皆んな……ありがとう
上空は吹き荒れる台風の様だった。それよりも台風同士の衝突と言い換えるべきか?
途轍も無い力がぶつかり合って地上にまで波動の全てが伝わってくる。
俺はその波動に逆らう様に突っ込んでいく。
手で顔を覆って、
「もうマッチポンプは嫌……」
と呟きと流す涙だけは波動に吸い込まれていく。
「芝崎お兄ちゃん! 私の勇姿を見てくれてますかーーー!?」
セイカが戦いの手を止めて俺に手を降ってくる。
「こっちを見ないでよ」
「サキュバス如きが芝崎様をお兄ちゃん呼ばわりするなザーマス!」
「そうだそうだ、モンピアさんもっと言って」
「芝崎様は我らがティアラ姫様の正式な婚約者ザーマス!!」
「それはもっと違う」
「もしくは私のアイリスちゃんのお婿さんザーマス!」
「アイリスちゃんと結婚すると漏れなくモンピアさんが付いてくるじゃないか……」
チョイチョイと事実を捻じ曲げようとするモンピアのやり口にアイリスちゃんが訳アリ優良物件に思えてならなかった。
これではメボタを悪く言えないな、と一人で勝手にダメージを負わせてバチバチと高速バトルを繰り広げる空域に踏み込んだ。
二人の間に割り込んで、
「二人ともストップ」
と静止を促すと二人はピタリと動きを止める。
「芝崎様! その女はジャストフォー、私のアイリスちゃんと比較するまでもないザーマス!」
「芝崎お兄ちゃん! そのアイリスとか言うガキだって成長すればPTA会長みたいな見た目になるんですよ!」
「……二人とも他人の悪口を言わないの」
子供の喧嘩かよ。
それでもセイカは言いすぎた。彼女はこともあろうに本人ではなくモンピアの愛娘を貶める発言をしたため、モンスターピアレントの激しい怒りを買ってしまう。
ブチッと血管が破裂した音が響く。
モンピアは数秒間全身を小刻みに震わせると手のひらを空に向けた。その手から、正にマンガの領域とでも言うべきエネルギーの塊を放出してしまったのだ。
……これは世界が崩壊する流れだ。
間違いない、モンピアの目が高純度に血走っている。
「……ジャストフォー風情がアイリスちゃんを悪く言ったザーマスね? 純粋無垢で天使と呼び声高いアイリスちゃんをよくも……よくもお!」
「モンピアさん? そのデカい光の球で何をするの?」
「未来のお婿さん、いい質問ザーマス! これを地上に撃ち込んで世界ごと破壊するザーマス!!」
予想通りの回答だった。
怒りのメーターが完全に振り切れてしまったモンピアは見境を見失っていた。彼女は自身の種族のため、世界樹の管理不足に憤慨していたはず。
その彼女自身が根本からちゃぶ台を引っくり返そうとするのだ。
「翔太あ、あの美人ママさんやべえぞ? あれは絶対に人の話を耳を貸さねえタイプだと思うんよ」
「リーの言うとおりだっぺ。あのママさんは怒ると周りが見えなくなるタイプだっぺから」
天にかざしたモンピアの手のひらに光の球がフワフワと浮遊する。下からの角度で見上げると彼女が超巨大なアフロヘアー見えてしまうのだ。
即興アフロと疑似アフロの戦いは俺の腹筋を容赦無く捩じ切りに来る。
モンピアの光の球は危険だ。
誰が見てもそう感じるだろう。
にも関わらずリーとズンダは既に我関せずと言った具合で俺と距離を取っていた。後ろから、
「おめえに任せとけばなんとかなんだろ」
だの、
「翔太は良い奴で仕事のデキる奴だっぺから俺たちも安心して見てられるだよ」
などと俺を信頼と言う名の鎖で雁字搦めにする。
仲間からの信頼の厚さが途端に俺の足を引っ張りだすのだ。二人はキラキラとした眼差しを向けてくる。
複雑すぎて俺の心は折れかかる寸前だった。
「セイレーンなんて誰かの助けがないとまともに食料も確保できない弱小種族でしょうが! 叔父さんと喧嘩する根性も無いくせに粋がらないで貰いたいですうーー!」
「あ、あああああ……こんのジャストフォーがああああーーー! サキュバスの分際で我らセイレーンに啖呵を切ったこと後悔するザーマス!!」
弱った俺の心などお構いなしにセイカとモンピアは激しく罵り合う。世界樹を取り巻いて魔王すらも危険視する二種族の爆発は限界一歩手前まで迫る。
逼迫した状況下、俺は頭の中で何かが弾けた感覚がした。
プツンと線が切れた音が脳内に響く。
それと時を同じくしてモンピアは遂にセイカ目掛けて超巨大な光の球を撃ち込んでしまった。相対するセイカは避ける様子も無く、グッと構えて真正面から待ち構える姿勢だ。
セイカが死ぬかもしれない。
知り合いが俺の目の前で死ぬ。
そう考えると過度のストレスがかかり俺は、
「勘弁してくれよおおおーーーーーーー!!」
と全力の愚痴を叫んで飛び出してしまった。
「芝崎お兄ちゃん!? こっちに来たら危ないからダメですよ!」
「芝崎様が割り込んできたザーマス!? どうしてそんなジャストフォーを庇うザーマス!?」
「翔太あああああーーーーー! 死ぬんじゃねえーーーー!!」
「ダメだっぺよ! それは流石に危険だっぺええーーーー!!」
「ゲスーーーーー……」
「戦場こそ俺の合コン会場だああああーーーーーーーーー!!」
腰を落とし盾を構えてのシールドアタック。
俺はモンピアの放った光の球を思いっきり殴り付ける、するとそれは元々何も無かったかの様にフッと姿を消した。
魔封じの盾が闇を封じ込めたのだ。
これには場の全員が信じられないと言いたげに朧気な表情を浮かばせる、世界を破壊せんと放たれた巨大な球が一瞬で消え去ったのだから当然と言えば当然な訳で。
時が停まった様に全員がピクリとも動かなくなってしまった。
決死の覚悟で飛び出した俺は息を切らして、
「もう無理……ギブアップ」
と限界を主張するしかない。
これ以上二人に暴れられては今の俺には為す術がないと痛感させられた。俺は着地した枝の上でヘタり込んでしまった。
「翔太ああああーーーーーー!! おめえは本当に無茶ばっかすんだからよおおおーーーーーー!!」
「仲間を置いて先に死んだら許さないっぺええええーーーーー!!」
「ゲスーーーーー……」
その俺にリーとズンダは鼻水塗れで飛び込んで来た。
メボタは然りげ無く自己主張を挟んでくる。
ガバッと飛び付いて俺を強く抱きしめてくれて、二人の鼻水が服に付着するのが少しだけ嫌だった。それでも仲間が俺を必要としてくれたことが嬉しくて俺は記憶が飛んでしまった。
感極まって自分で禁じたことを自分で破ってしまうのだ。
「皆んな……ありがとう」
この時、俺を見下ろして唖然とするセイカとモンピアは気付けなかった。
俺が背負う伸びる剣の剣身はヒッソリと地面に向かってグングンと伸び続けるのだった。
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