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耐えられません

 爆弾を拾った心地がする。


 それも知らぬ間にコッソリと誰かが俺の懐に忍ばせたかの様な、そんなタチの悪さを感じる。拾ったと言うよりも押し付けられたと言うべきか。



「グハハ! いざ世界樹の管理ぞ、剪定に落ち葉拾いなど手のかかる奴め! あっそれえ!」



 魔王が世界樹の前ではしゃぎまくる。


 上空を自在に飛び回ってフルスイングパンチで世界樹の巨大な体躯に見合う枝を薙ぎ倒して、セッセと落ち葉を集める姿はシルバー人材センターのお爺ちゃんにしか見えない。


 俺たちはセイレーンに責任を押し付けられて世界樹の世話をしに森まで足を運んでいた。因みにセイカは屋敷にお留守番、一緒に付いて来られトラブルしか生まないと考えての措置だ。



 それでも後ろからは全身怒りの炎で包まれたティティアラにPTA会長が仁王立ち。


 逃げ道など最初から無い。


 時折、魔王の切り落とした枝が真っ逆さまに落下してくる。俺たちは、ぶつからない様にとそれを避ける。


 そんな中でリーは飛び回る魔王を下から覗き込んで、

「魔王は爆弾処理が楽しいんか? 楽しくて仕方ないんか?」

と辟易とした表情のまま呟く。



「初代爆弾処理班はリーじゃないか」

「煩えなあ、俺も言った後に地雷を踏んだって自覚してんだ。これ以上は言うんじゃねえ」



 不用意な仲間の一言にボヤくも俺は一連の流れに一人責任を感じていた。そもそも世界樹の管理の件でセイレーンが騒ぎ出したのは地震があったからだそうで。


 老人ホームで起こった地震があったからこそセイレーンは世界樹の異変を察知した。元々ティアラの合コン狂いに頭を抱えていた彼女たちではあるが、アレがあったからこそ血相を変えて魔王にクレームを入れると決意したのだ。



「地震自体は俺のやらかしだしなあ」

「今なんか言ったべか? 翔太、さっきから死にそうな顔をしてるっぺ」

「本当じゃねえかよ。おめえ、無理すんなよ? 魔王の一件から色々と抱え込んで一番精神的にキツいのは翔太だかんな」

「い、いや、俺もやるよ。俺たちは仲間じゃないか、皆んなで力を合わせてサクッと終わらせよう」



 本当のことなどいえる訳が無い。


 地震の発生は俺が原因なのだ、とは口が裂けれても言えない。


 俺が不自然な笑顔で言い訳を口にすると、

「お、おめえはやっぱり良い奴なんよなあ」

とか、

「翔太あ……、お前といると仲間って素晴らしいって改めて考えさせられるべさ」

などと称賛の言葉を突き立てられる。


 何をすれば良いのか、そもそも世界樹とは何なのか。


 必要な情報や知識が欠如した俺は、ただ下から魔王の動きを見守るしかなかった。



「芝崎様」



 ボンヤリとそんなことを考えていると後ろから声がかかる。



「何でしょうかPTA会長」

「私はモンピア。族長の側近を務めされて頂いてザーマス」



 モンピアはメガネを持ち上げる仕草に合わせて俺に自己紹介をする。



「モンスターピアレント、略してモンピアさんですね」

「セイレーンはモンスター、確かに私はモンスターの親ザーマスが名前は偶然ザーマス」



 ボケをスルーされてしまった。

 俺の全力異世界ネタはザーマス口調で消し飛ばされる。


 お団子頭にまとめた見るからにPTA会長然としたその風貌に偽りなくモンピアは会長そのものだった。よく見れば若くて綺麗なお母さんと言った具合だろうか。



「我々は芝崎様をずっと注視しておりましてザーマス。約束を破った魔王に鉄拳制裁を我らに変わって下し、自分勝手な姫様を懲らしめて、果てには私の大切なアイリスを危険から身を挺して守って頂いたザーマス」

「……大したことしてませんよ」

「今は今で理由は定かではありませんが世界樹の根が傷を負ったことで生命力の低下し、我らセイレーンにとっては死活問題ザーマス。本来であれば我らが直に世界樹の管理ができればいいのですがセイレーンは闇の存在、魔王の助力無く世界樹には近付くこと自体危険ザーマス。貴方は無関係にも関わらず、こうして尽力して下さっているザーマス!」



 ドキッ!



「困っている人がいたら助けるのは当たり前じゃないですかー」

「何と言う男らしい言葉ザーマス。是非とも姫様と結婚して頂きたいほどザーマス」



 勘弁してくれ。



「お、俺って実は義理だけど魔王の甥っ子なんですよお。だから止めたほうがいいですって」



 口から出てくるのは自分を貶める言葉の数々。


 もう、ここまで自分を悪く言うと自然と心にダメージが蓄積されていく感覚しかしない。俺って実は不良債権だよね、と自分の本音に突きつけられるのだ。


 にも関わらず、だ。



「そう言わずに! 貴方の価値は貴方だけのモノ、我らは貴方だけを見てるザーマス! 姫様がご不満と言うならば私のアイリスちゃんで如何ザーマス!?」



 目の前の堅物のイメージしかない美人人妻は俺に称賛を惜しまない。彼女の情熱が俺を握りしめる手からヒシヒシと伝わってくる。


 本当に耐えられない……。



「翔太あ、俺のアイリスちゃんを……よくも、よくもおおーー……」



 メボタはメボタで謎の悪意を睨んだ目付きに乗せて俺に向けてくる。


 俺は頭がパンクしてしまいそうだ。



「とりあえず魔王の手伝いをして来まーす」

「ああ! 話の続きは世界樹の一件が片付いてから是非ともザーマス!」

「おっしゃあ! ズンダ、メボタあ! 俺らも翔太に続くんだよお!!」

「翔太と一緒にいるだけで俺は誇らしくなれるんだべーーー!!」



 これ以上は精神的に耐えられなかった。


 俺は一分一秒でも早く、この場から離れたかった。自然な流れで逃げ出せる理由は魔王を手伝うことだったから、力一杯地面を蹴って上空目掛けて跳躍をする。


 その後ろを仲間たちが付いてくる。


 罪悪感に包まれて世界樹の世話に奔走することとなったのだ。



「翔太にアイリスちゃんは渡さないでゲスーーーーーーーー!!」



 若干一名、完全な私利私欲で飛び出した人間がいた。


 メボタが個人的な願望をぶち撒けて俺の後を追いかける。そこは、この際だから敢えて目を瞑るけど、リーとズンダの二人のメボタを見る目付きが怖かった。



「芝崎様ーーーーー私の未来の義理の息子ーーーーーー、ファイトザーマスーーーーーー!!」

「仮に実現したとしても十年以上先の話じゃないか」



 そう言ってモンピアは下から手を振ってくれた。


 全身を使ってブンブンと手を振ってくれる彼女の声援は嬉しいけど、俺の心の中で湧き上がる罪悪感は留まることを知らない様で。


 背に届く声援に流した俺の涙は風に攫われていく。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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