激突、重課金対戦闘狂
ズドン!
二つの拳の衝突は爆音と衝撃を生み出した。
「人間を脆いとか言う割には互角なんだね」
「気に入ったぞ、やはり貴様にはノベナアーツを紹介してやろう!!」
「全力で断る!」
チャリーンチャリーン。
拳の衝撃を利用して魔王と距離を置くと同時に拳銃を発砲、二発の銃弾が敵の急所を目掛けて放たれた。回転とバネの反発に加えて火薬の爆発によって放たれた銃弾は本来であれば充分な殺傷力を秘める攻撃だ。
しかし、魔王のオーラは凄まじく俺の銃弾いとも簡単に払い落としてしまう。
その光景に敵は終始不敵かつ不快な笑みを絶やさない。
「ステータス。ほお、貴様レベルがたったの10とは恐れ入る」
「人のステータスを見ないでくれる? 個人情報を何だと思ってるんだよ」
不満を覚えて反射的に悪態をついた。
普通なら生意気とか怒鳴られるかもしれない。
しかし、そんな吐き捨てた様な俺の愚痴に魔王は、
「因みに先ほどの出っ歯はレベル48、リーゼントは55だ」
と笑って補足を添えてきた。
それが何の比較なのか分からないまま、俺は再び魔王に拳を振り落とす。
「クエスターになってまだ一ヶ月経ってないんだよ」
「貴様は勇者であろう? 勇者とはパーティを組んだ仲間の力を底上げする存在だ。つまり限界を突破したレベル50前後のクエスター二人が我の前にいとも簡単に屈した訳だ」
魔王はヒラリと俺の拳を余裕で右へ回避して言葉を綴っていく。その様子は何処か楽しげで、先ほどの様に人を見下す印象は受けない。
彼が何を言いたいか、と言う真意までが汲み取ることができない訳だが。
拳を交わされて俺は闘牛みたいに魔王によって受け流されてしまう。それでも何とか食い下がり、拳銃を魔王の太ももに押し当ててトリガーを二回引く。
チャリーンチャリーン。
「自分が強いって言いたの?」
「それは当然だ。我は強い! 魔王也!!」
「くっそお、太ももを撃ち抜いたんだし少しは痛がってよ」
「その強い我は限界突破したリーゼントと出っ歯を簡単に返り討ち。しかし、レベル10の貴様は一向に倒せないのが現実だ」
「うおおおおおお……あっぶなー」
「フハハ! 我の渾身の一撃を紙一重で交わすとは、やはり侮れんなあ!! 貴様、戦っていて楽しいぞ! やはり我が最強の側近ノベナアーツを紹介してやろう!」
色々な意味で危なかった。
魔王の攻撃を交わせれば結婚と言う名の人生の墓場行き、交わせなかったら現実の墓場行きのなるところだったとは。もう魔王と知り合いと言うだけで人生が詰んだ気分になってしまった。
そんな風に油断していると魔王は更に攻撃を繰り出してくる。
「ぶっ! げほげほ、翼で風を起こすなよ」
「やはり貴様は人外の領域に足を踏み入れておる様だ。我が翼が起こす風は一定レベル以上の人間以外は気を失ってしまう代物、この事実は貴様のステータスが異常だと言う証そのものよ」
俺の漏らす不満など気にも留めず魔王は問いかけてくる。
答える義理は無いと分かっていても俺はつい、
「ステータスもお金で買えるって言うから、斡旋所のお姉さんに言われた通りにしただけなんだけど」
とポリポリと頭をかきながら、これまでの経緯を話すと今度は、
「貴様、まさか素人の分際でフルステータスだとでも?」
「最終ステータスが一番高いクラスが勇者だったからね」
「グハハ、最高のゲス野郎だ! これぞノーモラル! 良かろう、やはり気に入ったあーーーーーーー!」
と言う流れで俺は再び魔王に気に入られてしまった。
自らが起こした突風の中で彼は謎の高笑いし続ける。
魔王の中で何故か琴線に触れた俺のステータス大人買いの件は、彼自身によって肯定されるのだ。普通なら卑怯と罵られたりするかもと考えながらのカミングアウトだった。
これは予定外だ。
しかし、そもそも敵に罵倒されたところで痛くも痒くも無いが賞賛されてしまうと反応に困ってしまう。
「買えるなら買うでしょ。だって安全がお金で買えるんだよ?」
「グハハ、我は魔王ぞ!? 元々モラルなど皆無だ、その程度で非難などせんわ! むしろ貴様のそれはこちら側の考え方である! どうだ、やはりノベナアーツと結婚して我の親戚にならんか!?」
「いや、何度でも全力でお断りします。それと、そろそろ突風を止めてくれると助かります。花粉症にはキツいんだよね。アンタ、テンションが上がり過ぎてノリで翼を羽ばたかせてるでしょ?」
「グハハ、バレていたか!? では、そろそろ第三ラウンドと行こうか!」
オーラの波動に包まれて魔王が前進してくる。強く握りしめた拳の道すじを予測して交わす。
チャリーンチャリーン。
自分の目の前に走る魔王の腕に拳銃を押し当て、トリガーを二回引いた。俺の放った銃弾は魔王の腕を貫通するギリギリの威力だった。
