やっぱりありがとう
奥の手の溜め撃ちは連射が効かない。
しかし、限りなく連射に近い状況は作り上げることが可能だ。最初に放った溜め撃ちは威力を具現化させる様にオーラを纏った銃弾が走る。
その銃弾と同じ弾道で通常弾を連射する。
チャリーンチャリーンチャリーンチャリーンチャリーン。
「やっぱりそうなんだ。魔王から発するオーラの波動は空気みたいな存在なんだ」
「そこに気付くとは、やはり貴様は見込みがある男よ! 何度でも言うがノベナアーツと結婚するのだ!! 我が義理の甥っ子よ!」
「セイカさんって魔王の姪っ子なんだ」
通常弾は魔王のオーラの中ではまともに推進が不可能、しかし、より威力の高い溜め撃ちを追う様に進めば話は別なのだ。
つまり溜め撃ちが魔王のオーラを押し除けて一時的に波動を弾道の外に追いやる。波動が無くなった道ならば通常弾でも突き進んでくれる、と言うことだ。
これに気付くために随分と時間をかけてしまった。
食堂の片隅で無惨に倒れるリーとズンダは半ケツのまま気絶している様だ。二人の頑張りが無駄にならなくて本当に良かったとホッと胸を撫で下ろす想いだ。
「二人とも、俺が絶対に合コンに漕ぎ着けるからね」
「グハハハハ! 期待していいぞ、我のハーレムは絶世の美女揃いであり美少女もわんさかおるからなあ! うがああーーーーーーー!!」
「無駄口が多いからだよ。早く避けておけば良かったのにね」
魔王に俺の溜め撃ちが見事にヒットして悲鳴と共に爆発が起こった。
爆発は周囲の塵や埃を巻き上げて視界を遮っていく、モクモクと食堂と言うよりも魔王の作った光の壁全体に拡散していた。
この状況では、とても魔王のいる場所など分からない。
俺はアクション映画の刑事みたいな動きで視界不良の中、警戒してジリジリと前方へ動き出した。下手な発砲は敵に俺の位置を教えるだけ、緊張の中で俺は自分が唾を飲みこむ音だけが鮮明に聞こえた。
「……やったのか? 奥の手は魔王にちゃんと効いたかなあ? これが効いてなかったら打ち手なしなんだよなあ」
一抹の不安。
魔王は強い、それは間違いない。
だからこそ俺は自分の持つ得る最大の攻撃が彼に通じるか否か、その現実に注視する訳で。ジリジリと動きながら俺は視界がクリアになるまでの時間を長いと感じてしまう。
そして痛感するのだ。
ただ煙に塗れて傷一つ負っていない魔王の姿にギョッと目を見開いて後退りしてしまった。
「素晴らしいではないか! 我が肉体を汚した人間はお前で二人目だ!」
「マジで?」
「マジもマジ、大マジよ! 我を封印した勇者もそうだった、そうやって我を楽しませてくれる。……ここからは我も本気を出そう、貴様の本気に全力を持って応えてやるぞおーーーーー!」
強靭な魔王の太ももは膨らみを帯びていく。
魔王の動きは俺に向かって飛び込んでくる準備だ、拳銃で数発撃ち抜いた怪我など気にも留めずドンドンと膨らんでいく光景は俺に最悪の覚悟を突きつけている様だった。
「やっべえ……逃げる場所もないじゃないか」
「ううう……翔太あ? おめえ一人で頑張ってくれてんたんか?」
「リー!? 気を取り戻したの!?」
絶望の最中、気を失っていた仲間の声が耳に届く。
部屋の隅で気を取り戻した半ケツのリーに俺と魔王の視線は向いた。
「イテテテ、全身が痛えんよ。翔太あ、ずっとおめえだけに負担をかけてたんだな? ありが……」
「うわああああああああああーーーーーーーー!」
「翔太? どしたんよ?」
「俺とリーは対等な仲間だよ! その仲間から感謝の言葉なんて必要無い、リーがもし俺を仲間と思うなら、そんな言葉やめてくれ」
「翔太あ、おめえって奴は……。オッシャアアーーーーーーー、分かったぜえ!! 金輪際、俺はおめえに感謝なんてしねえ!!」
危なかったあ。
危うくリーに剣の合言葉を言われるところだった。そうなったら床に刺さった剣は再び地面に向かって延々と伸びる。剣身が世界樹を傷付けたら同じことの繰り返しじゃないか。
そんな状況は俺が誤魔化してやる!
