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26 何も大丈夫ではありませんでした

 部屋に戻った私は、扉の鍵をかけたことをしっかり確認したあと、マジックバッグにしまっていた連絡魔道具を取り出した。魔道具に登録された連絡先は二つ。ご主人様と、お姉様。そのうちの一つを選択してから中央に鎮座する魔石に魔力を込めると、魔石は仄かな光を発する。


「……ライラか?」


「はい、ご主人様」


 魔道具から聞こえるご主人様の声は柔らかい。声を聞くだけで嬉しくて、私の声も自然と弾む。


「問題なく対応できたか?」


「はい、大丈夫でした。特に怪しまれていないようでした」


 二人は私がこっそり抜け出したと思っていたようだった。もっと色々聞かれると思っていたため、むしろ拍子抜けしてしまった。


「人間とは話したのか?」


「はい、一緒に夜ご飯を食べました。……そこで気になる話を聞きました」


 私はレオナルドたちから聞いた話をご主人様に伝える。魔物の実験をしていたような施設があったこと、それを報告した途端に事件の調査を強制的に終わらせられたこと、ディエゴがすぐに連れ去られたこと。


「ふむ……。なかなかに怪しいな」


「……人間が自分たちで魔物を増やしているということなのでしょうか」


「その可能性はあるな。人為的な増加ならば、人間界でのみ魔物の数が増えたことの説明がつく。……だが、何のためにそんなことをしたのか、がよくわからんな」


 確かに、何のためにそんなことをする必要があるのだろう。どうやら人間にとって魔物は脅威のようだし、自分たちで人間を危機に晒すようなことをするのはおかしい。


「……サーシャに調べさせるか」


「お姉様に?」


「ああ。どうやら第五騎士団の団長とやらは何も知らぬようだしな。であれば、より国の中枢にいる人間に接触する必要があろう。そこはサーシャに任せるしかあるまい」


「危険ではないのですか?」


「サーシャとて魔族。そこらの人間に遅れを取るようなことはない。それに……まぁ、大丈夫だ」


 少し歯切れが悪いけれど、ご主人様がそう言うのなら大丈夫なのだろう。お姉様が勇ましく戦っている姿は想像できないけれど。


「サーシャには余から連絡するゆえ、ライラはもう休め。行ったり来たりで疲れただろう」


 魔道具から聞こえる声は優しく私を労う。本当はもう少しご主人様の声を聞いていたいけれど、きっとこれからお姉様に連絡をするのだろう。邪魔をしてはいけない。


「わかりました。ご主人様、おやすみなさい」


「おやすみ、ライラ。良い夢を」


 その言葉の後、魔道具が纏っていた光が消えていく。残ったのは無機質なもの言わぬ物体だけ。

 すると、途端に寂しさが襲ってきた。急に一人ぼっちになったような、取り残されたような心地がした。


「ううん。今度はちゃんと、ご主人様が待っていてくれるのだもの。寂しくなんてないわ」


 私は不意に心に生じた感情を否定し、寝支度をしてから布団に潜り込む。こんなことで寂しいなんて思っていたら、ご主人様の役に立つことなんてできない。


 私は思っていた以上に疲れていたようで、眠りはすぐにやってきた。




 翌朝、朝食を食べに食堂へ行くと、そこにはレオナルドとルミエールがいた。


「おはようございます」


 挨拶すると、二人ともおはよう、と返してくれる。

 人間とこんな風に朝の挨拶をするなんて、数日前の自分には想像すらできなかった。人間と仲良くなるつもりなんてなかったのに。


 レオナルドに促されて同じテーブルについて、運ばれてきた朝食を食べていると、じっと見られているような視線を感じた。

 訝しんで顔を上げると、ぱちりとルミエールと目が合った。

 何か話でもあるのかしらと、私が問うような視線を投げると、ルミエールは口角を上げるだけで何も言わずに食事に戻る。


 なんだろう。私、何かおかしかったかしら。