太ももと合わせて合計四発。
俺の攻撃を受けても魔王は苦痛を表情に出さない、むしろ狂気にも似た不気味な笑みを浮かばせていたのだ。
更に驚くべきは魔王がそのまま殴りかかってきたことだ。
「足が止まっているぞ!? 言ったであろう、我は完全体で復活したと!」
「うわ、危ねえ……。ギリギリの間一髪だったよ」
「今の我にとっては造作もないことよ!」
振り下ろされた魔王の拳が床をグチャグチャに破壊する。避けられなかったら俺は跡形も無くなっていたかもしれない。
思わず想像してしまい、
「ひええ」
と情けない声を漏らしてしまう。
それでも俺は何とか拳銃を魔王に押し当ててゼロ距離射撃を繰り返した。
避けては撃って、撃ってはギリギリで回避して。
その繰り返しだった。
繰り返される中で魔王の出血は夥しい量となっていた。人間なら間違いなく致死量のそれは、まるで海の如く食堂の中に広がりを見せていた。
動き回る中で魔王の血に足を取られて滑ってしまい、ようやく気付いた。
その異常なまでの光景を俺は見渡しながら、
「合コンをセッティングしてから死んでよ?」
と念を押す。
ご褒美アリで始まった戦いはノーギャラで終わるのが一番虚しいと思う。それでも戦いはあくまで戦いな訳で。
俺の確認にニヤリと不敵な笑いを浮かべて魔王は堂々と語りだす。
「我が戦法は常に痛みを伴うのだよ。グハハ、肉を切らせて骨を断つ、切られた肉は血が流れて当然よ」
「魔王ってラスボスじゃないの? そんなに簡単にダメージを受けちゃって大丈夫? 威厳とかプライドとか色々とさあ」
「ラスボスは最強の男の宿命である! 最強には最強なりの戦い方があるものよ、だからこそ最高の女どもや熟女が勝手に群がってくるのだ!」
「あ、セイカさんが熟女って認識はあるのね」
全身血だらけの魔王が拳を空にかざすと事態は急展開を見せる。
食堂に広がる夥しい彼の血が拳に集約し始めたのだ。
まるで磁石の如く引き付けられるかの様に全ての血が魔王の拳に集まっていく。そして剣へと形状を変えて鋭利な刃がキラリと光った。
魔王は血の剣を誇らしげに見せ付けて高々と笑っていた。
「これぞ我が力、我は自分の体の一部を自在に操る力を奥義とする魔王也!」
「うわあ、これはご褒美が合コンだけじゃ割に合わないよ」
「今更気付いたのか!? だか時既に遅し、死ねええーーーーー!!」
もう老人ホームはメチャクチャだった。
狂気の笑みを浮かばせた魔王の一撃は破壊の限りを尽くす。
既に半壊状態の建物はたった一撃、縦の一閃で完全に崩壊してしまったのだ。リーとズンダを生き埋めにしていた瓦礫も、その勢いに飲み込まれて吹き飛んでいく。
ガラガラと音を立てて辺りは幼稚園の時の様に荒野へと豹変してしまうのだ。
その光景に俺はギョッと目を見開くしかない。
「トメさんたちは無事なの!?」
「フハハハ、自身のことよりも避難させていた老人どもの心配か? 我は誇り高き魔王也、わざわざ弱き者に危害を加える気は無い。安心するがいいぞ、この魔王自らが防衛用の壁を作ってやったからな!」
「あ、本当だ。なんか薄っすらと光の壁が見える」
魔王は、
「存分に暴れるが良いぞ!」
と言ってキラリと歯を光らせながら俺に親指を立てていた。
いくらなんでも強すぎだろう。
これには流石に彼が終始余裕を見せていたことに納得せざるを得ない。
性格は豪胆かつ誇り高い。
絶体絶命の危機を前に、ふと一つだけ疑問が湧き上がった。
「魔王はさ、どうして魔王をやってるの? 見た感じだと弱い者いじめとか世界征服なんて興味無さそうだし」
「グハハ! そんなに強いなら魔王を名乗っちゃえば? とノベナアーツが言うものでな! それだけで強き者が無限に挑戦してくるぞとなあ!」
「セイカさんのバカ……魔王はもっとバカ」
バカと言うより魔王は考えなしの性格らしい。
「では続けるぞおーー!」
魔王の猛攻は更に続く。
今度は剣を横に振り抜いて僅かに残っていた近くの瓦礫を全て吹き飛ばす。その下に寝ていたリーたちがようやく姿を現した。
俺はリンボーダンスの様な姿勢で何とか回避していた。このままでは時間の問題だと本能的に感じてしまう。
「危ねえ……この防弾チョッキが無かったら間違いなく死んでたよ。てか反撃しないと本当に死ぬ」
距離は有ったけど、その姿勢のまま拳銃で魔王を撃ち抜く。
シャリ〜ン。
通常弾は効果が見込めないなら溜め撃ちで反撃だ。
「ほほお、先ほどよりも威勢のいい攻撃ではないか。グハハハハハ! それが貴様の奥の手か!?」
「溜め撃ちの方が威力はダンチだからね」
電子決済音を鳴らした銃弾は空気を切り裂いて魔王へと突っ込んでいった。
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