30 作戦会議です
「あらあー? なんだか面白いことになったのねぇ」
夕方、お姉様も加わり今後のことを話すことになった。ただ、場所は私の部屋ではなく、レオナルドの部屋を使うことに。私の部屋より広く、連絡魔道具を置いたテーブルを囲んで三人で座っている。
まず、午前中のやりとりをルドラ様がかいつまんで説明すると、お姉様は面白い玩具を見つけたような、弾んだ声で話す。
「それで? 協力を申し出たからには、なんらかの情報を提供してもらえるってことなのかしら?」
「ああ。ルミエールから説明する」
午前中はあからさまに緊張していたレオナルドだったけれど、少し慣れたようで、その声に硬さはない。
「はい。まず、これまでの経緯を改めて説明いたします」
ルミエールも同じようで、涼しげな表情で話し始めた。
ルミエールによると、二年ほど前に貴族の間で魔界へ攻め入ることを主張する派閥ができたとのことだった。
日々魔物の討伐は行われていたけれど、それでも魔物による被害がなくなることはなかったため、魔族を攻め滅ぼし安寧を手にしようと主張する殲滅派が生まれたそうだ。
それに対して、これまで何百年も衝突しておらず、被害はあれど対処できているのだからそんなことする必要はないという穏健派が、様子見をする中立派がそれぞれ立った。当初は穏健派優位だったらしいけれど、しばらくして突如魔物が増え始め、魔物による被害が増えたことで殲滅派は徐々にその勢力を伸ばしていったとこのと。
そして殲滅派と穏健派が拮抗するようになった頃に勇者の存在が明らかになり、一気に殲滅派の勢力が増したそうだ。
その後はご存知の通り、勇者の魔界侵攻が計画され、前魔王を倒したのです、とルミエールは続ける。
「私たち第五騎士団は魔物討伐部隊ですので、魔物の増加は間違い無いとはっきり言えます。けれど、あまりにも殲滅派にとってタイミングが良すぎると、違和感を持っていました。……そうした疑問を持っていたところ、先日第四騎士団の団長の別邸の地下に、魔物を使った実験をしたような施設を発見したのです」
「俺らは、そこで魔物の増加は人間側による、人為的なものではないかと疑った。……魔物の増加っていっても、ある種の魔物だけが増えていて、増えている地域にもばらつきがあったんだ。それまでは魔族が意図的に魔物を増やしているからそうなっているんだと思っていたが……それにしては増えている魔物の種類が……弱いんだよ。訓練を積んだ俺らのような人間が準備を怠らなければ、ほぼ間違いなく倒せる程度の魔物ばかりなんだ」
レオナルドがルミエールに続けて言う。魔族が人間側に手を出すべく魔物を増やしたのであれば、人間が対処可能な魔物だけ増やす、というのは不自然である。
「しかも……第四騎士団の団長……今は元ですね。彼は、殲滅派に属する貴族でした」
ルミエールはそこまで言って、何か迷うように視線を動かす。
「つまりぃ、ルーちゃん的には、殲滅派が意図的に魔物を増やして、それを魔族のせいにすることで魔族への敵対心を扇って、魔界侵攻を果たそうとしたって考えているのかしら?」
「ルーちゃんって……」
ルミエールは唖然とした顔でぼそりと呟く。そしてハッとしたように首を振ってから応える。
「はい、その通りです。しかし……それにどこまでの者が関わっているのかはわかりません……。あの施設が予想通りならば、ディエゴは間違いなく関係していますが……」
「実はぁー、私殲滅派の貴族とちょっと懇意になって色々お話聞いたんだけどね? ほら? ライラちゃんを誘拐なんておイタする子にはお仕置きが必要じゃない? でもねぇ、どうやらそのディエゴって人間は消息不明みたいなのよねぇ」
ルミエールがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
