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27 私、十歳です

 私は二人を自分の部屋へ招いた。他の人に聞かれるわけにはいかない。


「あの……盗聴の魔道具はどこに……」


 私が尋ねると、ルミエールが無言で部屋の壁際に備え付けられたテーブルへ向かう。しゃがみこんでごそごそとしてから立ち上がると、その手には小さな魔道具らしきものが握られていた。


「……いつのまに」


「レイラさんがいなくなった時、最初部屋の中で倒れてるんだと思ったんですよ。だから慌てて宿屋の主人に頼み込んで部屋を開けてもらったんです。そしたらもぬけの殻じゃないですか。誰もレイラさんが外に行ったところなんて見ていないのに」


 ルミエールは魔道具をいじりながら言う。


「バッグは置きっぱなしだし、それまでのレイラさんに違和感もあったので、その時付けさせてもらいました」


「……そうですか」


 違和感を持たれているなんて全然気付かなかった。

 結局、人間界のことなんて何も知らない私が普通の人間の振りをするなんて無謀だったのだろう。


「ではレイラさん、聞かせてください、貴方が何者なのか。何をしようとしているのか」


 私はベッドに腰掛けふぅ、とゆっくり息を吐いた。

 どこまで話すべきだろうか。勇者の魂の話までした方がいいだろうか。

 逡巡し、とりあえず私のことだけ話すことに決め、立ったままの二人を見上げて口を開く。


「私は、魔界からきました」


 瞬間、部屋の空気がピンと張り詰めたのを感じた。やはり、受け入れてはもらえないのだろうか。


「目的があって、レオナルドさんたちに会った日の前日、人間界へ来ました」


「……レイラちゃんは人間じゃなくて魔族なのか?」


 レオナルドの声が硬い。


「いいえ、私は魔族ではありません。私は……人間みたいなものです」


 自分のことを説明するのは案外難しい。人間だ、とは断言できない。私は歳を取らないし、魔石が埋まっているらしいし、魂も入っていない。


「人間みたいなもの? 人間ではないなら魔族なのではないですか? そもそも、魔界に人間がいると言うのが信じがたいのですが」


 納得できない様子のルミエール。


「魔族ではないです。その……魔族に作られた人間なのです。だから、機能は人間なので魔族みたいに強くないですし、ツノとか、尻尾とかもありません」


「……作られたって、どういうことだ? どうやって?」


 正直私自身よくわかっていない。わかっていないことを正確に説明することなんてできない。

 私は眉間にシワを寄せるレオナルドに向けてどう話すべきか考える。


「うーんと……細かいことは私もよくわからないのですが、ご主人様の側にいるために作られたそうです。十年前に」


 ルドラ様が簡単に説明してくれたけれど、ライラ様のことをどこまで話していいかわからず、歯切れの悪いことしか言えない。

 しかし、二人が気になったのは別のところだったようだ。


「……十年前って……え? レイラちゃん、十七歳って……え?」


「どう見ても十歳には見えないんですけどどういうことなんですか?」


 二人が何に動揺しているのかよくわからず目をぱちぱちと瞬いたあと、ああ、と思い出す。

 そうだ、私の見た目は十七歳だから、十歳の姿ではありえないのだわ。


「私は十七歳の姿で作られたのです。そして、歳は取らないように作られているらしいです。なので、見た目は十七歳ですが、実際の年齢ということなら十歳です」


 私がそう言うと、二人とも同じような顔をした。目を丸く見開き、私をまじまじと見る。


「……十七歳の姿で作られた……ということは、誰かモデルがいるということですか?」


「……はい。既に亡くなった方の、十七歳の頃の姿で作ったと」


 なるほど……とルミエールは頷いたと思ったら、突然ククッと肩を震わせ笑いだす。

 面白いことを言った覚えはないのに、どうしたというのか。


「ぶふっ……十歳って……団長本当に幼女趣味……ぐっだめだ我慢できない」


 ルミエールはぶつぶつ呟きながら笑いが止まらない様子で、その隣ではレオナルドが唖然とした顔をしている。


「……っつってもレイラちゃん、喋ってて十歳って感じじゃねぇし、見た目は十七歳なんだもんな?」


「喋り方については、私には十歳の喋り方がわからないのでよくわかりませんが、見た目は十七歳です」


