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合コン②

「おにいちゃんはなんさいですか!?」

「二十三歳です」



 その瞬間、俺は隣の席に座るリーの脇を肘で小突く。リーは更に隣のズンダを自慢のリーゼントを揺らしながら小突くと、リレーとなってズンダは隣のメボタを肘で突く。


 ズンダの場合は勢いを付けての全力の肘打ちだけども。



「ごぶはあっ!!」

「おにいちゃんだいじょうぶ? どこかいたいの?」

「な、なんでもないでゲス」



 メボタは小太りだから小突くと脇に贅肉の並みが立つ。

 俺の合図を皮切りにメボタの脇は幾度と無くビッグウェーブが起こって、その度に合コン相手がいいリアクションを見せてくれた。



「おにいちゃんのわきばらおもしろーい」

「そ、そうでゲスか? アイリスちゃんたちが喜んでくれて嬉しいでゲスよ」



 合コンは相手と一緒に楽しむのが鉄則だ、掟と言っても良い。


 だから俺もリーも、そのまた隣のズンダも表情を隠しつつメボタを睨み付ける。聞いてないぞと全力でクレームを伝えた。


 園児たちがメボタの揺れる脇腹で笑顔なのが、せめてもの救いだ。


 幼稚園の制服に身を包んだ四人の女の子たちはキャッキャと無邪気に戯れる。



「わ、悪かったでゲスよ」

「ちっ、メボタがロリコンだって忘れてたぜ」

「あのさあ、流石にこれはダメだよね? 色々と」

「良いわけないっぺよ。何処の世界に幼稚園児を相手に保護者同伴の合コンがあるんだべさ。これじゃ完全に保護者参観だべよ」

と言ってズンダは一瞬だけ合コン相手の幼稚園児から視線を外す。


 気付かれない様にその裏で幼稚園児たちを見守る保護者たちを流し見た。


 興醒めだと言いたげにズンダはジト目を作って下からメボタの顔を覗き込む。ゴミでも見るかの様な表情が感情の全てを物語りロリコンに怒りを叩き込んでいた。



 それでも目の前の園児たちに申し訳ないと思ったのか。



 小さく笑顔で会釈をしてズンダはテーブル越しに幼稚園児と再び向き合う。

 メボタの顔はダラシなく緩んで、俺たち他の三人は鋭い眼光で、そのメボタを射抜く。どう言うことか説明しろと周囲にバレない様に細心の注意を払って怨念を向けた。


 ここは園児たちが普段使う教室なのだろう。


 壁に飾られた園児が描いたであろう家族の絵が、あまりにも生々しく飾られて興醒め以外の感情が芽生えてこない。



「メボタ、どうして俺たちは朝イチで幼稚園の教室に集合して五歳以下のお子さんと合コンすることになるのかな? 俺だって小柄な女の子は好みだけどロリコンはキモい。ガチで社会のゴミ」

「この前、単独でやったクエストの報告をした時に頼まれたんでゲス」

「聞きてえのは、そこじゃねえんだよ」

「リー、怖いでゲスよ。もっと殺意を抑えて会話できないでゲスか?」

「メボタ、俺も怒ってるっぺさ」



 普段あまり怒らないズンダからトドメの一言を叩き付けられてメボタも、ついに観念した様で。メボタはテーブル越しの幼稚園児たちにニコニコと笑顔を向けながらヒソヒソと語り出す。



