あの子は魔王のお知り合い
「死ねええええーーーー!!」
「動けえええええ、俺のリーゼントキャノン!!」
「ふがふがふがーーーーーーーー!!」
「フハハハハ! 我の懐刀は地味っ子ながら中々の生唾ものの美少女だ、存分に楽しみにするがいい!」
「……地味っ子?」
魔王の発言に引っかかるものがあった。
地味っ子と言われて直ぐに浮かび上がった人物がいるからだ。
しかも魔王は、その人物を懐刀と表現する。それが俺の不安を余計に膨張させるのだ。俺と合コンでテンションが爆上がりしたリーたちとの間に壁ができてしまった。
冷静になった俺が、
「その子の名前は?」
と探りを入れてみると魔王は、
「フハハ、この好きもの勇者め! 元気っ子のノベナアーツだ!」
と予想通りの名前を口にした。俺は危うく爆弾を踏んでしまうところだった。
「……その子以外でお願いします」
「もう勝ったつもりでいるのか? しかも我を相手に合コン相手を指定するとは、その豪胆さが気に入った!」
想定外にも魔王に気に入られてしまった。
見事に爆弾を回避して安心はした。
警察の爆弾処理班とはこんな気分なのかと戦いの真っ只中にも関わらず考え込んでしまう。再びセイカと一緒に合コンなんて勘弁して欲しい。
「ごぶはあっ! フハハ、中々やるでは無いか!!」
と妄想の間にも魔王との戦闘は続く、俺の全力パンチが魔王の顔面にめり込んだ。大口で騒いていた魔王は口内を切ったようで、ドバドバと口から彼の血が沸き滴る。
その様子を確認して俺は更に一歩前に踏み込んで全体重を乗せた攻撃を打ち抜いた。
それには幾らなんでも魔王も耐えられなかったらしく、漫画みたいに糸が切れた人形の如く後方へと転がり吹っ飛んでいった。
その光景は、
「魔王ってチョロくね?」
と俺に本音を吐かせにかかってくる。
この光景には本気で首を傾げてしまう。
それほどまでに魔王への手応えを感じてしまっているのだ。
そんな根拠の無い違和感に俺が悩んでいると、
「ふがふがふがーーーーーー!!」
「しゃあ、動いたぜ! 俺のとっておきを喰らわせてやんよおおおーー!」
とリーたちは欲望のままにそれぞれに照準を魔王に合わせ始めていた。
ズンダなどは魔王を誘導していた様で。
彼の入れ歯は縦横無尽に飛び回って俺の攻撃のために魔王の動きをコントロールしている様に思えてきた。その証拠にリーとズンダは全く同じタイミングで必殺の一撃を繰り出した。
幼稚園を破壊したリーゼントキャノンと出っ歯カッターが魔王を襲う。
対する魔王は俺の攻撃で壁に激突して、ようやく起きあがろうとしているところだった。その魔王の姿を見て俺は即座に拳銃を抜く。
照準は無論、魔王だ。
スライドを引っ張っていつでも撃てる様に銃口を構えた。
「ふがーーーーーーーーーーーー!」
「老人ホームごと破壊してやんよーーーーーーーーー、死ねええええーーーーーーーー!」
「二人の攻撃と俺の射撃、好きな方を選んでいいよ」
「グハハハハハ! なるほどなるほど、入れ歯ビットで我を誘い込んだところにリーゼントキャノンと出っ歯カッターのトドメか! 万が一、回避されること考慮してケンジューでフォローとは人間にしては中々の作戦よ!」
その様子から察するに魔王は想定内、と言った感じだろうか。
あくまで取り乱すこと無く魔王は冷静に状況を分析する。その上で敵である俺たちを称賛さえする始末だ。
その余裕の出どころが皆目見当も付かない。
その間に、ズンダの口に役目を見事に果たした入れ歯ビットが次々と帰還を果たしていた。
「そんな余裕はここまでだべ! 魔王、この距離でお前は俺たちの攻撃を避けられないべ! ヒューーーーーー」
ズンダの口から空気が漏れる。
出っ歯カッターのない状態で大声を張り上げると空気が漏れて妙な音が鳴るらしい。ズンダは間抜けな喋り方で魔王を挑発した。
本当はカッコよく指を差したかったのだろうけど、ズンダは魔王のオーラで壁に貼り付いたまま。