この短時間でお姉様がもうそんなに情報を仕入れていたのかと、驚きと同時に私との差に少し凹む。
「でしたら……殲滅派の筆頭が誰かもご存知ですか?」
「ええ、この国の宰相なんでしょう?」
当然のようにお姉様は答える。
「……ディエゴは、近衛に連れて行かれました。近衛を動かせるのは、陛下だけです。そして、陛下と宰相様は、従兄弟同士なのです」
ルミエールは沈痛な面持ちで、絞り出すような声で言う。
それは、つまり人間の王と宰相が結託しているということなのだろうか。
「しかし、陛下は穏健派のはずです。宰相様も賢明な方で、魔物をわざわざ増やしてまで魔界へ攻め入るなど、そんなことをする方と思えないのですよ。そうまでして魔族と戦う理由なんてないはずなんです。一体王宮で何が起こっているのか……」
「王宮ねぇ。さすがにそこに潜り込むのは骨が折れるわぁ」
お姉様は、困ったわぁ、とあまり困ったようには聞こえない声で言う。
「……協力を申し出たからには、王宮の情報を得る手段があるのであろうな」
ここまで黙って話を聞いていたご主人様が鋭い声で言う。
それに対し、レオナルドとルミエールはお互い顔を見合わせ、何かを確かめるように頷き合う。
「ああ。それは、ルミエールにアテがあるんだ」
レオナルドが再びルミエールを見て、視線で何かを促す。
「……はい。実は私、正式な名をルミエール=ヴィステリオスと申します。……私は伯爵家の三男なのです。そして次男が、王宮に宰相補佐の一人として勤めています」
「……次男から、情報を得られると?」
「はい。我がヴィステリオス伯爵家は中立派です。この件に関して、殲滅派や穏健派に阿ることはありません。そして、どちらに与するべきか、常に情報に気を張っています。ですから、兄ならばそれぞれの派閥の状況を詳しく知っているはずです」
ルミエールの提案により、ルミエールの兄へ連絡を取り収集した情報を共有する、という方向で協力することになった。それとは別に、私は当初の約束通り、毎日ご主人様とお姉様に連絡することも改めて確認した。
また、お姉様はお姉様で引き続き情報収集するとのことで、そこで得た情報はレオナルドたちと共有するとのことだった。
話し合いが終わると、レオナルドとルミエールは同時にふう、と息をついた。
慣れた様子だったけれど、やはり緊張していたようだ。
「大丈夫ですか?」
私が聞くと、レオナルドが私を見て、目元を緩めて答える。
「ああ。なんとかな。……しかし、もし陛下と宰相様が関わっているとなれば、正直俺たちはそれ以上何もできねぇだろうな。そうなりゃ……人間と魔族で全面戦争だ」
どう考えても人間に勝機はねぇだろうな、とレオナルドは呟く。
「……その場合、レオナルドさんたちは……」
敵になるのですか? と言うつもりが、言葉が続かなかった。
二人が敵になると考えるのも嫌だった。
私にとって、もはやレオナルドたちはそこらにいる人間とは違うのだと、ここへきてやっと分かった。
俯いて唇を噛んでいると、レオナルドが私の頭を撫でる。
「……そうなんねぇように、考えてこうぜ」
顔を上げると、眉を下げて困ったような顔をするレオナルドと目が合う。
私は、ぎこちなく頷く。
「ま、いざとなれば魔族側に寝返るのもありじゃないですかー?」
ルミエールが軽い調子で言う。レオナルドはそれをお前なあ、と呆れたように嗜める。
「どうするかなんて、その時決めればいいんですよ。仮に陛下と宰相様が関わっていたとしても、思惑によっては話し合いだってできるでしょうしねぇ。とにかく王都にいる兄に伝令を送っておきますから、今日は美味しいものでも食べて休みましょう。明日はさすがに私たちも王都に向けて移動しないといけませんからねぇ」
今日は騎士団の面々に周辺の巡回を指示していたとのことで、明日は王都まで一気に移動するとのことだった。
部屋へ戻った私は、不安であまり眠れない夜を過ごした。




