんじゃなくて助け合って分け合うんだよ。もっと広い心で周りをよく見て」
ニッコリと微笑んでモンピアに平和の何たるかを説く。
もう争いは勘弁して欲しい。
ただでさえ魔王とティティアラが未だドンパチと激しい戦闘を繰り広げるのだ、残りの二人だけでも平和な方法で二人を止めたい。
ボロボロの状態になってまで平和的に解決を求める俺の姿にリーたちも涙ぐむ。
二人は、
「おめえって奴は……翔太の言う通りじゃねえかよ、俺たちはいつも力任せな方法しか思い付かねえんよ」
や、
「俺、やっぱり翔太を出会えて幸せだっぺ。ふぐううううううーーー、こんなにも爽やかな気分でトラブルって解決できんだっぺなあ」
と感動してくれる。
少しだけ強引だけどそんな二人に、
「どういたしまして」
と言葉を返す。
実はこの時、背中の剣が伸びて世界樹の幹に突き刺さっていた。
今の俺は身動きの取れないカカシと同じ、つまり俺は攻撃を受けたら回避が不可能。何とか上手く話の流れで合言葉を口にして剣身の伸縮を納めても、俺は内心でヒヤヒヤしながらモンピアを説得していたのだ。
すると今度はセイカが俺の抱きついてくる。
リーたちと同様に感動してくれて鼻水を垂らしながら勢いよく飛び込んできた。
頼むから抱き付かないで欲しい。
剣で固定された状態の俺は抱き付かれると激しく揺れる。
単純に痛いのだ、お願いだから抱き付いてこれ以上揺らさないで下さい。
「すみませんすみませんすみませんーーーーーー!! 私が暴れたばっかりにお兄ちゃんをおおおーーーーーーー!!」
それでも悪いことばかりではない様で。
セイカが泣きながら俺に謝罪の言葉を繰り返す、おかげで三倍速で伸びた剣身が元の鞘に収まってくれた。人知れず俺をカカシにしたてあげた伝説の剣はカシャッと音を立てて元の形状に戻るのだ。
俺はホッと胸を撫で下ろして安堵を覚えた。
剣に触れずに抜刀術を放った気分だ。
「もう良いから。それよりもセイカさんは不用意に相手を挑発しないでね。それとトラウマで眩暈がするからお兄ちゃんは止めてください」
「わっかりました!! もうPTA会長のガキが幼稚園児のくせにアバズレだなんて言いません!! どうぜ成長したってロクデナシ子になるとか金輪際言いません!!」
余計な火種を増やすな!
落下が恐ろしくないのか、セイカは世界樹の枝の上で綺麗に足を畳んでジャンピング土下座を決行する。聞いたこともない新たな悪口を悪気も吐き散らす姿は不安しかない。
視線をモンピアへ向けると怒りの表情を浮かばせる。
握り拳を作って彼女は全身を小刻みに振るわせていた。
それでも思うところは有ったのだろう。
モンピアは小さくため息を吐いて全身が見る見ると脱力していく。まるで諦めたとでも言いたげに腰に手を当てて口を開く。
「はあ……分かりましたザーマス。私は防衛正当以外で金輪際サキュバスに手は出さないザーマス」
「モンピアさん、ありがとう……。またやらかした」
「何か言ったザーマス?」
「何でもありません……やっべ。どうしよう、枝に剣が刺さって身動き取れなくなちゃった」
剣身が再び伸びて深々と枝に刺さってしまった。
せっかく元通りになったにも関わらず俺は自らの失態で、またしても全身がピクリとも動かなくなってしまった。バレない様に必死になって全身を動かすも剣は微動だにしない。
その様子を周囲の皆んなは首を傾げる。
まるで鴨の水かきだ。
俺は人知れず不毛な苦悩と努力を繰り返す。
しかし、どんなに理不尽な仕打ちを受けようと状況は俺の事情など待ってくれないのだ。上を向くとセイカとモンピア以上にドンパチと殴り合う二人の影が目に入る。
魔王とティティアラだ。
「族長は私以上に種族のプライドがお強い方ザーマス」
「叔父さんは私以上の戦闘狂です」
「どっちもロクなもんじゃ無いんよなあ」
「翔太、あっちはどうするっぺか?」
「げすーーーー……」
既に精魂尽き果ては俺に周囲からの期待は無駄に大きかった。
「勘弁してくれよおおお……」
俺のボヤキは弱々くし引き荒れる風に飛ばされいく。
お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m
また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。