「幼稚園の先生に社会勉強の一環で園児たちと合コンしてくれって頼まれたでゲスよ」

「保護者たちの目線が痛いんだけど? なんか今、PTAの会長みたいな風貌の保護者がメガネをクイって上げたんだけど? 普通に怖いんだけど?」

「翔太まで責めるなでゲスよお……それは俺も予想外だったでゲス」

「この合コンが終わったら俺がロリコン退治のクエストを斡旋所に依頼して良いかな?」

「おお、良いじゃねえか。だったら俺とズンダで引き受けてやんよ」

「タダで社会のクズを抹殺できるし丁度いいっぺ」

「クエストのマッチポンプはご法度でゲス!」

「おめえ、まさか園児たちを本気でお持ち帰りしようとか考えてたんじゃねえのか?」



 とは言いつつもメボタは分かりやすかった。


 彼は古臭いを通り越して俺たちをバカにしたかの如くワザとらしく口笛の仕草を取ってみせた。コイツは本気でダメだ、気が利くいい奴などと言う考えは今ここで完全に撤回だ。


 メボタの評価は後日改めて決めねば、と俺は密かに心に決めた。



「ヤバい、昨日武器屋で仕入れたばかりの伝説の武器を試したくなってきちゃった」

「翔太も合コン中に物騒なことを言うなでゲス!」

「おお、やっちまえよ。翔太、将来が楽しみな純粋無垢の美少女たちに世間の一般常識ってやつを教えてやんな」

「良い子の皆んな、これからお兄ちゃんたちが悪い人を退治するだっぺ。よく見てるっぺよお」



 ズンダがそう言うと園児たちは元気いっぱいに返事を返してくれる。


 こんなこともあろうかと、とか言って武器を取り出せばカッコいいのだろうけど。この幼稚園は首都の外れにあるから、多少暴れてもご近所迷惑にはなることは無いだろう。


 少しくらいはお仕置きしても良い気がする。


 ズンダとリーからアイコンタクトで、

「やれ」

と冷酷な目付きで合図された気がして真っ黒な盾を取り出した。


 昨日寄ったオキナの武器屋で仕入れておいた新しい防具だ。


 オキナが言うには、この盾もまた伝説の武器だそうで。

 ワザとらしく音を立てて真っ黒な盾をテーブルに置くと園児たちは、とても喜んでくれた。戦隊モノのテレビ番組を楽しみにする良い子みたいな純粋な拍手が湧き起こる。


 キラキラとした無垢な眼差しは俺にやる気を起こしてくれた。


 ロリコンをやってしまえと背中を押された気がした。しかし、やる気以前にメボタのロリコン癖が世界中に申し訳なくて仕方がないのだけれども、今はそれは伏せておこう。


 俺たちの合コンを見守る保護者たちも、

「おお!」

とか、

「やや!? 今時の合コンはバトル展開もあるんですか?」

と思わずツッコみたくなる歓声を上げた。



「この盾は武器屋の爺さん曰く魔を封印する盾らしいよ」

「翔太は、それでロリコンと言う名の魔を封印するだっぺか?」

「その通り」

「あん? ちょっと待てよ翔太。それって、もしかして……魔王の側近を封印したとか言う伝説の魔封じの盾か?」

「そうなの? 武器屋の爺さんには五千万ペレスで売りつけられたんだけど」

「あ、俺も見たことあるべ。確か文献に載ってたべさ、その全てを飲み込んでしまいそうな深い漆黒と凶々しい刻印に散りばめられた真っ赤な宝石とか良く見たら文献通りだべ」

「これでメボタを封印しようと思いまーす」

「ちょっと待って欲しいでゲス! ロリコンが魔王の側近と同じ扱いなんでゲスか!?」



 メボタはついに自白してしまった。


 園児の保護者たちには聞こえていないから良いものの、自分が封印されそうになって顔面蒼白のまま俺たちに頭を下げてきた。


 椅子から飛び降りて俺たちに全力で土下座をするのだ。


 見栄も何もない行為に園児たちが、キョトンと純粋な目で首を傾げるが俺たちには通用しない。俺もズンダもゴミを見る目付きは変わらずだ。ただ唯一、リーだけが俺の取り出した盾を凝視する。


