貞操防衛戦
リーゼントキャノンの破壊力は想像以上だった。
砲撃を放った瞬間、近くで落雷したのでは? と勘違いするほどの輝きがリーゼントから解き放たれた気がした。そのリーゼントからプスプスと一本の煙が立ち昇る、俺は目をひん剥いて唖然とするのみだった。
その光景の先にはリーゼントキャノンの砲撃が通った跡がクッキリと残る。
幼稚園が跡形も無くなって瓦礫の山が広がっていた。
リーゼントキャノンの通った道は何もかもを破壊し尽くされていたのだ。園児たちと、その保護者をズンダに避難してもらっていて正解だったと俺は今更ながらにホッと胸を撫で下ろす。
敵だったセイカの姿も、そこには影も形も無かった。
伝説の武器『リーゼントキャノン』。
伝説の武器に違わぬ結果を残したことは見事、しかし形状、破壊力共にふざけた存在だった。持ち主も含めて、だけれども。
俺はと言うと伝説の武器を使用して幼稚園の建物を破壊したリーの後ろから、
「どうしてリーゼントに、こんなふざけた威力が出せんのさ」
と嫌味の言葉で話しかけると、
「そりゃあおめえ、そこは伝説の武器だかんな」
とリーは得意げに言い放ってヤレヤレと戯けた仕草で言葉を返してきた。
「しかし、この幼稚園が街の外れにあって良かったよ。肝心のセイカは討伐できたの?」
「これじゃあ分かんねえわなあ」
「リーってば何の合図も無しにいきなり問答無用で撃っちゃうからビックリしたよお」
「相手は魔王の側近だかんな。先手必勝っきゃねえよ」
リーは至って普通だと悪びれることも無く、サラッと言い切る。
とは言えリーはクエスターとして戦闘の経験が豊富だから言ってることは間違っていないのだろう、戦闘は一瞬の判断ミスが命取りになる。
目の前に広がる光景は、正にそれを物語っている気がした。
ふと考え込むと脳裏にセイカが見せた本気の目付きが浮かんでくる。
「あれは確実に俺たちと結婚する気だったよね?」
「やるか、やられるかだった。ならよお、やられる前にやっとかねえとな」
「やることやってから結婚してくれーーーーーーーーー!」
何処から話を聞いていたのか。
セイカは瓦礫の下から勢いよく飛び出して俺たちの会話に乱入してきた。ガラガラと崩れ落ちる瓦礫の音を掻き消すくらいの大声が廃墟となった幼稚園に響く。
「うわあ! ビックリしたあ!」
「嘘だろ!? あの攻撃をモロに喰らってダメージがゼロなのか!?」
「ぐはははははは! こうなったら実力行使だあ、魔王が愛用せし呪われたナイフよ、私の婚活に力を貸してくれーーーーーー!」
ん?
霧が発生した?
セイカがそれに手を翳して叫ぶと周囲を深い霧が覆い尽くしていく。
続いて聞き覚えのあるドスの効いた低い声が聞こえてきた、俺とリーはまさかと思い声の方を振り向くと、目に入ってきたのはナイフだった。
黒く禍々しい刻印が彫られた呪われたナイフが俺たち目掛けて猛スピードで突っ込んで来ていた。
まさかの事態に俺たちは完全に思考がロックしてしまう。
「良かろう! 貴様に加担する代償として、その忌々しい小僧どもの死体を我の生贄として貰うからな!」
「あのナイフは世界樹に浄化されたんじゃないの!?」
「我は不死身なり! 例え浄化されようと上位の存在に呼ばれれば何処なりと参上するわーーーーーーーーー!」
「仕方ねえ、こうなったら奥の手を出すとすんぜ」
その呟きと連動してリーは脇に抱えていた自分のリーゼントを定位置へ静かに戻す。
切り札からの奥の手発言。
一見カッコいい様でいて、ジックリ観察するとダサい所作だ。彼は元の形になると、
「ふう」
と一息の間を開けてから両手を自分のモミアゲに伸ばした。
「これが伝説の第二章だ。俺のモミアゲリボルバーが火を吹くぜ!」
リーはリボルバーを握りしめる両腕を胸元でクロスさせる、二丁拳銃スタイルとなった男は魔王の側近に臆することなく胸を張っていた。
頼もしい仲間を十徳ナイフみたいに見るのは失礼なのだろうか?