お願いだから俺の腹筋を虐めないでくれ。
ズンダのせいで笑って筋肉が捻じ切れそうだ。
リーはリーでズンダと同じ状況のまま、
「あばよ魔王。俺たちが勝ったら合コン、約束は守って貰うかんな」
とカッコ悪いことをカッコいい表情で言い切る。
己の状況を顧みることなく恥ずかしげも無い様子で二人は決め台詞を口にした。
しかし魔王はやはり魔王だった様で。
彼は口元を吊り上げて小さく笑うと全身から放つオーラの波動を強めてきた。正に台風とい形容すべきだろう、先ほどの波動がただの突風にしか思えない。
それほどの波動が食堂の中を駆け巡った。
神風は直撃寸前の出っ歯カッターとリーゼントキャノンを容易に弾き返す。
「はっ!」
「うわうわ……うわーーーーーーーー! 跳ね返った出っ歯カッターが俺の方に飛んでくるべええーーーーー! ぎゃわっ!!」
「んなんだと!? 俺のリーゼントキャノンが……うわあああーー! こっちに来るんじゃ、ぎゃああああーーーーー!!」
「リー! ズンダ!」
「フハハハ! お前は運がいい、同じタイミングでケンジューを我に撃ち込んでいたら今頃は仲間と同じ運命を辿っていたであろう!!」
瓦礫が瓦礫に埋もれていく。
ただでさえ天井が崩壊する中で、跳ね返された攻撃が部屋に激しい爆発を起こす。その衝撃で食堂の天井全てが瓦礫となってガラガラと落下し始めるのだ。
リーとズンダは魔王の反射攻撃を受けたまま巻き込まれて瓦礫の下に埋もれてしまった。
周囲をグルリと見渡すと老人ホームは見る影も無く崩壊していた。最初の崩落でトメさんたちを避難さえていなくば、全員の命が危なかっただろうと容易に想像できる状況だ。
そんな絶望の中で仲間の声が弱々しく耳に届く。
瓦礫の下から、
「……うっ、翔太あ」
とリーが声を発すると、
「リー! そこのいるの!?」
と俺は返事を返すと直ぐに駆け寄った。
到着しても瓦礫が邪魔で仲間の無事すらも確認ができない。
仲間が心配で酷く取り乱して瓦礫をかき分けることしか思い付かない。指の怪我なんて気にも留めず必死になってかき分けていった。
「リー、無事!?」
「全……然無事……じゃねえよ。おめえは無事なんか?」
「俺はピンピンしてるよ! ズンダは声も聞こえないんだ!」
「ズンダは心配要らねえよ、アイツには入れ歯ビットがあんだ。これくらいじゃ死なねえよ」
「……ヒューーーーーーー……」
ズンダの生存は思わぬ形で確認できた。
出っ歯カッターの隙間から漏れた音が笛の音みたいにズンダの居場所を教えてくれるのだ。
頼むからズンダも瀕死の状態になってまで笑わせようとするな!
「グハハ、やはり人間は脆い。脆すぎる」
その俺を魔王は後ろから嘲笑ってくる。
振り返ると、そこには俺たちのやり取りを肴に口元を吊り上げて、不快な笑み零す魔王の姿があった。
腕を組んで、まだ笑い足りないとニヤニヤと胸糞悪い表情を浮かばせるでいるのだ。
「ニヤニヤ笑わないでくれる?」
「親の仇とばかりに睨むではないか。もしや仲間をバカにされて我に怒りを覚えたのか?」
「そっちこそバカみたいにオーラで部屋を散らかして。子供かよ」
「ぐハハ! 言うではないか、ならば……決着は拳で付けようではないか!」
魔王は床を蹴って俺に向かって走りだした。
魔王との戦いは休む間も無く第二ラウンドが開始されることとなった、これまで受け身を貫いて動作は回避のみ、魔王は初めて攻めの動きを見せたのだ。
「我の全力を受ける資格は、そのチョッキの持ち主以外に居らぬはあ!!」
「もう一丁! 派手に吹っ飛ばしてイケメンヅラをボッコボコにしてやる!!」
俺も負けじと魔王の攻撃を真正面から受け止める覚悟を示す。
俺たちの激突は全力のフルスイングパンチのぶつかり合いから始まっていくのだった。
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