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38 魔界と人間界

「時間が惜しい。余を呼んでまで何を聞きたいのだ」


 ご主人様が問うと、フェデリックは緊張したような面持ちで口を開いた。


「第五騎士団長達から話は聞いている。だが……私たちはあまりに魔族について無知なのだ。ゆえに、何を信じていいのか、見極めたかった」


「ほう。会ったからとて、何がわかるわけでもあるまい」


「いや……。おかげで確信した。此度の魔物の増加に魔族が関わってないことを。力の差がありすぎる。魔族が人間を攻めようとするのに、魔物の力など不要だろう」


 そう言って、フェデリックはふう、と息をつく。


「しかし、殲滅派が……いや、あの聡明な宰相が魔物を増やしてまで魔族と敵対する意味が分からなくてな。ディエゴの独断ではないかと、宰相を信じたいと、思ってしまうんだ」


 遠い目をしたフェデリックは、もう一度ため息をついた。


「ふむ。たとえば、魔界の領土を得たいとか、実績を積んで王位の簒奪を狙っているとか、そういうことではないのか」


 ご主人様の言葉にフェデリックは首を横に振る。


「確かに、強い魔物の棲家となっているため近づけない場所は多くある。魔物は魔族の眷属であるといわれていたゆえ、魔族との戦いに勝てばそれらの場所を開拓できる、と考えていた者はいたであろう。実際、殲滅派の貴族には、明らかにそれを狙っていた者がいた。だが、宰相は……」


 フェデリックは、宰相は野心家ではないのだと言う。もともと、宰相の家は代々研究者の家系であったとのこと。そこへ前王の弟が婿入りし、その息子である宰相は研究より政の方が性に合うと言って研究者ではなく政治の道に進んだ。とはいえ、研究者気質は受け継がれ、宰相は政策を考えたり、そのための緻密な計画を練ることを好み、表へ出ることは好まないという。


「贅沢にも興味はなく、そんな宰相が金や権力のために動くとは到底思えない」


 人物像を聞く限り、確かにちぐはぐである。

 とはいえ、それを私たちに言われても、何も答えは出ない。


「失礼。私のトカゲが、やっと手に入れたようです」

 

 しばらく全員が沈黙していたところに、ルドラ様が声を上げる。

 何を手に入れたのかしら。私は首を傾げる。


「魔石で何かを作っているようだと聞いたので、それを見つけて持ってくるようトカゲに命じていたのです」


 そう言いながらルドラ様が眷属のトカゲを転移で呼び寄せる。

 机の上にちょこんと現れた赤色のトカゲは、口に何かを咥えている。


「それは……」


 トカゲが咥えているものを見て、ご主人様の周囲に魔力が渦巻くのを感じた。


「また、人間は繰り返すのか」


 ご主人様の声は低く、冷たい。なんのことかわからず周囲を見回すと、フェデリック達も困惑した顔をしている。


「なんだ? その首輪がどうしたというのだ」


「わからぬか。それは……」


 フェデリック達が何もわからない様子なのを見て少し魔力の渦を鎮めたご主人様は、もう一度トカゲを見て、眉間にシワを寄せながら言った。


「それは、隷属の首輪だ」




 ご主人様の言葉に、しかしそれでもピンとこない様子のフェデリックたちを見て、ご主人様は「そうか、何も知らないのか」と呟いた。


「人間の王、お前は全てを知っている必要がある。人間界と、魔界の関係について」


 そして、ご主人様は今から五百年程前の話を訥々と話し始めた。それは私も聞いたことのない話だった。


 五百年程前まで、人間と魔族は同じ世界にそれぞれの国を築いて暮らしていたというのだ。

 今は人間の国はアルグレティア王国しかないけれど、当時はいくつもの人間の国があったとのこと。小競り合いはありつつも、それなりに平穏だったらしい。

 魔族はそれぞれの種族が思い思いに適した環境で暮らしていたけれど、人間とのやりとりのためには国が必要であると、魔族の中で魔力が特別高い者が魔王となって魔族の国を治めるようになったらしい。