「リー?」
「ちょいと待ってくんな」
「どうしたの? 目の前に強敵がいるんだけど」
「俺はよお何事も悦に浸るタイプなんよ。浸って浸って煮浸しみたいにビチャビチャにならねえと本気を出せないタイプだかんな」
前言を五割程度撤回しよう。
リーは頼もしいけど面倒くさかった。
じ~んと感動を隠さないリーは宣言通り一人の時間を貪る。
しかし仕事もキッチリと熟すタイプだとも分かっていたから心配はしていない、リーゼントヘアーの仲間は満足すると前置きもなくセイカに向かってリボルバーを乱射した。
「ぐははははははは! やるじゃないか、まさか一介のクエスター風情に私が足止めを喰らうとはなーーーーーー! 結婚してくれーーーーーーー!」
「翔太、ジャストフォーは俺が責任を持って抑えるから、おめえはナイフの方を何とかしてくんねえか!?」
「リーのリボルバーは残弾とか大丈夫?」
「正味問題ねえ! おめえのケンジューとは違って弾丸のリロードが必要だけどよお、予備弾はシッカリとリーゼントの中にストックしてんぜ!」
リーのリーゼントに対する妄信は驚くべきものがある。
リーゼントの信者はモミアゲ型のリボルバー二丁を人差し指でクルクルと回転させる。まるで外国の風車の如く風切り音を伴させて軽快に操る姿はアメリカ西部のガンマンのそれだ。
その姿に敵対するセイカは両目をハート型に変えて恋する乙女の様な目線を送る。
本当の年齢を知ってるだけに周囲はイライラが募る、それは味方からしても同様だったらしく、まさかの方向から罵声が浴びせられることとなった。
「セイカ殿! 我を呼び出しておいて敵に現を抜かすとは良い度胸では無いか!! 四十路にもなってみっともないと思わんのですかーーーーーーー!?」
「……殺すぞ?」
「すいません……それでは気を引き締め直して突撃じゃーーーーーーーーー!」
セイカはドスの効いた低い声を地獄まで堕とした様な声色で一喝すると、ナイフは小さく謝罪して俺たちに向かってくる。まるで何事も無かった風を装って呪われたナイフは真っ黒な刃を俺たちに向けて一直線で飛んでくるのだ。
この態度には敵対する俺たちも情けなさを覚えてしまうと言うものだ。
「弱っ」
「なんつう情けねえナイフだ。凄まれて引き下がってやんの」
「黙れーーーーーーーーーー! 小僧ども、憤怒を糧に我はお前たちを切り刻むのみ!」
単純に敵の数が増えて俺たちも連携しながら戦わざるを得ない。
そうなると俺よりも戦闘経験が圧倒的に長いリーは頼りになる訳で。
リーは瞬時に連携しての勝負は分が悪いと悟ったらしく、
「翔太あ、おめえはナイフとジャストフォーを引き離してくんねえか?」
と突っ込んでくるナイフを指差して声をかけてくれた。
「四十路を相手にするよりはマシかなあ……」
「俺は貞操をガッチリと守って戦わねえといけねえんだよなあ、はははー……」
互いに乾いた笑いを零して俺たちは相対する敵に意識を集中させていった。
深く腰を落とし直ぐに相手の攻撃に対処できる姿勢を取ったフリをして俺たちは密かに股間のガードを厚くする。
この光景は園児たちには到底見せられない。
改めて園児たちを避難させておいて良かったと内心で俺たち二人は何度目かの安堵のため息を零した。
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