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夏の空

作者: いち

自室のベランダに置いたキャンプ用の椅子を広げる。

ゆったりとした動作で体重を預ける。

数年前に購入したマンションの8階。ここから眺める景色は嫌いじゃなかった。

周りを見ればもっと高いマンションが目線の先にあり、下の道路を通る車の音は鳴りやまない。

それでもここからの景色が好きなのは、地上より空が広いからだろう。


上京するまで自然の中で過ごした私からすると、この都会の環境は少々精神的にくるものがあった。

公園や街路樹など、料理の彩り役程度の緑があるだけで、およそ自分の周りにあった「自然」とはかけ離れていた。

高層ビルが立ち並び、地面が舗装されていないところなんてない。

よく、都会は自然がない。空が狭い。とか言われたりもするが、本当に都会に住むなるまで気にすることもなかった。

だから少しでも空が見えるこの景色が好きなのだろうと、夏の、発色の強い雲を眺めながらぼんやりと思考を漂わせる。


ここから飛んだら気持ちがいいだろうなぁ。

漂わせていた思考の中で、突飛な発想が浮かんできた。

まるで、幼少のころ遊んでいた川に飛び込むくらいのテンションだ。

早朝とはいえじりじりと上がってくる夏の気温と、間抜けに漂うぽつんとした雲に郷愁を誘われたのだろうと、安直な自分の思考に苦笑する。

ここから飛んだら間違いなく死ぬな、と思いつつも、死んでもいい日だなとも思う。

親にはここ数年あってもいないし、上京してから友達と呼べるものもいない。

仕事は不格好ながら少しずつ軌道に乗ってきている。

最良とまでは言えないまでも、人生を楽しむべき時期ではあるだろう。

ただ、もし自殺をするなら最悪の状況じゃなく、こんななんでもない日にしたい。


思い立ってベランダの手すりに手をかける。

地上は遠く、夏休みであろう少年が数名遠くの方へ走っていく。


ここから飛んだら……。

息が荒くなるのを努めてゆっくり抑え込む。足が少ししびれる。

この世界に未練なんて大それたものなんてないが、やはり体は生への執着があるらしい。


ヘタな妄想を諦め、どさっと椅子に腰かけ、天を仰ぐ。

こんなにどうしようもない朝なのに、その空は変わらず、都会に間借りしていた。

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