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合コン③

「お兄さん方はおいくつかのう?」

「二十三歳だぺ」



 デジャブか?

 違う、デジャブと逆だろう。


 俺は隣の席に座るリーの脇を肘で小突く。俺からバトンを受け取ったリーは更に隣のズンダの後頭部を引っ叩いた。


 ズンダは申し訳無さそうに叩かれた頭をかきながらも笑顔を作る。



「ご出身はどちらかのう? そちらのお兄さんの街の外の出身じゃろう?」

「俺とリーは首都の出身だげっちょ、こっちの翔太は街の外だっぺ」

「……ズンダ、やってくれたな。メボタの件があって、それでもなお俺たちを騙すたあ、いい度胸なんじゃねえか?」



 ズンダが合コンの相手と会話に華を咲かせる横でリーは怒り心頭だった。

 メラメラと憤怒の炎を燃えたぎらせるリーゼントの男は、そう言って小柄なズンダを上から睨み付ける。


 両腕を組んだリーは合コン中にも関わらず不機嫌さを隠そうとすらしない。


 メンテを済ませたリーゼントがリーの怒りに反応するかの如く小さく揺れる。



「俺、お爺ちゃんお婆ちゃんっ子だっぺから」

「理由になってねえんよ。俺が聞きてえのはそこじゃねえ」

「ズンダさ、どうして俺たちは老人ホームで婆さんたちを相手に合コンをしないといけないの?」



 ここは街の老人ホーム。


 俺とリーがズンダに指定された場所は老人ホームだったのだ、そこが今回の合コン会場でお茶と羊羹をお供に定年が過ぎた婆さんたちと世間話に花を咲かせる。


 相手の婆さんたち全員が七十五歳だそうで。


 俺たちは老人ホームの食堂にいた。



「ここのクエストをソロの時に良く引き受けてんだげっちょ、冥土の土産に合コンをしたいって頼まれたんだっぺよ」

とズンダは堂々と言い放つ。


 リーもズンダの迫力に負けて、

「うっ」

と気圧されてしまい言葉をが喉に支えてしまったらしい。


 俺たちのやり取りにテーブルで顔を突き合わせる婆さんたちが心配そうに首を傾げるのだ。これには俺も何も言えずリーを宥めるしかない。


 ただひたすら婆さんのためにと笑顔で会話を続けるズンダの独壇場となっていった。



「ズンダちゃん、悪いねえ。こんな婆さんたちのために、お友達を誘って合コンを開いてくれて」



 三人いる婆さんたちのうちの一人が、

「ほっほっほ」

と皺くちゃの顔に心の底から込み上げただろう笑みを浮かばせていた。


 するとズンダもまた心からの笑顔を浮かばせるのだ。



「いいっぺよお。危険なクエストに比べたらトメさんと話す方が楽しいっぺ」

「今度、穴埋めに婆さんの娘を紹介するから勘弁してな。五十五の若さだけが取り柄なんだけどねえ」

「リー、暴れたらダメだよ?」

「翔太よお、頼むから俺が暴れない様にシッカリと押さえてて欲しいんよ。確かに七十過ぎた婆さんから見たら五十五歳は若えもんなあ。悪気がねえってのは俺も分かってんよ」

「聞こえちゃうってば、リー」

「そもそも孫がいるんなら娘を紹介すんのはダメじゃねえのか? サラッと不倫を推奨すんじゃねえよ。これだからボケた婆さんは嫌いなんよ」



 リーはもはや何処に怒りをぶつけて良いものかと、全身を小刻みに震わせていた。俺も目いっぱいの力で押さえ込んで彼を制止するのがギリギリだった。


 リーは目から血の涙を流して我慢しているのが分かる。

 だからこそリーを押さえねばと合コン中にも関わらず俺は謎の使命感で頭が一杯になっていた。



「トメさんたちの若い頃とか別嬪さんだったんだべ。その娘さんとかお孫さんとは会ってみてえだべよ」

「うちの孫は今年三十五だったかねえ。紹介するなら孫の方がいいかい?」

「……孫で三十五……どうして世界はこんなに理不尽なんよ」

「リー、我慢だって」



 ドンドンとリーの動きを押さえつけらなくなっていく。


 リーの気持ちも分かるし、ズンダも俺たちに気を遣って孫の話を振ってくれたけど俺たちは心が折れそうだった。そんな風に考えているとトメさんは徐に俺に笑顔を向けて、

「翔太君だったね。君もありがとう」

「あ」



 トメさんの言葉に反応して背中の剣が鞘を突き抜けて床へ向かってグングンと伸びていく。


 屋敷に帰る暇が無かったから合コンに持ち込むことになった剣が老人ホームの床を突き抜けて地球の中心に向かって走る感覚だけが伝わってきた。


 この場にいる全員も同じだった様で。

 張本人の俺と唯一違うのは、その原因が分からないこと。


 俺はまたしてもやらかしたけど、バレない様にと必死に表情を誤魔化した。とは言っても俺も剣を背負った状態だから身動きは全く取れないのだ。


 またしてもヤジロベーとなってしまった。



 それでも何とか、

「どういたしまして」

と会話の流れで剣を止めることはできた。


