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終わらせません

「グハハハハハハ!」



 変わらず魔王は元気だった。


 眩い光の中で、その声だけは鮮明に耳に届く。だけど、それしか分からなくて俺の中で不安だけが積もっていく。


 そんな雪の如く真っ白な眩さは、ようやく終わりを告げて視界がハッキリとすると思わず叫んでしまった。



「魔王ーーーーー!」



 目の前に現れた魔王は世界樹の葉っぱを全身に受けてズタボロの姿だった。



「グハハ、体勢が崩れて世界樹にトドメを刺せなかったぞ! おかげでカウンターを全て喰らってしまった! グハハハハハハ!」

「ダメならダメで高笑いしてる場合じゃないでしょ……もっと、それ相応のリアクションがあるじゃないか」

「それで結局、世界樹はどうするでゲスか?」

「うわあ、ビックリしたあ」



 突然かけられた声に驚くとメボタの姿がそこにはあった。


 何食わぬ顔で後ろに立っていたメボタ。

 彼は真剣な面持ちで俺に問いかけてくる。これからどうすべきか、空気を読まない行動ではあるが、俺も悩んでいたことだけに彼の問いかけに安易な拒絶は見せない。


 そもそも世界樹が失われれば魔王に対するセイレーンの恨みが深まって、果てには世界が崩壊してしまう。かと言って、このままモンスター化が解けなければ同じこと。


 解決の糸口は何処まで行こうと雁字搦めなのだ。


 しかしメボタは、そんな俺の想いを盤面ごと引っくり返す様に、

「アイリスちゃんの生活は俺が守るでゲスから」

とアッケラカンと下衆の発言を言い放ってくる。


 これには俺も彼を汚物としか思えず相応の目を向けてしまっていた。



「メボタが囮になってくれれば隙が生まれるかも」

「まずは段ボールをどうにかしねえとダメなんじゃねえか」

「段ボールが世界樹の闇の力を増幅させるって言うなら原因を取り除くべきだっぺよ」



 メボタに意識が削がれている間に他の二人までもが俺の元に集まっていた。


 初代合コンギルドのマブダチがピンチの最中、一箇所に再び集結を果たす。俺たち四人は魔王が頑張って世界樹を足止めする光景を背に話し合いを深めていった。



「グハハハハハ、我は魔王也! 世界最強の男は例え追い詰められようとも顔を歪ませることはしない、最強の誇りを胸にただひたすら前進するを信条とするものだああーーーーー!!」

「何か魔王が偉くカッコいいことを言ってでゲスよ」

「おめえは煩いんよ。頑張ってる奴に嫌味な文句を言うんじゃなくてよお、現状を打破するために空っぽの頭を使えってんだ」

「痛いでゲス! 暴力反対、リーが意味も無く俺を殴ってくるでゲスよ!」

「流石の魔王もさっきのダメージで伝説の段ボールを手放しちゃったみたいだね。あっちの枝に引っかかってる」



 先ほどまで魔王は脇に段ボールを抱えながら戦っていた、その彼が手ぶらで戦う。そうなれば、答えは容易に出てくる。俺が周囲をキョロキョロと見渡すと吹っ飛ばされたであろう段ボールが風に靡いて今にも落ちそうな光景が目に入った。



