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唐突なお誘い②

 パチリと目が覚めた。


 朝日と共に、などと言う気持ちのいい目覚めではなかった。小鳥のさえずりは喧騒によって見事にかき消され、俺はベッドから上半身を起こし喧しさを覚える人物に目を向けた。



「セイカさん煩い」

「セイカ・ノベナアーツ、再び一つとなって絶好調でーーーす!」



 喧騒の主はセイカだ。

 あまりの喧しさに思わず耳を塞いでしまった。


 昨晩、光となって飛んでいった結婚願望だけのセイカ。彼女はあろうことか、ウザいだけの彼女と合体してしまったのだ。


 俺の札束攻撃が引き金となって二人は心が通じ合ってしまった、これはその結果らしい。


 昨日はセイカとの戦闘で幼稚園を破壊してしまい、後処理が色々と大変だった。だから、ゆっくり寝ていたかったのだけど、俺の部屋で騒ぐセイカの煩さに眠気は一気に吹き飛んでしまった。



 本当に最悪だよ。

 まるで二日酔いにでもなった気分だ、彼女の叫び声が頭にガンガンと響く。



「セイカさんは魔王の記憶があるの?」

「過去の男に興味はありません!」

「答えになってないね」

「半身が長年魔封じの盾に封印されていた影響で邪悪な心は完全に浄化されたみたいです。私も私で世界樹に浄化されて、残ったものは純度百パーセントの結婚願望と三パーセントのウザさです!」



 ビシッと敬礼のポーズをするセイカ。


 彼女のテンションは底が見えない。朝イチから元気いっぱいのセイカだけど、ここでもジャストフォーとなった弊害がハッキリと分かる。



「セイカさん、誕生日から声が極端に渋くなって、アホ顔にならずに三の倍数が言えるようになったんだね」

「住み慣れた我が家に花の香りを添えて〜」

「お願いだから渋い声を活かして演歌を歌うのやめて」



 どうして君は日本のCMソングを知っているの。

 エアでマイクを握りしめるのは勘弁してほしい。



「芝崎お兄ちゃん」

「うっ、お兄ちゃんって呼ばれると幼稚園合コンのトラウマが……」

「屋敷の外に人が群がってますよ?」

「ああ、業者だね」



 先ほどまで本能のままに騒ぎまくっていたセイカは部屋の窓ぎわに移動していた。探偵事務所を思い出させる仕草で外を覗き込む。


 何とも一貫性のない彼女の行動は付いていくだけで一苦労だ。


 とは言えセイカのおかげで自分のやることは思い出した。

 ベッドから降りて、ため息を零しながら俺は家を出る準備に取りかかることにした。


 ベッドの下にソッと手を伸ばす。



「何の業者ですか?」

「屋敷周りの設備をリフォームするんだよ」

「お兄ちゃんはそう言いながら、どうして私を縄で縛るんですか?」

「今日も外出するから、また合コンに呼ばれてるんだよ」

「私はいい子に留守番してればいいんですよね? それなのに、どうして強盗に入られたみたいに縛られないとダメなんですか!?」

「セイカさんの全財産を貰っちゃったから屋敷から出ていけとまでは言わないけどさ、流石に我が物顔でウロチョロされるのは勘弁してほしいんだよ」

「お兄ちゃんーーーーー!? まさか今日も私を放置ですか!? しかも今度は身動きまで禁止!?」

「こないだ屋敷の金庫に触れて防犯用の罠にかかって死にかけたでしょ?」



 クエスターになって猿ぐつわの手ぎわが恐ろしいほどに上達してしまった俺はセイカをものの数秒でぐるぐる巻に仕上げた。


 このジャストフォーは目を離すと考えられない行動に出るからだ。


 先日も部屋に閉じ込めたはずが、彼女は自力で脱出を図って無計画に金庫を触ってしまったのだ。金庫の周りにはいくつものトラップが仕掛けてあるから、そんな状態では俺もゆっくりと外出することができない。


 本人曰く、

「好奇心が私にまずは触れって囁くんです!」

だそうだ。


 そんなこんなで俺は外出の際はセイカを縛り上げるこのに决めた訳で。



「んんんんんん! ふうおんんんんんんんんーーーーー!」

「何を言ってるか分からないけど水と食べ物はちゃんと置いていくからね」

「ふんおおおんんんんんーーーーー!」

「猿ぐつわでどうやって食べるかは自分で考えてね。それから業者は屋敷の外で作業するから特に相手をする必要はないから」



 セイカはジタバタと暴れて抵抗の意志を見せる。


 鼻息を荒らげて目を血走らせ、ヒロインとは到底思えない動きを体現するのだ。俺自身が一番セイカをヒロインとして見ていないのだけど。



 それでもセイカは俺にとって理想の存在だ。



 彼女のせいで俺はムフフな夜のお店でサービスが受けられなかった、今や分裂していたもう一人の彼女と合体して魔王の側近として完全に覚醒したジャストフォーのセイカ。


 その彼女に対する自分の本音が分からない。


 俺は小さくも深いため息を吐いて部屋を後にした。



「いつもどうやって俺の部屋のロックを突破してくるの」

「屋根裏を伝ってくるんです!」



 強引に縄を外したセイカの口からとんでもない事実を知ってしまった。その手が有ったかと感じると同時に、昭和の香りがプンプンする古すぎるやり口に俺は頭痛を覚えてしまった。


