正義と悪の構図?
呪われたナイフの鋭利さは刃先だけでは無かった様で。
あっちもまた俺と同じく対峙する相手を見定めて突っ込んで来た。
ナイフは低い声色で、
「小僧のイチモツをちょん切ってセイカ殿への献上品とするーーーーーーーーーー!」
と怒鳴り散らして俺目掛けて一直線に飛んでくる。
正確には俺の下半身目掛けてだけど。
そのあまりにも恐ろしすぎる発想は俺の顔色を真っ青に一変させる。
「俺には伝説の盾があるから大丈夫!」
「ほほお、盾の後ろで丸まって縮み上がっておるのかーーーーーーー!? ならば、その拠り所を我がズタズタに切り刻んでくれる!」
ナイフの突進スピードはグングンと上がる。
それでも盾は伝説だけあって防御力は本物で、いとも簡単にナイフの攻撃をいなす。カキンと甲高い音と共にナイフは弾かれていく。
空中でピタッと動きを止めてナイフは再度俺に向かって突っ込んで来た。
何度も何度も突っ込んではナイフはいなされて、それでも同じことを繰り返す。何度も挑戦すれば、いつかは突破できると考えたのだろう。
呪いのナイフは凶々しさを深めていく。
背筋が凍りそうなドスの効いた声を発して弾かれて、その度にナイフは様々な角度から攻撃を試みるのだ。
俺は、その度に構える盾の角度を変えて攻撃を防ぐ。
「ふっ、俺の盾はカチカチなんだよ」
「小僧! その慢心の尽くを粉々に粉砕してくれるぞーーーーーーーー!」
盾の有能性を誇ってみるも、時間の経過と共にナイフの指摘を痛感せざるを得なかった。俺には反撃の手段が皆無で、ひたすらに敵の猛攻を耐え続けた。
隣をチラ見すると派手に銃撃戦を繰り広げるリーの姿があった。
俺もあんな風に戦えたらと嫉妬心が芽生えてくる。
「うーん……やっぱり武器だよなあ」
「何をブツブツ言っとるか、小僧ーーーーーー!」
「呪いのナイフと盾は同じ強度な訳で、それ以上の強度をぶつければ……」
考えがまとまってキョロキョロと周囲を見渡してみる。その間にも敵は俺の隙を見逃すはずも無く、ドンドンと攻勢を強めていった。
猛攻の音が繰り返される中で俺の視線はピタリと止まった、地面に落ちたあるものを発見して光明を見出すことができたのだ。
「アレだ!」
と叫んで俺は飛ぶ。
俺が大きく動いたからナイフも違和感を感じたのだろう。より鋭い攻撃を仕掛けてくる辺り、俺が見つけた糸口はナイフに通用すると確信を持つことができた。
「絶対にアレは拾わせんぞーーーーーーーー!」
「貰ったあ、魔王お手製のお札ゲットだぜ!」
「くっ!」
飛び込んで敵の攻撃を回避しながら地面に落ちていたお札を確保することができた、この伝説の盾に貼られていたお札だ。
コレは剣でも切れない、先ほどリーが切断を試みて剣の方が逆にボロボロにされてしまったくらいだ。このお札さえあれば俺はナイフの攻撃なんて怖く無い。
おかげでナイフは強行姿勢をやめて、猛攻は鳴りを潜めてしまった。
ナイフだけに表情は分からないけど、その悔しさは声色から明確に伝わってくる。
「ぐぬぬ、余計な知恵を働かせよってえ……」
「やっぱり魔王愛用のナイフでも魔王お手製のお札は腰が引けちゃうんだ」
「黙れい! お前はタダ他人の力に頼って戦ってるだけでは無いか!」
「そうだよ、えい」
「しまった、ぎゃーーーーーーー!」
ただお札でナイフを殴っただけだった。
それが見事にいい方向に転がってくれた様で。
切り掛かると剣がボロボロになってしまうお札の強度は呪われたナイフにダメージを与える。伝説に盾と同等に強度を一方的に追い込むことに成功した。
お札で殴打する度にナイフにヒビが入っていく。
正に魔王様様だ。
勇者とはパーティを組んだ仲間のステータスを底上げする特性を持つと武器屋の爺さんから聞いたけど、俺は魔王のおかげでピンチを招いてはいる。しかし、それと同じくらい色々と助かってます。
魔王のナイフに追い詰められても、結局は魔王のお札で全てを解決する。
もう俺のやらかしは絶対に隠し通すしかないと決意した。
ヒラヒラと薄っぺらの紙が鍛え上げられたナイフを蹂躙するなど信じられないことな訳で。そうやってナイフは押され始めると、
「ひっ、ひーーーーーーー!」
と低くくも情けない声をあげて後退る様子を見せる。
「もう諦めちゃいなよ」
