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合コン⑤

 合コンとは。


 二組以上の独身者の男女グループが参加する、出会いを目的とした飲食の場だ。出会いから交際へと発展するには和気藹々とした雰囲気が不可欠である。


 そのためにもキャッキャうふふと楽しく語り合う必要がある。


 しかし今、俺は屋敷の庭先で大勢のセイレーンたちに囲まれていた。合コンのためにセッティングされたソファーにチョコンと座って合コン相手から威圧される。


 俺とリーにズンダ、そして久しぶりに会ったメボタと魔王は五人横一列に座った状態で数十人にも及ぶセイレーンたちから睨み付けられている。この状態を誰が合コンと呼ぶだろうか?


 時折、セイレーンは思い出したかのように、

「……ちっ」

と敵意満々と言った具合で舌打ちを放り込んでくる始末だ。


 この雰囲気に和気藹々の言葉など皆無である。



「魔王」

「グハハ、どうした!?」

「声がデカいって。この合コンは魔王が主催なんだから話題を振ってよ」

「無理だな! コイツら、ティアラに毒を盛った一件を相当に根に持っておるからなあ」

「お肉焼けましたよー。芝崎お兄ちゃんの分はセイカが焼きましたー」



 ギロリとセイレーンたちの視線が一点の集中する。


 バーベキューの肉が盛られたプレートを持ってきたセイカに全視線が集まった。彼女はギスギスとした雰囲気の中でさえもマイペースに動くのだ。


 彼女はニコニコと焼き上がった肉を平然と運ぶ。


 今回の合コンの最大の要因であるセイカは水を得た魚の如くセッセと働く。頼むから場の雰囲気くらいは汲み取って欲しいものだ。


 一人、恐ろしい目付きをする見るからに立場が高そうなセイレーン。


 そのセイレーンは部下らしきセイレーン数人を従えて、俺たちと向かい合ってソファーにもたれかかっている。足を組んでソファーに深く腰を落とす様子から、その正体を察することができた。


 サングラスに葉巻がセットのマフィア臭をプンプンと漂わせた女性。


 彼女はおそらくティアラの母親だ。


 娘よりも一色多い八色のカラーリングを施した短髪が特徴で、娘と同様にケバケバしいセンスの娘よりも裾の短い何世代か前のディスココスチュームに身を包んだその人は深く葉巻の煙を吐き出した。


 それでも見た目はティアラの母親とは言うものの、似ているのは髪の色だけ。

 凛とした目元と鼻が整った正統派の美人だ。


 パタパタと趣味の悪い扇子を扇ぐ風格は俺のイメージするセイレーンとはかけ離れ過ぎてドン引きするしかない。



「……ふ〜〜〜〜、魔王様?」

「ティティアラもポテチ食うか?」



 ティアラの母親はティティアラと言う名前らしい。



「怖ええ……。魔王も平然とポテチをすすめるなってば」

「バカ、聞こえちまうぞ翔太」



 あまりの迫力に俺は本音を漏らしながら危うくチビりそうだった。


 ティティアラに迫力で圧倒されそうなのに、魔王の軽い態度が更に俺の不安を煽る。リーに小声で注意されたけど、あまりの緊張に彼が何を言ったか聞き取ることすら叶わない。


 胃がキリキリと痛み出して、俺は一刻の早くこの場から立ち去りたいと真剣に願っていた。


 これの何処が合コンなんだよ!

 ただのヤクザの抗争だろうが!



「遠慮しますわ。それでティアラの件を魔王様は如何お考えですか?」

「うん? ただの恋愛敗者だろうが、グハハハハハ!」



 魔王の言い分にティティアラは完全にブチ切れる寸前だ。


 ピクピクと顔右半分を痙攣させる様子から彼女の怒りが爆発寸前だと容易に想像が付く。大声で笑いながらポテチを袋ごと口に流し込む魔王から食べカスが飛び散る光景は見ていてドンドンと胃痛が酷くなる。