 出かけの前に新たな悩みを抱えてしまった。俺はゲッソリとした顔付きで業者に軽く挨拶を済ませてから街へ向かった。


 挨拶の際、屋敷の中から暴れるセイカの声が漏れて、

「オバケとかいませんよね?」

と業者のオッチャンに聞かれてしまい、それを即座に否定して俺は、

「いえ、魔王の側近がいるんですよ」

と返すと笑われてしまった。


 オッチャンは冗談だと思ったのだろう。


 その笑いに俺の足取りは途端に重くなった。この屋敷には本当に魔王の側近がいるんですよ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「よう翔太」



 デジャブだ。


 このやり取りは前回と同じだ。今日も待ち合わせていたリーと街の大通りで挨拶を交わす。簡潔なやり取りは仲良くなれた証だと思う。


 俺もリーに挨拶を返すと二人で大通りを歩く。隣り合う俺たちは、どちらからともなく大きなため息を漏らす。


 俺たちの考えることは同じだったらしい。



「メボタどうしてるかな?」

「アイツ、今日の合コンも金が無いって断ったかんなあ」

「あ、メボタだ」



 ふと街のポスターに目が止まった。


 子供用の誘拐事件啓蒙用のポスターにメボタの姿があったのだ。彼は誘拐犯の役でポスターに起用されていた。


 演技だろうとは思う。

 メボタは脇に子役を抱え込んでヨダレを垂らしいた。それを見ては俺もリーも彼の本性に言及してしまう。



「……アイツ、借金を抱えてナリ振り構ってらんないんだろうけどよう、性格が役にハマりすぎだろ」

「目が本気だよね」

「ちっ、今後の付き合いを考えねえとなあ」

とリーは本気で蔑んだ視線をポスターに送っていた。


 一瞬で一瞥するその視線はとにかく痛かった。



「いやさあ、メボタもバイトのつもりなんでしょ。広告のバイトで借金を減らそうと必死に頑張ってるじゃないか」

「普通のバイトの方がトータル報酬高えよ。自分の欲望が前面に出し過ぎなんだって話だよ」



 今はメボタのフォローは不可能らしい。リーの冷めた声色で確信してしまった。


 とは言え彼の借金の一因は俺にもある訳で。今後、ジックリと時間をかけてフォローするしか無さそうだ。


 このリーの様子から察するに簡単に説得できそうにない。


 すれ違う通行人が渋い顔を浮かばせるリーに怪訝な表情を向ける様子に説得の難しさを実感してしまう。



「それにしても、まさかズンダが合コンをセッティングしてくれるとはなあ」

「俺も意外だったんよ。ズンダって地方訛りがあんだろ、だから異性にバカにされるっつって女の子とは接点がねえはずなんよ」

「ズンダは流石にロリコンじゃないよね?」

「ねえな。アイツはむしろ子供に遊ばれるタイプだかんな」



 その言葉にホッと肩を撫で下ろすとリーは、

「ふっ」

と息を漏らして遠くを見つめていた。やっぱりリーにとっても幼稚園合コンはトラウマだったらしい。


 リーゼントから取り出した櫛でリーゼントを整えて、落ち着きを取り繕う。


 明らかに前回よりも巨大化したリーゼントが上下に揺れる様子に俺も何故か心が落ち着く感覚を覚えた。もはや永住権など関係なく俺の心は安らぎを手に入れたいと、そう願っている。


 リーゼントの揺れが俺にそれを直感させるのだ。俺も異世界に移住してから今日まで色々とありすぎて心の荒みが限界なのかもしれないな。



「合コンまで、まだ時間がかなりあるよね」

「俺は自慢のリーゼントをメンテしようと思ってんよ。こないだのバトルでリーゼントを酷使しちまったかんな。巨大化しちまってんだろ?」

「被り物にメンテナンスが必要なの?」

「バッキャロー。おめえはリーゼントを舐めてやがんな? 伝説の武器だっつっだろうが、専用のポマードで定期的にメンテしねえとなんねえの」



 リーは真面目な顔でフザけたことを言う。それでも反論すると怒られそうだから、それ以上は何も言うまい。


 彼は見た目通り硬派だから。


 リーゼントに誇りと愛情を注いでるから中途半端に髪型をイジると本気で怒るらしい。そんな訳で俺は、

「結構大変なんだね」

と話を合わせつつ、この会話を強引に終了させた。


 気を遣って合コン前にも関わらず、どっと疲れを感じてしまう。メンテなんて家ですればいいじゃないか、と心の中でツッコみつつ、ふと足を止めた。


 するとリーも、

「どしたよ?」

と、そんな俺に声をかけて同じく足を止める。



「ちょっと用事を思い出したんだ」

「用事?」

「武器屋の爺さんに呼ばれてるの忘れてた」

「じゃあ別行動にすっか?」

 


 爺さんには近いうちに寄れ、程度にしか言われていないからスッカリ忘れていた。


 合コンの時間までまだニ時間はあるし、リーゼントのメンテの話をしていて、ふと思い出した。俺はクルリと歩く方向を変えて、

「また後で」

と言って武器屋に向かって歩き出した。


 どうも合コン前に武器屋に寄るのが俺のルーティンの様で。


 武器屋の爺さんの呼び出しについて考えを巡らせながら本音を漏らす。



「まずは爺さんをぶん殴るかなあ」



 魔封じの盾に貼られたお札の件はちゃんとクレームにせねばなるまい。


 そう考えて俺の両手は自然と握り拳を作っていた。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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