 今度はバレない様、自然な流れで剣が元に戻る合言葉を言わねばならない。



「ズンダちゃんもそうだけど翔太君もいい子だねえ。こんな婆さんを相手に嫌な顔一つ見せないで合コンに付き合ってくれて。ありがとう」

「振り出しに戻っちゃった……」

「翔太、どうしたんよ?」



 トメさんに再び合言葉を言われて天を仰いでしまった。


 その俺の様子を不思議がるリーは声をかけてくれる。一方の俺は背中に剣の動きが直に伝わって来るため、言葉を返す気力さえ消え失せてしまう。


 自分の口から零れ落ちたため息は地球の重力で伸びる剣身と一緒に地中深くへ沈んでいく様だった。



 そんな時、俺の背中に妙な違和感が伝わってきた。



 ガリッと言う謎の感触があった。



 何処までも伸びる勢いの剣が地中の中で異物にぶつかった様な感覚だ。俺の表情は余裕が完全に無くなって、ガチガチに固まってしまう。


 そう言った空気は周囲にも伝播してしまうものらしい。


 トメさんは優しげな笑顔のまま俺を気遣ってくれて、テーブルに封筒を置くと、

「これ少ないけど、今日のお小遣い。私からのありがとうの気持ちだよ」

と謎の気遣いでお婆ちゃんテンプレの一言を添えてきた。


 合言葉を付け加えたからだろうか?


 剣の勢いは更に強くなって一気に地中を掘り進めていく感覚が追加された。


 俺も流石にトメさんからお金を貰うのは違うと思う。

 それでもだ、俺のやらかしを誤魔化しつつ剣の暴走を止める手立てがこれしか思いつかなかったのだ。


 俺はリーと同じ様に血の涙を流して差し出されて封筒に手を伸ばす。



「どういたしまして、……すいませんすいません」



 この流れ以外に合言葉を続けて言う状況が無かった。


 おかげで剣が元に戻りはじめた様で、背中には安堵の感覚だけが伝わってくる。しかし、それと同時にズンダから冷たい目線が飛んでくる。


 お婆ちゃんっ子の彼は俺の行動に軽蔑の眼差しと叩き込んで来た。俺が封筒を懐に仕舞う時の目などは人を殺せるそれだった。


 背中の剣が二倍速で元に戻っていく中でズンダの目線は痛い。

 因みに二回繰り返したのは俺の罪悪感を表れだ。



「翔太、見損なったべさ」

「色々とありまして」



 そこに一人、俺のフォローにと、

「ズンダよお、翔太はそう言う奴じゃねえんじゃねえか?」

とリーが助け舟を出してくれた。彼の心遣いは涙を流すほどに俺に心に染み渡ってきた。


 もはやお婆ちゃん盲信者としか見えないズンダの真正面から違を唱える。



「実際にお小遣い貰ったべさ」

「ズンダはよ、お婆ちゃんってもんを知らなすぎんじゃねえんか? お婆ちゃんは、お小遣いをあげたくて仕方がないもんだろ。断ってばかりじゃねえで、時には貰ってやんのも優しさなんだよ」

「うっ、そ、それはそうだげっちょ」

「人の心を思いやる、翔太はそれが言いたかったんだと俺は思うぜ」



 全く違う。


 リーの言葉が、あまりにも的を外していて俺の居心地は最悪だった。終いには二人のやり取りを喧嘩と見たらしく、

「まあまあ、リー君もお友達想いのいい子だねえ」

などとトメさんたちに仲裁されてしまう。


 ほんわかとした雰囲気で合コンと名を変えた介護は継続される。


 チラッと横目にリーを流し見すると我慢の限界は目の前にまで来ていた。それくらいは誰にでも分かるだろう。



「俺もトメさんたちとお喋りできて嬉しいっぺよ」



 そんな中でズンダは空気を読まない発言をする。


 おかげで隣のリーからブチッと血管が破裂した音が俺の耳に届く、ズンダはお婆ちゃんたちの前では周囲の空気を読めなくなるらしい。


 そんなほのぼのさと殺伐さがブレンドした世界観の中で異変は起こる。ファンタジーなんてカケラも感じられない中で突如として床が大きく揺れ始めた。


 

 グラグラと激しい揺れが起こって全員が危険を察知した。



 老人だろうと関係ない、身の危険を覚えれば不安が一気に表情に映るのだ。勢いはそれぞれだけど全員が椅子から腰を上げて老人ホームが瓦解しないかと不安を抱く。



 俺以外は、だ。



「これ絶対に俺が原因じゃないか……」



 地中で剣がぶつかった何か、ガリッと削った音が聞こえた謎の感触。



「トメさんたち! 早くテーブルの下に避難するっぺよ!」

「慌てて怪我とかすんじゃねえぞ!? とにかく安全が第一優先だかんな!」



 リーとズンダが懸命にトメさんたちを避難誘導させる中で、地震発生の原因に心当たりがある俺だけは、たった一人で罪悪感に苛まれていた。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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