 当然、ティティアラの怒りは誰の目から見ても激しくなるばかり。


 扇子を煽ぐ速度を上げて、まるで自分の顔に溜まった熱を冷ますかの如く彼女は強引に冷静さを保とうと努力するのだ。


 後ろの護衛数十人も同じ様な表情を浮かばせて魔王を睨み付ける。当の魔王はどこ吹く風と気付きもしないのがタチが悪い。



 この合コンは間違いなく荒れるな。



「リー、俺はちょっとだけ勘違いしてたみたい。今回の合コンは罪滅ぼしが目的じゃないね、どう落とし前を付けるかを決めるための合コンだよ」

「観るからに俺たちの出る幕じゃねえんよなあ。こんな感じなら最初っから魔王一人で良かったんじゃねえか?」

「それこそ自殺行為だよ」

「翔太の言わんとしてることが分かるっぺさ。魔王一人で話し合った未来がまったく予想できねえんだべよ」



 俺たちのいないところで俺たちが巻き込まれる結末になったら目も当てられない。ズンダは、そう言いたかった訳だ。


 その可能性を考察していなかったリーは、

「あーー……、確かにやべえな。おえ」

とぼやいて周囲にバレない様にコッソリと最悪の未来を想像したらしく吐き気を覚える辺り、リーの想像は手に取るように分かる。


 しかし本当に胃痛と吐き気しか感じない。


 それほどのプレッシャーをセイレーンが数十人がかりで撒き散らす。


 撒き散らされて垂れ流しとなった迫力に萎縮してしまい、シュルシュルと縮こまっていく中で俺は、ふと一つの視線に気付いてしまった。


 見知った人物と目が合ってしまったのだ。



「ああああ……ああああああ、あーーーー……」

「どうしたでゲスか?」



 その人物もまた、御多分に洩れずギラリと怒りが籠った目を俺に向けていた。ずり落ちたメガネを左手でクイッと持ち上げる仕草と見た目は彼女の性格が伝わってくる。


 その人物の正体に俺は心臓と目玉が飛び出してそうだった。



「……幼稚園合コンにいたザーマスPTA会長が……セイレーンだったとは……」



 ティティアの脇を固める護衛の中にPTA会長然としたスーツ姿のセイレーンがいた。その彼女はメボタのセッティングした幼稚園合コンで見た保護者の一人だったのだ。


 確かアイリスとか言う女の子の保護者でザーマス口調が印象的だった。


 その時からモンスターピアレントの空気が漂っていたけど、まさか本当のモンスターだったとは。


 この事実には流石にリーたちも

「……えげつ無さすぎんだろ」

「ゴミみたいに見下されてんのが目付きだけで伝わってくるっぺさ……」

と奇跡の再会に絶望の色を隠せずにいる。


 しかし若干一名だけ、

「え? じゃあアイリスちゃんはセイレーンだったってことでゲスか?」

と何故かウキウキと別角度から期待に胸を膨らせるロリコンがいるが、今はソッとしておこう。



「メボタはまったく反省してねえんよなあ。今ここでドタマかち割ってやんよ」

「嫌でゲス! アイリスちゃんの翼をこの目で見るまでは死ねないでゲスよ!」



 リーとメボタに触れたら俺は確実に火傷を負ってしまう。


 むしろ、今は真剣にそれどころでは無いのだ。



「魔王様、私が大切な娘を貴方へ人質として差し出した条件は覚えてらっしゃいますか?」

「ノベナアーツ、肉串とビールのお代わりを人数分持って来るのだ!」

「い喜んでいいいーーーー!!」



 魔王のお代わりにセイカが威勢よく返事を返す。


 この茶番に母親は体を乗り出して、

「ま・お・う・さ・ま?」

と強引かつ滑舌良くティティアラは魔王の悪ふざけ幕を下ろす。



「香水臭いから近寄ってくるな、それくらいお前に言われんでも覚えておるに決まっとるだろうが! 確か、えーーーっと。そう、アレだよなアレ! アレだアレ!!」



 絶対に覚えてないだろう、このリアクションで魔王が覚えている訳がない。


 食い気味のティティアラと距離を図ろうと魔王はシッシッと手を払う。

 香水が臭いと露骨に鼻を摘んで遇らう仕草は彼女の怒りを頂点へと押しやっていく。ティティアラがグイグイと前に出て、魔王はそれを適当に対応する。


 現代教育の歪みを体現するかの様な光景だ。



「族長、口出しよろしいザーマス?」



 ここでPTA会長が静かなトーンで母親に声をかける。メガネの角度を変えてキランと輝きを放つ様は、正にPTA会長の姿そのものだ。


 ティティアラも疲れたのか、

「はあはあ、何?」

と部下の声掛けをインターバルに利用する有様だ。


 魔王なんて、

「グハハ!」

といつもの魔王ポーズで笑い飛ばすだけ。


 本当に酷いな。



「族長と魔王様の間で結ばれた条件。姫様に世界樹の管理をお任せすることと記憶しているザーマス」

「そうね、その通りよ」

「いざ蓋を開ければ姫様は人間の世界で合コン三昧、我々のクレームはそれザーマス」

「え、そうなの? 俺たちがティアラちゃんに酷いことしたから文句があるんじゃないの? 責任とって合コンを開けって猛抗議されたって魔王から聞いてたんだけど」

「自分勝手な姫様に良いお灸を据えてくれたと族長は芝崎様に感謝しているザーマス。むしろクレームが有るのは監督不行き届きの魔王様だけザーマス」

「グハハ、我はちゃんと覚えておったぞ!? セイレーンは世界樹に依存する種族、世界樹の管理は種族全体の生命線なのだろう!?」

「魔王様に許可無しに不要に戦闘は控える、その見返りとして世界樹の管理権を我らセイレーンが手中の収めてよし。……約束を反故にされるのであれば反乱を起こしますよ?」



 合コンは突如として急展開を見せる。


 まさかセイレーンたちの狙いが魔王ただ一人だったとは思いもしなかった。まったく反省の色が見えない魔王にティティアラは、

「はああああーーーーーー……、あれだけティアラのことを頼むと念を押しましたよね?」

と母親全開の文句を零していた。


 一人心踊るメボタは別として俺たち三人は話の流れ付いていけ無くなってしまった。そんな中で目に入ったセイカの後ろ姿、彼女は鼻歌を歌ってバーベキューの調理を続けていた。


 機嫌が本当に良さそうで、その彼女は後ろで魔王対セイレーンの戦争が勃発しかけていようとは、セイカも想像だにしていないだろう。



「グハハハ、そうであったかそうであったか! ならば我が魔王として一肌脱ごうではないか!!」

「遅え……一肌脱ぐのが遅えんよ」

「俺たちのドキドキを返して欲しいっぺ」

「アイリスちゃんはセイレーン……はあ」



 静まり返った屋敷の庭先でメボタを殴り飛ばしたリーの拳が音を立てる。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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