「今も残るアルグレティア王国は、最も魔族の国に近い国であった。ゆえに、一番交流も盛んだった」


 人間と魔族の関係はある時まで良好であったとご主人様は言う。魔族は長命で高い魔力を誇ったけれど繁殖力は高くない。対して、人間は寿命は短いけれど繁殖力が高く、発想も豊かだった。魔族は単独行動が基本だけれど、人間は集団で何かを生み出すことに長けていた。

 互いの種族に足りないところを補い合って、共存していたのだという。


「だが、欲深い人間は、魔族の魔力を、寿命を求めた」


 そう言って、忌々しそうに首輪を見る。


「人間の研究者は、魔族の研究をするために、魔族の子供を拐った。その、隷属の首輪をつけてな」


 隷属の首輪には、魔封じの魔法と、主従の魔法がかけられていたという。

 魔族にとって、なかなか生まれない子供は種族関係なく宝である。当時の魔王はすぐに抗議し、子の返還を求めたとのこと。


「しかし、人間の国は子を返すどころか、子を質にして研究への協力を求めてきたのだ」


 当然そんな要求など飲めない。なぜ魔族が進んで実験台にならなければならないのか。

 当時の魔王はすぐに子を奪還すべく動いたとのこと。しかし、不幸にもそれは叶わなかった。


「拐われた子は、魔王の器を持つ子だった」


 幼いながら多大な魔力を宿した子は、人間に操られアルグレティア王国に強大な防御の結界を張ってしまったのだという。それは、当時の魔王にも容易には解除できないものだった。


「いくら魔力があっても、得手不得手はある。このルドラが鱗を隠すことができないように、相性がある。拐われた子は結界魔法に適性があり、当時の魔王にはなかった」


 魔王に匹敵するほどの力を持った魔族が張った人間に害意を持つ者を弾く結界。魔王が解除できなければ、他の魔族にはどうすることもできない。魔王は一つの決断をしたという。


「当時の魔王は空間魔法に適性があった。これ以上魔族が被害に遭わぬよう、人間の世界と魔族の世界を切り離すことにしたのだ」


 ひとつだった世界を二つに切り分け、それぞれ一つの世界として構築する。当然魔王一人の魔力だけで為せることではなく、危機を覚えた魔族が集まって実行されたという。


「……しかし魔族なら、それでも人間を滅ぼすことくらいできたのではないか」


「できただろうな。だが、首輪をつけられた子が敵になる。魔王に匹敵する力を持った子だ。対抗できる魔族は少ない。何より、魔族にとって子は宝。操られているとて、その子を手にかけられる魔族はそういない。当時の魔王は、苦渋の選択を迫られたのだ」


 それは拐われた子を見捨てる選択でもあった。けれど、魔族全体の安寧を選択した。それはきっと、魔族の王として正しい選択だったのだろう。


「だが、世界を切り分けそれぞれを一個とした世界として構築する、など途方もないことだ。当然、そう易々とうまくはいかない」


 切り離して世界を構築する中で空間は歪み、時空は裂けたという。


「その時、どこの世界と繋がったのか、魔物がその裂け目から流入してきた」


 それは、魔界だけでなく人間界にも。しかもそれは今私が知る魔物だけではないようだった。


「強大な力を持った魔物も多くいた。そこからしばらくは魔物との戦いの時代だった。魔王はその間も空間の歪みの修正に尽力した」


 魔王の尽力によって大きな歪みは解消された。それによって強大な力を持つ魔物の流入も止まったとのこと。


「ただ、完全に歪みは消えなかった。今なお残る魔界の裂け目などはその名残だ。これも、本来はどこの時空に通ずるものかわからないものであったが、今は魔界と人間界のみに繋がるよう調整されている」


 人間界にも同様のものがあるだろう、とご主人様はフェデリックに問う。

 フェデリックはゆっくり頷き、口を開く。


「ああ。国民には秘匿しているが、国の直轄地に歪みがある。どういう道理かわからず長年研究がされていたが、そういうことだったとは」


 私はふと、思いついて口を出してしまった。


「つまり、その時の魔王様の魔法がきっかけで魔物が現れたということなのですね」


 それにフェデリックは目を見開く。


「……だから、人間の間では魔物は魔族の眷属だと、そう語るようになったのか」

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