2.五月の木漏れ日の中で①
大学の食堂は南側が全面ガラス張りでその窓際の一番奥にみどりはいた。
刈安から来たメールはこんなものである。
「煤竹君
学芸科の刈安だ。
君、今年の入学式の時に話したことだが、来週あたり藍鼠みどりという学部生と会ってくれないだろうか。一応、火曜の夕方に彼女のアポを取ってある。君に時間があるならその日に彼女と会ってやってほしい。彼女は学部生だからそんなに時間はないはずだ。君みたいに修士研究生なら、時間は割と都合を合わせることができるだろう? どうだろうか。
この企画については簡単なことだ。文学部の文学ゼミに椛教授という人がいる。その人のゼミは文芸誌を一冊、毎年学部生の中で文章を出し寄って卒業式の前にゼミの学生全体に配布するというような自由度の高い企画だ。君にはその文学誌のエディターを務めてほしい。詳しい話は藍鼠君から訊いてくれ。では、よろしく。
学芸科 刈安」
見た目からすぐに彼はみどりのことをきれいな人だと思った。細身でもしっかりとした佇まいで丁寧に挨拶をする彼女を見ると、どこかよそよそしさを感じる。しかしそれは彼が持つ劣等感にさいなまれているからであった。あまり目的も持たずに大学院へ来てしまった彼は彼女を見た感じで身の丈に合わないような思いを抱いた。
「あおさん、刈安さんに会って話せって言われましたけど、何を話すんですかね」
みどりはその言葉の語尾をしっかりと止めて話す、それが彼女の人柄を表す特徴的ところだった。そして気のない時はあからさまに語尾がのびるのだ。そこが分かりやすくて面白い。
話は刈安が企画した文芸誌の企画の話だ。しかしあおも実際まだこれから長いのだと考えると大して話し合うこともなくとりあえずの一年間の運びを話し合った。
「みどりさんは三年生だから発表会があってその時期まで忙しいだろ?」
あおが突然切り出したので彼女は瞬きを数回繰り返しながら、どんな話をするのだろうかと少し尋ねるような口ぶりで話しだした。
「発表会はないんですけど、審査会があって、それまでは忙しいです」
「そうか――。で、いつになるのかな?」
「一月半ばです」
「じゃあそこから実動に入ろう。納期は三月なんだし」
「そうですね――」
彼女も要領を得たようだったので、あおも少し安心して張っていた肩を落として、姿勢を崩した。
文芸誌の企画など大学の成績とは全く関係ない蛇足のようなものだ。文学部で真面目に文章を書いているならそれなりに力が入るだろうが、それにしてもどこかの出版社の公募に出したほうが有意義の様な気もする。ただこれは大学にいる学部生にとっては記念品のようなものでもある。
これと言ってなにか話すことがあるわけでもなく、あおもみどりも企画の中身の内容が固まるまで準備期間ということにして、お互いその日は別れた。