「リーはトメさんたちを頼んだよ」
「オッシャーーーーーーーーー! 任せとけってんだよ!!」
「だべええーーーーーーーーー!」
絶叫と共にリーは、いつの間にか意識を取り戻していたズンダと一緒に食堂から出て行った。いい奴らだけに体よく追い払った様で気が引けるけど、それでもまずは色々な意味を込めて安全の確保が最優先。
着々と準備を進める魔王の姿は人の不安を煽る。
奥の手が効かなかったのだ、次の手を思案するも不安が邪魔をして良い案がこれっぽっちも思い付かないのだ。
「死ねええええーーーーーーー!」
「死んだら合コンができませんーーーーーーーーー!」
魔王は俺を殺すと言う。
彼は膨張させた太ももの筋肉を爆発させて突っ込んで来た。当時に拳も握りしめて魔王は俺を殴り付けるつもりなのだろう。
その反動で床に突き刺さった剣がガランと音を立てて転がる。
死を前にすると人は感覚が極限まで研ぎ澄まされる。
高速で接近する魔王の姿を視覚で捉えながら聴覚で剣が転がった音を耳で拾った。走馬燈とでも言おうか、周囲の一瞬は俺にとっては途方も無く長い時間に感じるのだ。
その瞬間、俺は生を諦めて目を瞑ってとある言葉を呟いてしまった。
「……皆んな、ありがとう」
「ごぶはあああーーーーーーーー!?」
これは苦痛の叫びだ。
魔王の苦痛の声が何の前触れも無く俺の耳に届いた。死を覚悟した俺はソーッと瞑った目を開いていく。すると目の前には剣で胸を貫かれた魔王の姿があったのだ。
これには俺も、
「へ?」
と間抜けな声を漏らすしかなかった。
「え? あ、合言葉を言っちゃったんだ」
「こ、これも……これは我を封印せし過去の勇者が持っていた……伝説の伸びる剣では無いかあ!! た、確かこの剣は……ぐっ……どうかされました? の合言葉で剣先の形状が変化するはずだ」
「え? そうなの?」
「貴様あ、やはり俺が見込んだだけのことはある。まさか……この剣まで所持していようとは……ばっはあ! グハハ、貴様は何処までも我を楽しませてくれる奴よ!」
「どういたしまして、色々とすいません」
これも偶然だった。
剣身が伸びて魔王の言葉で剣先が船の錨を思わせる形状へと変化したところで俺の合言葉によって再び剣身は縮んでいく。
その途中で当然剣先は貫いた魔王の体を通る訳で。
形状が変化したそれが元に戻る流れで魔王の体に空いた穴を更に抉ってしまった。これには流石の魔王も素直にダメージを受けて、
「ごぶはあっ!」
と悲鳴とも形容し難い苦痛を漏らして派手な吐血する姿を見せていた。
剣は心臓を貫いたのだと見える。
魔王はガクガクと膝を笑わせる。
その状態でも踏み止まろうと懸命に頑張る魔王だが、遂に力尽きて前のめりに倒れていった。大の大人が倒れた割には大して音も立てず静かに沈んでいった。
偶然とは恐ろしい。
目の前で起こった出来事を信じられないと俺は呆然と倒れた魔王を見下ろしていた。その後ろで形状が変化したまま戻った剣は収まりが悪そうに鞘に納刀される。
どっちを気にしていいか分からなくなって俺は魔王と鞘を交互に視線を変える。
「ぐっ……まさか我が……再び敗れる日が来ようとは……」
「うわっ、ビックリしたあ。生きてたんだ」
「た、確かその剣の剣先が元に戻る合言葉は……」
「合言葉は?」
「……励みになります、がくっ」
そう言い残して魔王は完全に気を失ってしまった。魔王のおかげで剣は綺麗に鞘に収まって全てが丸く収まりました。
「合コンの約束は?」
魔王は俺の問いかけに答えてはくれはしなかった。
静まり返った食堂の中で俺は一人取り残されてしまう。やらかして、それを誤魔化そうと奮起して、それでもやらかして。
全てのやらかしを帳消しにしてくれた人物は俺の目の前で力尽きている。
その姿を見ては俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。
お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m
また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。