「ぶっ……くっ……必死すぎて面白すぎる……」


 二人の様子がおかしいのがなぜなのか分からず、首を傾げる。

 レオナルドが「んんっ」と咳払いをすると、ルミエールはやっと笑うのをやめた。


「ご主人様ってのは?」


 私は言っていいものか悩む。ご主人様は二人の先輩方を……。

 でも、これを言わないで話をすることはできないだろう。


「ご主人様は……今の魔王様です」


 ゴクリと喉が鳴る音が二つ分。再び空気に緊張が走る。


「……レイラちゃんは、諜報として人間界に……? いや、勇者に会いたいってのは……もしかして勇者を暗殺しに来たのか?」


 レオナルドから鋭い目を向けられる。

 今度は私が目を丸くする。勇者の暗殺なんてできるわけがない。私は慌てて両手を振って否定する。


「私は能力も普通の人間と同じ程度ですし、戦ったことなんてないですし、勇者の暗殺なんてできません」


「じゃあなんで勇者に?」


 ああ、やはりライラ様のことを話さなければならないようだ。


「……私の本当の名前は、レイラではなく、ライラです。私のモデルは……かつてご主人様の恋人だった、人間のライラ様なのです」


 二人は驚いている様子ではあるけれど、黙って私の話を聞いている。


「そして……勇者は、ライラ様の生まれ変わりなのです。それで、ご主人様は勇者に側にいて欲しいのだと思って、勇者にご主人様のところにきてもらうために人間界へ来たのです」


「……ちょっとまってレイ……いや、ライラちゃん。そしたらライラちゃんは、勇者に会って、どうするつもりだったんだ?」


「あの……ご主人様の恋人の生まれ変わりだから、ご主人様に会って欲しいと……」


 私がそう言うと、レオナルドは呆気にとられたような、ぽかんとした顔をする。


「……そいつぁ、無謀すぎやしねぇか?」


「なるほど……そういうところは十歳の思考なのかも知れませんね」


 なんだか馬鹿にされたような気がしてムッとする。私だって、難しいことだとはわかっていた。けれど、それしか私にできることはないと思っていたから、結果がどうだとか考えても仕方なかったのだ。


「というか、それを魔王がしてこいって言ったのか?」


「いえ……勝手に出てきてしまって……昨日はそれで魔界に連れ戻されていたのです。その……誤解だと言われて」


 そう言うと、二人はうんうんと頷いている。やはりなんだか馬鹿にされている気がする。


「ん? でもそしたら何でこっち戻ってきたんだ?」


 そうだった。それが本題だった。


「前にレオナルドさん、魔族が眷属の魔物を放ってるって言ってましたよね?」


 話題が魔物の話になった途端、二人は険しい顔をする。二人の射抜くような目が続きを促す。


「……そんなこと、あり得ないんです。むしろ、こっちに魔物を回して欲しいくらいで。それに、魔物は魔族の眷属ではありません。眷属にすることはできますが、基本的に眷属は側に置くので、人間界に放つなんてことするはずがないんです」


「じゃあなんで……なんで魔物が増えてんだ!」


 突然レオナルドが声を荒げ、私はビクリと肩を揺らす。


「……団長、ちょっと落ち着いてください」


 ルミエールの声で、ハッとした様子のレオナルドは、申し訳なさそうに私を見る。


「悪りぃ。つい、怒鳴っちまって……」


「いえ、大丈夫です。……人間界でなぜ魔物が増えているのか、私たちもわからないのです。それで……それを調べるためにまたここへきたのです」


「ということは、やはりまさしく諜報としてここへきたということですね?」


 ルミエールにずばりと指摘され、ぎこちなく頷く。


「……本当に、魔族は関係ないのか?」


 レオナルドはまだ信じられないようだった。


「あの……魔物は、魔族にとって戦闘訓練のための相手だったり、食べ物だったりするんです。家畜として育てている魔物もいて……私もずっと卵はコカトリスのものを食べていました」


「かちく……? ……コカトリスを?」


 レオナルドは呆然とした様子で数歩後ずさってから、フラフラとテーブルへ向かい、椅子に腰掛けた。


「……それが事実なら、団長たちは……」


 レオナルドの小さな呟きは、やけに耳に残った。

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