「黙れ黙れ黙れ! 我こそは由緒正しき魔王愛用のナイフぞ! 我は魔王に誓って絶対に諦めん、諦めない心にこそ正義は宿るのだ!」
「勇者っぽいセリフはやめて欲しいな。悪役ならもっと空気を読んで悪役に徹してよ」
「小僧の分際で知った風な口を聞くなーーーーーーーーー!」
何処ぞの漫画の主人公を気取って呪われたナイフが最後の特攻を仕掛けてきた。
会話が進むに連れて俺は自分が悪役なのでは? と勘違いするほどだった。絶叫で自分を奮い立たせるかの如く敵は威勢と気合いを前面に押し出して、これまでで一番の突撃を見せてきた。
これは流石にまともに受けたら俺も無事では済まないだろう。
そう直感して俺は反射的にナイフをお札で引っ叩く、夏場の蚊を殺す要領で思いっきり叩いた。
まさかここまで一方的な展開になるなど誰も思いもしなかった。
魔王が愛用した呪われたナイフは悲痛を叫んで無惨に散った。ついにナイフの本体は限界の達して文字通り粉々になって地面に倒れ込んだのだ。
「ふふふふふふふふ、俺が勇者だよ? 笑いが止まらないよお」
「ぐぬぬぬ……まだ終わらん。終わってたまるかーーーーーーーーー!」
「え? 粉々に砕けても飛べるの?」
「こうなったら道連れ覚悟で玉砕じゃ! バラバラになった我を支えるものは意地のみ、それが燃え尽きるまでお前に抵抗してやるぞーーーーーーーーーー!」
これは想定外、と言うよりもピンチに落ち入ったと言うべきか。
本体の刃が粉々になったせいか呪われたナイフは飛び交う速度と攻撃の手が格段に跳ね上がってしまった。こうなっては盾持ちの俺でも全ての攻撃を防ぐことが難しくなった。
バラバラの金属片と化したナイフに盾を向けて、身を守るしかできることが無くなってしまったのだ。
「ヤバいなあ。敵を追い詰めすぎちゃったよ」
「小僧、お前はどうしてそんなに飄々としとるのだ!? 真剣勝負をしてるのに温度差があり過ぎて我の方が恥ずかしくなるぞ!! もう顔から湯気が出ちゃう!!」
敵に怒られてしまった。
相対するボロボロのナイフに真剣に戦えと説教されるとは。
「大抵のことはお金で解決できるからね」
「お前と言う奴は何処までも……小僧を見ていると憤怒を通り越して本当に正義の心に目覚めてしまいそうだぞ!! その腐った根性は我が粉々にしてくれるーーーーーーーーー!」
「ふふふ、足を止めたね? もう君は俺の盾の射程圏内だ」
「何だと!? って、ぐはーーーーーーーーーーー!?」
盾の本来の性能は魔封じだ。
チョコマカと動き回られて捉えられなかったけど、こうも堂々と説教をされたら話は別。分かりやすい隙が生まれたおかげで盾で殴ることができた。
角の部分を使って思いっきり殴りつけてやった。
ナイフは地面に勢いよく叩きつけられて、ゴロゴロと転がって痛がる様子を見せる。粉々になってまで抵抗されたことは予想外だったけど、最後は案外簡単にトドメをさせて万々歳だ。
それに粉々の状態でもゴン! と鈍器で殴った様な感覚がしたのはどう言う訳なのだろう?
「あれ、魔封じが起こらないの? もしかして本当に正義の心に目覚めちゃって、だから魔封じが効かないのかな……普通に物理攻撃するしか無さそうだぞ。えいえいえいえい」
「ぐおおおおおおおおお……盾の角で何度も殴るでないわ! お前は、それでも本当に勇者なのか? やり口が完全に悪役ではないか!」
「それにしても、このお札は今後も使えるな。ちょっと借りパクしとこっと」
「魔王から借りパクする勇者なんて見たことがないぞ?」
「君は……粉々になって使い物にならないし地面に埋めとくけど良いよね?」
「やめろーーーーーーーーーー! ゴボゴボグボハーーーーーーーーー……モガ……」
上から土をかけて呪われたナイフの生き埋めの完成だ。
ナイフに呼吸が必要とかは分からないけど、漸く静かになった訳で。これはこれで良しとしよう、世界樹の浄化にも耐えたナイフだけに後始末をどうするべきか悩んでいたのだけど。
一応は結果オーライだ。
こうして俺は慢心とやらは粉砕されることなく逆に呪われたナイフの意地とやらもを粉々に粉砕することに成功した。残るは魔王の側近、結婚願望しかないセイカをどうやって始末するかのみだ。
積極的には関わりたく無いけど、リーの方へ急いで駆け付けるとしよう。
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