 落ちる前に何とか対処をしたいと俺は何も言わずに跳躍した。


 他の三人も俺の後を追う形で同じ動きを見せる。俺はその状況に絶句して言葉を失った。と言うよりも、呆れたと言う方が正しいかもしれない。



「……あのさあ、近接武器持ちのリーはともかくとしてズンダは射程武器しか持ってないよね?」

「そうだべ、翔太は今更何を言うだべか?」

「射程持ちならさあわざわざ距離を詰めなくてもいいよね? 入れ歯ビットと出っ歯カッターが有れば、移動しなくてもやれることあると思うんだけど?」

「……そう言う大事なことはもっと早く言うべ」

「もっと早く自分で気付いてくれよ……」



 唖然とするズンダはガクガクと震えて何とか言葉を吐き出すも、流石にフォローのしようがない。俺たちのやり取りにリーまでもが、

「もう遅え」

と呆れた様子でズンダを突き放していた。


 トドメとなったのは、

「あ、そう言えば家を出る時に武器を忘れたでゲス」

と言うメボタの呟きだった。


 俺は空中を走りながら大粒の涙が止まらなくなってしまった。


 メボタは戦う気すら皆無だったのだ。



「……今すぐ武器をネット通販に発注しろよ」

「翔太、ネット通販ってなんでゲスか? 妙に懐かしい響きでゲス」



 メボタ発言に、

「もうこうなったらヤケだ。全員で一斉射撃いくよ」

と俺が突拍子も無く号令をかけると一気に全員の気が引き締まる。


 リーとズンダは二人とも武器を準備して手に取って呼吸はピッタリだ。


 温度差を感じさせるメボタとは大違いだ。



「おっしゃああーー! リーゼントキャノンとモミアゲリボルバーの溜め撃ちをお見舞いしてやんぜ!」

「入れ歯ビットの溜め撃ちなんて初めての経験だべ! 気合い入れるべよおーー!」

「俺は手持ちの武器が無いし皆んなに任せるでゲス」

「メボタは人間魚雷になって命を張りやがれええーーーー!」

「ちょっ、ちょっと待って欲しいでゲス! リー!? お願いだから担がないで……って、ゲスううーーー!!」



 意外に器用なリーは何処ぞのロボット兵器アニメを連想させる全砲台フルアタックみたいな動きで他人任せのメボタを放り投げてしまった。


 飛び出しておいて途中で引き返そうとするメボタ。


 彼は首根っこをリーに掴まれてしまう、その後は柔道の投げ技みたいに投げ飛ばされた。これが意外にも弾速が早く、メボタは他の銃弾を追い越してしまう。


 肥満体型のメボタを担いだリーの後頭部には怒りを露わにする血管が浮かび上がる。


 仲間を弾扱いするのは如何なものかとは思うけど、今は良しとしよう。


 まるでスカイダイビングの時みたいにメボタは顔を歪めながら世界樹に向かって突き進んでいった。


 メボタは、

「ゲスーーーーー!!」

と謎の悲鳴を口にして彗星となった。



 シャリ〜ンチャリーンチャリーンチャリーンチャリーンチャリーンチャリーンチャリーン。



 弾速と手数の拳銃、不規則軌道入れ歯ビットに破壊力のリーゼントキャノン。


 伝説の武器は溜め撃ちが可能だと聞いてはいた。

 特にリーゼントキャノンは幼稚園を全壊させるほどの破壊力を直に見た。これだけの数の溜め撃ちを集中放火させれば希望を持てる。


 魔王に意識を向けていた世界樹が一息遅れてギョロリと目を向ける。



「グハハ、貴様らやるではないか! それでこそ我を楽しませた男たちよ、今こそ暴れる好機! 憎たらしい世界樹にお見舞いしてしまえい!」

「ズンダ、魔王のアレは無視していいからね」

「ふがふがふがふがーーーー!」



 あ~んと大きく開けたズンダの口から出っ歯カッターが発射された。既に何を喋っているか定かでは無いが、ズンダの気合は間違いなく本物だ。


 彼は世界樹の巨大な目に衝突して、

「ギャーーーーーーでゲスーーーーー!」

とまたしても謎の悲鳴を叫ぶメボタに一切の関心を寄せることなく一箇所に照準を向けていた。


 そして見事に段ボールは粉々になる。出っ歯カッターに破壊された今回の事件の元凶はパラパラとセイレーンたちのいる地面に落ちていく。


 仕事が上手く行くとハイタッチをしたくなるものだ。


 俺たちは成果を確認すると三人で輪になってパチンと音を立てて自然と笑顔になれた。仲間同士で仕事が上手く行ったと喜び合う。


 何処にでも転がっている至って普通の光景。


 プスプスと煙を立てた人間魚雷が煙を立てて、

「ゲスーーーーー……」

と呟いて世界樹に頭から突き刺さる。


 しかし、それでも世界樹の様子は変化が見られず俺たちは驚きの表情を浮かばせるしかない。言葉にならない声を漏らして少しずつ後退ってしまった。


 場は完全に静まり返る。



「バリバリバリバリバリバリ、グハハ!」



 そのタイミングでポテチを豪快に頬張る咀嚼音が俺たちを包み込む。何度も聞いた高笑いと共に不吉の音に俺たち三人は吸い込まれるように視線を向けた。


 その先には予想通りの光景が広がって全員が目を疑うことになる、意識を失っているメボタを除いて。



「……魔王、どうして段ボールを持ってるの?」

「んん!? 変なことを言うやつだな貴様は。我はこのポテチが大好物なのだ。十五箱買わせたからまだまだあるぞおー、グハハハハハハ!」

「ありゃあ買い込んだポテチを全部持ち込んでんぞ」

「世界樹がここまで凶暴化したのって……全部持ち込んだのが原因だっぺか?」



 ズンダはいつの間にか入れ歯ビットを回収して会話に混じっていた。



「……ゲスーーーー」

「貴様ら全員表情が暗いぞ、笑って全てを忘れてしまえ! 嫌なことは忘れるに限るぞ、グハハハハハハ! バリバリバリバリバリバリ」



 魔王の咀嚼音が俺の嫌な記憶を掘り起こしにかかる。視線の先には持ち込んだ十四箱全てのポテチを片手で持ち上げる魔王の姿。


 軽々とお手玉みたいな手捌きで箱をイジる魔王が世界樹にフェロモンをまき散らす女王蜂にしか見えなくなっていた。


 ここまで来ると現実から目を背けたいと思うのが本音だ。


 最早、何処から何処までがマッチポンプか判断が難しく、むしろマッチポンプの雁字搦としか思えない気分だった。


 それに目眩さえ覚えて、

「……今日は魔力局の検針の日だった」

と、どうでもいいことが脳裏に走る。



 そんな絶体絶命の最中で状況は誰もが予想だにしなかったまさかの事態へと動き出す。



「セイカ、芝崎お兄ちゃんのピンチに颯爽と登場ーーーーーー!!」

「セイカさん? 屋敷にお留守番じゃなかったの?」



 セイカの突然の乱入に驚きで視線が下に向いてしまった。


 何処ぞの星雲出身の宇宙警備隊員を連想させる跳躍でセイカが地上から急接近しているのだ。タダでさえ予測不能となった状況の新たなトラブルの火種が飛び込んでくる。


 ニヤリと不敵に口元を吊り上げるセイカに俺は不安しか抱けなかった。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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