世界樹の暴走、魔王の暴走
世界樹が激しい揺れを見せる中で感じた視線。
圧倒的な生命力と憎悪が含まれるそれは俺と魔王を射抜く、世界樹の本体に現れた巨大な一つ目が俺たち姿を捉えていた。
他の三人は距離が遠かったから見つからなかったのだろう。
世界樹の意識から外れたリーたちはヒッソリと枝の影に姿を隠していた。こんな状況で下手に姿を晒すことは無いと判断したのだろう。
流石はベテランのクエスターだけはある。
巨大なモンスターと化した世界樹はギョロッとした目の動きで俺と魔王だけを認識する。
まさか魔王と共闘する日が来ようとは、この様な時が訪れて初めて魔王の背中の大きさを俺は思い知った。堂々と胸を張ってバカみたいに高笑いする彼がとても頼もしい。
「グハハハハハ! 世界樹如き植物風情が魔王を睨み付けるか!!」
「勝てそう? 魔王なら一人でサクッと倒せる?」
「知らん!」
「……できれば下のセイレーンたちにはバレない様に穏便にお願いしたいんだけど」
「それよりも来るぞ、グハハハハハハ! 避けないと蜂の巣だ!!」
「うおっとおおおおおーーーーーー」
世界樹は自らの葉っぱを飛ばして散弾さながらの攻撃を披露する。俺と魔王は足場を蹴って横に回避、左右に分かれて別々の枝に着地した。
「これが世に言う『ローリング葉っぱー』と言う奴だな!? グハハハハハ、ドンドン撃ってこい、我が悉くを華麗に回避してくれる!!」
「それ、色々と大丈夫? 版権とかそう言うのだけは気を付けてよね」
「貴様も余裕ではないか! 余計なことを喋ると舌を噛んでしまうぞ、気を付けよ!!」
世界樹の攻撃は止むこと無く延々と続く。
その巨大さ故に攻撃手段の葉っぱは無尽蔵、まるで風に乗ったかの如く回転しながら俺たちに迫ってくる。俺も魔王も世界樹の枝に身を隠して反撃の隙を探る。
しかし世界樹は自分の体の一部などお構いなしに葉っぱを撃ち込んでくる。破壊して俺たちの身を隠す場所を奪うのだ。
姿を晒してしまうと、俺も魔王も直ぐさま別の枝に身を隠そうと瞬時に移動、延々とその繰り返しだった。
「魔王ーーーーーー、またわざと出血して血の剣とかで攻撃しないのーーーーーーー?」
「グハハハハハ、無理だ! 今の我は血が足りん! 別の方法を検討中である、レバーをもっと多めに摂取しておくべきであったわ!」
「使えねえ、俺だけでも反撃しとくか」
チャリーンチャリーンチャリーン。
この期に及んで胡座をかいたまま思案を始める魔王を放置したまま攻勢に転じる。アクション映画の刑事みたいに隠れていた枝から半身だけ乗り出して銃口を向け、三発銃弾を放つ。
反撃を開始すると世界樹の攻撃は緩やかに落ち着きだす。
「ええーーーーー……? 銃弾が簡単に跳ね返えされた?」
それでも俺の攻撃は巨大な世界樹からすれば蚊ほどにも気にされることなく、可愛い音を立てて地面に向かって落下していく。
その様子を追うと人影が目に入る。
ティティアラとモンピアである。
彼女たちはまだ上の異変に気付いていない様だ、特に慌てる様子も無いから恐らく大丈夫……のはず。
それでも、やはり状況は時間との勝負。
シャリ〜ン、チャリーンチャリーンチャリーンチャリーンチャリーンチャリーン。
溜め撃ちからの通常弾を有りったけ撃ち込んでみる。すると何処からともなく入れ歯ビットが飛んで来て俺の銃弾の援護をする動きを見せていた。
縦横無尽に飛び回って俺が狙った場所を更に攻め込んでくれる。
隠れたままズンダが上手く立ち回ってくれた様で。
仲間の援護もあって今回の攻撃は多少はダメージを負ったと見える、世界樹はその目を僅かに閉じる。
初めて世界樹が怯んだのだ。
誰もがガッツポーズを取る状況下な訳だが、
「……そう言えば世界樹って、そもそも討伐しちゃっていいのかな?」
と今更な疑問がふと湧き出てくる。
世界樹が無くなるとセイレーンも困る訳で。