 そして何かを思い出した様にハッと目を見開いて怯える様に震える指で盾を向けた。その仕草にリーを挟む俺とズンダは園児と同じ様に首を傾げてしまった。



「リー? 急にどうしたの?」

「それって確か今も魔王の側近を封印してんだろ? 使ったら封印が解けんじゃねえか!?」

「そうなんだべか!?」

「ああ、それは大丈夫。武器屋の爺さんに、その辺りは何度も念を押して確認したから」

「そうなんか?」

「うん、盾の中で消滅しちゃったのか、この中には誰もいないんだってさ。だから大丈夫」



 俺は、

「安心して大丈夫」

と二人に親指を立てる。


 流石に呪われたナイフの一件で反省してるから、その辺りは入念に確認したのだ。だから、この盾は単純にロリコンを封印するだけだ。


 オキナは念押しだと言って盾によく分からないお札を貼ってくれた。オキナ自身よく覚えていないらしいが、ご利益がありそうだから貼っとくと言っていた。


 とにかくだ。


 リーたちは安堵して胸を撫で下ろし、ならば行けと言わんばかりに俺へ指を立て返してくれた。仲間が了承したのだから、もうやっちゃって良いよね?


 俺が盾の裏にある挿入口にクレジットカードを差し込むと盾は眩く光で包まれていく、この盾も拳銃と同じで、お金で魔を封じることができるそうだ。この世界は、お金で何でも解決してしまうのだ。


 お金で園児たちの平和を取り戻す。


 そう目で威嚇するとメボタは土下座のまま恐怖してガクガクと震え、つには粗相をしていた。園児たちに、それを指摘されるも言い返す余裕など彼には皆無な様子。


 その状況のまま盾の輝きは最高潮となっていく。これこそが魔を封印する力なのだと俺は確信した。



「メボタ、マブダチとしてお前の罪は俺たちが尻拭いしてあげるから」

「マブダチのよしみで無かったことにしとだべよ」

「ちょちょちょ! ちょっと待ってくれでゲスよーーーーーーーー!」

「ぎゃーーーーーーーーーーーー!」



 ん?

 女の人の悲鳴が聞こえた。


 しかも何処かで聞いたことがあるアラフォーの声が盾の力が発動した瞬間に幼稚園に響き渡る。声のする方は俺たちの席の後ろ、俺たちがソーッと後ろを振り向くと、そこには顔見知りの姿があった。



「え? セイカさん?」



 焼け焦げたセイカの姿がそこにはあった。

 プスプスと横たわるセイカから煙が立つ。



「もしかしてよおアラフォーの結婚願望が封印すべき魔だと盾に誤認されちまったって話か?」

「恐るべしアラフォーの結婚願望だっぺよ」

「あ、お札が剥がれちゃった」



 オキナが貼ってくれた植物らしきものが描かれた札が剥がれてヒラヒラと床に落ちる。何とも頼りないなとお札と一緒に俺のため息が零れ落ちる。


 それにしてもセイカは、どうしてここにいるんだ? 昨日、部屋の外からちゃんと施錠して屋敷に閉じ込めておいたはずが、まさか抜け出して来るとは思わなかった。大方、俺の合コンを邪魔しにきたのだろう。


 アラフォーの行動力は侮れない様で。


 とは言えセイカに邪魔はされたけど、呪いのナイフの一件みたいに明らかな過失ではなく安心した。俺もデジャブを感じて焦ったけど原因が判明してホッとした。



「焦ったべさ。魔封じの盾が失敗なんてしたから、また伝説の呪われたお札でも近くにあったんじゃ無いかってハラハラしたっぺよお」

「え? 呪われたお札って何?」

「側近を封印された復讐に魔王が魔封じの盾を防ぐ手段として独自開発したお札があるらしいんよ。確か……植物の紋様が描かれたとか聞くぞ」



 俺の視線は瞬時に床に落ちたお札へと移る。



「そう言えば封印された魔王の側近って何て名前だったでゲスかね?」

「確か……そう! ノベナアーツって名前だ! 何でも働きすぎて婚期を盛大に逃したアラフォーだって話だったんじゃねえか?」



 ここに全ての情報が出揃った。

 俺の後ろで黒焦げになって倒れるセイカは、何と魔王の側近だったらしい。俺は、またしても人知れず事件を引き起こしてしまった。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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