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23 人間界へもう一度行きたいと言ったら反対されました

「ライラ、大丈夫か?」


「っ……はい。もう大丈夫です」


 涙が止まってしゃくりあげるだけになった私に、ご主人様が心配そうに声をかけてくださった。

 私は大丈夫であることをアピールするために、ご主人様の腕から抜け出して立ち上がる。

 ご主人様も立ち上がり、私の頭を優しく撫でる。


「酷いことを言ってすまなかった。これからも余の側にいてくれ」


「っ! もちろんです!」


 それは私にとって何よりも幸せなこと。

 夜空の瞳が弧を描く。ああ、美しい、やっぱりあの耳飾り……とここで思い出す。


「そういえば……おみや……あ! バッグ! 忘れてきてしまったわ!!」


 突然ダグラス様に抱えられたものだから、バッグを持つ暇がなかった。

 更に、バッグに続いてレオナルドたちのことも思い出す。


「ダグラス、バッグを持ってこい」


「ちょ……ちょっと待ってください!」


 私はご主人様を止める。訝るように私を見るご主人様に、私は告げる。


「あの! もう一度、人間界へ行きたいのですが」


 瞬間、ご主人様が目を見開く。


「な……ぜだ。ライラ、余の側にいると、さっき、いると……!」


 ご主人様は私の両肩を掴み揺さぶってくる。その力は強く、ギリ、と肩に指が食い込んで痛みを覚える。


「ちょっ! 魔王様! ライラちゃんが痛がってるわ!」


 私が一瞬苦しげな表情をしたことを見逃さなかったお姉様が、慌ててご主人様を制止する。

 お姉様に止められてハッと気付いたような顔をしたご主人様は、申し訳なさそうにゆっくりと手を離した。


「……やはり……もう、余の側にいるのは、嫌なのか?」


 その声はひどく弱々しくて、ご主人様ではないみたいだった。

 私は勢いよく頭を左右に振って否定する。


「違います! 私は……私にとってご主人様の側にいることは何よりも幸せなことです!」


 そう言うと、ご主人様はほっとしたような顔をする。


「では、なぜ?」


「あの、実は……昨日誘拐されまして、無事逃げて保護されたのですが、その件で私は重要人物なので、事件の処理に協力しているところだったのです。……その人間達には人間界でお世話になったので、ちゃんと義理を果たさなければ」


「……しかし、今人間は魔界へ攻めてきているのだぞ? ライラがこちら側の人間と分かれば、其奴らはライラを人質にするかもしれぬ。こんな危険な時に、ライラを人間界へなど……」


 ご主人様の言葉で再び思い出す。


「そういえば、人間が魔界を攻めているのは、魔族が人間界に魔物を放って魔物が増えているから、と聞いたのですが、そんなはずないですよね?」


 レオナルドから聞いたことを話すと、商人様がピクリと反応した。


「……どういうことですか? そんなこと、するはずがありません。一体誰がそんなことを?」


「人間の国の第五騎士団の団長です」


 答えると、商人様は顎に手を当てて考えるようなそぶりをする。


「……そんな中枢の人間が言うのなら、信憑性が高そうですね。しかし一体なぜそんな誤解が……」


「……ルドラよ、把握していなかったのか?」


「……トカゲは何匹か放って情報を集めていますが、そこまでは。人間の中に魔界へ攻め入ることに対する賛成派と反対派、中立派がいることまでしか掴めていません」


 私が持ってきた情報は、重要な情報だったようだ。

 それにしても、商人様の名前は初めて聞いたわ。ルドラ様なのね。これからはちゃんと名前で呼ばないとだわ。


「……ライラ、なぜ第五騎士団の団長と会話する機会があったのだ?」


 聞かれて私は目をぱちくりさせた。


「私を保護してくれたのがその人間だからです」


 ご主人様が目を丸くする。そしてバッと、ダグラス様を振り返る。


「……そのような報告は、なかったように思うが?」


「はっ! 着ている服から敵であることはわかっていたのですが……まさか団長とは。団長にしては若かったように思うのですが」


 ダグラス様は膝をついて報告している。額に浮かぶ汗から、緊張が伝わってくる。


「確か……この前ご主人様が人間達を返り討ちにした際、勇者と一緒に来ていた第五騎士団の団長達がみんな死んだと……」


 私がそう言うと、ご主人様と商人様が納得したように頷く。


「しかし……そんな話があるとするなら、実際に人間界では魔物が増えているのでしょう。こちらではそんなことないのに、なぜ人間界だけ魔物が増えているのでしょうか。単なる誤解なのか、或いは……」


「……それを調べるのがお前のトカゲの役目だろう」


「あのっ!!」


 私は思いついたことを話すべくご主人様とルドラ様の会話に割り込む。本当は割り込むなんてよくないことだとわかっているけれど、私にしかできないことに気付いたのだ。


「……ライラ」


 きっとご主人様は私が何を言おうとしているか察している。だから、私を諫めるように呼ぶ。でも……。


「私が! 私なら、人間から話を聞き出すことができると思うのです。これから第五騎士団の団長達と共に王都へ向かう予定でした。団長……レオナルドは、勇者の知り合いです。そこで、色んな情報を得られると思うんです」


「ライラ、そんな諜報のような真似をさせるわけには……」


「私は人間ですので、お役に立てるはずです」


 私とご主人様は見つめ合う形になる。ご主人様の瞳が揺れている。私では、信用できないのだろうか。


「……適任じゃねぇか?」


 ここまで黙っていたレイ様が口を開く。


「レイ貴様……!」


「きちんとフォローしてやれば大丈夫だろう。危ないことはこっちでやればいい」


「そしたらぁ、私も行くわ」


 お姉様も話に加わる。

 ご主人様はお姉様を睨み付け、お前はダメだ、と言う。


「やぁねぇ、もちろん別行動よ! 私には私の情報収集のやり方があるの。わかるでしょ?」


 お姉様が怪しげにニヤリと笑う。


「だからライラちゃん? その、レオナルドとかいう人間から得た情報は私に回して頂戴? ライラちゃんの仕事は、人間から得た情報を私に渡すこと。危なくなったらすぐに撤退すること。わかった?」


「!! 勝手に決めるな!!」


 ご主人様がお姉様を怒鳴りつける。

 

「なぜだライラ、なぜそんな危険なことをしようとする。先ほど言っていた件についてはいいだろう。事件の処理まで協力してやれ。しかし諜報など……」


 ご主人様は切なそうな目で私を見る。私だって、この屋敷で、ご主人様と二人で、ただ穏やかに暮らしていけるなら、そんなにも幸せなことはないと思っている。

 けれど……私は血塗れになったご主人様を思い出す。

 その穏やかな日々は、突然、前触れもなく、なくなってしまうかもしれないのだ。

 この前は無事だった。けれど、次は? 次も確実に大丈夫だといえるのだろうか。


「私は……この前、祈ることしかできませんでした。そうしたら、ご主人様が血塗れで戻ってきて……私は、あんな思いしたくないのです。何もできずにご主人様を失うようなこと、そんなことは嫌なのです」


「ライラ……」


「だから私に、私にも、ご主人様のためにできることをやらせて欲しいのです」

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