 自分に与えられた役割を考えると不安になる。でも、昨日は何も怪しまれなかったし、変なことは何も言っていないはず。


 そうやって自分を安心させようとするけれど、二人が今日はやけに静かに思えて、嫌な予感に心臓がいつもより速く音を刻む。

 気のせいだと思おうとすればするほど緊張が高まり、カチャリカチャリと食器がぶつかる音が、いつもより耳に響く。

 早く食べてしまおう。そして早く部屋へ戻ろう。


「レイラさん」


 急いで食事を終え、早くこの場を離れたくて立ち上がった私をルミエールが引き留める。


「……そろそろ、レイラさんのお話も聞きたいと思ってるんですが」


 ルミエールは感情の読めない笑顔を浮かべて言う。

 私は言われていることの意味がわからず、困惑する。


「……私の? とは……」


 本当にわからない。一体なんのことを指しているのか。

 

「……おいルミエール。レイラちゃん怖がらせるなよ」


 レオナルドがルミエールと肩を軽く拳で叩く。彼はルミエールの発言の意図がわかっているようだ。


「……目の前で多くの人間が惨殺されたにも関わらず意に介していない様子、何人もの騎士が目撃している大きなトカゲの魔物、部屋から出たところを誰も見ていないのに消えたこと…………そして、昨日の夜の誰かとの会話」


 ルミエールの顔から表情が消える。私は思わず息を飲む。

 なんの、なんの話をしているの。


「……悪い、レイラちゃん。レイラちゃんの部屋に、盗聴の魔道具をつけさせてもらってたんだ」


 隣のレオナルドが少し眉を下げて申し訳なさそうに言う。


 と、いうことはつまり?


 私は混乱して少し思考が鈍くなった頭で、言われたことを飲み込んで咀嚼する。程なくして答えは弾き出された。


 人間界に戻って来て早々、あっさり私のことがバレてしまったということ?

 それどころか、ずいぶん前から私のことを怪しんでいたというの?


 自分の顔からすっと血の気が引いていくのがわかる。二人が突然得体の知れないものに見えてくる。


 こういうときは、どうすればよかったのだっけ?

 そうだ、トカゲにルドラ様を呼んでもらって……。


 行動を起こそうと視線を動かすと、立ち上がったルミエールに肩を掴まれる。ルミエールが私と彼を隔てるテーブルにぶつかって、ガタン、という音が鳴る。


「おい! ルミエール!」


「レイラさん、お願いです。俺たちは、真実を知りたいだけなんです。誓って、レイラさんに危害は加えません。トカゲの魔物が何かはわかりませんが、あの時怪我をした騎士はいても、死んだ者も重傷を負った者もいませんでした。だから、レイラさんを敵だとは思っていないんです」


 ルミエールの真剣な目を見つめる。その目は真っ直ぐ私を射抜いている。多分、嘘ではないだろう。

 でも、どうするのが正解なのかわからない。ご主人様なら、何も言わず戻って来いというだろう。発覚しそうになったらすぐに戻すと言っていたから。

 でも、もし私の言うことを、魔族が人間界に何もしていないということを信じてくれるなら、協力してくれるなら……?


 頭の中で色んな考えがぐるぐると回る。どうする、どうしよう、どうすればいいの?


「レイラちゃん」


 こんがらがった思考に溺れていると、レオナルドに名前を呼ばれてびくりと肩を震わせる。

 ルミエールの目から視線をずらしてレオナルドを見ると、彼は柔らかい笑みを浮かべていた。


「俺らは本当に、話を聞きたいだけなんだ。……レイラちゃんは俺らの名誉を守ってくれた。だから、話さえ聞ければ、後はレイラちゃんの好きにしてくれればいい。逃げても、止めない」


 二人と出会って、たった数日しか経っていない。信用するには知り合ってからの時間が短すぎる。でも、多分二人は私を騙したりしないだろうと、根拠なんてないけれど、なんとなくそう思った。


「……ここでは、話せません」


 私は、二人に話すことに決めた。

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