更に言えば人間への影響も俺はよく知らない。
それは、ふとした疑問のはずだった。
しかし、その場の全員がまったくと言っていいほど考慮していなかったようで。頭からビックリマークが飛び出る様な、そんな幻が見えてしまうくらい驚いた反応を全員が見せていた。
リーたちが、
「あ、そう言えば聞いたことあんぞ。世界樹が無くなると世界が崩壊するとか何とか」
「それ俺も聞いたことあるべさ」
「根っこが一気に枯れて地層に空洞ができるとかって話だったでゲス。地層変動で地上全てが崩壊するとかしないとか」
と、これだけの人数がいたら誰かが考えとけよ、と言いたくなる様な雑談を仲間たちは始めていた。
そのあまりにもリスクマネジメントの意識が欠如した三人の表情に流石の俺も苛立ちを隠せない。頑張って隠そうと努力はするも隠しきれなかったのだ。
世界樹は世界全てに根を張る巨大植物。
それ故にモンスターと化したとは言え、討伐するとその根っこが枯れる。
枯れ果て根っこは土の重さに耐えきれずに押し潰されてしまい、結果として地層変動が待っている。
まさに取り返しようのないやらかしだ。
スケールが大きすぎて誰もが想像を絶する未来。背中に走った悪寒を誰かにお裾分けしたい気持ちさえ芽生えてしまう
「フハハハハ、目くそ鼻くそ耳くそと全てをかき集めて剣を作ったぞおおおおーーーーーー! 世界樹よ、我が奥義の前に平伏すがいいいいーーーーーーーー!!」
空気を読まないとはこのことだ。
魔王が最悪の手段で世界樹を真っ二つにせんと剣を振り上げる。世界樹に向かって飛びかかり、考え得る中で最も衛生感のない武器を振り下ろす。
あまりにも唐突かつ斜め上を行った魔王の行動に俺は反射的に待ったをかける。
泣きながら魔王を止めようと跳躍した。
自分の人生の中で、ここまで泣くじゃくった記憶はない。それでも世界の終わりともなれば成人男性だって見てくれなど気にしてはいられない、俺は必死に手を伸ばした。
「魔王ーーーーーーー、それだけはダメだーーーーーーーー!!」
「グハハハハハ! 世界樹よ、我がくその寄せ集めのサビにしてくれるぞおおおーーーー!!」
魔王は目から、鼻からそして耳からもダラダラと出血をしている。おそらく魔王が体の一部をかき集めた努力の結果だろう、彼は血だらけのまま絶叫しながら剣を握りしめる両手にギュッと力を込めていく。
世界樹は自己防衛本能が働いたのか、無防備な魔王に攻撃を集中させてそれを拒絶する動きを見せた。
対する魔王は一切怯まない。
鬼神の如き顔付きで迷い無く剣を振り下ろす。
しかし、その瞬間、
「う……貧血が……」
と魔王が至極当たり前の症状を口にするものだから俺もついイラッとして、
「バッカやろおおおおおおーーーーー! そんなに出血したら当たり前だああーーーーーー!!」
と魔王を相手にツッコんでしまった。
目眩で空中にも関わらず体勢を崩した魔王に世界樹が飛ばした葉っぱが襲い掛かる。
「くっ、仕方ない。魔王、援護するよ!」
「おお!? 流石は我が見込んだ男よ、いいタイミングで援護をくれるではないか!!」
チャリーンチャリーンチャリーンチャリーンチャリーンチャリーン。
俺の放った銃弾の嵐が魔王に襲いかかった葉っぱを全て撃ち落とすと、魔王は再び気を取り戻して剣を振り抜いた。
世界樹に魔王の攻撃が見事に入ると、周囲は目も開けられないほどの光を解き放つ。その輝きの中で俺は眩しさに目を閉じてしまった。
「ま、魔王!?」
「グハハハハハハハハ! 植物風情があ、死ねええええーーーーーー!!」
魔王の絶叫は終始堂々としたものだった。
その絶叫の中で俺もリーたちも、その場にいた全員が重要な瞬間を見逃すことになってしまった。
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